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2018.11.01

 

塩から微量ミネラルを有用に摂取できると本気で

信じている愚かな科学者達 6

 

先月までは学者個人の著書を取り上げた。今月は“おもしろサイエンスシリーズ”の中で食品保存と生活研究会[編著]著作の「塩と砂糖と食品保存の科学」(2014年出版;日刊工業新聞社)の中から塩についてのフェイクな記載を紹介し、コメントする。

 

フェイクな記述:「天然塩」には、ミネラルやマグネシウムなど、人体が欲している物質が多数含まれており、その摂取は体に有益です。天然塩は「天日塩」「平釜塩」「岩塩」―などに分類されます。「天日塩」は、塩田で海水を蒸発させて作った塩です。中略。先進国ではそのまま食用にすることはなく、溶解して、せんごう(真空蒸発缶で再結晶)し、精製塩とするか、洗浄して食用として用いられます。塩には微生物の増殖を抑えたり殺す効果がありますが、天日塩の場合、海水をそのまま使うことから、菌を含む微生物も多く含まれます。中略。塩を好む好塩菌数は1グラムに多いケースで100万個もいるとされます。また、泥などの混入も多く、使い勝手のいいものとはいえないとされます。77ページに記載

コメント:「天然塩」には、ミネラルやマグネシウムなど、人体が欲している物質が多数含まれており、その摂取は体に有益です、との記載はフェイクである。その理由は、ナトリウムは有益であるが、著者が意図しているマグネシウムなどに含まれる多くのミネラルは体に有益なほど含まれておらず、塩からの摂取は到底期待できるほどの量ではないからだ。

「平釜塩」を天然塩としているのは間違い。「平釜塩」は海水または天日塩を溶かして作ったかん水を平釜で燃料を使って煮詰めて作った物だからだ。

 「天日塩」は先進国ではそのまま食用にすることはなく、溶かして煮詰め直すか、洗浄して食用として用いられる。この前半の記述はフェイクである。フランスのブルターニュ半島で生産され輸入されているゲランドの天日塩は「塩の花」と呼ばれるフルール・ド・セルは水面上に析出してきた塩を掻き集めた物なので色も白いが、ニガリを排出した塩田から掻き集めた天日塩には、塩田の泥が入るので灰色がかっている。そのような塩でもあらゆる料理に適している表記されている。両方とも洗浄や殺菌はされていない。

フェイクな記述:「再生塩」は、海外から輸入した天然塩を洗った後に、ニガリなどを添加したものです。「再製加工塩」とも言われ、「天日塩」を水に溶かした後、「ニガリ」を混合し、「釜焚結晶」させてつくります。中略。一方、「精製塩」は、「イオン交換樹脂膜製塩法」により精製されて99%以上が塩化ナトリウムになってしまった塩のことです。天然塩を原料にしていますが、化学的製法により、天然塩とは異なるものといえます。一般に「食卓塩」または「食塩」として売られている塩です。80 – 82ページに記載

コメント:塩を水に溶かして煮詰めて再結晶させて作った塩は再製塩と言われるが、ここでは溶かした時にニガリを混ぜるので再製塩といっている。溶かした時にニガリを混ぜているのはある製品だけで、一般的にはニガリを混ぜることはない。ニガリを混ぜればコストアップになるからだ。天然塩を原料にしてイオン交換膜樹脂膜製塩法により化学的製法により精製塩を作っていると記しているが、イオン交換膜製塩法では海水を原料としており、化学的製法で作った物ではない。この方法で作って小売店で市販されている銘柄は「食塩」などである。輸入天日塩を溶かして化学反応により不純物のカルシウム、マグネシウムで出来るだけ除いて(この工程は海外でも標準的に行われている)煮詰めて作った塩は銘柄「精製塩」を含む食卓塩などである。「食塩」としては販売されていない。

フェイクな記述:海水を濃縮すると溶解度の小さい塩類から順に析出してきます。それと同時に、炭酸カルシウムや硫酸カルシウムも析出しますが、硫酸マグネシウムが析出すると塩の品質が落ちるため、硫酸カルシウム析出前に残された液をニガリとして排出して塩を収穫します。84 – 85ページに記載

