戻る

たばこ塩産業 塩事業版  2000.12.25

塩なんでもQ&A

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

 

食用塩の安全性と規格について

 

 ちょっと前の新聞「たばこ塩産業」(塩事業版)で、(社)日本塩工業会の「ICP活動」についての記事があり、「国内製塩の安全性・塩に関する正しい知識」のPRを積極的に行っていこうとする中で、具体的な活動として『塩の品質に関するガイドラインの作成』という項目がありました。以前の本欄でも「特殊製法塩の品質と安全性について」の質問・解説がありましたが、一定の検査機関のようなものはないとの由。今年の夏はいろいろ食品の異物混入問題などがあり、消費者の関心も高まったものと思いますが、塩の品質や安全性、そして製品規格などについては、なにか動きはあったのでしょうか?塩工業会のガイドラインは、法的な規制となるのでしょうか?また、外国の事例はどうなっていますか?
                                    (東京都・塩販売店)

 今年は牛乳の製造工程管理で安全衛生に関する重大な欠陥があり大きな社会問題となりました。これは幸いにもヒ素やライスオイルのように後々に身体障害を残すものではありませんでしたが、O-157事件以来、微生物が関係した食品の安全衛生に関しても大きな問題がありましたので、国民の食品に対する安全衛生意識はますます高まってきています。食用塩の安全性についてはこれまで社会問題になったことはありませんが、塩の専売制がなくなり、販売競争が激化していく中では何が起こるか分かりません。そのようなことから改めて安全性、規格について日本と外国の状況を説明します。

検査・保証機関の変遷

  食用塩の安全性については、製造法、製品品質、包装、輸送面での取り扱いから、衛生、有害物質の混入防止等に留意して、製造基準や品質規格が決められるべきであると思いますが、現在のところ食用塩としての公的な規制はなく、食品衛生法による一般的な規制を受けるだけです。
 塩が専売制であった時代には、専売塩と言われた塩は日本専売公社なり日本たばこが買い入れる塩の安全性を検査し、品質を保証して販売しておりました。専売塩を原料にして加工した特殊な塩(一般的に自然塩とかミネラルが多いと称していた塩)の安全性はその塩の製造者が保証しておりました。
 専売制がなくなってからは、塩事業センターが買い入れて販売する塩については塩事業センターが保証しますが、それ以外の塩についてはそれぞれの塩製造者が保証責任を持つようになりました。
  このようなことからイオン交換膜法によって海水から塩を製造している7社で構成された()日本塩工業会では、塩の専売制が廃止されてから「食用塩の安全衛生ガイドライン」という自主基準を定めて運用してきました。この度それを改訂して、基準に適合した製品には安全衛生基準認定マークを付けて品質保証することこととなり、近く発表される予定です。
 食品製造業者は自社製品の安全保証面から使用原料の安全保証については厳しい要求をします。製造食品の原料として使われることの多い塩も例外ではなく、塩の専売制がなくなった現在では外国からもいろいろな塩が入ってきておりますので、特に塩の安全衛生について注意しておく必要があります。

海外に比べ厳しい基準設定

 (財)塩事業センターが販売する塩の品質規格については表−1のようになっております。これは表−2に示す(社)日本塩工業会の「食用塩の安全衛生ガイドライン」と合っていないところがありますが、塩事業センターはこのガイドラインに適合した塩を買い入れますので、表−2の規格を満たしていることになります。

  
表−1 (財)塩事業センターが販売している製品の品質規格

表−2 食用塩の安全衛生ガイドライン
項       目 内  容
不溶解分 0.01%未満
溶状 無色透明
重金属 10 mg/kg以下
ヒ素 0.2 mg/kg以下
水銀 0.05 mg/kg以下
カドミウム 0.2 mg/kg以下
1 mg/kg以下
1 mg/kg以下
有機臭化物 検出せず
一般生菌数 300 ヶ/g以下
大腸菌群数 陰性

