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ナトリウムの性質と利用

ナトリウムの性質

ナトリウムは塩化ナトリウム(食用塩)の1成分である。ナトリウムは1869年にロシアの化学者メンデレーエフによって完成された元素の法則性を表す周期表の1族に属する。この族はアルカリ金属と呼ばれ、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム等と電子殻(原子核の周りを回る電子軌道)の数が増えるにつれて周期数は増える。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムはそれぞれ2周期、3周期、4周期にある。これらの原子は軟らかい金属で、ナトリウムやカリウムは水と激しく反応して水素を発生し、水素が燃えて火災の原因となる。従って石油のなかで保存する。

ナトリウムの融点は98℃、沸点は880℃と非常に幅広い温度範囲で液体状態である。熱伝導性が高いので、熱を伝えやすい。比重が0.98で水よりわずかに軽い。腐食性が弱い。燃えると黄色の炎をあげる。これらの性質を利用してナトリウムは様々な用途で使われている。

 

ナトリウムの製造

 金属ナトリウムの製造はダウンズ法と呼ばれる塩を電気分解する方法で製造される。「Downs cell」と呼ばれる下図に示す特殊な装置で、加熱により塩を液体にして(塩の融点は800℃で、溶けた液体状態の塩を溶融塩と呼ぶ)、炭素陽極と鉄陰極も間に直流電流を流す。液体状態の塩はナトリウム陽イオンと塩化物陰イオンとなっており、前者は陰極に後者は陽極に移動する。移動したナトリウム・イオンは陰極で電子をもらってナトリウム金属となる。

 

金属ナトリウムは溶融塩の比重より軽いので上に移動して浮く。塩化物イオンは陽極で電子を放出して塩素ガスとなってベントから出て行く。このようにして金属ナトリウムはフランスとアメリカの二ヶ国で製造されている。製造された金属ナトリウムの価格は日本原子力研究開発機構のホームページによると約900円/Kgである。

 

ナトリウムの用途

1.冷却材

ナトリウムは98(融点)から880(沸点)の間は常圧の液体で流動性があり、比重は水よりも少し軽く、ポンプ輸送に適しており、熱伝導性は鉄の約2倍、ステンレスの約10倍、水の約100倍と大きく熱を伝えやすいため、高速増殖炉の熱を取り出す冷却材として使われる。つまりナトリウムは熱媒体としてポンプ循環され、高温の増殖炉からの熱を熱交換器で水の加熱に使い、沸騰した水蒸気で発電タービンを回して電気を作る。我が国には増殖炉はなく、沸騰水型原子炉や加圧水型原子炉である。その場合の冷却材には軽水が使われる。軽水には中性子を減速させる効果があるので、原子炉の反応を制御する役目も持って使われている。金属ナトリウムには減速効果はない。

2.ナトリウムランプ

 もっと身近なナトリウムの利用はナトリウムランプである。ナトリウム蒸気中でアーク放電させると、ナトリウムの性質により黄色に発光する。トンネル内や高速道路の照明で使われている。黄色の光は赤に次いで長い波長の光で、微粒子(例えば、霧)が多い環境下でも透過性が高く、屈折しにくい特性を持っている。つまり霧の中でも白色光よりも遠くまで光が届くので、霧が発生しやすい道路照明灯や自動車のフォッグランプとして使われている。

3.NAS蓄電池

 東日本大震災がきっかけで全ての原子力発電を止め、電力補給に急遽火力発電所を運転した。同時に太陽光発電や風力発電の普及に力を入れている。しかし、クリーンエネルギーであるこれらの自然エネルギーを利用する発電には安定性がなく、太陽光発電では夜間に、風力発電では無風時に発電できない。したがって、安定性のある電力にするには蓄電池と組み合わせなければならない。それには大容量の蓄電池が必要である。

