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たばこ塩産業 塩事業版  2008.3.25

塩・話・解・題 36 

東海大学海洋学部非常勤講師

橋本壽夫

 

「塩の部屋」ってなに?

塩の用途開発から生まれた新商品

 

 2月27日から3日間東京ビッグサイトで健康博覧会2008が開催された。主として健康食品・サプリメント、エステ商品、運動器具、疲労回復機器などの展示であった。塩の展示は少なく、塩商品1件、塩の用途開発利用2件であった。
  中でも塩の用途利用として専売公社から民営化された時点で考えたことのある塩の部屋が国内で初めて商品化され、展示されていたので紹介する。

岩塩坑=塩の部屋で新たな喘息治療法が

 Salt Room(塩の部屋)という言葉は古くはHalo Roomとも言われる。Haloはギリシャ語で塩を意味する。中世の修道士は病人を塩の洞窟に連れて行って塩の微粒子が浮遊している空気を吸わせて治療した。このような治療をハロセラピーともソルトセラピー(塩治療)とも言った。岩塩坑の気象条件を利用して治療したのである。
 19世紀中頃に、岩塩鉱山で働いている人達は肺疾患、例えば肺炎や喘息にならないことにポーランドの産業治療士が気付いた。1843年に塩埃の効果について本を出版し、彼の後継者がクラコウ近くのベリッコで塩クリニックを設立し、現在でも続いているという。
 第二次世界大戦末期の数ヶ月間に岩塩鉱山が爆撃からの避難所として使われたとき、入っていた人々の何人かは喘息が軽減されたことに気付いた。その後、ドイツ、スイス、ハンガリー、ブルガリア、ユーゴスラビアで岩塩抗に喘息治療用のサナトリウムができた。塩の効果に対する科学的研究は1968年に始まった。岩塩坑で治療と研究を行った西ウクライナのアレルギー疾患病院の研究成果により科学的根拠が得られ、新しい効果的な喘息治法が確立された。
  患者を特別な塩の部屋に入れ、絶えず塩エアロゾルが分散している空気を吸わせた。治療効果は生物化学、免疫学、微生物学による各研究によって確認された。塩治療はほとんどの患者に6ヶ月から5年間で鎮静をもたらした。多くの報告はロシア語で書かれているため読解できないのが残念である。
 塩治療のポイントはエアロゾルである。主要な治療因子は、粒子径2-5μmの乾燥塩化ナトリウムのエアロゾルが濃度0.5-12 mg/m3で満たされている環境である。現在の治療装置は喘息だけでなく、後に示すいろいろな呼吸器系疾患に対応できる治療法がある。

ヨーロッパ80か所以上で各種呼吸器系疾患に対応

 ヨーロッパで商品化されている塩の部屋は人工的に岩塩坑内の気象条件を作り出しており、その条件の一例は

  湿度 40-50

  温度 20-24

  エアロゾル濃度 0.5-15 mg/m3

である。その中に通常、約20-40分いて、10日間、毎日続け、1年に2-3回治療を繰り返すと良いとされている。
 塩の部屋はエストニア、フィンランド、イギリス、ドイツ、イタリア、ラトビア、スペイン、トルコなどで80ヶ所以上も使われており、超微粒塩を製造する機械がさらに多くの場所で使われているようである。喘息以外の適用疾患としては風邪、慢性耳鼻咽喉疾患、気管支炎、アレルギー性皮膚疾患、湿疹と皮膚炎、乾癬、ストレス等があり、不適応疾患として熱を伴う感染症、癌、結核、心不全、高血圧が挙げられている。
 塩の部屋の代替として塩吸入器を使用することもできる。この吸入器は家庭用に便利で口や鼻を覆うマスクを通して塩化ナトリウムを含む乾燥空気を吸い込んで治療できる。

国内の建設会社が開発 体験入室の感想は−

 日本の塩の部屋はある建設会社が開発したものであり、写真に示す移動用の物が展示されていた。体験入室することができ入ってみると、天井と壁は塩を貼り付けたパネル、床は天日塩と、総て塩で囲まれている。

           

出展会社のパンフレットより(新聞ではカラー写真ではありません)

室内は一定の温湿度に空調されている。サウナに入れば、熱ですぐ特殊な環境に居ることが分かるが、塩の部屋では目で見て落ち着きのある雰囲気以外に体感的には分かりにくい。狭い部屋に閉じ込められた感じがしないでもない。
  パンフレットによると「塩の壁から発生する海塩微粒子は部屋の空気中に広がります」と謳われているが、そんなことが起こるのかどうか。海外の塩の部屋では塩のエアロゾル発生装置を組み込んでいるし、ビェリチカ岩塩抗のサナトリウムでは塩水を流してエアロゾルを発生させている。
           ◇           ◇           ◇
 新しい商品、塩の部屋を紹介した。これから改良されていくものと思われるが、喘息、花粉症、その他アレルギー疾患の治療に役立つ商品に育っていくことを願っている。