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塩の常識を揺るがす

塩摂取量と高血圧について科学が本当に語っていること

Shaking up the Conventional Wisdom on Salt

What Science Really Says about Sodium and Hypertension

By Michelle Minton

January 2017

Competitive Enterprise Instituite(CEI)の出版物

CEI1984年に設立された自由意志論者の非営利頭脳集団

 

( 訳者注:翻訳に当たって、分かり易いようにナトリウムを塩と意訳した。例えば、ナトリウム摂取量を塩摂取量とした。それに伴ってナトリウムの数値を2.54倍して塩の数値とした。2016年までに発表された196件の学術文献に基づいて書かれており、全ての人々を対象にした減塩政策は間違いで、血圧を下げるためには果物、野菜、低脂肪乳製品を多く摂取するDASH[高血圧予防]食を勧めた方が良いとしている。)

 

概要

 塩を多く食べていると先々高血圧になると言う概念は、筆者を含めてほとんどの人々が過去30年間信じてきた医療信条として受け入れられてきた。しかし、近年、かつて受け入れられていた真実に挑戦する研究が現れてきた。“塩は血圧に本当に悪いか?”と見出しは尋ね、“塩に関する戦争を終える時”と宣言することは、塩と健康に及ぼす塩の効果についての事実はかつて信じられていたほど明快ではないかもしれないと言う疑いを社会の中で広げてきた。

 世界中で成人人口の約40%に慢性的に血圧上昇に影響を及ぼしている。アメリカ合衆国では、成人3人に1人が高血圧とされており、高血圧は心臓発作、心不全、脳卒中を含めた多くの深刻な疾患についての大きな危険となっている。

 治療費を考えると、人を苦しめ、保健ケア・システムに費用が掛かることの両方で、政府当局は最優先事項で高血圧発症率を減らすようにしてきた。高血圧発症率を上手く減らす公衆保健戦略は数百万人の生命を救う可能性を持っており、数百万ドルを節約する。他方、間違った戦略は高血圧を減らせないし、悪くすれば害を増やし、危険率減少のより有効な手段を曖昧にし、当局の社会信用性を減らす。

 これらの理由のために、全集団に向けた勧告は後退させ、厳しい基準を守らせるべきである。最低限、次のような各勧告にすべき:

  見通しを制限し、確実で高品質なエビデンスに基づく;

  意図しない結果を熟考し徹底的に考える;

  より効果的で害が少ない代替案

 科学文献のレビューに基づいて、ほぼ40年間の政府努力の結果は減塩と本論文で発表した高血圧減らす他のもっと効果的な手段の存在に焦点を置いてきたが、現在の政府の塩摂取量に関する勧告値はこの基準に合っていない。

 本研究の主な結果は次の通り:

  我々の身体は体液のホメオスタシスを制御するためにある程度のナトリウム摂取量をヒトは必要とする。ナトリウムが少な過ぎると体の機能を停止する結果となり、一方、多過ぎると緊張と死亡の原因となる。しかし、科学界はナトリウム摂取量の最適範囲についてまだ合意に達していない。

  部分的には少なくとも、人が欲求する(“塩欲求”)塩の量はどれくらいかを決定する要因は生物学的に決定され、自覚しない習慣で人の食行動に影響を及ぼし、そのことは塩摂取量を下げる公共政策努力 (そのことは望ましくない生理反応を促進させ、行動変化を起こすかもしれない)に抵抗させることになる。

  現在、米国保健福祉省サービス、米国農務省、疾患管理予防センターのような政府の保健当局は1日当たり5.8 g/d以下の塩摂取量を成人に勧めている。この制限値は科学的協議の課程を経て決められたものではなく、政治家、官僚、産業界によって促された政府決定であった。

  ほとんどの人集団は米国政府勧告値よりももっと多くのナトリウム量を比較的同じレベルで摂取している。一方、わずかな集団(いくつかは隔離された種族やサハラ砂漠以南の人々)5.8 g/d以下の塩摂取量である。

  アメリカ人は1950年代にそのような調査が始まって以来、塩摂取量をそれほど増加させて来なかった。これは加工食品の摂取量増加、加工食品中の塩含有量増加、カロリー摂取量と平均体重の両方のかなりの増加にもかかわらずである。

  減塩はある人々については血圧を下げられるが、応答はある極端な消費量でのみ見られ、不均一である。減塩である者は血圧を低下させ、ある者は変わらず、ある者は血圧を上昇させる。

  科学的エビデンスは高血圧でない人々について中程度の減塩の健康利益に関して一致していない。

  人々は高血圧の結果としては死なないが、むしろ健康効果とは関係しており、必ずしも上昇した血圧によって引き起こされない。当然の結果として、血圧低下は必ずしも健康結果を改善しない。

  勧告値よりも低い塩摂取量の食事はネガティブな健康結果と関係しているが、この関係は因果関係は明らかでない。

  減量やカリウム摂取量の増加のような他の食事要因は血圧低下に減塩と同様に効果があると言う科学文献内ではほとんど普遍的な同意がある。そのような代替戦略も集団の大部分に利益があり、遵守の可能性が高く、意図しない結果となることは少ないと思われる。

世界中で、集団の塩摂取量を勧告値以下に下げようとの政府の試みは40年間の努力に

もかかわらず失敗した。この失敗と集団に関する減塩の生物学的効果について我々が現在知っていることと知らないことを考えると、高血圧発症率を下げようと努力している政府の保健当局は塩に関する近視眼的で結局無駄な戦争を止めるべきである。

