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塩摂取量:科学と政策が分かれるところ

Dietary Sodium: Where Science and Policy Diverge

By Michael H. Alderman

American Journal of Hypertension 2014;29:424-427

 

(訳者注:原文ではナトリウムで書かれている数値は塩として換算した数値とした。本論文の結論としては、政策はエビデンスに基づいて立てられておらず、エビデンスに基づけば、現在の塩摂取量が適正である。個別の疾患で危険性のある患者は医者の診察を受けながら適正な摂取量を決める。)

 

 2013年に医学研究所委員会は利用できるエビデンスをレビューした後、従来信じられていたことから大きく異なっていた結論に到達した。“過剰な”塩摂取量による害はあるけれども、塩摂取量は特別に定義されないままであった、と彼等は報告した。さらに、“全人口またはほとんどの集団サブグループで、集団の努力で5.8 g/d以下の塩摂取量を達成させる前の勧告を支持する(または異議を唱える)にはエビデンスは不十分であった。”と彼等は結論を下した。血圧は心血管疾患発症について強く関係していることを認めているが、それにもかかわらず、塩摂取量の保健効果は-血圧のような中間の変数を通してではなく、塩摂取量と実際の健康結果を直接的に結び付けたエビデンスの調査を通して決定されるべきである、と医学研究所は結論を下した。

 医学研究所の報告書以来、塩摂取量と保健結果を結び付けたいくつかの追加的な発表がその結論を確認し、明らかにし、広げてきた。観察研究は関係を確定できるが、因果関係を確立できないし、治療的な介入の根拠には一般的にならない。本レビューの目的は、医学研究所と同様に既に利用できるエビデンスに関連してこれらの最近の報告書を批判的に調査し、エビデンスと一致した政策案を示唆することである。

 

医学研究所の研究以後

グラウダルのメタアナリシス

 275,000人の参加者による27件の観察研究のメタアナリシスは全ての死因と心血管疾患死亡とを塩摂取量と関係させた。6.7 g/d以下と12.6 g/d以上の塩摂取量の人々はそれぞれ6.7 – 12.6 g/dの塩摂取量の人々よりも全ての死因と心血管疾患死亡で有意に大きかった。さらに、中間または通常の塩摂取量範囲内の低い、または高い塩摂取量サブグループ間で結果に差はなかった。この解析は塩摂取量の最適範囲を特に明らかにすることによって医学研究所報告書の範囲を拡大させた。その上、塩摂取量6.7 g/d以下の全ての死因または心血管疾患死亡は、一次解析と複数の補足解析の中間範囲内の死亡を大きくはるかに超えていた。この中間範囲は世界中の通常の塩摂取量と同一範囲であった。結局、塩摂取量は健康結果との関係で“J”または“U”字型と良く合っており、全ての他の栄養素と一致しており、栄養素の保健効果を調査するための標準推奨量と関係していることをこれらの結果は示している。

 

都市と農村の前向き疫学(PURE)研究

 100,000人以上の参加者による前向き観察研究であるPUREは塩摂取量と収縮期血圧との非直線関係を検出した。塩摂取量2.54 g毎の増加は2.11 mmHg高い収縮期血圧と関係していたが、勾配は7.6 g/d以下(0.74 mmHg)よりも12.7 g/d以上(2.58 mmHg)の塩摂取量で急であった。効果の大きさは正常血圧者や若い被験者よりも高血圧者や老人で大きかった。

 PURE論文第二報告は、塩摂取量が全ての死因および心血管疾患死亡と“JまたはU”字型関係を持っていることを明らかにした。1日当たり10.2 – 15.2 gの塩排泄量と比較すると、17.8 g/d以上の推定塩排泄量は全ての死因増加、心血管疾患による死亡、脳卒中による死亡または入院と関係していた。

 17.8 g/d以上の塩摂取量で心血管疾患死亡の増加は高血圧者に限られたが、血圧は7.6 g/d以下の塩摂取量で心血管疾患死亡と関係してなかった。

 特に7.6 g/d以下の塩摂取量の人々で心血管疾患死亡の最高の相対危険率は低い心血管疾患危険率の人々であることが分かった。前の心血管疾患、ガン、糖尿病、または現在の喫煙者、最初の2年間の追跡で罹患した人々も同じく参加者として除外することは物質的にこれらの結果を変えないで、逆の因果関係が結果を説明できると言う可能性を弱める。これらの結果はグラウダルのメタアナリシスと同様に多の3件の個別研究と一致している。