コメント:「それと同時に、炭酸カルシウムや硫酸カルシウムも析出しますが、」と記載されていることは理解できない。「それと同時に」の「それ」とは何か分からない。「硫酸マグネシウムが析出すると塩の品質が落ちるため、硫酸カルシウム析出前に」と記載されているのは「硫酸マグネシウム析出前に」である。どうして炭酸カルシウムや硫酸カルシウムが析出して塩に混じっても製塩を止めないで、硫酸マグネシウムが析出する前に製塩を止めるのだろうか?その理由は炭酸カルシウムも硫酸カルシウムも水に溶けにくいので、塩の味は変わらないが、硫酸マグネシウムは水に溶けやすいので、塩に混入すると塩の味が変わるからである。この塩は品質が悪いとした。

フェイクな記述:溶解採鉱は、岩塩層に淡水を入れて岩塩を溶かして利用するもので、不純物が少なく欧米では食用として一般的に用いられている製法です。86ページに記載

コメント:溶解採鉱法で得られた濃い塩水のかん水には不純物が少なくとされているが、どれくらいなのであろうか?このようにして得られたかん水でも必ず化学反応でカルシウム、マグネシウムを除くために薬剤を投与し、精製されたかん水を煮詰めて塩を作る。このことについては前項でも述べた。

 なお、同ページの上欄に記載されている年産20万トン以上の規模で製塩する工場が6つありと記されているが、2011年の東北地方太平洋沖地震による津波で小名浜にあった工場が被害を受け、現在では5工場になっている。

フェイクな記述:イオン交換膜製塩法の説明図の中にある記述。「薄い塩水は海に戻す」、「濃い海水から塩をとる」、「電気」、「プラズマイオンを通す膜」、「塩素イオン」87ページに記載

コメント:「薄い塩水は海に戻す」は「薄い海水は海に戻す」とする。海水の濃度は脱塩されて3/4程度になっている。「濃い海水から塩をとる」は「濃い塩水から塩をとる」とする。海水の組成とは全く異なり、18 – 20%程度の塩水となっている。「電気」は「電極」とする。プラスイオンはマイナス電極「陰極」に、マイナスイオンはプラス電極「陽極」に向かって移動する。「プラズマイオンを通す膜」は「プラスイオンを通す膜」とする。「塩素イオン」は「塩化物イオン」とする。塩素イオンは昔の言い方で、現在では塩化物イオンと表現する。

 以上であるが、単なる誤植と思われる間違いもあるが、現象を良く理解してないで記載しているとも思える。単なる誤植では82ページに「特級塩」を「特急塩」としていた。校正が不十分な書籍、つまり欠陥書籍と言える。

フェイクな記述:「流下式塩田」は、中略。ポンプで海水を汲み上げ、コンクリートやビニールで防水された穏やかな斜面(蒸発層)に海水を流し、水分を蒸発させ、塩分濃度を高めた海水を、枝条架の上へと散布します。枝条架は竹や細いビニール管をまとめてホウキのような枝状にし、幾層にも集めて棚にまとめたもので、以下省略。93ページに記載

コメント:流下式塩田の流下盤は粘土で水漏れしないように作られており、コンクリートやビニールは使われていない。流下式塩田が廃止されてから観光用や製塩用に作られた物は粘土を求めるよりもコンクリートやビニールで簡便に作られているのかもしれない。枝条架は孟宗竹の枝を束ねて上の方から逆に吊るして、下になるほど吊るす角度を広げてかん水が直ぐに流れ落ちないように工夫されている。細いビニール管を使うことはなかった。

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 本書は末尾に参考資料として好塩性微生物と世界の塩産業の二項目について引用している。私のホームページである「橋本壽夫の塩の世界」を見て参考にしたと考えられる。他の事項についても、引用してはいないが私の書き方に非常に良く似ている部分がある。しかし、天然塩(自然塩)には多くのミネラルが含まれており有益であることについては全くのフェイクであることをホームページで何回も記事としているのであるが、それについては全く勉強していないか、皆で渡れば怖くない式の考え方からか、この記事の冒頭で述べているようにフェイクな記載をしている。全体的にこの書籍は単なる誤植や言葉の間違いが多い欠陥品と言える。砂糖については専門外であるが、塩と同様にフェイクな記載があるかもしれない。