 高血圧発症は個人的で、多要因で、単一の遺伝子要因または生活様式因子によって影響されない;減塩はある人々には勧められるが、他の人々について効果がないか逆効果となる。危険率低下の最も有効な方法は患者と患者の健康相談員による個別の根拠に基づいてのみ可能である。しかし、政府が国民の高血圧率を下げようと試みれば、減量に誘導し、果物・野菜の摂取量を増加させる食事でカリウムを増加させる努力に再集中すべきである。塩中心の方法と比較して、この戦略はしっかりした科学的根拠を持っており、意図しない害を引き起こすことはなさそうで、血圧低下に加えた健康利益もあるかもしれない。

 

はじめに

“金を求めない人はいるが、塩を必要としないで生きて行ける人はいない。”

-カッシオドルス

 健康を主張する人は正に高血圧を心配する。非常に多くの人々に影響を及ぼす重要な状態である。世界的に人口の約40%は高血圧で、脳卒中や心臓発作の危険率を上昇させる。50歳以上に多い。いくつかの国々では、老人の半数は高血圧である。高血圧を減らすための公衆保健計画は世界中で数えきれないほどの命を救う可能性を持っており、国家保健ケア・システムの財政的な圧力を軽減させる。この目標を達成させるために、政策立案者は実際に正味のポジティブな結果を生じさせ、無効または有害であることが分かっている結果を避ける戦略を明らかにし、実行する必要がある。

 これは簡単な仕事ではない。遺伝的性質や生活様式要因に無数の差がある人類の異質性は画一的な利益勧告することを難しく複雑にしている。したがって、全国民に対して行う勧告は領域を制限すべきで、最も健全で確実な科学的エビデンスにしっかりと基づくべきである。他方、論理的飛躍や根拠のない理論に基づく保健主導は保健当局や当局の将来の勧告の信頼性を失い、国民の健康を害する。

 例えば、コレステロールの摂取は血清コレステロールを上昇させ、それが心疾患の危険率を増加させるため、ごく最近の昨年まで一般的に受け入れられていた医学知識であった。今日、ほとんどの人々にとって、それは間違っていると次第に考えられるようになり、コレステロール摂取量はごく最近の政府食事勧告から外された。ほとんどの人々にとって食事中のコレステロールは血清コレステロール濃度に何の影響も及ぼさず、いくつかの栄養学的な利益と心臓を守る利益を告げることを示すエビデンスが多くあることからこのことが起こった。かつて医学的なドグマであった脂肪摂取量といくつかの疾患危険率との関係は最近、逆転した。“脂肪の少ない食事”をすることは心血管疾患や肥満の危険率を下げるための安全な勧告と考えられてきたが、最近の研究の多くはいろいろな種類の脂肪と関係した危険性と有益性に多様性を示している。例えば、牛乳の脂肪を調べた最近の研究は全脂肪乳製品と糖尿病、肥満、心血管疾患危険率との間に逆の関係、またはほとんど関係がないことを明らかにした。

 1950年代始めに、保健組合は食事中の動物性脂肪の量を減らすように人々に勧め始めた。そのメッセージはアメリカの食品医薬品局の1980年食事ガイドラインで成文化され、それはアメリカ人に次のようにアドバイスした:

  コレステロールと飽和脂肪酸の摂取量を下げる;

  “卵や内臓”のような食品をほどほどに食べる;

  バター、クリーム、マーガリン、ショートニング、ココナッツ・オイルのような脂肪の多い食品を制限する;そして

  “肉から余分な脂肪を取り除く。”

これはマーガリンやショートニングのような代替物の促進を進めている反脂肪運動を

刺激激している。飽和脂肪酸の低いこれらの製品は人工トランス脂肪酸を含んでおり、過剰な摂取量は現在では心血管疾患危険率増加と関係している。研究社会外の何人かのオブザーバーは、1980年代に加速したと思われるアメリカにおける肥満の流行は脂肪を減らしもっと炭水化物を食べるようにアメリカ人に促した食事ガイドラインに起因している、と主張してきた。しかし、この主張を支持するエビデンスは弱い。肥満は長年の過剰なエネルギー摂取量によって起こり、アメリカ人が脂肪摂取量を減らさなかったからである。事実、我々は1970年代から2000年代まで、全ての多量栄養素:脂肪、タンパク質、炭水化物の摂取量を増加させた。脂肪摂取量だけが総カロリーのパーセントを減らした、その意味は、炭水化物摂取量が脂肪やタンパク質摂取量の増加よりも増加したからである。バターやラードのような動物性脂肪の使用は1980年代後に低下し、ショートニングや種子油のような添加された脂肪は増加した。これらの傾向はガイドライン発表前に既に行われていた。脂肪とコレステロールに関する食事ガイドライン勧告値が我々をより健康にするか、しないかは明らかではないが、勧告値に関する最近の逆転は公衆保健当局による勧告値に対する疑いを増加させた。

 公衆保健勧告値を保証するエビデンスは、健康結果と相関関係があると仮定されている指標だけでなく、一般的に健康な個人について介入した時の本当の世界健康結果を調査している大規模なランダム化比較試験に基づいて確実で矛盾がなく好ましいものであるべきである。様々な習慣を持った人々を時間かけて健康結果を追跡するコホート研究からのような弱いエビデンスは、タバコの喫煙と肺がんとの関係ように、矛盾のない強い関係があれば、行動を保証できる。現在、政府が勧める5.8 g/dの最高塩摂取量以下に減塩した時の実際の健康結果(心臓発作、脳卒中、心血管疾患)を見てきたのは1件のランダム化比較試験だけではない。血圧と塩摂取量との関係を示す研究は数百件もあるのに、人々は高血圧で死ぬのではなく、むしろ脳卒中や心臓発作のような状態に関連した合併症で死ぬ。本論文で考察するように、塩摂取量と健康結果との関係を示そうと試みるコホート研究からの結果は矛盾していなかった。

 食事中の塩含有量増加は高血圧に導き、高血圧はネガティブな健康結果と関係しているので、平均的なアメリカ人の食事の中の塩を下げることは脳卒中、心臓発作、心血管疾患の発症率を減らすと言う仮定に基づいて、平均的なアメリカ人の塩摂取量を1/3に減らすように要請する現在の減塩基準を決めている。この方法はエビデンスで支持されているか?本論文はその疑問に取り組むことに努める。