 

NUTRICODE

  NUTRICODEは概念的、数学的に前のモデルと同様で、同様の結果を得た:1991年のイギリスの解析は年間75,000人の死亡を予防でき、2010年には92,000人までアメリカ人死亡を予防できると予測した。より野心的なモザファリアン・モデルが別々のデータ・セットの解析を併合させることによって作成された。通常集団の塩摂取量は世界にまたがる3セットの横断研究に基づいていた。平均塩摂取量は9.1 g/dであった。塩摂取量と血圧との関係は2件のコクラン報告書に含まれるランダム化された試験の再解析に基づいた。結局、66ヶ国からの研究の2件のメタアナリシスは血圧と死亡率との関係を明らかにした。その後、モデルの各成分は連続的に併合させて、5.1 g/d以下への一律の減塩は年間165万人の心血管疾患による死亡を減らす、と結論を下した。5.1 g/d以下に減塩すれば、死亡率または罹患率は減るだろうと言う臨床エビデンスはない。

 この解析の妥当性は塩摂取量と血圧、血圧と心血管疾患、塩摂取量と心血管疾患の関係が全て直線的であると仮定している。最近のエビデンスはこれらの仮定を無効にしてきた。塩摂取量と血圧との関係は7.6 g/d以下の時よりも12.7 g/d以上の時でより強く、血圧は130/80以上の血圧値で心血管疾患危険率と関係しているが、低い塩摂取量では関係なく、塩摂取量と心血管疾患との関係は“J”字型である。さらに、6.4 g/d以下の塩摂取量に関係している逆の生理効果がある。最終的に多くの観察研究で、心血管疾患と血圧に及ぼす塩摂取量の影響はなくなった。実際には、他の栄養素(例えば、カリウム)との相互作用と同様に複数の中間の影響は塩摂取量の健康結果を決めている。2013年の医学研究所委員会は塩摂取量と健康との関係調査に有用なこの種の解析を考慮しなかった。

高血圧予防追跡試験

 高血圧予防試験(TOHP)は肥満者と前高血圧者で通常の塩摂取量と減塩を比較したランダム化された臨床試験であった。通常の塩摂取量と結果との関係を調査するために、元のTOHP試験参加者の最近の観察追跡試験は元々ランダム化されたコントロール・グループだけを含んでいた。罹患率と死亡率結果は2000 – 2005年間(研究終了後1015)について解析された。十分に調整されたモデルで9.1から12.2 g/d以下の塩摂取量の人々と比較して、5.8 g/d以下の塩摂取量の人々についての危険率は複数の変数を調整後で32%低かった。塩摂取量が連続していると考えると、危険率は直線的に増加し塩摂取量2.5 g/d増加当たり17%の危険率増加となった。失望したことに、著者らはコントロール・グループのサブグループについての結果を発表しながら、彼等は全体のコントロール・グループについての最終結果として死亡率との意志志向解析の結果を明らかにできなかった。この不偏の情報はこれらのサブグループ解析を適当な状況に置いてきた。

 TOHPの前の追跡解析で、解析処理でコントロールと比較して減塩介入の人々で20%低い死亡率を明らかにした。25人の死亡は心血管疾患によるもので、介入グループで10人、比較グループで15人であった。

 研究終了後に行われたこの後のサブグループの解析は、重要な結果をもたらしたとしても、弱いエビデンスでせいぜい仮説を立てる程度に限られた。

 TOHP(9.2 g/d)PURE(12.5 g/d)の塩摂取量は両方とも通常の範囲内(6.4 – 15.2 g/d)である。したがって、塩摂取量の推定法が一回の24時間尿、スポット尿、食事思出法であるかどうかに関わらず、塩摂取量は世界的な平均値の周りで変動している。塩摂取量5.8 g/d以上の人々の90%と3.8 g/d以下はわずかに1.4%と言うTOHPの結果は一般的な集団によるほとんど他の研究と一致している。

今、エビデンスが立脚しているところ

医学仮説についての科学的結論は全ての根拠の確実なエビデンスを考慮に入れなければならない。理想的には、仮説は実験的にテストされる。しかし、塩摂取量の場合はそれが出来ない。その代わり、独特な食文化パターンのあるところを含めて時間、場所、遺伝グループを変えて引き出された多くの観察研究がある。

