たばこ塩産業 塩事業版  2000.01.20

塩なんでもQ&A

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

 

特殊製法塩の品質と安全性について

 

「天日塩の中に好塩性微生物?」の欄で、塩の中の「好塩性微生物」のことが取り上げられていましたが、最近は各地で『○○の塩』とか『××の塩』とか、地ビールならぬ“地塩”とでも言うべき塩が作られ、販売されています。大蔵省に届け出れば誰でも塩が作れるとのことですが、ちょっと気になることがあります。そえは、各塩の成分や品質の保証と言うことで、例えばにがり分や水分量とか、規準のようなものがあるのでしょうか?海水から作られた塩といっても、海水汚染の可能性もあります。その場合の有害物質含有量とか、さまざまな問題があると思います。製品の規準とか、品質チェックとか、しかるべき担当機関はあるのでしょうか?これだけ多くの塩が出回っていると、ちょっと心配になります。                                                                               (東京・塩小売店)

 塩の品質としては、主として内容成分(塩化ナトリウム、その他のミネラル、水分など)、物性(形状、粒径分布、かさ密度など)が問題になりますが、その他に重要なこととしてご質問のように安全性の問題があります。
 塩専売制の時代には、消費者は安全性についてはあまり気にもしなかったことですが、専売制が外れて自由に塩を作れ、輸入できる今のような時代になると、多少は気にしておく必要があります。

塩の品質保証

 専売時代には専売塩に対する安全性は国が保証していました。特殊用塩と言われていた塩も原料としては専売塩を使わなければならなかったので、安全性に何らかの問題が起こり、原因を解明して塩にありとなれば国の責任となり、塩ではなく加工工程にありとなれば、その塩の製造者にあったのです。
 専売制が外れた今では、塩の品質保証はすべて塩の製造者が行うことになりました。保証する品質基準については公的なものはなく全て自主規準ということになります。
  (財)塩事業センターが販売している生活用塩のように自主規準を公開しているところもあれば、公開していないところもあります。
 (財)塩事業センターは塩の生産者ではなく販売者ですが、販売する塩の銘柄の品質規準を公開していますので、製造者から塩を購入するときにその品質規準に合っているかどうかを検査して、合格品だけを購入した上で販売します。品質保証は製造者がすべきものですが、購入した合格品の販売で品質規準上何等かの問題を起こせば、それについての品質保証は塩事業センターがすることになるでしょう。
塩の品質規準

 塩の品質規準は前にも述べましたように、自主規準でしかありません。塩専売制時代に公的な規準であったものが、専売制が外れましたので前の公的な規準がそのまま販売するための自主規準になり、イオン交換膜で海水濃縮して製塩している国内7社と輸入塩を再溶解して煮詰め直している1社でも自主規準となっております。
 それらの品質規準表−1に示すとおりです。塩化ナトリウムの純度と粒度、添加物から構成されています。ご質問の中にあります水分については規準はありませんが、塩化ナトリウムの純度から決まってきます。

     表−1 (財)塩事業センターが販売している製品の品質規格
    

 品質規準には記載されていませんが、品質規準を保証する塩の検査要領の中で検査項目として包装、量目、色相、純度、カリウム、粒度、重金属があり、それぞれ判定基準が定められています。カリウムはにがりに関係するものですが含有量0.25%以下とされています。この項目が設けられた理由には次のような経緯がありました。塩の製法が流下式塩田方式からイオン交換膜方式に転換した時、消費者から従来の塩の味と違うとのクレームがあり、成分を調べたところ塩化カリウムが多く入っていることが分かりました。塩を採るためにかん水を煮詰めすぎると、にがりの中の塩化カリウムが析出してきますので、その前に煮詰めを止めるようにしたのです。有害物質については、食品添加物と同じように重金属として10 ppm以下としております。有害物質は重金属だけでなく農薬のような有機物もあります。イオン交換膜海水濃縮法では、海水中の有害なPCB、有機水銀は塩の方には入ってきにくくなっておりますが、海水をそのまま濃縮して製塩する方法では、海水汚染に気を付けないと汚染物質が濃縮されて塩に入って行くことは十分にありえることです。
 生産業界をまとめる(社)日本塩工業会のような組織がありますと、業界規準として自主的に品質規準を定め普及することが考えられますが、特殊製法塩を製造販売している業界では業界をまとめる組織がありませんので、個別企業の自主規準となり一般的にそれを把握することは難しいことです。
 日本では塩は食品として扱われておりますが、国際的には食品添加物として扱われております。食用塩の国際的な品質規格は、FAO(国連食糧農業機関)/WHO(世界保健機関)が合同で案作りを行っており、表−2のように定めようとしております。ここでは純度と添加物ならびに有害物質が決められております。有害物質には5種類の含有量が具体的に書かれております。

   表−2 国際的な食用塩の規格(抜粋)
   
   NaCl含 有 量:添加物を除き、乾物基準で97%以上
   有害微量成分:ヒ素とカドミウムは0.5 ppm以下
          銅と鉛は2 ppm以下
          水銀は0.1 ppm以下

品質検査機関

  塩の品質検査機関としては、塩の分析を専門的に行っている(財)塩事業センターの海水総合研究所があります。ここでは微量成分も含めてほとんどの分析項目に対応できます。通常の品質検査については、専売時代からの継続として製塩7社で自主的に行われておりますが、有害物質などの特殊な物質については海水総合研究所食品分析センターなどで分析してもらいます。
 数多くある特殊製法塩の製品品質をどれだけ出荷検査として自主的に行っているか把握しておりませんが、専売時代からの分析研修の事績から考えて塩の分析には相当高度な技術が必要となりますので、自主的に行うにはかなりの困難が伴うものと考えられます。食品分析センターなどに出した結果で自社の品質レベルを把握しているのではないかと思いますが、温泉の泉質分析証明書のように泉質が変わらないものであればともかく、製品の製造では製造ロット単位で品質が変わりますので、製造ロット単位毎に品質を把握することは技術、時間、コストから考えて無理ではないかと思われます。また、そのような製品を定期的に公的な機関が品質検査することもありません。これは輸入されている塩製品についても同じことです。

おわりに

 したがって、ご質問にありますように心配な面があります。今のところ、これまでこの欄で紹介しました地方自治体の消費生活センターなどの発表値とか、海水総合センターの発表値を参考にして、消費者が購入する際に判断するしか手段がありません。
 今後、問題が発生すれば、その時点で何等かの対策を取るように、しかるべき監督官庁が検討を始めることになるのではないかと思います。