 正しくなければ、現在の減塩推進はせいぜい高血圧を減らすことに失敗するだろう。最悪でも、本当に減塩は効果的な方法に置き換えられるかもしれないが、一方で、人々を潜在的に不健康な食事に押し付け、誰かにとっては健康に悪い可能性を増加させる。これらの仮定と減塩基準の妥当性を調査するために、本論文は次のことを調査する:

  生物学的にヒトにおいて塩が果たす役割;

  塩で誘引される高血圧発症;

  減塩の保健効果に関する最近の研究;そして

  高血圧を減らすための可能性のある代替公衆保健政策

 コレステロール摂取制限のように減塩はアルドステロン人々にとっては適正かもしれないしれないが、科学的エビデンスは全員の減塩勧告を支持していない、と結論を下している。

 

ヒト生物学におけるナトリウム

 時代や文化を通して塩は神からの贈り物として長く尊ばれてきた。塩はヒトの生存に必要であることを考えると、これは驚くことではない。塩、より正確には塩化ナトリウムについての我々の必要性は、生命が地球の原始海洋で生まれた事実に由来する。海に住んでいる細胞が乾燥した陸地に移動するために、細胞が進化して来た塩水条件と同じ液体によって取り巻かれる必要があった。

 人体は60%の水で出来ていることを我々のほとんどは子供の時、学校で教えられた。しかし、水ではなく、我々の体重のほぼ25%は塩水である。塩は2つの電解質、ナトリウム(陽イオン)と塩化物(陰イオン)を含んでおり、それらは体内を通して電荷を通過させ、あらゆることの機能を維持するに必要な信号を送っている。

同様に重要なこととして、電解質間の複雑な相互作用は液体の適正なバランスを維持する。体内にはいくつかの明確な液体区画があり、それらは自分の特別な電解質組成を持っている。プラスに荷電しているナトリウムとマイナスに荷電している塩素は血漿、髄液、リンパ液と言った細胞外液にある一価の電解質である。細胞内液として知られている細胞内部の液で主要な電解質はカリウムで、それもプラスに帯電している。塩化ナトリウムのように水は極性分子であり、プラスとマイナスに帯電した両方の末端を持っている。この複雑な極性は、水と塩がお互いに引き付け合っており、一方、両方ともプラスに帯電しているナトリウムとカリウムはお互いに反発している。電解質と水との相互作用で細胞内外の液体の適正なバランスを維持し、体内の血圧を上下させる。

低血圧に対する体の応答“血圧”と言う言葉は血管壁に及ぼす血液の力を述べている。血管には動脈、静脈、毛細血管がある。圧力は2つの因子:血液量と血液が流れる血管の太さの関数である。例えば、血液損失で血液量が減ると、血圧は低下する。血管太さが増加すると、血圧は低下する。代わりになるべきものとして、血液量を増加させまたは血管の太さを減少させれば(例えば、動脈内にコレステロールが溜まれば)、血圧が上昇する。

我々のほとんどは高血圧によって生ずる危険性を知っているが、我々の種の存在の大部分について低血圧は大きな脅威であった。血液から余分な物を尿中に取り除く腎臓を通して十分な血圧上昇がなければ、我々の体は生き続けるために十分に綺麗な血液を器官に供給できない。したがって、体が血圧低下を感じると、レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系(RAAS)として集合的に知られている効果の連鎖反応の引金が引かれ、血圧を十分な高さまで引き上げる。極めて簡潔に、RAASの機能は体にナトリウムと水を溜めることを促進させ、血管を収縮させる。水はナトリウムに引き寄せられ、それで水を保持するために、体は水と一緒に尿中にナトリウムを排泄する代わりにナトリウムを保持することも必要である。細胞中に水を保持することは血液量を増加させる。同時に、RAASは強制的に血管を収縮させ、血液が流れる空間を狭くさせる。ホースで水を撒くとき、ホース出口を指でつまむと、量や面積が変わり血流の圧力を増加させる。

血圧を上昇させるに加えて、RAASに含まれる主要ホルモンの一つであるアンジオテンシンⅡも出てきて、喉の渇きを感じさせ、体を維持するためにもっと水を飲むようにさせる。RAASホルモンは塩欲求も刺激させるかもしれず、あるいは少なくとも塩辛い食品を美味しい物として受け入れさせる。これらの行動で現れる兆候は体にもっと水を摂り、水を保持するためにもっとナトリウムを摂るために我々の飲食行動を調整する。それと共に、これは血圧を上昇させ、腎臓で十分な供給血液量をろ過させる。

 

原文ではレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系(RAAS)の解説文があるが省略

 

塩摂取量で誘引される高血圧を起こさせる理論を構築することが体液と血圧調整におけるナトリウムの役割である。血圧を上昇させる生理学的機構がナトリウムの吸収と排出に基本的に関係しており、多くの高血圧者の体内ナトリウム濃度がしばしば高いという事実に基づくと、関係は明らかなように思える。しかし、体は高血圧や上昇した血液中ナトリウムを処理する手段も持っている。

体の高血圧対応の仕方。低血圧と同様に、高血圧は血圧を正常値に引き戻す効果の連鎖反応の引金を引く。血管の収縮または血液量の増加(水とナトリウムの保持による)によるのかどうか、血圧上昇は心臓を肥大させるように血管を太くする。この肥大は心房ナトリウム利尿ペプチド(ANP)を放出するように血管を刺激する。ANPはレニンの産出を阻止するホルモンである。レニンは血圧上昇系(RAAS)に必須で、レニンはこの系を閉じさせ、血管収縮を止めさせるように体に働きかけ、ナトリウムと水を排泄する。

