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たばこ塩産業 塩事業版 2004.12.25

Encyclopedia[塩百科] 41

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

製塩工程の伝熱を考える

─ エネルギーの利用効率を最大にするために ─

 現在の製塩装置は完全に化石エネルギーに依存している。したがって、エネルギー利用効率を最大にする必要がある。それには伝熱効率が重要になる。伝熱効率とは熱を伝える効率のことである。まずボイラーで燃料を燃やして蒸気を発生させ、その蒸気を利用して真空式せんごう缶(煮詰め缶)で製塩する。ここでは、せんごう缶の伝熱効率に影響を及ぼす幾つかの要因について考えてみる。

熱伝導度

 加熱装置を制作する場合、加熱管は熱伝導率の良い材質を選ぶ。熱伝導率とは表に示すように物質の熱を伝え易さを表す物質特有の値である。単位時間・距離・温度当たりの熱量で表されるので、時間が長いほど、距離が短い(厚さが薄い)ほど、温度差が大きいほど多くの熱が伝わる。家庭で使われる鍋の材質を考えても、鉄、ステンレス、アルマイト、銅、ホーロー、ガラス、陶器と様々である。熱伝導率でいえば銅が一番良くパイレックスガラス(耐熱強化ガラス)が一番悪い。熱伝導率が良いと言うことは、熱しやすく冷めやすいと言うことである。それぞれに特徴があり、使い分けされる。
  しかし、工業装置では材質が限られてくる。上に挙げた中で一番熱伝導率が高いのは銅であるが、設備費、耐食性、耐久性、耐摩耗性、強度、加工性等を考えなければならないので、現実には銅管は使われていない。熱伝導率が悪く高価であるが各種合金や塩結晶による耐摩耗性から耐久性のあるチタン管が使われていることもあるが、表に示すように熱伝導率が悪いことと、高価なことから銅系統の合金にチタンを被覆して経済的に使用可能なコストまで下げている。いずれにせよ伝熱管の材質は経済性も含めて総合的に考えて、最終的に決定される。

総括伝熱係数

 例えば、蒸気の熱を伝熱管の内部を流れる液体に伝える時に使う熱の伝わり易さを表す係数である。総括伝熱係数は、伝熱管内外の境膜伝熱係数と熱伝導率を含めた総合的な伝熱係数で、値が大きい熱交換器ほど性能が高い。単位面積・温度当たりの伝熱量を表す。この値を大きくするには伝熱管の材質の他に運転操作が関係してくる。
 総括伝熱係数は伝熱管の外側で蒸気が凝縮してできる水膜の厚さと内側の管璧に近い所を流れる層流(乱れのない流れで境膜とも呼ばれる)の厚さに影響される。これらの厚さは水の熱伝導率で熱が伝わっていく。水の熱伝導率は0.5と小さいので熱を伝えにくい抵抗として働く。したがって、この厚さをできるだけ薄くする必要がある。そうすることにより、総括伝熱係数が大きくなり、熱がよく伝わる。厚さを薄くするには、管内では液の流れる速度を大きくする。つまり急速に流す、強く撹拌することにより熱が速く伝わる。これは家庭の風呂釜を自然循環式でお湯を沸かすよりも、強制循環式で沸かす方が速く沸くことで理解できる。

スケール

  スケールとは湯あかのことであるが、海水濃縮では炭酸カルシウム(家庭のやかんの注ぎ口に着く)と硫酸カルシウム(石膏)が伝熱管の内側に着く。スケールの熱伝導率は小さい(石膏ボードは木造建築の耐火性を持たせるために使われるくらいである)ので、熱伝達の抵抗となり、総括伝熱係数が低下する。したがって、伝熱管にスケールが着かないように運転することが重要となる。苦汁注加法とか種添加法により伝熱面にスケールを着けないで、液中にスケール成分が析出するように操作し、後工程で塩と分離する。
 塩田製塩時代のせんごう工程では一日一回、缶の運転を止め、洗缶作業が入り、エネルギー損失が大きかったが、イオン交換膜製塩ではイオン交換膜電気透析によりスケール成分がかん水に入り難いために、せんごう工程の運転管理は楽になり、数ヶ月間も無洗缶で連続運転されている。

