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たばこ塩産業 塩事業版  2000.07.25

塩なんでもQ&A

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

 

「麺の腰を強くする」塩の役割

 

 近所のお客様で、製麺業を営んでいる方がいらっしゃいます。もうかなり前からのお客様なのですが、これまでしみじみお話をする機会がなく、塩についてもどんな使われ方をしているのか正確なことは知りませんでした。先日、お話を伺ったところ、製麺業においては私が想像していた「麺に薄く塩味をつける」という理由で塩を使っているのではなく、「麺の腰を強くする」ために、塩が必要なのだとか。どのような理屈で、どのような方法で塩によって麺に腰が出てくるのでしょうか。
                                    (埼玉県・塩販売店)

 塩は代替のない塩味を示す調味料として使われるのはもちろんですが、味付け以外にいろいろな機能を持っております。製麺に使われるのも味付けよりも腰の強さを引き出すために使われます。塩が持っているいろいろな機能について解説した中(本紙平成10年9月25日付け「味付け以外の塩の役割は?!」参照)で、麺の腰を強くする作用についてもごく簡単に述べました。食品に腰や粘りを持たす塩の役割は、塩がある種のタンパク質を溶かす作用に基づいております。溶けたタンパク質は加熱によって固まりますので、食品の特性となる腰や粘り歯ごたえが出てきます。あらためていくつか類似の食品も含めて塩との係わりを解説しましょう。

塩との係わり

うどん
 うどんを作るには小麦粉を使います。小麦粉にあるグリアジンとグルテニンというタンパク質は水には溶けませんが、水を吸収して捏ねるとか叩く、引っ張るなどの力が加わりますと、グルテンという粘弾性のある物質となります。このグルテンがうどんの腰の強さを出す鍵となる物質です。
  タンパク質が網目のように絡まりつながってできるグルテンの網膜組織はチューインガムのように千切れないで伸びる性質を示します。
  このグルテンは塩により引き締められて粘弾性が強くなります。小麦粉に水と塩を入れて捏ねていきますとグルテンが形成されて腰の強いうどんが出来るというわけです。良く捏ねるほどタンパク質のからまりが進みグルテンが良く形成されます。さぬきうどんは腰の強さで人気がありますが、少し多めに塩を入れているようです。しかし、塩の入れ方も季節によって変わり、夏場は多めに、冬場は少な目にします。
 うどんにおける塩の役割は、そのほかに保湿性(乾きにくくする)を持たせるとか若干の防腐性を持たせるといったこともあります。

そば
 うどんと似たものにそばがあります。そば粉にはグルテンになるタンパク質がないので、一般的には塩が加えられることはありません。
  その代わりつなぎをもたせる物として小麦粉が使われますので、小麦粉でグルテンを形成させるために塩が加えられることがあります。

ラーメン
 ラーメンでは小麦粉が使われますので、塩も使われます。その他にかん水と呼ばれるアルカリ性の水溶液(炭酸カリウムや炭酸ナトリウムなどの混合物)が使われます。この溶液を加えることにより小麦粉の中にある色素を黄色く発色させたり、ラーメン独特の食感を与える効果を出します。

スパゲッティ・マカロニ 
  スパゲッティやマカロニも小麦粉が使われますが、デュラム小麦という種類の違う小麦から作られた粉です。
  タンパク質は多く含まれていますが、塩を入れても腰の強いグルテンはできません。この小麦粉にも色素が含まれていますので、孔から高圧で押し出し成型することにより、透明感のある黄色になります。

パン
 パンにもグルテンを形成させるために塩が加えられます。パンの生地をよく捏ね、グルテンを形成させると同時に生地の中に細かい気泡が取り込まれるように練り込むと、酵母菌の発酵で発生する炭酸ガスとともにグルテンの網膜組織に保持されて柔らかくふっくらとしたパンができます。加える塩の量によって酵母菌の繁殖をコントロールし、発酵状態を制御します。

種類と製造工程

小麦粉の種類と用途
 これまでいくつかの食品についてのべてきましたが、原料の小麦粉を中心にして整理すると系統的に判り易くなると思います。 
 小麦粉はグルテンになるタンパク質の量によっていくつかの種類に分けられます。グルテン量が多く、粘弾性の強いもの(強力粉)、少なく粘弾性の弱いもの(薄力粉)、その中間(中力粉)と分けられ、強力粉はパンや餃子の製造、薄力粉はケーキ、菓子、天ぷら、中力粉はうどん、菓子などの製造に使われます。
  使用する際の捏ね方とともに出来るグルテンの性質を合わせて表−1に示します。

              表−1 小麦粉の種類と用途
  
小麦粉の種類と用途
 しかし、いろいろな食品となる製品は一種類の小麦粉だけが使われるのではなく、2種類、3種類の粉を混ぜて使います。その様子を図−1に示します。小麦粉の種類と用途

        図−1 小麦粉の種類と用途 
 (栄養・健康科学シリーズ 食品加工学 小川正・的場輝佳 南江堂〈1997〉)      

麺類の製造工程

 麺類にはいろいろな種類がありますが、それらの製造工程はある程度共通しています。その様子を図−2に示します。しかし、スパゲッティ、マカロニだけが製造工程が大きく異なっていることがわかります。
麺類の製造工程
                       図−2 麺類の製造工程
        (栄養・健康科学シリーズ 食品加工学 小川正・的場輝佳 南江堂〈1997〉)