たばこ塩産業 塩事業版  2007.09.25

塩・話・解・題 30 

東海大学海洋学部非常勤講師

橋本壽夫

製塩工程はコジェネレーションの優等生


 地球の温暖化防止に伴う日本の二酸化炭素の排出削減が京都議定書で具体的数値として設定されて以来、折りに触れ先のAPEC会議でも話題になった。エネルギーを無駄使いしない、自然現象のエネルギーを使う、と共に化石燃料のエネルギー利用効率を如何にして向上させるかが問題となる。エネルギー利用効率の向上手段にコジェネレーションがある。今回は製塩工程のコジェネレーションを考えてみる。

コジェネレーションとは

 コジェネレーションとは、一つのエネルギーから複数のエネルギーを取り出すことである。と言っても今一つピンと来ないかもしれない。例えば、火力発電所では燃料(エネルギー)をボイラーで燃やして発生させた高圧の蒸気で発電機を回して電気(エネルギー)だけを取り出す。燃料エネルギーの一部が電気エネルギーに変わり、残りの熱エネルギーは冷却用の海水を通して温排水となって捨てられる。温排水に捨てられる熱エネルギーを暖房用に回収して利用すると、燃料から電気と熱の2つのエネルギーを取り出すことになり、コジェネレーションが図られたことになる。大気や海水に捨てられる熱エネルギーを何らかの形で利用するように回収すれば、コジェネレーションを行っている火力発電所となる。

製塩工程のエネルギー利用

 イオン交換膜製塩法のシステムを図1に示す。イオン交換膜製塩工場は電気透析や工場設備の操業に必要な電力を供給できる自家用タービン発電機を持っている。火力発電所と同様にボイラーで燃料を燃やして高圧の蒸気を発生させ、それでタービン発電機を回して発電する。

      イオン交換膜製塩法のシステム

  火力発電所と異なるのは、高温高圧蒸気を冷却海水温度まで下げて目一杯発電させるのではなく、発電の途中で蒸気を取り出して、真空式蒸発缶の熱源として利用することである。最終的には火力発電所と同様に熱エネルギーを冷却用の海水を通して海に捨てることになるが、それまでに何回となく熱エネルギーを回収して利用するコジェネレーション系となっている。

エネルギー利用効率の比較

 コジェネレーション系となっていない火力発電所とコジェネレーション系になっている製塩工場について、投入された燃料のエネルギー利用効率がどれほど違うか比較してみる。
  それを図2に示す。(a)は一般火力発電所(100kW)のエネルギーの流れである。100で入ったエネルギーが一部煙突に逃げて90のエネルギーで発電し、電力として38のエネルギーを回収し、52のエネルギーを海水に捨てている。熱エネルギー利用率は38%となる。

       火力発電所と自家発電併設製塩工場のエネルギー利用効率の比較

 一方、(b)は自家発電併設製塩工場のエネルギー利用状況である。三重効用の真空式蒸発システムの場合であり、90のエネルギーを使って22の電力エネルギーを得た後、68のエネルギーを熱源として真空式蒸発缶に利用し、それぞれの缶で63, 59, 55の熱エネルギーを作り出して再利用しているので、合計177の熱エネルギーを発生させたことになる。
 表で両者の熱エネルギー利用率を比較した。製塩工場では発電で22%しか利用していないが、効用缶では177%の利用率を上げているので、合計199%の熱エネルギー利用率となる。これは火力発電所の5倍のエネルギー利用率である。発電の排熱を利用したコジェネレーション・システムでは、ガスエンジン、ガスタービンエンジン、ディーゼルエンジン・システムでそれぞれの総合効率が658565757075%であることを考えると、製塩工場は抜群のコジェネレーション優等生であることが分かる。
 しかも地球の温暖化防止が問題となって二酸化炭素の削減が具体的に考えられ始めた1997年の京都議定書より遡ること25年前の1972年からこのシステムは採用されている。