 水とナトリウムの排泄は血液量を減らすこととなり、血管を広げることで血圧低下を起こす結果となる。また、少なくとも動物ではRAASによって誘発される喉の渇きと塩渇望を阻止するように思われる。これらの効果の全ては血圧を低下させる。したがって、十分なナトリウムと水により体の機能を適正にする上で、血圧は塩摂取量のために慢性的に高くも低くもなるべきではない。しかし、3人のアメリカ人のほぼ一人は慢性的に高血圧である。明らかに何かが間違っている。

 

塩の必要性を誘導した進化論

 人類の先祖は暑くて乾燥した環境で進化して来たようだ。彼等も最初は菜食主義者であったようだと研究者達は信じており、そのことは塩欠乏の食事をしていたことを意味する。ヒトの体液制御としたがって生存におけるナトリウムの重要性と関連して塩欠乏はナトリウムを摂取し、保持する強力な機構を発展させるに好ましい進化の段階を設定した。メルボルン大学の主要な塩研究者であるデレク・デントンがかつて進化に触れたように、塩に対する我々の偏愛は、喉の渇き、飢え、性欲、母親の衝動のように我々の他の最も基本的な本能と同様である。したがって、我々の初期の人類の祖先の中で塩を摂取するように高度に動機付けられた人々は生き延び、繁殖し、塩歯を伝える傾向があり、一方、そのような動機のない人々は死に絶えた。したがって、近代的な人々は生き残る機構として塩辛い食品に対して強い嗜好を持つことは道理にかなっている。しかし、疑問は残っている:最適塩摂取量はいくらか?

ヒトの塩摂取量の範囲。米国農務省と保健福祉省が合同で発表した10年に2回の勧告であるアメリカ人の食事ガイドラインは、成人に5.8 g/d以下の塩摂取量を勧めている。アメリカ心臓協会はそれ以下の3.8 g/dと言う最高限度を勧めている。これらの勧告値は両方とも生理学的に必要なナトリウムの最少量よりもずっと高い。最少必要量とは適正に機能し続けるに必要なヒトの絶対的な最少塩摂取量で、アメリカ心臓協会は約1.3 g/dの塩量と推定している。

 これらの勧告値は平均的なアメリカ人の塩摂取量8.6 g/dよりも著しく低い。しかし、それは米国の実態ではなく、研究者達が観察したどのグループも平均して生理学的な必要量と推定されている、またはほとんどの保健機関が健康的であるとも考えてきた量よりもかなり多い摂取量である。

 様々な食事習慣を持った文化を横断した塩摂取量の正常な範囲は、カリフォルニア大学デイビス校のデビッド・マッカロンと同僚による2013年の研究によると、6.6 – 12.2 g/dであるようだ。彼等は45ヶ国のほぼ70,000人からなる参加者の24時間尿試料を集めた190件の研究を解析した。研究に参加した全て、またはほとんどの一日尿排泄量を集めた研究で、研究者達はその中のナトリウム量を計ることができ、被験者達がどれくらいのナトリウムを摂取していたかをかなりの信頼性を持って推定できた。24時間尿試料からのナトリウム摂取量推定値は、ヒトのナトリウム摂取量と排泄量は日々変動すると言う事実によって制限されるかもしれないが、それでも最も信頼性のある方法の一つであると考えられている。

 他のナトリウム摂取量の推定法、例えば、食事日記を付けるようなことがあるが、そこでは参加者は食事と摂取量を記録するし、食事思出法では参加者は昨日、昨月、過去何年間にも食べた食事を思い出すように尋ねられるが、間違った記憶や実際の食事よりももっと健康に良い食事をしたいと望む参加者によってあまり信頼性はない。現在のナトリウム摂取量推定値の黄金基準は、毎日の食事や排泄量の変動を考慮して複数の24時間尿試料を集めることである。しかし、一回の24時間尿試料を使い、年齢、文化、民族性を考慮した後でも、ほとんどの人々はこの比較的狭い範囲内のナトリウム量を摂取していることをマッカロンらは明らかにした。もっと特別な場合でも、この範囲は彼等が解析した50年間のデータにわたって変わらないことを彼等は観察した。明らかになったそのことは他の新たな研究結果にも繰り返された。

 マッカロンの研究に先立つ前の2年に、ハーバード大学の疫学者アダムM. バーンスタインとウォルター C. ウィレットはほぼ50年間にわたって行われたアメリカ人のナトリウム排泄量について最初の調査を発表した。マッカロンと同様に、人々の加工食品や非常に塩辛い食品の摂取量増加にもかかわらず、摂取量は当時を通して変化しなかったように思えることを彼等は明らかにした。彼等の研究についてバーンスタインとウィレットのチームは1957年から2003年までの24時間尿データを報告した英語で書かれた全ての研究を解析した。データ数はアメリカ住人の26,000人であった。アメリカの高血圧疾患率は前の20年間で増加したので、その期間のナトリウム摂取量に相当する増加が予想される。事実、バーンスタインとウィレットが彼等の論文で述べているように、国民健康・栄養調査(NHANES)の結果のような存在するエビデンスは、ほとんど自己申告食事に基づく塩摂取量は20 – 35年で上昇してきたと推定した。しかし、彼等が尿中ナトリウムを解析した時、平均ナトリウム摂取量は約9.4 g/dで、50歳以上を除けば、データの46年間におけるナトリウム量には統計的に有意な上昇はなかったことを明らかにした。

 

原文では塩摂取量の推定に関する解説文があるが省略

 

