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たばこ塩産業 塩事業版  2016.1.20

塩・話・解・題 130 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

世界最大の塩関係組織

アメリカ塩協会のホームページ訪問

膨大な塩の資料を提供

 

 アメリカ塩協会(Salt Institute)は北アメリカの製塩会社と海外の製塩会社からなる世界最大の塩関係組織で、膨大な塩に関する情報を流し、塩と健康問題については科学的事実に基づいて政府に改善策を提案することもある。1914年に設立され、100年以上経過しており、2000年には既にホームページは開設されていた。その概要を紹介する。

 

塩の特性を分かりやすく

 トップページであるホームには、最上段のカラムには塩について知っておくべきことを簡単に解説した項目「Salt 101」がある。その中にはさらにいくつかの項目が立てられている。項目「塩博士に尋ねる」では副会長のサティン氏に健康、食品、水、その他との関係について質問できる。現在12件のビデオ(例えば、“2015年の食事ガイドライン-塩について本当のことを言う時”など)で全体的には質問に答えている。「物性」では塩の化学性や溶解度が述べられている。「生産と産業」ではアメリカの塩生産拠点の地図、アメリカ地質調査の塩に関する統計値、岩塩、天日塩、せんごう塩について解説されている。「子供向け」では毎日の生活で塩の重要性を簡単に述べている。その中で歴史における塩に関する参考事項として概要、有史前、古代史、文化、文学、芸術、宗教、塩生産史、製塩会社史、規制と税、塩博物館に分けて外部のサイトとリンクさせて膨大な資料を提供している。「書籍」でも外部サイトとのリンクで多くの情報を提供している。

次の「塩協会について」ではアメリカ塩協会の使命を述べている。アメリカ塩協会は非営利の塩業団体で、その使命は塩の重要性を知らせることで、特に冬期道路の安全管理、水質の向上、栄養に関する健康問題に重点をおき、その使命を果たすために研究成果や公衆保健政策を解析し、一般的に知られている塩に関する知識の間違いを正し、生活の質を向上させる塩特性について理解を広めることとしている。その組織はアメリカの6社、カナダの2社、メキシコの1社からなる正規会員の9製塩会社、海外の26社からなる准会員で構成され、ローマン・プレジデント以下3名の職員で運営されている。「Press」では塩産業に影響を及ぼす全ての情報について会員、マスコミ、公的機関、保健専門家、産業界指導者たちに適宜に様々な情報を提供している。

 その次のカラムに塩の効用として「食品」、「健康」、「道路」、「水」の四項目に分けて情報を提供している。これらは情報普及を目指して一早く開設されたが、その構成内容は現在のプレジデントになってから大きく変わった。前の時代に掲載されていた有益と思われる情報は前プレジデントの許可により翻訳して著者のホームページである“橋本壽夫の塩の世界”に掲載されている。例えば、“塩と健康”や“塩と高速道路融氷雪”である。

 塩の効用として現在の構成項目である食品、健康、道路、水の4項目について解説されている内容を紹介する。

 

食品と塩 最も有益な単一調味料

低塩食の危険性など紹介

 食品にとって塩ほど有益な単一調味料はないと概要で塩の重要性を述べ、具体的にサティン氏が解説するビデオ(例えば、“最初から間違っている食事ガイドライン”など多数)、サイエンスなどの出版物に掲載されている塩と食品に関する記事(例えば、“不確実さでちりばめられた論争中の塩報告”と題する通信欄への投稿記事)、学術誌に発表されている研究論文(例えば、“塩がないと子供達は野菜を食べない”と「生理学と行動」誌の論文を紹介)、新聞・雑誌に掲載された塩に関するニュースと論文(例えば、“低塩食の危険性”と題する解説論文)、農業で利用される塩と5つのカテゴリーに分けて数多くの記事が掲載されている。

 最後の農業で利用される塩についてはさらに「動物と植物に給餌と施肥」、「塩による作物増産と植物病の管理」、「塩による微量ミネラルの補給(微量ミネラルの担体として塩を使用)」について解説し、「塩と微量ミネラル・ニュースレター」では動物に与える塩と微量ミネラルの効用についてイリノイ大学のバーガー博士が年間23回のニュースレターを2009年に413号まで発行してきた。その後、ノースカロライナ州立大学のスピアーズ博士が引き継ぎ現在まで続けている。

 

塩と健康 生理的役割を列挙

減塩政策に改善策提案も

 塩は良い健康状態を維持するうえで重要な成分であり、塩ほどヒトの生命にとって必須な電解質はない。として塩の生理的役割を列挙し、塩摂取量の多い人は長寿で、減塩が心臓発作や脳卒中の危険率を減らす証拠はないとアメリカ高血圧学会誌などは述べている。雑誌サイアンティフィック・アメリカンは減塩推奨には科学的根拠が乏しいので塩に関する論争を止めようと呼びかけていることを概要に記載している。