 (社)日本塩工業会の「食用塩の安全衛生ガイドライン」は基本的に食品衛生法に準拠していますが、国際的な食用塩の規格にも準拠して設定されております。製品の安全衛生基準を表−2に示します。
 この中で重金属の10 mg/kg以下という基準は食品添加物中の重金属基準と同じです。有害微量成分であるヒ素、水銀、カドミウム、鉛、銅についてのそれぞれの値は、後に述べます外国の基準値の1/2以下に設定されています。
 有機臭化物は「検出せず」となっております。これは例えば食糧の燻蒸剤として使われる臭化メチルなどを指しておりますが、有毒ですのでそのような物がないことをうたっております。一方、海水を原料として作る塩の中に無機臭化物は必ず含まれていますが、無機臭化物です。例えば臭化ナトリウムは臭化メチルより毒性はずっと弱く(ラットの半数致死量で比較して臭化メチル214 mg/kgに対して臭化ナトリウム3,500 mg/kg)、安全性に問題はありません。海外の塩の品質規格にはこの項目はありません。  一般生菌数は300/g以下と定められております。せんごう塩(煮詰めて作る塩)は加熱工程を経て作られますので、通常、生菌はいないと考えられますが、無菌状態で包装するわけでもありませんので、空気中の菌が付着することもありえます。そのようなことから基準を設定しております。ちなみに水道水の規格はほぼ同じ重量で比較とすると100/ml以下となっております。海外にはこの規格はありません。大腸菌群数は陰性という規格になっておりますが、これも海外ではありません。このように(社)日本塩工業会の「食用塩の安全衛生ガイドライン」は非常に厳しい基準を設定しており、安全衛生に留意しております。これは自主規格ですから法的な規制になることはありません。

世界的な基準における数値

 世界的な基準として食用塩の規格(CODEX STAN 150-1985)があります。これは原料(海水、岩塩、天然かん水)を規定し、純度、有害微量成分、食品添加物などを決めています。純度は乾物基準で、食品添加物を除いて97%以上となっております。残りの成分は原料や塩の製造法よって変わりますが、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム等の硫酸塩、炭酸塩、臭化物とカルシウム、カリウム、マグネシウム等の塩化物です。
 この規格の考え方は、海水を原料とした天日塩中の夾雑物を最大3%と見て塩化ナトリウムの純度97%を決め(岩塩では夾雑物が3%以上あるものが多いが、それらは精製しないと食用塩には使えない)、岩塩に由来すると思われる有害微量成分の含有量を規制して食用岩塩の安全性を確保し、それに食品添加物としていろいろな物(日本よりも多くの食品添加物がある)を加えて食用塩を製造し、製品品質の各規制値を守らせようとしています。
 有害微量成分は5種類あり、それぞれの含有量はヒ素として0.5 mg/kg以下、銅として2 mg/kg以下、鉛として2 mg/kg以下、カドミウムとして0.5 mg/kg以下、水銀として0.1 mg/kg以下と決められています。
  この規格には細菌等の微生物に関する規制値はありません。塩は昔から食品の保存に使われてきたくらいですから、塩に由来する微生物が害を及ぼすことは少ないと考えていることと、好塩菌が混じっている天日塩でも食用にするからです。
 この食用塩は担体(食品添加物や微量栄養素の運び屋)としても使われます。例えば、硝酸塩、亜硝酸塩との混合物(肉製品用)、少量のフッ化物(虫歯予防)、ヨウ化物(ヨード欠乏症予防)、鉄(貧血予防)、ビタミン等を混ぜた塩です。
 国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で食用塩の国際規格を制定する作業が続けられております。規格案はほぼ出来上がっており、内容はCODEX規格と同じです。各国が規格案を受け入れるかどうかを決断する段階になって、この作業はなかなか進展していないように思われます。そのような理由からかと思いますが、1985年にCODEXの規格として同じ内容を決めてしまったものと思われます。