 2014年に、米国疾病予防管理センター(CDC)の研究者達は、NHANES調査の一部として集められた“スポット尿”試料を調べた彼等自身の研究を発表した。時間とともにわずかな増加傾向を彼等は明らかにしたが、体格指数(BMI)について結果を調整すると、“ナトリウム排泄量に時間的な傾向はない”ことを彼等は明らかにした。BMIについての調整は重要である。著者らが述べているように、ナトリウム摂取量はBMIと強く関係しており、体格が大きいほど、より多くのカロリーを摂取し、ナトリウム摂取量も必然的により多くなる。したがって、BMIを調整することは、色々なBMI値の人々についてナトリウム摂取量が多くなるかどうかを調査することを研究者達に要請した。彼等がこの調整を行ったとき、彼等はカロリー摂取量の増加について何の傾向も見出せなかった。特に、バーンスタインとウィレットは体重について彼等の結果を調整せず、それでもナトリウム摂取量に意味のある増加傾向を見出せなかった。

 全ての研究には限界がある。考察したように、ナトリウム摂取量の推定法には信頼性の等級がある。その上、収集技術における誤差または不一致は経時的なナトリウム摂取量の傾向を覆い隠すかもしれない。なお、これらの大規模な集団研究でもいくつかの限界があるとすれば、米国政府の勧告値よりも多いナトリウム量を摂取する傾向はヒトの集団では事実上一般的であると言う説得力のあるエビデンスを彼等は提供する。ほとんど尋ねられない質問は:このナトリウム摂取量が過剰で危険な血圧不均衡に導くとすれば、どうして我々は多過ぎる塩摂取量に進化した種となっているのか?

 

ヒトのナトリウム摂取量に及ぼす影響

 いくつかの理論が我々の高いナトリウム摂取量に進化して来たことを説明することを試みている、例えば、次のような考えである:

  それは生理学的に設定されており、ナトリウム欲求として知られている概念である;

  それは不適応である;

  我々は塩中毒になっている;そして

  高いナトリウム摂取量は、まだ分からないが、何らかの有益な効果を持っているのかもしれない。

生理学的な塩欲求。先天的なナトリウム欲求理論は、人類は設定されたナトリウム量で生まれていることを支持している。その量が満たされていなければ、求めるナトリウム量が復旧されるまで、探し出し塩を摂取したいと言う欲求の引金を引いている。多くの研究者達が主張してきたように、生理的なナトリウム欲求の存在は減塩を目標とした公衆保健政策の大きな障壁となっている。しかし、今日まで研究者達は、他の動物と違って人類はナトリウム欲求を持って生まれてきたことを証明できていない。

 ナトリウム欲求が存在する最初のエビデンスは精神生物学者のカート・リッチャーが明らかにした。彼は1930年代にラットの副腎を取り除く実験を行った。副腎はRAASに必要なホルモンの一つであるアルドステロンを生産する。アルドステロンはナトリウム貯留を促進し、体液のホメオスタシスを維持するために抑制されないナトリウム排泄を妨げる。リッチャーは、ナトリウム制限食のラットは副腎がないと1週間以内に死ぬことを観察した。しかし、ナトリウムと水を自由に摂らせると、ラットは血圧を安定に維持できるに十分な摂取量を増加し、生き延びた。もちろんラットはヒトではない。しかし、リッチャーは3歳半の少年で同様の現象を観察した。少年の両親は少年の最初の誕生日まで貪欲な欲求を持っていたことを報告した。病院で減塩食に置かれると、少年はラットのように1週間以内に死んだ。少年の解剖中に医者がこれまで診断されていない副腎疾患を発見し、少年の多いナトリウム摂取量は多分安定な血圧を維持し、彼を生かし続けたことに納得した。しかし、ナトリウム損失を起こした同様の事例の他の場合は、低ナトリウム血症で死んだ場合でも、必ずしもこの高められたナトリウム渇望を阻止しない。

 水やナトリウム電解質溶液を飲んでいてもアスリート達は運動中に失った物を補充できなかったことを研究者達は観察すると同時に、アスリート達や建設作業者達のような定期的にナトリウム欠乏を起こす人々は塩が好きで一般的に平均して多くの塩を摂取するように思える。しかし、これは塩飢餓の機能ではなく、学習した行動であるかもしれない。言い換えれば、しばしば塩欠乏を経験する建設作業者達は高い塩濃度の食品を食べると美味しく感じることを発見し、こうして彼等の全体的な食事の一部としてもっと食べることを学んでいるかもしれない。同様に、リッチャーが観察した少年は、塩を食べることは心地よさを感じ、その味についての好みを強くさせることを発見したのかもしれない。しかし、これはこの時点では全て推測である。

不適応。どうして人類は我々のように多くのナトリウムを摂取するのかについての他の理論は不適応である。それは過去において有益で祖先から引き継いできた特性であるが、無益な、または現在の環境では有害でさえあるかもしれない。例えば、摂り過ぎやカロリーを溜めることは、食糧不足や不安定の一時期をしばしば経験してきた我々の祖先については有益であったであろう。しかし、カロリーが十分にある現在の環境では、脂肪を蓄積しカロリーを摂取し過ぎることは直ちに不健康となる。

 ヒト成人のナトリウム摂取量は人生初期のナトリウム欠乏によって直接的に影響を受けると言う明らかなエビデンスがある。例えば、妊娠中の母親の経験と成人の塩嗜好を比較した研究は、妊娠中に母親が酷いつわりの時期を報告し、それで脱水症を起こした参加者は異常な朝の病気を報告しなかった母親の子供と比較した成人として著しく多量の塩摂取量であったことを明らかにした。同様に、幼児の時の酷い嘔吐または下痢は人生の後になって持続的に上昇する塩嗜好と相関していた。一卵性双生児の研究は、遺伝要因とは対照的に環境要因が塩摂取量に影響を及ぼす塩辛さを感じる能力に大きな役割を演じていることを明らかにした。

