戻る

塩の科学を理解する

Making Sense of the Science of Sodium

By Heaney Robert

Nutrition Today 2015.04

 

要約

 エビデンスによる栄養摂取量勧告値に準拠した医学研究所の委員会付託にもかかわらず、その後の2013年医学研究所レビューが認めたように塩の2004/2005年参考摂取量はエビデンスによって支持されなかった。本レビューで、生理学に基づいて栄養摂取要求量を設定するアプローチを私は示唆する。簡単に言えば、与えられた栄養素要求量は実際の器官による最低限の適応または補償を要求する摂取量であると一番言われている。塩については、そのような摂取量は一般的に7.6 – 12.7 g/dであることをエビデンスは示している。

 

食事参考摂取量:その背景

 1990年代の始めに、将来、栄養摂取量勧告値(すなわち、食事参考摂取量)は“エビデンスに基づく”ものになるという趣意で医学研究所の食品栄養委員会によって設定された。摂取量勧告値の前の版はエビデンスに基づいていなかったというどのような意味も確かに正しくなかった。今後、異なる点はどのようにしてエビデンスを集め評価するかであった。このプロセスは明らかに公開されているので、勧告値についての根拠は明白であることが期待され、その後の改訂は前に利用したエビデンスが支持していることを基に進められた。このプロセスの目的は実際的であるように見えるが、理想的にでさえも、過去20年間以上にわたるプロセスの実行はしばしば矛盾しており、内部的にも矛盾していた。そして矛盾を除くよりもむしろ、プロセスと結果は両方とも多くの事例で激しく議論された。幾つかの論争の因果関係はアメリカ人社会の慢性疾患患者であり、彼等の食事は食事参考摂取量にしたがって変更され、幾つかの栄養素(塩のような)については食品産業界が変更した。

 

塩関心事

 前に徹底的にレビューされたように、アメリカ合衆国とイギリスの全人口は多分10年または2年早く、少なくとも1980年代まで溯って、減塩を目的とした着実な計画に従わされてきた。この政策運動の正当性は、血圧は特に“塩感受性”であると思われる人々で、ある程度塩摂取量に依存していると言う事実であった。高血圧は心血管疾患(CVD)と心血管死亡の危険因子であり、上昇した血圧を下げることはその危険率を下げると長く認識されてきた。これらの一般的な関係は広く受け入れられており、疑問を持たれていない。しかし、高血圧患者から得られたこれらの結果は、非高血圧者の減塩は彼等の血圧を同様に下げ、それによって心疾患の危険率を下げると結論を出すために外挿された。この仮定には2つの構成要素がある:(1) 実際に正常血圧者の減塩は意義さるほどに血圧を下げ、そして(2) 正常血圧者の減塩は悪い健康結果を下げる。両方とも誤りである。ランダム化比較試験約170件の最近のコクラン解析で、グラウダルらは正常血圧者の減塩からの血圧効果示した研究を一件も見出せなかったことを思い出すことは重要である。ヨーロッパや北アメリカで広く行われている摂取量(8.8 g/d)以下の摂取量まで健常な成人の塩摂取量を減らすことによって生じる健康利益についての研究は全くない。したがって、2004/2005年食事参考摂取量に表されている仮説はエビデンスによって決して支持されてこなかった。それにもかかわらず、利益の仮説は数多くの他の権威ある機関の塩摂取勧告値に表現され続けている。この欠陥を反映してJAMAの編集者ドラモンド・レニーは雑誌サイエンスのインタビューで引用された。そこで言っていることは、“…‘減塩’メッセージを推し進めている当局は科学的事実を越えた道を進める塩教育に傾倒してきた。”

 利用できる限られたエビデンスから何らかの結論を引き出す問題-とこれを強調しすぎることはできない-は、関係する研究が既に代謝的異常(例えば、高血圧)の人やしばしば同様に平均塩摂取量以上の人で行われてきたことであった。

 そのレビューとごく最近のエビデンス(2012年まで)の評価で、医学研究所は2013年に改訂された解析を発表した。今更ながら述べていることは、5.8 g/d以下に減塩する利益のエビデンスは全くなかった、と言うことであった。それにもかかわらず、医学研究所からの2004/2005年食事参考摂取量は今日の連邦塩政策の根拠として採用し続けてきた。

 簡単に述べると、血圧低下は高塩摂取量の高血圧者で健康結果について合理的な代替指標であるが、平均塩摂取量以下の正常血圧者の健康結果を簡単には追跡できない。結局、2004/2005年の医学研究所対策委員会は悪い健康結果の危険率を評価しなかったことを述べることは重要である。評価したとしても、非高血圧者で低塩摂取量の結果として生じたことで、2012/2013年医学研究所委員が招集されたこの怠慢を修正するための一部であった。

