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喉の渇きの制御

Regulation of Thirst

By Thornton, Simon N.

Nutrition Today 2013.07/08

 

要約

 身体の全てのシステムの正しい生理学的機能は水とナトリウムの不断の供給を要求し、そしてこれは心血管系に特に当てはまる。体液の生理学的制御は喉の渇きとナトリウム欲求のメカニズムによって起こり、体内でそれらを保持するためのホルモンの放出と同様に水とナトリウムの摂食行動を開始することによって設定された限界値内に血漿量と浸透圧を維持する。この制御には2つの主要な区画がある:細胞内と細胞外(血液)である。血液の高い浸透圧は細胞から血液中に水を引き出し、それによって飲水と抗利尿ホルモン(ADHまたはバゾプレッシン)の放出を刺激する特別な脳の浸透圧受容体を脱水する。腎臓の特別な受容体を媒介して抗利尿ホルモンは尿量を減らすことによって水分損失量を減らす。細胞外脱水(低容量)は飲水とADHホルモン放出を起こすために脳センターを刺激する特別な受容体を刺激する。腎臓の圧受容体/容量受容体は酵素レニンを放出し、レニンはよく知られているカスケードを通して飲水とADHも刺激するアンジオテンシンⅡの産生を導く。アンジオテンシンⅡと低下した血液量は尿中ナトリウムの腎臓損失を減らすアルドステロンの放出も刺激する。水と塩摂取量は浸透圧と必要な水準への量に復帰させ、これにより心血管系が全ての細胞や身体の器官に対して一定の灌流圧を維持することを確保する。飲水しないまたは十分に飲水しなければ、その時、ADH、アンジオテンシンⅡ、アルドステロンが放出され続ける。心血管疾患の治療はレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系を弱めるように設計した薬物を使う。水分補給またはより明確な血液量減少はこの深刻な健康問題の病因の大部分を占めていることをその系は示唆している。

 

 本論文で展開される論題は、体液量制御のよく知られた生理学的機構にもかかわらず、肥満、糖尿病、ガン、アルツハイマー疾患、そしてもちろん心血管疾患のような多くの人の健康問題は、レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系を封鎖する治療を含んでいる。これは、軽症であるが慢性的な血液量減少(またはアンジオテンシンの産生を刺激する水分補給)はこれらの重大な疾患の開始、進展、そして/または維持で主要な共通経路である。

 水を飲むことは人類を含めて全ての動物のために地球上の継続的な生命を保証する基本的な行動である。摂取された水は心血管系の制御に対して全ての細胞と血液の成分に関係し、身体の全ての細胞に心血管系を通して栄養分配を援助し、体温制御に役立ち、全ての化学反応の基礎を提供し、関節をなめらかにし、口、鼻、目のような大気に曝されている組織を潤す。体内の水は2つの主要な液で満たされた区画に分配される。すなわち、大体2/3の細胞内液と残りが細胞外液となる。この後者の区画は本質的に腸管液と血液またはむしろ血漿(赤血球細胞を除いた血液)となる。人については、分娩後の生命は約75%の水分からなる赤ん坊としてスタートし、このパーセントは低下する傾向にあり、青年期、成人期を経て老年へと継続的で慢性的な軽い脱水があることを示している。

 ナトリウムは細胞外液の主要な陽イオンであり、一方、カリウムは細胞内区分でこの位置を維持している。両区分のイオンや他の分子の含有量によって引き起こされる濃度勾配によって、体中をほぼ同じ濃度に維持するために低い濃度の領域から高い濃度の領域へ浸透と呼ばれる工程によって両区分間で水の移動を促進させる。血漿の浸透圧、または血液の生理学的溶質濃度は285 – 295 mOsm/kg水の間で設定されている。これは水1リットルに9 gのナトリウム溶液にほぼ等しい。さらに、細胞外液ナトリウム濃度の測定は、濃度勾配に関する限り体内で起こっていることの合理的で正確な絵を提示できる。

 飲水と共に体液量の制御に関係している別の重要な行動は排尿することである。血液中の過剰な水分や物質を除去するために全ての動物は器官によって必要とされない何かがある。ほとんどの動物について、動物がいるところに排尿する傾向があるので、排尿は問題とはならない。他方、人については、排尿のためにトイレを使用するので、排尿は特に難しくなり、人のトイレ利用の可能性は必ずしも保証されていない。トイレが使用できないことは、排尿の必要性を避けるために人々にあまり水を飲まないようにさせるので、人の飲料行動に影響を及ぼす。