 これらの初期の欠乏経験がレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系に含まれるホルモン放出の引金を引き、研究者のスタイリアノス・ニコライディスが理論づけたように、“記憶の一種として残り、時間が経つと、食物摂取応答の準備と強度を増加させる。”これは説得力のある理論のように思える。一度欠乏を経験した体は塩飢餓について準備しているのかもしれず、一時的に必要量以上に多くの塩を探すのかもしれない。この理論を支持して最近発見されたことは、ヒトの体は皮膚の下に不活性なナトリウムの限られた量を蓄積できるが、この貯蔵システムはカロリー脂肪システムほど確かであることは明らかでなく、我々に食べ過ぎを促すメカニズムもそうなので、我々の体は飢餓の時期に使うために脂肪として実質的に制限のないエネルギー量を蓄積するかもしれない。

 

嗜癖

 不適応のように薬物嗜癖は生命を脅かす欲求とともに自己保存意欲を徐々に衰えさせる。特に薬物のオピオイドイド薬物のような穏やかな状態で塩も同様に作用することを何人かの研究者達は理論付けている。

 コルコルスとゴールドが主張する理論は、“塩辛い食品はアヘン患者のように脳の中で作用し、”それは脳内でオピオイド受容体と結合し、我々が美味しいと解釈する同様の快楽効果をもたらすことを意味している。これの支持では、薬剤投与の中止によるオピオイド常用者はしばしばカロリーや塩辛い食品を試みに食べ過ぎることを研究者達は観察してきたので、理論は自己治療の方向に行く。しかし、オピオイド置換のような塩の類似性は完全ではない。薬剤中止でアヘン常用者に観察される亢進した欲求はアヘン使用者が経験した栄養欠乏のためであるかもしれず、欠乏がなくなるにつれて、欲求は増していくことを研究は示している。例えば、アヘン常用ラットの研究で、早い段階で投薬を止めたラットでは、ラットの砂糖の評価は他のラットと比較して高くなっているが、2週間後には他のラットと同じほどにしか評価しないことを研究者達は明らかにした。アヘン投与中止中の塩に対する魅力の増加は同じ程度の貯蔵寿命を持っているか、いないかである。

 常用癖のある物質は報酬を求める行動の動機付けに含まれる重要な神経機構を“ハイジャック”するためと理解されている。それらの物質は“正道を外れた人工ルートによって脳に浸透する、”とハイファ大学のマイカ・レーシェムは言った。しかし、レーシェムが述べているように、ナトリウムはこのようには効かない。何らかの他の目的のつもりで受容体を“ハイジャックする”どころか、ヒトはその物質について特別に設計された独特のナトリウム受容体を持っている。

 つまり、我々の脳の麻薬システムが塩欲求に含まれているように思える。我々が必要なナトリウムを摂取すると、快楽感または満足感の引金が引かれ、満足する。述べたように、薬剤の基本的な理解では、薬剤が重要な存在する神経回路をハイジャックすることによって作用する。しかし、科学者達は最近次のような理論を提案した。麻薬作用はナトリウムを摂取するように進化で作られてきた駆り立てる衝動に随伴してきた。したがって、塩は麻薬であることはないかもしれないが、麻薬は塩のような物である。

 

条件付け

 塩摂取量を提案した公共政策の考察に対する基本は、我々が食品中で好む塩濃度は条件付けられると言う仮説である。すなわち、子供の時以来、我々は高い塩濃度の食事をしてきたので、我々は与えられた塩摂取量を好きになることを学ぶ。これがどのように塩嗜好を決めるのかと言うエビデンスは限られている。

 他の動物はナトリウム欠乏に応答して塩嗜好を直ぐに増加させ継続させる経験をするが、胎児の段階または幼児の初期を除いて、欠乏と言う孤立した事態はヒトが望む塩量に長期間の変化を刺激すると言うエビデンスはほとんどない。

 塩の嗜好性は大人で欠乏に遭遇した時に増加することを研究は示しているが、嗜好性は一度ナトリウム収支が修復された前欠乏量にまで帰る。運動のために発汗でナトリウム損失を起こした大人の小さな実験で、彼等は食事中で高い塩濃度を好きだと表現することを研究者達は観察した。しかし、この増加した嗜好は一時的であった。大人のナトリウム欠乏の慢性的な発作でも、長期間の塩嗜好に影響を及ぼすようには思えない。

さらに、普通に食べているよりも多くの塩を与えられた短期間の塩増加は継続的な塩摂取量の変化を起こさせるようには見え思えない。1986年に、フィラデルフィアにあるモネル・ケミカル・センシーズ・センターのマリー・ベルトーニと仲間は塩に加えて塩錠剤または偽物を被験者に与える実験を行った。塩の快ささは塩を加えたグループで直ぐに上昇したが、“塩についての味覚嗜好は高いままであっても、ナトリウム排泄量は基準線まで戻ってきた”ことが分かり、“味に及ぼす食事の影響は食事に及ぼす味の影響よりも大きい”ことを示唆していた。

他方、長期間の減塩は味覚嗜好を押し下げる方向に移動させる、すなわち、何ヶ月間もの減塩食を食べた被験者は塩の知覚力上昇を経験し、減塩食を食べていない参加者と比較して特に塩濃度の低い食品を受け入れられることを明らかにした、といくつかの試験は示してきた。塩嗜好の減少は食事全体を減塩しなくても達成されることを少なくとも最近1件の研究が明らかにした。特別な食品についての嗜好をテストしたそのような研究は繰り返し食べることを通して特別な食品のヒトの嗜好を変えさせる常用癖の能力を単に表しているかもしれない。例えば、参加者達は塩味の薄いスープに慣れて、結局、次第に受け入れられるようになるのかもしれない。

