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2018.04.01

書籍「長生きできて、料理もおいしい!すごい塩」の

フェイクな記載 3

 

これまでに表記の書籍で白澤卓二氏は大きく間違った認識でフェイクな記載をしていることを指摘してきました。引き続き今月も記載されている章見出し、中見出し()、小見出し()で整理し、ページ番号とそこにどう書いてあるかを示し、それに対して意見を述べます。

 

第4章 精製塩は今すぐやめよう

  精製塩は、減塩したほうがよい112ページ

 「基本的には今より多くの塩を摂ることをおススメしているのですが、1つだけ例外があります。それ は「精製塩」以外の塩を選ぶこと。精製塩はできる限り口にしないでほしいのです。今現在、自宅で調 理塩として精製塩を使用しているのであれば、今すぐに使うのをやめましょう。

  精製塩とはそのほとんどがNaCl(塩化ナトリウム)で構成されている化学薬品に近い物質です。(中 略) 人が口にすべき品質ではありません。

  海の水を蒸発させて作る塩や、同じく自然に出来上がる岩塩には、私たちが必要とする多くのミネラ ルが含まれています。そのミネラルを精製して意図的に除外し、塩の味がする化学物質のようなものを 作り出してしまっているのです。

 (中略)精製塩は口にすればするほど、体を構成している栄養素のバランスを崩し、体調をわるくさせ ていくものです。反対に自然塩は、崩れたバランスを整えていく力を持っています。」

コメント:精製塩が体に悪く、自然塩が体に良いという記述には科学的根拠があるのでしょうか?1972年にイオン交換膜製塩法に全面転換したから半世紀近く経っています。その間に男性の平均寿命は11歳、女性では12歳延びました。これを塩との関係でどのように考えれば良いのでしょうか?考えようがないでしょう。しかし、前にも示した表1の塩成分の僅かな差とミネラル必要量から考えると常識的に自然塩、海塩、岩塩に効果があるとの説得性はないことが分かるでしょう。ここで取り上げている岩塩は食用として輸入されたものですが、一般的には工業用の原料や冬季の交通路を確保するための融氷雪用として使われています。その組成は表2に示すように産地によって大きく変わります。色も桃色、赤色、黒色と様々で、稀に白色や非常に透明度が高く純度も高いものがあります。

 

1 市販食用塩の成分 % 

銘 柄

NaCl

CaSO4

CaCl2

MgSO4

MgCl2

KCl

Na2SO4

備考

食塩

99.67

0.028

0.035

-

0.067

0.109

-

イオン交換膜式製塩

能登のはま塩

90.05

1.07

-

0.56

0.79

0.17

-

揚げ浜式塩田製塩

精製塩

99.70

0.003

-

0.0001

-

0.004

0.003

天日塩再製

伯方の塩

96.48

0.247

-

0.206

0.103

0.052

-

天日塩再製

あらしお

90.10

0.097

-

0.019

0.063

0.040

-

天日塩再製

ぬちマース

72.44

1.94

-

7.69

9.30

2.61

-

海水の噴霧乾燥

ROCK SALT

98.56

0.76

-

0.16

-

0.18

0.13

ドイツの岩塩

イタリアの自然塩 岩塩

99.68

0.10

-

-

-

0.004

0.001

イタリアの岩塩

マリーノ

98.91

0.55

-

0.012

0.053

0.027

-

イタリアの天日塩

ゲランドの塩

91.07

0.53

-

1.10

1.26

0.23

-

フランスの天日塩

()塩事業センターの市販食用塩データブックより 2004.3

注:能登のはま塩、伯方の塩、あらしお、ゲランドの塩の純度が低い理由は乾燥されていないので水分が多いためです。従って塩類比較では塩化ナトリウム以外の塩類については乾燥した状態に換算してあります。

2 岩塩の組成 % 

 

産  地

NaCl

CaSO4

CaCl2

CaCO3

MgSO4

MgCl2

不溶解分

水分

 

カンサス

アメリカ

96.15

3.252

0.018

 

 

0.342

0.238

0.043

 

ミシガン

アメリカ

98.05

0.634

0.053

 

 

0.052

(1.041)

0.163

 

ニューヨーク

アメリカ

98.25

0.473

0.022

 

 

0.006

(1.227)

0.023

 

オハイオ

アメリカ

98.10

0.639

0.011

 

 

0.027

(1.173)

0.053

 

ノバスコティア

カナダ

99.10

0.401

0.018

 

 