 しかし、飲水だけが水を摂る方法ではない。我々が食べる食品からも水は摂れる。全てこれらの食品の代謝から少量の水と共に、特に多くの果物や野菜には水がある。他方、必須の水損失は呼吸、皮膚からの発汗、そして便を通しても生ずる。呼吸による損失は重要で、例えば、運動量の増加、夜間睡眠中の口からの呼気からで、水の分圧が低い高度での呼吸でも同様に水は肺から急速に失われる。

 そのような水分の重要な必要性と共に、上手く制御された生理学的機構によって水の出入りが管理されていることを知ることは驚くことではない。1979年の生理学協会モノグラフで、ジェームス・フィッツサイモンズはこれらの機構を述べ、“渇き”の生理学的制御を細胞内(または浸透圧)と細胞外(または容量)起源の二つに分けた。

 

細胞内または浸透圧による渇き

 細胞外液中のナトリウム濃度増加(例えば、緩やかな水和または塩摂取量の増加)は濃度勾配を下げるように細胞から水を引き出す。脳視床下部にある特別な細胞の浸透圧受容体はそれらの細胞内水分の低下によって刺激され、それらの活性化は渇きの機構、すなわち飲水と下垂体から抗利尿ホルモン(ADHまたはバゾプレッシン)の血中放出を起動する。ADHの放出と渇き刺激についての限界は血漿浸透圧の2%増加である。抗利尿ホルモンは2種類の分化した7件の膜内外の領域受容体に作用する;腎臓でV2受容体の活性化はアクアポリン2の挿入を刺激し、尿中の水分損失量を減らす集水管の壁にある水チャネルを特殊化する(水分子は濃度勾配を下げるように腎臓の髄質に移動する、このようにして抗利尿を作り出す)。この時飲んだ水は急速に吸収されて血液に供給され、このことは濃度勾配を減少させる傾向となり、これにより両区分の正常濃度と量を回復する方向へ働く。浸透圧の低下は浸透圧受容体の活性化を低下させ、そのことはADHの濃度を下げ、体細胞の機能を正常化し、再び腎臓に尿を生産させる。しかし、直ぐに飲水しなければ、または十分に飲まなければ、その時には血漿浸透圧は上昇し続け、もっともっとADHは放出され、一層少なくて濃い濃度の尿を生産する。これは通常、正常よりも濃い色の尿であまり頻繁にトイレに行かないことで感じ取れる。さらに、血液中のADHは血管系にあるV1受容体も刺激し、血液周囲の血管壁を引き締める目的で軽い血管収縮を起こす(これゆえ名前をバゾプレッシンという)

 

細胞外または容量による渇き

 特に細胞外区分からの水分または容量の損失も生ずる(極端な事例は出血と嘔吐)。この血液量の低下は心血管系の様々な部分の特別な細胞によって感じ取れる。その系はADHを放出させ、飲水を刺激するために脳に信号を送る。腎臓にある特別な容量/圧力感受性細胞は低容量に応答して酵素レニンを血液中に放出する。これがアンジオテンシンⅡと呼ばれる他のホルモン濃度を増加させる連鎖反応をスタートさせる;レニンはアンジオテンシノーゲンに作用し、肝臓を含め様々な器官から連続的に生産し、デカペプチッドのアンジオテンシンⅠを生産する。肺にあるアンジオテンシン転換酵素はこれをオクタペプチッドのアンジオテンシンⅡに変える、それは幾つかの重要な作用を持っている:それは血管に作用する;すなわち、血管の太さを低下させ;ADH放出を刺激し、飲水行動を刺激する;そして副腎からさらに他のホルモンのアルドステロン放出を刺激する。アルドステロンの主な作用の一つはナトリウム-カリウムATP依存のポンプの数を増加させることにより、尿中に排泄されるナトリウム量を低下させることである、そのポンプは腎臓糸球体の遠位部と集水管の頂上で血液中にナトリウムの再吸収を増加させる。容量受容体とアンジオテンシンⅡの一致した行動は、水分とナトリウムが維持されて、血液量が健康に危険な量まで下がらないようにすることを試み確保することである。飲水が始まると、血液量は急速に正常値に回復され、ホルモン濃度も同様に低下し、体細胞を正常に機能させ、腎臓に正常に尿を生産させる。しかし、飲水しなければ、あるいは十分に飲まなければ、前述したように、もっともっとADH、アンジオテンシンⅡ、アルドステロンが放出され、したがって、尿の産生をもっともっと減らす。もう一度、これは通常よりも濃い色の尿であまり頻繁にトイレに行かないことでたいてい実感できる。動物研究で、アンジオテンシンⅡとアルドステロンはナトリウム欲求を起こすように脳内で相互依存的に作用する。これは生理学的意味を持っており、血液量減少信号は容量損失を修復するために水分とナトリウムの両方を必要とするように働く。さらに、アンジオテンシンⅡは血管に作用し、高血圧に導く動脈硬化の発症に重要な役割を演ずるかもしれない。