 そのような食品毎の減塩が作用すると仮定しても、この方法が結局、アメリカ人の塩摂取量をどれくらい多く減らせるかは明らかでない。例えば、フィンランド(1979年の始め)とイギリス(2003)の棚に並んでいる食品で段階的に次第に減塩することは総合的な摂取量低下にある程度成功しているように見えるが、これらの国の減塩前の平均塩摂取量はアメリカ人の平均塩摂取量よりも1 g以上多く、現在それらは丁度線上にある。どのような種類の生物学的と行動学的な応答が、消費者にその量以下に減塩させる、そしてほとんどの人々についてそれが可能であるかないかを挑発するかもしれない知れないことは不確実である。

高塩摂取量に対する利益

 政府の勧告値と比較してどうして人は多量の塩を摂取するのかについての別の説明は、まだ発見されていないが、多い塩摂取量は何らかの保護機能を果たすことである。

 パベル・ゴールドスタインやマイカ・レーシェムはハイファ大学でそれぞれ統計学者と心理学者であり、そのような研究者達は高い塩含有量の食事の専門的な2つの利益を調べた:鬱病の増大と軽減である。NHANESデータと総カロリー摂取量についての管理の横断的解析で、彼等は、未成年期のような成長期と妊娠中に塩摂取量の増加あるように思えることを明らかにした。食事であまり塩を摂取しない婦人が鬱病を経験しやすいので、塩摂取量は婦人の鬱病に逆相関していることも彼等は明らかにした。鬱病と関係しているRAAS活性は高い塩摂取量で阻止されるかもしれないことを研究者達は仮定した。言い換えれば、塩摂取量は自然の抗鬱薬のように作用するのかもしれない。

 比較的高い塩摂取量は比較的高い総合栄養摂取量と比較的良い健康と関係している可能性もある。後に考察されるように、高塩摂取量は高血圧を関係しており、典型的な塩摂取量は悪い健康と実際に関係しているかいないかについて文献で矛盾がある。

 ナトリウム摂取量が生理学的に決定されるか、あるいは条件付けされるかどうか、ほとんどの研究者達は被験者に低塩食を守らせることは苛立たしいほど難しいことを知った。例えば、血圧に及ぼす減量と減塩の効果を調べる1997年の試験で、参加者達は4.7 g/d以下の塩摂取量に減らすよう要請された。しかし、強力に指導しても、彼等は6.1 – 7.2 g/dにしか減塩を管理できなかった。高血圧研究の初期の時代である1950年代に、タンパク質摂取量が高血圧の食事犯であると考えられていたとき、クリーブランド・クリニック財団のコーコランと同僚は14人の患者に塩またはタンパク質制限食を食べさせた。14人の中で、4人だけが減塩で血圧を下げることができた。彼等が治療を受けると、4人の内2人だけが抗高血圧効果を維持し、“したがって、減塩による食事療法は外来患者または診療所治療の条件下ではしばしば出来なくて、患者側に最低限の基本的な理解力と強制力を要求すること”を著者らに結論付けさせている。

 ごく最近、1990年代に行われた臨床試験の「老人の非薬物介入試験(TONE)と「高血圧予防試験Ⅱ(TOHP-)は強力な食事指導を通して塩摂取量を約2.5 g/dまで下げられた。しかし、両方とも4.6 g/d以下の塩摂取量目標を設定し、両方とも6.1 g/d以下の平均塩摂取量を達成できなかった。例えば、TOHP-Ⅱでは、参加者は研究の6ヶ月間、約10.7g/dから約6.6 g/dへ塩摂取量を下げる減塩グループに割り当てられた。しかし、36ヶ月までに平均塩摂取量は8.1 g/dに戻ってしまった。

 このような研究は減塩が可能であることを示しているが、ほとんどの人々についてはその減塩はマッカロンと同僚達およびバーンスタインとウィレットが観察した“通常”範囲内に留まっている。塩摂取量には上限と下限があり、それを交差する時には、この通常値に摂取量を戻す無意識の行動と生理学的な応答の引金を引く。例えば、特別な薬で治療された高血圧患者の血圧に及ぼす色々な塩摂取量の影響をテストする試験で、研究者達は参加者に数週間約4.3 g/dと言う非常な低塩食を続けるように要請した。その後、彼等は半分ずつ偽薬または約5.8 g/dの塩を含む錠剤を4週間摂取するようにランダムに割り当てられた。その後、グループは入れ替えられて次の4週間を続けた。患者について高塩食または低塩食のために血圧は変化しなかった結果に加えて、研究者達も比較的狭い範囲内に留まるように塩摂取量を知らない間に変えられた参加者に奇妙な傾向を観察した。偽薬に割り当てられた参加者は塩摂取量を約4.3 g/dから7.1 g/dに増加した。塩錠剤に割り当てられた参加者は丁度4.3 g/dを摂取しながら塩錠剤によって5.8 g/dも摂取し続けた。両グループは全ての給源から7.1 g/dから10.1 g/dの間の摂取量で終えた。それは研究者達が述べているように、ヒトの塩摂取量の観察された“通常”範囲である。

 したがって、条件付けでこの範囲内に塩嗜好を移動させることは可能であるかもしれないが、人々にその範囲以下に減塩させることは難しく強制力が要るかもしれない。さらに、どうしてヒトはこの特別な範囲の塩摂取量になるのかをよく理解できず、大きな減塩努力にはレーシェムがそれを“エビデンスに基づいていない”としている。

 

塩-心臓仮説の展開

 塩摂取量が心血管系に影響を及ぼすと言う理論は少なくとも300.に遡るが、研究がこの関係を調査し始めることは20世紀までなかった。二人のフランス人の医者が減塩で高血圧患者の血圧を下げることにある程度成功したけれども、その結果はほとんど直ちに否定され、その後40年間、“タンパク質中毒”が高血圧の原因であるとする有力な理論のままであった。

