たばこ塩産業 塩事業版 2006.8.25
塩・話・解・題 17
能登の揚げ浜式塩田製塩
第2回 塩田作業の採かん工程
絶えず空模様を眺めながら短期、中期の天候を予想しながら判断して塩田作業を進める。判断を誤ると労力をかけながら収穫間際になって、水の泡となって汗の結晶が流されてしまう。潮撒き、砂寄せ、砂散布と最盛期には毎日、暑い最中にルーチンワークの辛い力仕事が続く。シーズン始めの準備や大雨、台風後の再準備など、採かん工程に伴う作業について紹介する。
細心の天候予測とルーチンの力仕事で
シーズン始めに塩田整備
塩田の面積は約100坪で13m×25mくらいの大きさである(写真1)。塩田に散布した海水が下の地層に漏れないようにするため、山から持ってきた粘土を厚さ25 cmほどに積み上げた粘土層を作り、その上に平均粒径が0.3 mm程度の思ったより細かい海岸の砂(鹹砂)を1.5~2.0 cmの厚さに撒く。砂の厚さは砂の乾き具合によって調整する。すなわち、蒸発量の大きい最盛期には砂を追加して層を厚くする。砂の量は3トン位あるとのこと。砂の粒子が細かいので、強い風には吹き飛ばされるし、強い雨には洗い流されるので、適宜、補給しなければならない。

写真1 塩田全景。雨に打たれて塩は洗い流された状態。
シーズン始めには塩田を整備する。シーズンオフの間に塩田の表面が凸凹になり、荒れてひび割れた所を平らにし、ひび割れの補修をして水漏れがないように準備しなければならない。海水に粘土を混ぜてドロドロにし、塩田に撒く。ひび割れた所に粘土が入り込んでひびを塞ぐ。乾燥してくると海水を撒いて「盤」と呼ばれる道具で表面を叩き締める作業を繰り返しながら、2日間かけた盤突き作業で塩田地盤を突き固める。
製塩シーズンが終わると沼井の近くに砂を盛り上げ、藁で囲って翌シーズンまで貯蔵する。塩田地盤はむき出しで冬の寒風に曝されたままである。
7肩、450 ℓ分の潮撒き
「沼井」の近くに「浜桶」を置き塩田に撒く海水を溜める。その中には「荷桶」の14杯分(7往復分で7肩という)が入って1杯となる。浜桶は直径が1.7 m、高さが50
cmほどもある大きな物(450ℓ入る)である(写真2)。炎天下では乾燥して板と板との間にすき間が出来、水漏れを起こすので、現代の技術を使いグラスファイバーで内張されている。

写真2 グラスファイバーが内張された浜桶と細把え。
浜桶の中に入り、「打桶」で海水を汲んでそれを見事に霧状に細かい水滴に散らして塩田一面満遍に撒く(写真3)。この作業は「潮撒き」と呼ばれ、朝6,7時頃から始める。その後、「細把え」で砂を鋤起こし筋目を立てて、海水の蒸発を促進させる。風がなく、蒸発が悪くて砂の乾きが遅いと、筋目と直角の方向に再度、鋤起こして蒸発を促す。天気が良くて強い風が吹き続け、午後も良く蒸発すると予想すれば、9時半頃には砂が乾いて塩で白くなる。その時には二番掛けとしてさらに数往復分の海水を追加散布し、砂を鋤起こし、塩の増産を図る。近年では天気予報の技術が発達し、予報が良く当たるようになった。予報を念頭に置きながら、現場の天気を適宜判断して、1シーズンに10回程度しかないこのような好機を逸さないように活かす。

写真3 潮撒き。釜屋の右側に砂を掻き集める柄振や集めた砂を
たれ船(沼井)に入れる木製のスコップ「こみ」や「はね」が立て
掛けてある。
その昔、荷桶には2.5斗(45ℓ)の海水が入った。その2つを天秤棒で担いで運ぶので90 ~100 kgの荷物を肩で担ぎ、浜辺からの坂道を登って塩田まで運んだ。作業が辛いので、現在では2斗(36ℓ)と小振りになっている。それでも80 kg以上の荷物を運ばなければならない(写真4)。

写真4 倉庫の中に置かれている打桶と荷桶。
天秤棒の太さが印象的。
この後、砂から塩を溶かし出すために同じほどの量の海水を海から運んでこなければならないので、海水汲み上げ量は塩田に散布する量の2倍以上にもなる。総てを人手で運び上げるわけにはいかないので、今では通常、水中ポンプを使ってホース輸送により省力化を図っている。
午後2~3時頃には乾いて固まった砂を鋤起こし、「柄振」で砂を沼井(たれ船という)の所へ集め、「すきはつ」を使って沼井に入れる。木製のスコップ「すきはつ」には大小2種類があり、大きい方を「こみ」といい、塩の着いた砂をすくって沼井に入れるのに使う。小さい方は「はね」といって、塩の抽出を終わった砂(骸砂)を塩田一面に再び撒き散らすために使う。砂を集めて沼井に入れるのに2,3時間かかり、砂を塩田に撒く作業に2時間かかるという。
浜桶一杯分・18度ボーメのかん水が
コンクリート枠の上に「あぜ板」を組み上げて沼井を作る。コンクリート枠には底から15 cm位の所に竹の簀の子があり、その上をむしろで覆っている。シーズン始めは海水の蒸発が悪いので、塩田に散布している砂の量は少ない。したがって、沼井に入る砂の量も少ないが、最盛期には沼井一杯になる。砂を入れた上に人が乗り、かけた海水が満遍なく一面に流れて偏流しないように、特に四隅に注意を払って足で踏み固める。上に乗る人も重ければ砂層が締まって良いという訳ではないという。自ずと誰が乗って踏み固めれば良いかは決まっているようだ。その上をむしろで覆って海水をかける。
沼井の横にはかん水(藻垂れ)槽がある。沼井には塩田に散布した海水と同じ量、すなわち、荷桶14杯分を「端桶」で沼井に入れて砂に着いた塩を溶かし出す。海水で溶かし出す前に、前の作業で抽出を終えて後に流れ出た12, 13度ボーメ(%濃度にほぼ等しい) のかん水(藻垂れ)が溜まっているので、先ずそれを掛け、出てきた濃いかん水を「実潮桶」で受ける。最初は21度ボーメの濃いかん水が採れるが、次第に薄くなっていく。最終的に14杯分(浜桶1杯分)のかん水が採れる。しかし、かん水濃度が15 度ボーメ以下になると、実潮桶では受けず、かん水槽に藻垂れとして溜め、次回の抽出作業に備える。濃度が薄いと煮詰めるときに多くの薪と時間が必要になるからである。平均的には18 度ボーメのかん水が採れる。塩田で2番掛けした場合の砂ではもっと濃いかん水が採れる。
塩を抽出した後、あぜ板を外して「はね」という木製の道具を使って砂を塩田に散布する。これで採かん工程は一巡する。揚げ浜式塩田でも入り浜式塩田でも重い砂を海水濃縮の媒体として使い、それを毎日炎天下で、人力で集めてはばらまく重労働を繰り返してきた。
流下式塩田になると、動力を使って汲み上げた海水を自然の力で動かして濃縮する方法に合理化された。さらに採かん工程は革命的に合理化されて、海水中に含まれている3%の塩を採取するために、90%以上の水分を蒸発させる製塩法から、3%の塩(一部他の塩類も含む)だけを取り出すイオン交換膜濃縮法になった。
しかし、食生活で塩の大切さを感じることが出来るのは、揚げ浜式塩田製塩のような過酷な労働を目にした時ではなかろうか。
(次号につづく)
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