 本質的に実験調査よりも弱い観察研究は慎重に正しく見られる。首尾一貫性、方法論的厳密性、生物学的原理は科学的に信頼性のある仮説の基本的な要素である。これはエビデンスが集まるにつれて仮説の反復評価を含む進化工程である。

 この事例と同じように確固としていても、観察研究にはなお限界がある。残っている混乱要因は決して完全には取り除かれない。しかし、最も重要な懸念は対処される。これらには暴露や結果の評価の信頼性と逆因果律の可能性が含まれる。

 個人の通常の塩摂取量を決定することは挑戦的であるが、集団の塩摂取量の推定は時間や場所を超えて著しく一定である。過去50年間にわたって世界中の様々な環境で、様々な方法を使った何百件もの研究は平均約9.1 g/dの塩摂取量であることを明らかにした。さらに、世界人口の90%は6.4 15.2 g/dを摂取している。これは塩欲求の神経制御を反映しているかもしれない。全ての死因または心血管疾患による死亡率は多くの観察研究で結果についての黄金基準であった。さらに、逆因果律の問題はPURE, TOHP、これまでの研究の多くで可能性を最小にした複数の解析を通して取り扱われてきた。

 最後に、6.4 15.2 g/dを摂取している人々と比較して%。5.8 g/d以下を摂取している人々に生ずる利益を検出した研究はない。この中間範囲、その外側、心血管疾患や全ての死因増加の危険率は生理学的異常が始まるところでもある。6.4 g/d以下の塩摂取量で、血漿レニン活性は増加し、死亡率は増加する。一方、15.2 g/d以上で血圧は他の生理学的な影響で上昇し、血漿レニン活性は抑えられ、死亡率は上昇する。この臨床的、生理学的異常の合流は“U”字型仮説についての強力な支持を提供する。

 塩摂取量と保健結果の直接的な直線関係があると言う信念は、血圧と塩摂取量や心血管疾患は直接的で直線的であると言う仮説と減塩の保健効果だけから生まれてきた。ほとんどは非常に高い塩摂取量の人々による観察研究は、塩摂取量の増加が心血管疾患を増加させることを確認しているように思えた。しかし、様々な塩摂取量分布を持ったその後の研究はより低い摂取量で逆関係を明らかにした。さらにほとんどの最近の研究は、他の全ての栄養素のように塩摂取量は保健結果に対して“U”字型関係を示すと言うさらに複雑な仮説を支持している。

政策説明

 医学研究所報告書以後に発表された研究はその一般的な結論を確認している。今や、追加的なエビデンスはより正確に“過剰”を定義できるようにした。さらに、5.8 g/d以下の塩摂取量では有害であるかもしれないと言う関心は最適塩摂取量(6.4 15.2 g/d)を定義した。明らかに将来の研究が“U”字型をさらに説明し、集団のサブグループについて、様々な環境で適正な修正を明らかにするだろう。

 TOHPを潜在的な例外として、アメリカ心臓協会と疾患予防管理センターは致命的な方法論の欠陥を持っているとして観察研究を避けている。これを書いている時点で、これらの尊敬すべき機関は5.8 g/d以下、あるいは人口の半数については3.8 g/d以下の目標値を支持している。多分、彼等はその説明には不安である。つまり目標値の安全性や有益性の直接的なエビデンスがない中で3億人近いアメリカ人の塩摂取量を変えるからである。

 しかし、観察研究は危険性を確立できるが、介入についての信頼できるガイドラインを提供できないことを認識することが必要である。脂肪摂取量を減らす、または閉経後のホルモン置換治療についての勧告はそのような推論で得た結果の有害性の唯一の事例である。

 

エビデンスによって支持される事実

(1)  塩摂取量についての勧告はなく、同時に観察研究の結果を拒否する。

(2)  全人口についての塩摂取量を変える勧告はなく、同時に6.4 15.2 g/dと言う通常の摂取量以上と以下で潜在的な危険性はない。

(3)  通常範囲以上と以下の塩摂取量を変更すると言う安全性と有益性を確定するための臨床試験を勧める。

(4)  心血管疾患の危険に直面している患者を診ている医者は塩摂取量を確定して適切なケアーを施すことを勧める。

これらの政策オプションの実際的な結果はほんのわずかに違う。塩摂取量が通常の範囲外にある人々は塩摂取量を確定するために個人的な医学的な注意を要し、適正なケアーを得る。これは心血管疾患について既知の危険性に直面している人々についての問題であるべきである。アメリカ人の大多数は自分達の塩摂取量が健康に有害でないことを知って慰められる。