従来、電池と言えば鉛蓄電池でかさばり、非常に重い物であった。それに代わる物としてナトリウムの金属性と伝導性を利用して日本ガイシが体積・質量が約3分の1程度のNAS蓄電池を開発・実用化した。これにより出力変動の大きい太陽光発電や風力発電と組み合わせて出力を安定化させるようになった。割安な夜間電力を蓄電し昼間の電力として給液でき、停電時には非常時電源としても兼用できる。

NAS蓄電池は下図に示すようにマイナス極にナトリウム(Na)、プラス極に硫黄(S)(固体)電解質にファインセラミックを用いて、ナトリウム・イオンと硫黄の化学反応で充放電を繰り返す。この電池の構成材料はいずれもありふれた豊富にあることから量産によりコストダウンを図れる。寿命が長く、自己放電が少なく、充放電の効率も高いなどの長所がある。しかし、短所としては幾つかある中でナトリウムや硫黄を液状の溶融状態に保ち、固体電解質のイオン伝導性を高めるために約300℃の高温に維持して運転しなければならない。これは小型化には向かない。

NAS電池の構造を表したイラスト。詳細は以下

日本ガイシのホームページより

 

4.リチウム・イオン電池の代替品としてのナトリウム・イオン電池

 小型化された電池としてはボタン電池として知られている水銀電池があるが、これは充電再利用できない使い捨ての一次電池であるのでここでは言及しない。充電再利用できる電池は二次電池と呼ばれ、それにはニッケル・カドミウム蓄電池、リチウム・イオン電池などがある。前者は有害である金属カドミウムをマイナス極に使用していたが水素吸蔵合金に置き換えたニッケル水素二次電池が開発され使用されている。後者は最初、リチウム合金をマイナス極に用いたがマイナス極表面に金属リチウムが析出し発火の問題が起こったことから、マイナス極に炭素を用いるリチウム・イオン二次電池が開発商品化された。これにより電気自動車やハイブリッドカーの開発が急速に進んだと言う。

リチウム・イオン二次電池では電解液に可燃性溶剤を用いていることで安全対策が重要となり、現在もより良い材料を目指した研究開発が進められている。電解質に高分子ゲルを用いて安全面を配慮したリチウム・イオン・ポリマー二次電池が開発され、薄型化・軽量化が可能になり、スマートフォンや携帯電話に使われるようになった。

リチウム・イオン二次電池には様々な電極材料があり開発津途上であるが、現在使用されているのは下図に示すプラス極のコバルト酸リチウムとマイナス極の黒鉛の物である。今後、さらに高性能、安価、安定性の高い物に代わる可能性がある。

リチウムイオン電池の正極・負極の構造

https//linky-juku.com/ より

しかし、下図に示すように現在の材料であるリチウムの存在量は少なく希少価値のため高価であり、それ以上に高価なコバルトをプラス極に使用している。これらの金属には毒性がある。コストダウンと毒性のない安定性が大きな課題であり、それを図る研究開発が進められている。

 リチウム・イオン電池の低コスト化を図りその代替品として期待されているのがナトリウム・イオン電池である。ナトリウムは冒頭ナトリウムの性質で述べたように同じアルカリ金属で、類似の性質を持っている。ナトリウム・イオン電池はリチウム・イオンの代わりにナトリウム・イオンが移動する。ナトリウムは塩の成分であるため、資源としては無限にあり、価格としてもkg当たり900円程度で格段のコスト低化を図れ、毒性もない。

 しかし、ナトリウムには幾つかの問題点がある。その1つはリチウム・イオンよりもナトリウム・イオンの方が大きいので電極で吸着・放出しにくい。大量のナトリウム・イオンを吸着・放出できる電極を開発する必要がある。ナトリウム・イオン電池は電圧が低く、エネルギー密度が低いため、性能が悪い。これらの課題を解決するには電極材料にマンガンを加える、硫化銅を使う、有機性陽極を使う、陰極炭素構造の改良、固体電解質の使用と言った様々な開発が試みられており、10年もしない近い将来に実用化されるかもしれない。