たばこ産業 塩専売版  1995.02.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社塩専売事業本部調査役

橋本壽夫

食塩感受性を検出する試験の一例

 食塩と高血圧との関連を考える上で食塩感受性は重要な問題である。食塩感受性の人は食塩の摂取量に気をつけなければならない。しかし、食塩感受性であるかどうかを判定することは現在のところ容易なことではない。
 これから紹介する高血圧患者についての研究報告の例では、それがどのような考え方で行われ、食塩が血圧に影響する摂取量はどれぐらいであるかを知ることができ、それは一様ではないことが分かるので参考までに紹介する。

食塩感受性検出の考え方
 ワシントンにあるジョージタウン大学医学部血圧センターが研究したこの方法は、食塩摂取量に対する高血圧患者の血圧応答を調べるために、まず自由に食塩を摂取しているときの摂取量と血圧値を調べる。
 次に減塩(2グラム/日して、食塩感受性であるかどうかを調べる。
 その後、段階的に食塩摂取量を増加させて(一段階を1グラム/日とする)、血圧が上昇し始める摂取量を明らかにする。
 このようにして、減塩で血圧が下がれば食塩感受性で、増塩のどの段階で血圧が再び増加し始めるかを明らかにし、それを高血圧になる食塩摂取量の限界値とする考え方である。
 試験中には血圧や食塩収支を変える薬(例えば、降圧剤やアルコール)の服用を中止する。
 血圧測定は上向きに寝て5分間休んだ後、同じ腕で3回行われ、最後の2回の最低血圧の平均値が90 mmHg以上になった時を高血圧とする。

方 法
 薬の服用を中止し、自由に食塩を使って普通の食事をし、最初の2週間は半週毎に血圧を測定し、その後は1週間毎に測定する。3週間高血圧が続いたら、その時の食塩摂取量と血圧を記録する。次に、2グラム/日の食塩摂取量で食事をし、最低血圧が90 mmHg以下になれば食塩感受性高血圧とし、その時の食塩摂取量と血圧を記録する。1ヶ月すぎても90 mmHg以下にならなければ食塩感受性ではないと判断する。その後、食塩感受性高血圧患者の食塩摂取量を1グラム/日ずつ段階的に上昇させる。各段階は少なくとも3日間続ける。投階的増加は最低血圧が90 mmHg以上に上昇するまで続け、その時の食塩摂取量と血圧を記録する。この時の食塩摂取量がその患者が高血圧となる時の限界値である。

結 果
 30人の高血圧患者の内13(45)が食塩感受性であった。つまり高血圧患者でも半数以上は食塩摂取量と関係なく、減塩しても無駄であった。
 58歳の黒人男子の場合が報告されている。最初は約10グラム/日の食塩摂取量で最高血圧150 mmHg、最低血圧100 mmHg(以下150/100のように表現する)であったが、2グラム/日の食塩摂取量では130/80 mmHgに下がり、段階的食塩摂取量増加の時、5グラム/日の食塩摂取量では130/94 mmHgに上昇した。したがって、5グラム/日がこの黒人の食塩限界値である。食塩摂取量をこれ以下に抑えた食生活をすれば高血圧にならないというわけである。
 32歳で体重86キロの白人女性の場合には、最初は17グラム/日という多量の食塩摂取量で血圧は180/114 mmHgであったが、2グラム/日の減塩で血圧は140/84 mmHgに下がり、体重も82キロまで減少した。次の段階的な食塩摂取量増加の時、16グラム/日という高い摂取量で146/102 mmHgになり、高血圧になる食塩限界値を超えた。この時の体重は84.5キロに増加していた。
 大抵の場合、減塩で体重は減少し、段階的食塩摂取量増加によって再び体重は増加した。この体重の増加量と食塩限界値の関係は、体重増加量が高いほど食塩限界値が高くなることを示した。このことから食塩感受性者では体重変化の激しい人ほど(論文には書かれてないが太っているほど体重変化が激しいのかもしれない)減塩が容易で、つまり、あまり減塩しなくても血圧がよく低下して、減塩の効果が高いことを示しているように思われる。
 このように食塩限界値は人によって異なり、13人の食塩感受性高血圧患者でこの値は2.58グラムから16.6グラムまでの広い範囲に分散しており、平均値は9.62グラムであった。この結果から例えば、9.62グラムまで減塩しても最低血圧が90 mmHg以下になる人とならない人がいるということである。

簡易な食塩の段階テスト
 患者が自分で食塩感受性であるかどうか、自分の食塩限界値がどのぐらいであるかを調べるための簡易な方法を次のように提案している。
 1.普段の食塩摂取量(24時間の尿を集め、その中の食塩を調べる)と血圧を記録する。
 2.2グラム/日の減塩を2週間続ける。それで血圧が140/90 mmHg以上であれば、食塩感受性高血圧ではないとする。血圧がそれらの値以下であれば、食塩感受性高血圧とする。
 3.食塩感受性高血圧患者に食塩摂取量増加の段階的テストを行うが、それには食事に加える1グラム入りの食塩小包を与え、段階を1週間続け、血圧を測定する。最低血圧が90 mmHg以上になる時の食塩摂取量を食塩限界値とする。
 以上、食塩感受性者は高血圧患者の半数弱しかおらず、減塩しても効果は人によって様々に変わり、約3グラムから約17グラムまでの幅広い食塩限界値がある研究例を紹介した。