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2018.09.01

 

塩から微量ミネラルを有用に摂取できると本気で

信じている愚かな科学者達 4

 

先月は石原結實氏の著書二点を取り上げた。氏は減塩する必要がないことを説く数少ない学者の一人であり、そのことは評価するが、海水から塩を作ればどのような品質の塩となり、それに含まれている微量ミネラルの有用性については学術的な評価をしないで印象を基に記載していることは残念である。この度は引き続き安保徹氏と細川順讃氏の著書を取り上げる。

 

安保徹 1947年生 新潟大学大学院歯学総合研究所名誉教授 免疫学の権威

著書「疲れない体をつくる免疫力」 2010年出版 知的生き方文庫 三笠書房

フェイクな記述:同じ塩と言われるものでも、粗塩や天然塩は、ミネラルも豊富に含むので、交感神経、副交感神経の両方を刺激します。疲れやすい人は、努めてこれらの塩を摂るといいでしょう。P.185ページに記載

コメント:粗塩や天然塩は、ミネラルも豊富に含むので、交感神経、副交感神経の両方を刺激しますとの記載について、前半のミネラル豊富はフェイクであることをこれまで述べてきた。後半のミネラルが交感神経や副交感神経の両方を刺激するかについては私には知識がない。基本的に塩と免疫については学術情報が少なく、インターネットによる検索でもほとんどヒットしない。免疫学の権威者として塩摂取量との関係を述べて頂きたいところである。

 安保氏は一般的に言われていることを真に受けて、調べて確認もしないでうかつに書いてしまったことであろう。残念なことである。塩に関してこのような行動を取る学者は多いと思われ、偉い学者が言うことであれば真実であろうと読者は誰でも信じてしまう。読者は騙されているとは思わないこと、著者は騙していると思わないことは忌々しきことだ。

 

細川順讃 1948年生 NPO法人生命科学共同研究センター理事長、総合医療コンサルタント 著書「からだに「いい塩・悪いしお」」 2016年出版 株式会社かんき出版

 

フェイクな記述:そもそも地球上に存在するすべての生命は海から生まれてきました。海には最初から塩が含まれており、その海水の中でできた細胞が進化して生命が誕生したわけで、その証が私たちの血液に痕跡として残っています。いわゆる、血液中の成分比率が海水と一緒なのです。そこで問題になるのが、塩の品質です。飲食店などで使用されている塩の多くは、精製塩です。いわゆる、塩化ナトリウム99%以上でそれ以外のミネラルはほとんど入っていない塩のことです。一方、日本で昔から自然塩と呼ばれている塩は海の塩“海塩”で、塩化ナトリウム以外にミネラルが70種類以上含まれています。精製した塩と比べると、味はまろやかで、料理を引き立ててくれます。では、塩の何がいけないのかといいますと、海塩を精製しミネラル分を取り除いて塩化ナトリウムだけにした塩が細胞を縮ませるのです。17 – 18ページに記載

コメント:ヒトの起源も海にあることは確かですが、それだからと言ってその証が、血液中の成分比率が海水と一緒というのは間違いである。図は海水、血清(血液から血小板などの凝固因子を除いたもの)、間質液(細胞を浸す液)の組成を示している。全体的に血清濃度は海水濃度の約1/3になっている。各成分の濃度を読み取って最大の濃度を示すNaClに対する各イオンの比率を計算して表に示した。著者は濃度については3倍ほど違って触れていないが、組成の比率は海水と血清(血液中の成分)で一緒であると述べている。陽イオンではK+Ca2+は桁数で同じといえるが、Mg2+については1桁違う。陰イオンではいずれのイオンも1桁違い、血清には有機酸、タンパク質が含まれて組成は大きく変わっている。組成が似ているとの表現であれば、似てないこともないとして逃れられるが、一緒と言われれば似て非なるものとなり、フェイクな表現となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海水と血清のミネラル組成と比率

 

 

海水濃度 mEq/L

Naに対する比率

血清濃度  mEq/L

Naに対する比率

陽イオン

Na+

440

-

140

K+

18

0.041

6

0.037

Ca2+

27

0.051

5

0.034

Mg2+

99

0.225

2

0.019

 

 

海水濃度 mEq/L

Clに対する比率

血清濃度  mEq/L

Clに対する比率

陰イオン

Cl-

512

-

111

HCO3-

9

0.018

29

0.261

HPO42-

2

0.004

2

0.018

SO42-

61

0.119

1

0.009

 

日本には昔から自然塩と呼ばれている塩はない。1972年から全面的にイオン交換膜法製塩法になってから、塩田製塩で作られた塩を勝手に自然塩と称していただけで、決して自然にできた塩ではなかった。また、昔の塩には塩化ナトリウム以外にミネラルが70種類以上含まれているとは著者の思い込みであって、塩事業センターが出版している市販食用塩データブックには、主成分6種、微量成分16種の合計22種の分析値が掲載されている。先月述べたミネラル世界一をギネスブックで認められた塩でも18種であった。これまたフェイクな記述である。

海塩を精製しミネラル分を取り除いて塩化ナトリウムだけにした塩が細胞を縮ませるとのことであるが、そのようなことは全くのフェイクで、塩が細胞を縮ませる作用を利用して漬物を製造する食品加工では、他の成分が含まれている塩化ナトリウムでも純粋な塩化ナトリウムでも問題なく使われる。主にコストの関係で原塩、粉砕塩が使われる。