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2018.05.01

高血圧管理における主要ミネラルの効果をレビュー

 

塩化ナトリウムを主成分とする塩には非常にわずかな量のカルシウム、マグネシウム、カリウムなどのミネラルが含まれている。人体に対する塩の品質を論ずる際にカルシウムなどのミネラルが多く含まれているとしていわゆる自然塩、天然塩を非常に良い物とする学者がしばしばいるどれくらい多くのミネラルが含まれているかは別に述べるとして、ここではそれらのミネラルが高血圧管理に有効であるかどうかについて、国際高血圧学会誌に「高血圧管理における栄養要因のレビュー」と題するレビュー論文(International Journal of Hypertension Vol.2013, Article ID 698940)に基づいて述べたい。

 

1.ナトリウム

 塩摂取量と血圧変化との関係は数十年間、議論の話題であった。高血圧は5.8 g/d以上の平均塩摂取量社会で広く観察され、2.9 g/d以下の摂取量社会では非常に稀である。しかし、塩と高血圧との関係はまだ論争中であるとしている。

 感受性対塩抵抗性の概念は塩摂取量の変化に対して多様な血圧応答を示した研究から始まった。これらの変化は高血圧者と正常血圧者の両方で観察された。今日まで、研究方法、技術、期間、塩摂取量の程度、血圧変化に関する発表された研究に非常に大きな変動があったために塩感受性の一貫した定義はない。しかし、一般的にワインバーガーによる方法が使用されている。2リットルの標準塩水を静脈内投与による塩負荷と、0.6 g/dの塩含有食と3錠のフロセミドの服用による塩欠乏に対する平均動脈血圧応答に基づいており、両者の血圧測定値を比較して、10 mmHg以上の平均動脈血圧の低下を塩感受性、5 mmHg以下の低下を塩抵抗性として任意に分類している。

塩感受性は幾つかの集団:高齢者、黒人、インスリン抵抗性、マイクロアルブミン尿、慢性腎臓疾患、低レニン量で高い発症率であることが分かってきた。塩感受性は血圧に関係なく、左心室肥大、心血管疾患、累積死亡率の増加した危険率とは関係のない要因であると報告されてきた。

幾つかの専門機関によって、高血圧やそれによる心血管疾患罹患率や死亡率の予防と治療のために生活様式の行動変化として減塩は強く主張されている。減塩の効果に関する多くの研究があるにもかかわらず、結果は矛盾しており、患者に減塩を勧め続けることに疑問が起きている。しかし、減塩が心血管疾患の危険率減少と同様に正常血圧者と高血圧者の血圧に中程度から大きな低下をもたらすこと幾つかの臨床研究からのエビデンスは示している。

32ヶ国から52センターの横断的な集団研究であるインターソルト・スタディ10,000人以上の参加者で塩摂取量と血圧との関係を調べた。塩摂取量は非常に低い摂取量(0.01 – 3.0 g/d)4センターを含めて非常に幅広く変動していた(0.01 – 14.2 g/d)。個人の塩摂取量と血圧との間にかなりポジティブな関係が総合的に報告されたが、最低の摂取量である4センターのデータを除くと、関係は無くなった。

高血圧予防食(DASH)は、果物、野菜、低脂肪乳製品が豊富で、飽和脂肪と総脂肪が少ない食事で、収縮期血圧と拡張期血圧の両方を低下させ、加齢に伴う血圧上昇を鈍化させることを示した。DASH食と減塩を組合せると効果は大きくなった。

高血圧予防試験(TOHP)で心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、冠状血管移植)と心血管疾患死亡は減塩でそれぞれ30%と20%の危険率低下を示したが、死亡率低下は統計的に有意ではなかった。対照的に、減塩について幾つかの研究は、心筋梗塞、全ての死因と心血管疾患死亡、交感神経ホルモン、空腹時の血漿中グルコースとインシュリン濃度、コレステロール、さらに高い鬱血性心不全による再入院と脳ナトリウム利尿ペプチド濃度を含む重要な臨床結果に及ぼす低塩摂取量の有害な効果を示している。高い死亡率と最終段階腎疾患の発症も糖尿病者の中で低塩摂取量と共に報告されてきた。

数年間に及ぶ大規模な集団研究と臨床研究にもかかわらず、全体として、減塩推進を支持するエビデンスは用心して解釈されるべきである。

減塩は“それだけですべて解決される”方法ではないとすれば、塩感受性高血圧者と塩抵抗性高血圧者で個人を区別することは有益である。しかし、その判定法は確立しておらず研究中である。一つの有力な方法は24時間血圧モニターを用い、塩摂取量の変化に対する血圧応答を比較観察することである。

利用できるエビデンスに基づいて現在、WHO5 g/d以下の塩摂取量に制限することを勧めており、一方、アメリカ高血圧協会は3.8 g/d以下の塩摂取量を勧告している。