 

機能異常と結論

 通常の状況下では渇きは細胞内液と細胞外液の両区画の脱水となっており、始めに尿中の水分損失量を減らすことにより体の全ての水和の必要量をカバーすべきであり、その後、血液の浸透圧と容量をそれぞれの正常値に復帰させるために液体(とナトリウム)摂取を刺激する。浸透圧と容量が一度復帰すると、その後、ホルモンの血中濃度はこの水中ミネラル・バランスに関係している、すなわち、ADH、アンジオテンシンⅡ、そしてアルドステロンも同様にそれぞれの正常な低い濃度に戻るべきである。しかし、アンジオテンシンⅡ(ACE阻害)を阻止し、そして/またはアンジオテンシンⅡタイプ1-特別な受容体を阻害する薬剤は高血圧や心不全に加えて心血管疾患治療の80%以上を占めていることを述べることは重要である。レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系はこの特別な健康問題で活性化され、この系の活性化についての主な生理学的信号はわずかな脱水、あるいはより重要なことに低容量である。したがって、これは、低容量が心血管疾患の引き金、進展、そして/または持続の重要な部分を演ずることを示唆している。これはまた、ある人々は喉の渇き刺激に適正に応答できなく、したがって、十分な量の水を飲めなくて慢性的であるが軽い脱水状態が残ることを示唆している。

 フランス人口と彼等の飲水量の最近の研究で、1日当たりの平均全飲水量は1 – 1.3 L/dであることが観察され、その飲水量は1日当たり1.5 リットルというフランス計画国民栄養サンテによって勧められている量よりもわずかに少ない。他の研究はヨーロッパやアメリカ合衆国の子供達で脱水の兆候である高い尿浸透圧を示した。そのことは学校に着いたときの子供達は学校に行く前に水を飲まない何らかの理由があることを示唆している。子供達は学校に居る間に水を飲まないか、授業中にトイレに行くことを制限されている可能性がある。この軽い脱水の理由は多いかもしれないが、“水の利益を知らない、または水を飲むことを忘れたか、あるいは水の味を好まないか、渇きを感じなかったり利用できなかったり、そして最終的に頻繁に関連する職場の混乱を避ける必要性などの理由がありそうだ。”喉の渇きの信号に応答して認識管理の形態が人ではあるように思え、正しく喉の渇きを長い間受け取れないことにつながる生理的に動機付けられた信号を多分、無効するらしく、ある人々については生涯にわたる長い期間軽い脱水症の状態を引き起こす。トイレ利用の認識調査は、生理学的な渇きの信号があるにもかかわらず、何時、何処で飲むかについての決定でも役割を果たしている。

 長期的な軽い脱水(毎日、十分な水を飲まない)があるために、特別な健康問題は科学的に示されてこなかったが、アンジオテンシンⅡ(ACE阻害剤)を阻害し、そして/またはアンジオテンシン・タイプ1の特別な受容体を阻止する薬物は、前述したように、肥満、糖尿病、ガン、そしてアルツハイマー疾患のような他の近代的な健康問題を治療するように、心血管疾患を治療するために使われる。長期間の軽い細胞外液の脱水とレニンを血液中に放出するようなこれらの近代的な健康問題との強い関係があり、したがって、アンジオテンシンⅡの産生は血液量減少に対する生理学的応答であることを示唆している。

 結論として、血液量減少に応答して放出されるホルモン、特にアンジオテンシンⅡの血中濃度を下げるために毎日の飲水量を増加させることによって、良い健康状態に維持することは可能であろう。