不凝縮ガス

製塩の場合、不凝縮ガスは空気、海水中に溶存している酸素、窒素、二酸化炭素などである。これらのガスは常圧では凝縮しない。このため蒸気の凝縮が妨げられ、伝熱係数が極端に悪くなる。つまり蒸気と一緒に伝熱管の表面に来るが、そこで凝縮しないで空気の層を形成する。空気の熱伝導率は0.02と非常に小さい(羽毛入りの防寒着が暖かいのは、中に熱を伝えにくい空気が保持されているからである)ので総括伝熱係数が悪くなる。蒸気の蒸気圧が高いのに蒸気の温度が低いことで不凝縮ガスがあることが判る。その時には、不凝縮ガスの集まりやすい所から真空ポンプやエゼクターでそれを抜き出し、トラブルを解消する。
 真空式製塩法では配管から空気が入り込み、かん水から溶存ガスが出てくるので、空気漏れに気を付け、あらかじめかん水を脱気工程に通して溶存ガスを抜いておく。そうすることにより、トラブルを起こさないようにできる。

有効温度差

 熱が伝わるには温度差が必要である。温度差が大きいほど伝熱量は大きくなる。真空式製塩法では図1に示すように例えば、三重効用蒸発缶が用いられる。ボイラーからの蒸気を第一号缶に入れ、そこで蒸発した蒸気を第二号缶に入れることを繰り返す。最終的に冷却用海水をバロメトリック・コンデンサーに入れ蒸気を凝縮させることにより真空度が上昇して、低温でもかん水が蒸発する仕組みである。

       三重効用真空式蒸発缶

 熱は温度差が大きいほどよく伝わる。図2を見ると分かるように、最初の加熱室に入れる蒸気温度とバロメトリック・コンデンサーの温度との差、つまり全温度差は80.5℃ある。

        三重効用蒸発缶の有効温度差

ところが第一号缶で考えてみると、120℃近い蒸気を入れて缶内が沸騰するのは100℃以上である。通常、水は大気圧下では100℃で沸騰し、発生した蒸気温度も100℃である。しかし、塩分濃度の高いかん水では、沸点上昇(B.P.R)という現象があり、塩分濃度が高いほど沸点上昇は大きい。したがって、缶内液温度は100℃以上でなければ沸騰せず、発生した蒸気温度は缶内の飽和蒸気圧力に相当した温度にしかならないので、缶内液温度よりは低い温度を示す。これらの温度間の差が沸点上昇で、図では黒く塗り潰されている。第二号缶には低い温度の蒸気が供給され、真空度が高くなっているので、缶内の液温度は第一号缶の沸騰温度より低い約65℃で沸騰すべきであるが、沸点上昇のために約80℃にならないと沸騰しないし、蒸発する蒸気の温度は65℃でしかない。つまり熱を伝える有効な温度差としては100℃弱の温度で蒸気を供給しても約80℃との温度差20℃弱(薄い黒地の部分)しか利用できない。第二号缶の沸点上昇を表す黒塗り部分が大きいことは、この缶の塩分濃度が高いことを表している。
  飽和かん水の沸点上昇は7,8℃あるので、効用数が増えるほど沸点上昇が加算されるので、有効温度差は小さくなり、熱を伝えにくくなる。その代わり、蒸気利用率は上昇する。どの辺りが最も経済的か、あるいは生産量との関係で効用数を決める。真空式蒸発缶では通常、三重効用から四重効用が採用される。
 製塩のために熱を伝えるにも様々な障害があり、熱伝導率は材質を選べば決まってしまうが、伝熱を邪魔する不凝縮ガスやスケールの処理、総括伝熱係数や有効温度差は操作法の工夫により改善できる。