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2017.02.01

 

塩の味利きは可能か

今でこそ食用塩公正取引協議会会員の塩生産者は商品に自然塩、天然塩、ミネラルリッチ、美味しいといった表現を書けない。消費者が商品を優良品と誤認することを防ぐためだ。しかし、マスメディアなどの出版物には大手を振って書かれている。美味しいと思って出版物に書かれている商品を購入する読者もいるであろう。

塩には塩化ナトリウム以外のミネラルが多少とも入ることは避けられない。それらは夾雑物である。塩の夾雑物には塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化カリウムなどがある。これらの化合物の味の検出閾値(化合物の味が認識される濃度)から考えて、それらの化合物が入っている塩を美味しいと認識できるかどうかを考えてみよう。

塩の夾雑物の濃度を表1に示す。複数の試料数の中にそれぞれの化合物が含まれている

表1市販食塩の品質 
塩     種 生 産 国 試料数 塩 類 結 合 計 算 結 果  (%)
NaCl CaSO4 CaCl2 MgCl2 MgSO4 KCl Na2SO4
イオン交換膜かん水せんごう 日本 15 85.37-99.60 0.01-0.19 - or 0.03-0.52 0.06-1.85 - or 0.82 0.08-5.34 -
海水蒸発かん水濃縮 日本 33 71.94-97.21 0.10-3.92 - - or 0.41-8.64 0.36-7.10 0.10-2.41 - or 0.40
輸入天日塩加工 日本 33 88.89-99.62 0.00-0.78 - or 0.00-1.71 0.01-1.97 - or 0.00-1.14 0.00-0.22 -
岩塩 イタリア 3 99.68-99.92 0.00-0.14 - or 0.00 - or 0.00 - or 0.02 0.00-0.01 - or 0.00
ドイツ 2 98.56-98.57 0.72-0.76 - - 0.08-0.16 0.09-0.18 0.05-0.13
天日塩 イタリア 7 93.07-99.87 0.07-1.25 - 0.00-0.49 0.00-0.58 0.01-0.28 -
フランス 13 84.43-99.37 0.08-0.97 - or 0.00 0.07-1.62 - or 0.01-1.76 0.02-0.33 -
中国 6 93.09-95.57 0.16-0.63 - 0.16-0.79 0.11-0.57 0.04-0.21 -
新野靖ら、日本調理科学会誌、36巻、305ページ、2003年より抜粋・改変

濃度を幅で示してある。一番多い夾雑物はにがりの主要成分である塩化マグネシウムで、一番高い濃度は海水蒸発かん水濃縮の8.64%である。これは特殊な製法で作られており、国内では3社がこのような製品を製造しているが、例外的な商品である。海水をそのまま蒸発させており、海水中に含まれている塩類がそのまま塩製品中に残っていると考えて良い。そのような製品の塩化ナトリウム(NaCl)は少なく、硫酸カルシウム(CaSO4)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、塩化カリウム(KCl)は多い。

 ここで塩の味利きができるかどうかを考察する対象は塩の溶液とする。塩味が一番美味しいと感じる塩の濃度は0.8%と言われている。この濃度は血液中の濃度にほぼ等しい。分かり易いように一番夾雑物の多い塩商品で0.8%濃度の塩水を作った時のそれぞれの夾雑物濃度を考えてみると表2のようになる。ここでイオン交換膜製塩法による塩では塩化カルシウムがあり、塩化カリウムの濃度は高くなる。また硫酸カルシウムは水に溶けにくいので考察から外した。なお、塩の中の夾雑物濃度は一つの塩商品の中の全ての夾雑物濃度ではない。

表2 0.8%塩分濃度時の夾雑物濃度
特殊製法塩中の夾雑物濃度% 通常の塩中の夾雑物濃度% 0.8%塩分濃度時の夾雑物濃度%
特殊製法塩の場合 通常の塩の場合
塩化マグネシウム 8.64 3.82 0.069 0.031
塩化カルシウム 0.52 * 0.0042
塩化カリウム 1.9 5.34* 0.015 0.043
硫酸マグネシウム 7.10 4.06 0.057 0.032
* イオン交換膜製塩法の塩

 ところで化合物の味の閾値は表3に示すようになっている。つまり、それぞれの化合物

表3 化合物の味の閾値
化合物 濃度 % 濃度幅を倍数で表示 備  考
塩化マグネシウム 0.0286 - 0.381 13.3
塩化カルシウム 0.0222 - 0.333 15.0
塩化カリウム 0.0075 - 0.522 69.7
硫酸マグネシウム 0.0554 鰹節新聞2013.9.1
食品加工技術ハンドブック、(株)建帛社

の味がそれぞれ化合物の独特の味であると認識される濃度を示している。この濃度は一桁から二桁違うほどの幅がある。分かり易いように高い濃度が低い濃度の何倍になっているかも示した。なぜそれほど幅広い差があるのか不明であるが、個人差によると考えると納得できそうである。どんな化合物であるか分からないが、何か入っていると認識する検出閾値は塩の場合では一桁小さな値となっている。

 表3の閾値で表2が示す0.8%塩分濃度時の夾雑物濃度の化合物の味が認識できるかどうかを考えてみると、塩化マグネシウムについてはいずれの製法の塩でも閾値の範囲内で低い濃度近くにあるので、認識できる場合もありそうである。塩化カルシウムについては閾値よりも低い濃度であるので認識できない。塩化カリウムについては塩化マグネシウムと同じ傾向であるので認識できる場合もありそう。硫酸マグネシウムについては特殊製法塩の場合には認識できそうであるし、通常の塩の場合には認識できない。

以上の考察では幅広い閾値の薄い方の濃度で考えると、総じて化合物の味を認識できそうな感じがする。しかし、通常の塩の場合で取り上げた夾雑物の濃度は、塩化マグネシウムで1/2、塩化カリウムで1/5、硫酸マグネシウムで1/2以下であるので、そうなるといずれの化合物も認識できないと言える。

ただ、一つの塩商品に複数の化合物が入っているので、相乗効果として味にどのように影響してくるかは明らかでない。化合物は認識できないが何かしら夾雑物が入っていて違う味を検出できると言う点では十分に可能性はあると思われる。これをまろやかな味の塩、美味しい塩と表現することはあり得ることであるが、味覚閾値には10倍以上の差があることを考えると、万人が美味しいと思える表現をすることには疑問がある。

公正マークが表示されている塩では美味しいといった表示ができないことは前述したことから科学的に裏付けられたといえよう。