 ここでもサティン氏が解説するビデオ(例えば、“食事ガイドラインは最初から誤解”など)27件も用意されている。出版物には食品カテゴリーで掲載されている内容と同じ資料もあるが、塩協会が政府の政策に対して提出した要望書(例えば、“ナトリウム摂取ガイドライン条項の撤回要請、透明性のある規則作成および情報公開法要求”と題して農務省、厚生省に提出)も掲載されている。また塩と健康に関するニュースレターも発行していたが、2012年以来現在まで中止されている。なお、これまでのニュースレターは翻訳されて筆者のホームページに転載されている。

 学術誌に発表されている研究論文は食品カテゴリーで掲載されている内容と重複しているものもあるが、例えば、イギリス栄養学会誌に掲載された論文の“老人の塩欲求”では、老人は水分補給のために塩を必要とすることを解説し、ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に掲載された論文の“血圧と尿中のナトリウムとカリウム排泄量の関係”では、塩摂取量は血圧とは関係がなかったとしている。これらを含め現在では21件の記事が掲載されている。

 このカテゴリーにもニュースと論文の項があり、現在のところ30件が掲載されている。2,3事例をあげてみよう。

“夏の水分補給には塩が必須”では発汗による水分補給だけでなく低ナトリウム血症による熱中症予防のために塩分補給の必要性を解説している。水分補給だけでは熱中症の症状をますます悪くする。イギリス医学会誌(BMJ)Open Heart誌で心臓の危険因子と予防に関するレビュー論文として“悪い白い結晶:高血圧と心臓代謝異常疾患の病因は塩ではなく砂糖”と題する論文紹介で、塩ではなく砂糖が高血圧と心疾患を引き起こすとしている。

アメリカ食品医薬品局が食品製造者に対して自主的に製品中の塩を減らすようガイドラインを発表すると、塩協会は“食品医薬品局は塩規制の意向を止めるべき”ことを緊急発表した。その理由は2010年の医学研究所報告に基づいて塩規制を行ったが、2013年に同所が発表した減塩は有害な可能性があるという報告書を無視して規制をしようとしたからである。

 

道路と塩 安価な事故防止対策

融氷雪用塩の効果を解説

 独創的な滑り止め技術として環境を保護しながら毎年数百人の命を救い、数千人の障害者を防ぐ簡単で費用の掛からない方法がある。それは塩。塩による融氷雪で事故と障害の減少、費用対効果を解説している。

 前述したカテゴリーと同様に塩による融氷雪関係のビデオを21件用意している。中でも“日本における除雪”というビデオはアルペンルートの除雪を紹介しており、再生回数約124万回を数えている。ちなみに最多の再生回数ビデオは“巨大車両の災害”で、1,720万回以上も見られている。内容は鉱山用の重機や運搬車両の事故で、必ずしも雪や氷の除去とは関係ない。

出版物としては“安全で持続的な除雪”という融氷雪者用のハンドブックと“安全で持続的な塩貯蔵ハンドブック”がある。その他“道路の気象情報システム”、“駐車場と歩道の最適氷雪管理”、“冬期の滑り防止剤の限界”などの資料がある。

  毎年23回発行する“塩と高速道路融氷雪”というニュースレターがあり、2009年までに46巻を数えていたが、2010年から編集者が変わり、2011年で発行は中止されている。

 研究の項目では前述の資料に他にウォータルー大学の“現在の道路用塩管理計画の有効性調査”、ニュースレターとして発行された“塩と環境”などが掲載されている。

道路に関するニュースと論文には21件の記事が掲載されている。

 

水と塩 硬水→軟水に

水質を向上 コストも節減

 日本では塩と水との関係を考えにくい。河川水、地下水が軟水であり塩を必要としないからだ。しかし、サイトにはアメリカにおける地下水の硬度を4段階に分けた地図が掲載されており、全土にわたって硬水であるので、飲料水、生活用水にするためにはそれをイオン交換樹脂によって軟水にする必要がある。イオン交換樹脂の再生には塩が必要である。日本でもボイラー用水にするには軟水化する必要がある。また、塩を電気分解した塩素でプール用水を殺菌する。

 塩を用いた軟水器を使うことによりエネルギーの節約(加熱器にスケールが着かないことによる)、コスト節減(例えば、洗剤の節減)、硬水環境の改善(例えば、硬水は肌荒れを起こし、腎臓結石を生じさせる)などの全体的な効果を概要で述べている。

 これらのことを説明するために6本のビデオが用意されており、出版物の項には6件の記事や資料が掲載されており閲覧することができる。例えば、バッテル記念研究所から出版されている“供給水から硬水成分(カルシウムとマグネシウム・イオン)除去の利益に関する研究”、水質協会から出版されている“ダミーズの水処理”である。

研究の項には4件の記事や資料が掲載されており閲覧することができる。資料は前述した物と一部重複している。

 水に関するニュースと論文には“軟水器の作動原理”をはじめ軟水器の効用などに関する14件の記事が掲載されている。

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 以上、紹介したように膨大な情報が提供されており、筆者は塩と健康問題についてのオリジナル論文をこのホームページから知ることが多い。