 以上のように血圧管理における塩摂取量の影響を述べているが、一律の減塩政策に対する妥当性について盛んに論争が行われている。

2.カリウム

カリウムと血圧の関係は多くの研究で述べられてきた。カリウム摂取量は拡張期血圧と収縮期血圧の両方で逆相関にあることが分かった。幾つかの介入研究は血圧低下に及ぼすカリウム補給のポジティブな効果を示してきた。

血圧低下に及ぼすカリウム摂取量の利益は高血圧患者、長期間の補給、同時に高い塩摂取量の場合に大きくなるように思われる。

 第三回国民健康・栄養調査のデータに基づくアメリカ合衆国成人のナトリウムとカリウム摂取量との死亡率の解析は、比較的高いナトリウム摂取量は全ての死因による死亡率増加と関係しており、一方、比較的高いカリウム摂取量は比較的低い死亡率と関係しているように思えることを示した。注目すべきことに、この結果は性、年齢、高血圧、運動量、体格指数には無関係であった。

 利用できるデータに基づいて、全ての成人についての十分な摂取量として医学研究所は4700 mg/d のカリウム摂取量を勧めた。同量のカリウム摂取量が血圧低下の潜在的な利益を達成するために2006年にアメリカ心臓協会によっても示唆された。多くの国々の平均カリウム摂取量は推奨されている量よりも比較的少ない。カリウムの多い食品は野菜、果物、乳製品、ナッツなどである。カリウムの自然な給源が好ましい。

現在、薬物によるカリウム補給はアドバイスされている毎日のカリウム摂取量を得るための方法として勧められない。

 以上のように血圧管理におけるカリウム摂取量の影響を述べている。カリウムは血圧を低下させる効果は大きいが、摂取量は勧められている量よりも少ない。しかし、塩代替物として塩化カリウムが半分入った塩を使うことは勧められないとしている。

3.カルシウム

カルシウム摂取量と高血圧との関係は複雑で、食事中の他の栄養素との相互関係、カルシウム摂取量データの信頼性ある収集の難しさ、重要な限りない混乱変数からカルシウムの効果を大まかに分離することが難しい。

 血圧に及ぼす食事効果または補給カルシウムに関する多くの研究にもかかわらず、カルシウムの利益に関するエビデンスは確定的でなく論争が続いている。カルシウム摂取量と血圧との逆関係は多くの研究で報告されてきた。同様に、1000 mg/dのカリウム補給は血圧低下をもたらすことを示してきたが、結果は主に高血圧者で首尾一貫していなかった。対照的に、他の研究は血圧に及ぼす食事からのカルシウム摂取量または補給の効果はないか、ごくわずかな効果しかないことを報告している。

 2つのメタアナリシスはカルシウム補給と血圧との関係を調査した。著者らは収縮期血圧でわずかな低下(12 mmHg)を明らかにし、結果は拡張期血圧についてはもっと小さく、取るに足らないものであった。

コクランの総合レビューデータベースに発表した著者らによると、高血圧治療としてカルシウム補給を勧めるにはエビデンスが不十分であるとしている。現在、高血圧予防または治療でカルシウム補給の利益に関するエビデンスは弱い;したがって、年齢と性別に基づく1000 – 1300 mg/dと言う推奨摂取許容量以上のカルシウム摂取量を増加させる正当性はない。

以上のように血圧管理におけるカルシウム摂取量の影響を述べている。血圧に及ぼすカルシウム摂取量の効果を分離することは難しく、カルシウムが血圧を低下させる効果は取るに足らないとしている。

4.マグネシウム

29件の観察研究で行ったメタアナリシスはマグネシウム摂取量と血圧との間にネガティブな相関を指摘している。

 マグネシウム補給と血圧低下との間の因果関係に関するエビデンスは12件のランダム化された試験を含むメタアナリシスで弱かった。他の20件の研究によるメタアナリシスでは、投与量応答パターンは観察されたが、マグネシウム摂取量だけでは、収縮期血圧について平均‐0.6 mmHgと拡張期血圧で‐0.8 mmHgと血圧にわずかな低下を示した。

以上のように血圧管理におけるマグネシウム摂取量の影響を述べている。血圧を下げる効果はわずかであると述べている。

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この論文を総括すると、ナトリウムは塩の成分として血圧に大きな影響を及ぼすが、万人に一律ではなく、影響を受ける塩感受性の体質であるかどうかを簡易に判定できる技術が開発されると減塩政策は変わってくるだろう。塩に付随して摂取されるミネラルの中で、カリウムは血圧を下げる効果は大きく、カルシウムマグネシウムの効果は問題にならないほどである。自然塩、天然塩では一般的にカリウムは少なく、科学的エビデンスに基づくと血圧低下に良いとする学者の主張は全くのフェイクであることが分かる。