 

塩政策の変遷

 レビューすると“AI(十分な摂取量)と名付けられている2004/2005年塩摂取量勧告値は50歳までの成人には3.8 g/d50 – 70歳の成人については3.3 g/d70歳以上の成人については3 g/dと設定された。前に指定されたように、AIは健常な集団で明らかにされた摂取量として特に定義された。しかし、2004/2005年医学研究所目標値に近い塩摂取量の所は先進工業諸国では何処にもない。驚いたことに、保健福祉省大臣へ医学研究所の特別委員会の2013年報告書を伝えた手紙で、医学研究所所長のハーベイ・ファインベルグは次のように述べた、“…塩摂取量と健康結果とを関係付けるエビデンスは疾患管理予防センター(CDC)による現在の努力と現在の8.6 g/dと言う成人の平均摂取量以下にアメリカ人口の塩摂取量を下げようとする他の権威ある団体によって支持されている。”その声明を支持する実際の報告書には本質的に何もない。確かに既に述べたように、現在の平均摂取量(8.8 g/d)から5.8 g/dに、もちろん3.8 g/dに塩摂取量を下げた結果として改善した健康結果を示すランダム化比較試験はなかった。

 エビデンスに基づく医療(EBM)手法が救いとしてここに現われた。意図した減塩に起因する利益について信頼できるエビデンスがない中で、EBMの使用でそのような減塩は正当化されないと言う結論に論理的に達した。ファインベルグの確信にもかかわらず、医学研究所の2013年報告書で要約されたエビデンスは成人の平均摂取量以下にアメリカ人口の塩摂取量を減らす現在の努力を支持していない。しかし、減塩を支持するエビデンスが報告書内にないことは、減塩しても利益を生じないことを意味していると主張されるかもしれない。したがって、確かなエビデンスがないので、この時、害に対抗するエビデンスが現在の集団平均摂取量以下への減塩と関係しているかどうかを我々は問わなければならない。

 そのことが判明したとして、幾つかの最近の集団に基づく研究は、CVDと死亡率の両方の危険率は塩摂取量と関係したU字型(またはJ字型)曲線に従っていると説得力を持って示されてきた。つまり摂取量が7.6 g/d以下と17.8 g/d以上になると両方とも死亡率とCVDの危険率が上昇する。この性質で塩は正に最高の栄養素のように作用している。関心を持たれている報告書は全人口と同様に糖尿病患者とCVD患者を取り扱ってきた。全てこれらの研究で7.1 – 15.2 g/dの範囲の塩摂取量で危険率は最低であった。ストラッツ-スクリツペックらによる報告書はこれらの結果と一致している。彼等は15年間以上追跡した2件の大規模で展望的なヨーロッパ研究をプールした。最高の三分位数から最低の三分位数まで塩摂取量が低下するに連れて心血管死亡率で約4倍増加し、同じ摂取量低下でCVD罹患は約2倍になったことを彼等は明らかにした。これらの研究の長い観察期間は実質的に逆の因果関係(すなわち、低塩摂取量グループは既にCVDのためであったような可能性がある)を排除している。結局、高血圧患者の大きなコホ-ト(N=398,419)でさえも、“正常値”(130 – 139 mmHg)以下の血圧低下は死亡率と末期腎臓疾患の両方の危険率を将来的に増加させる結果になった。

 これらの論文は比較的新しく、2004/2005年ガイドラインを作成した委員には接触できなかったので、彼等の結果は実質的に先例のないことであった。例えば、Work-Site Hypertension Study1995年出版でアルダーマンらは、最高の三分位数から最低の三分位数まで塩摂取量低下につれてCVD罹患と心筋梗塞の両方ともほぼ2倍になったことを報告した。この研究とプールされたヨーロッパ人研究で、最高の塩摂取量は実際には特に高くなかった。Work-Site Hypertension Studyで四分位数の境界は約10.2 g/dで始まり、そしてヨーロッパ人研究では、三分位数は集団に基づく研究の最低危険率の範囲内に十分に入る11.2 g/dで始まった。