0.026

0.36

 

 

クロダワ

ポーランド

99.70

1.24

 

 

0.09

 

1.16

0.06

 

スラニク

ルーマニア

99.75

0.04

0.08

 

0.01

0.04

0.02

0.04

 

リム

イギリス

89.96

2.29

 

0.15

0.93

 

5.94

 

 

スタッスフルト

ドイツ

93.5

1.10

 

 

 

0.05

 

 

 

Lefond S. J. (1969). Handbook of World Salt Resources より抜粋

 

 

塩商品に下図の公正マークを表示するようになった背景は、公正取引委員会の指導で本書のようなフェイクに満ちた謳い文句を商品に書いて、消費者が優良商品と誤って認識することを防ぐことであったのです。

〇 「食卓塩」は塩ではない115ページ

 「家庭のテーブルや食堂の調味料置き場で、赤いキャップをつけた食卓塩と書かれた

商品パッケージを見たことがある人も多いのではないでしょうか。

  この精製塩は乾燥した状態で、塩化ナトリウム以外の成分は1%未満であることが決められているものです。この濃度であれば食品というよりは、薬品であると考えるべきでしょう。工業製品を作るために殺菌剤の一部などで使うには適しているかもしれませんが、日常的に口にするのには向かないと考えられます。」

コメント:食卓塩がイオン交換膜製塩法で製造された食塩(本書では精製塩と称している)と混同されているように思えます。食卓塩はメキシコやオーストラリアから輸入された天日塩を水に溶かしてカルシウム、マグネシウムなどの不純物を除いて精製されたかん水を真空蒸発缶で煮詰めて作られた製品です。これを純度が高いので食品ではなく、薬品と考えて口にすべきではないと考えているようです。つまり体内に入れてはいけないと言っているようです。それでは、もっと純度の高い塩を使って製造されるリンゲル液や生理食塩水は体内に入れてはいけないのでしょうか?いくら純度が高くても口に入れてよい塩には変わりなく、塩から塩化ナトリウム以外のミネラルが摂れないからと言って食べるに適当ではないと考えることは暴論です。海水成分そのままの塩からでも、白澤卓二氏が摂取できると思っているミネラルは人体の必要量を満たすには取るに足らない量にしかならないことは前に述べました。人体に必要なミネラル量は他の食品から摂取されています。

〇 この塩だけは摂りすぎるとよくない118ページ

 「本来の塩とは、ナトリウム成分だけで構成されているものではありません。自然塩は他のミネラル分が多いため、自分の感覚に合わせて口にすることで過剰摂取を避けることができます。

  疲れているときや汗をかいたときなど、体が塩を欲しがっているときには自然塩をおいしくいただけるのですが、塩分が体にとって十分な量に達すると、急に舌がにがりやその他マグネシウムなどの苦みを感じて、それ以上を求めなくなるのです。」

コメント:珍説が述べられています。塩以外のミネラルが塩の過剰摂取を抑えるという科学的根拠はどこにあるのでしょうか?体に塩が足りていると、料理が塩辛く感じて食が進みません。それでも滅多に食べられない材料が入った料理や美味しく味付けされている料理は水を飲みながらでも食べてしまいます。体内の塩分を腎臓から早く排泄しようとする生理反応として自然に起こる現象です。このように塩分が足りているときににがりやその他のマグネシウムなどの苦みを感じて料理を食べたくなくなると言った経験はしたことがありません。以下に述べるように、あまりにも少ない塩からのマグネシウム摂取量から考えて、それは当然のことなのです。

1日当たりマグネシウム必要摂取量は約350 mgです。海水組成で作った塩(2,3の商品はありますが、通常の塩ではありません)では10 g中に300 mg程度です。厚生労働省の調査による塩摂取量で10程度が家庭で使われる塩ですので、マグネシウムとしては30 mg程度になります。これを3回の食事回数で割ると1回当たり10 mgになります。通常使用されない塩でも最大これだけしか摂取できない量にしかならないのに、食事中に急に舌が苦みを感じて、それ以上の塩の摂取量を抑えるように働くと考えられますか?

 

これまで3回にわたって本書のフェイクな記載についてコメントしてきました。基本的に科学的根拠に基づいて記載した内容ではなく、イメージを膨らませ思い込みで書かれたとしか考えられません。科学者として恥ずべきことで、書くべき内容の書籍ではありません。取り上げた部分だけではなく、まだまだコメントしたい記載部分は沢山ありますが、主要なところだけに留めました。