 実際の器官が最小限適用する、または補償することを要求する摂取量範疇に基づくと、7.6 – 12.7 g/dの摂取量が最適であるように思える。

 これらの研究は全人口の一般的な摂取量よりも低い塩摂取量で悪い結果の危険率上昇に主として焦点を置いた。実質的に高い摂取量と関係した危険率は減らされない、または忘れられない。それにもかかわらず、現在の状況では、現在の人口の平均値よりも低い摂取量に重きを置いている。ここで引用された全ての研究からのエビデンスは、正常な体重の成人で7.1 g/d以下の摂取量で最もらしい危険率増加があることを示している。さらに、鬱血性心不全疾患の減塩は実質的に結果を悪くすることも今や明らかになっている。余談として、減塩が病人にとって良いことでなければ、どうして減塩が満足な状態として良いと考えるのか、尋ねなければならない。したがって、この多様なエビデンスを考察すると、そして最新の医学研究所報告書が示しているように、人口の摂取勧告値を現在の摂取量以下に、そして確実に5.8 g/d以下に下げることは利用できるエビデンスによって防げない。

 

危険性のメカニズム

 低塩摂取量で心血管疾患危険性の観察された増加についての理由は見分けにくい。事実、基礎的な生理の考察は関連した身体管理システムに関係した現象から建設的に焦点を移す。“正常”または“理想”の摂取量を確立するために使われる範疇にも注意を向ける。他の所で私が指摘したように、そして他の人々も示唆してきたように、多分“正常”摂取量(少なくとも適用されるところ)の決定について最高の範疇は実際の無傷の器官によって最少の日々補償または適合-普通の摂取量でホメオスタシスに正確に必要とされる適合を要求する摂取量である。塩摂取量の究極的な生理上の目的は正確に血圧を維持することであることを忘れないことが重要である。塩を悪者にすることはエビデンスによって支持されないだけでなく、ほ乳類の体内で塩の最も基本的な機能を無視しているという生理学に反することでもある。

 体内の十分な総塩分量(と細胞外液ナトリウム濃度)は主要な血液量と腎臓灌流の維持に必要である。この理由のため、これらの変数は身体のホメオスタシス機構によって強く守られている。低塩摂取量側では、これらの防御機構には塩飢餓、尿中と汗中のナトリウム損失の低下が含まれる。これに伴ってこれらの効果はナトリウム摂取量を増加させ、損失量を減らすように機能し、レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系(RAAS)によって調整される。そのことは平均体重の成人で塩摂取量が7.6 g/d以下になると作動し始める。高塩摂取量側では、舌にある塩受容器はポジティブなからネガティブに“反転する”;すなわち、他の4原味センサーには全く応答しないで、それによって塩辛い食品の摂取量を減らすと言う嫌な感覚を塩受容器は生じさせる。

 摂取量や身体からの損失量は幅広く変動し、調整はこれらの不安の原因を相殺しなければならないので、ホメオスタシスによる補償の重要性または必要性については意見の不一致はない。しかし、主要な血液量を維持するRAASは連続的に展開されたとき、体内の幾つかのシステムに負担をかける。この負担は心筋梗塞や心臓死の危険率増加になると示されてきた。事実上、RAASは“救援”メカニズムで、重篤な脅威に応答し、したがって、生存に必要である。そのような補償を恒常的に引き起こさない摂取量は器官のためにより健全であるだけでなく、事実、勧められる摂取量であると合理的に主張するかもしれない。最近発表されたU字型危険曲線は大体7.6 – 15.2 g/dの範囲の摂取量を明らかにした。事実、そのようなU字型曲線は全ての栄養素について医学研究所が使った標準モデルである。ある意味で、両極端の摂取量に潜在的な害があると言う点で、塩は他の栄ほとんどの養素と同じであると述べると安心である。

 減塩に対する補償応答の役割の実例として、30年以上前のマッカロンらの観察を思い出すかもしれない。それが示したことは、国民健康・栄養試験調査(NHANES)の塩摂取量は血圧と逆相関で、従来の知識が主張しているように直接的ではない。この結果は全く“正しく”なかったとして広く無視され、あるいは批判されてきた。しかし、事実、そのような関係は細胞外液ホメオスタシスの現れとして正に期待していることである。本質的に全ての栄養素と同じように塩要求量は個々人によって著しく変動する。高塩摂取量の人々は味覚のためではなく主要な体液の維持のために無意識に選ぶ。そして低塩摂取量の人々は、再び味覚のためではなく体の知識の現れとして低塩分の食事を選ぶ。低血圧者でNHANESにおける高塩摂取量の結果はホメオスタシスが働いている現れとしてそれほど逆説的ではない。

 結論として、“正常な”栄養量へのアプローチは補償のための必要量を最少にすることに基づいていることは注目に値する。そのことを私はここで発表し、事実上、審美的な範疇を構成し、生理学の方法を通して分析できるが、エビデンスに基づく医療の方法によってテストすることの可能性は容易ではない。しかし、したがって、前述したように、エビデンスに基づく医療の方法は最近の塩摂取量勧告値を最初に設定する時に実際には使われなかった。