 当時の1940年代に、血圧における塩の役割と言う考えがデューク大学の研究医ウォルター・ケンプナーの研究のおかげを再現した。ケンプナーは米、果物、フルーツ・ジュース、砂糖、またはシロップとビタミン・サプリメントからなる後にケンプナー食と呼ばれる食事で実験した。脂肪、タンパク質、塩(0.5 g/d以下)が著しく低いことに加えて、比較的低カロリーの2,000カロリーと比較的高いカリウム摂取量でもあった。2,3ヶ月後、ケンプナーの500人の高血圧患者の大多数が、血圧低下、心臓の大きさ減少、網膜損傷(網膜症)の軽減を含む症状の改善を経験した。ケンプナーはタンパク質制限効果に関心を持ったが、他の研究者達は、患者の健康を改善した食事が低塩含有量であったと言う考えをひらめかした。

 テキサス大学のアーサー・グロールマンと同僚達は動物とヒトの両方を使って塩-高血圧仮説の最初の小さなコントロールのある試験を行った。何人かの患者について減塩は血圧を下げ、結果を出すのは特にナトリウムであることを確認した。

 彼等の結果を全人口に適用するには限界がある(彼等は高血圧患者だけを研究したから)にもかかわらず、グロールマン、ケンプナー、その他によって行われた実験は塩と高血圧との関係を支持した。しかし、それは偶像的な高血圧研究者であるレービス K.ダールによる独創性に富んだ1960年の集団研究であった。慢性的な血圧上昇の原因は塩摂取量であると言う考えにダールは研究社会を繋ぎ止めた。ダールと彼のチームはいろいろな塩摂取量を示す5集団を試験した。彼等は塩摂取量と高血圧との間に納得できるような相関関係を示した。その研究は今日まで研究や公共政策にまだ影響を及ぼしている。24時間尿収集を解析し、それらの尿試料と5ヶ所の異なった集団の購入行動、自己申告食事、食品中の塩含有量の調査を比較した後、彼等の研究結果は、“平均塩摂取量が高いほど、それだけ高血圧発症率が高い”ことを示唆しているとダールは結論を下した。

 ダールの集団研究の発表以来、いろいろな研究者達は研究の限界について関心を示した。例えば、どのようにしてデータを集め、偏向や総カロリー摂取量や体重のような混乱因子について、彼のチームはどのようにして調整したかに関する情報を決して発表しなかったことである。他の要因は血圧で役割を果たすかもしれないことをダールは知っていたが、それらの要因は考察から削除されてきた、と彼は述べただけであった。レスター大学の先駆的医学研究者であるジョン・スェールスは“平均一日塩摂取量と高血圧発症率との関係は述べているけれども…両変数の調査に使ったエビデンスは不明確であった”と述べた。多分、最も重要なことでは、ダールは彼の研究で集団の相対的な年齢については考慮しなかった。血圧は加齢に伴って上昇することが知られているから重要な要因である。例えば、彼の調査集団の一つであるイヌイット(または当時エスキモーで知られていた)は、ダールと彼のチームがデータを集めていた当時、特に寿命が短かった。アラスカ・エスキモーについてのデータは限られている。しかし、北ケッベック・イヌイット研究によると、1941年から1951年の間の寿命は35歳であった。カナダ北西部のイヌイットの研究によると、1951年から1960年の間の平均寿命は37歳であった。

 

原文では1960年にダールが発表した塩摂取量と高血圧発症率との有名な図があるが省略

 

 しかし、その後の研究は集団内では塩摂取量と高血圧との関係を明らかに出来なかった。これらの集団内の人々の塩摂取習慣と血圧を研究者達が調べた時、食事中の塩含有量の高い人々のグループは高血圧発症率が高いように思えるが、彼等は塩と高血圧との関係を見出せなかった。それでもダールの集団研究とラットによる彼の実験は公衆保健社会内では扇動的であった。一部にはダール自身が実験から飛び出し政策論争に入ったからで、現在の減塩支持者と科学者の現在の論争時代を告げている。彼の研究の限界と混乱要因の可能性があるにもかかわらず、彼の結論におけるダールの信念は変わらなかった。“塩が永久的で致命的な高血圧を引き起こすエビデンスはラットで直接的、定量的、明確である。”とダールは1972年に書いた。“ヒトでは多くのエビデンスは情況的であるので、人によってほとんど忘れられているからである。同等のエビデンスが同様に致命的であるがはるかにあまり一般的でない疾患、つまりガンと塩を関係付けたとすれば、ずっと前からそれに対しての強力なキャンペーンが始まっているはずである。”米国政府が出した最初の食事ガイドラインを作る手段となったのはダールの研究であった。

最初の食事ガイドラインの作成1917年に米国農務省で公表され、政府によって提供された最初の食事ガイドラインは子供の栄養不足の予防を目的としていた。その後1970年代に、食べ過ぎが疾患で演じる役割の理解が進んで、議会は食品に関する推奨上限を設定する方向に注意を向けた。結局、これがアメリカ人の食事勧告値(後の食品ピラミッド)の始まりとなり、それは最初、塩摂取量に関する推奨最高一日制限値を提出した。

 栄養とヒト必要量に関する米国上院選挙委員会は飢えと栄養不足を調べることを課題にして1968年に最初に招集した。しかし、1973年に食事で影響を受ける肥満、心疾患、その他の病気に注意を向ける方向に変わった。委員会は上院議員ジョージ・マクガバーンによって運営された。彼は最近、食事指導者ネイサン・プリチキンに影響されるようになった。プリチキンは医者ではないがプリチキン長寿センターを設立し、一時的に有名なプリチキン食を作った。驚くほど高いコレステロール値の食事後、マクガバーンは脂肪、砂糖、肉、塩、加工食品の摂取量を下げるプリチキンの食事勧告に従い始めた。大まかにこの枠組みに従ってマクガバーンは印象的にコレステロールを350から170に下げた。これはプリチキンと上院議員との一生の関係に進み、栄養問題に関するマクガバーンの展望に明らかに影響された。

 ダールは聞き取りを表明しながら、彼の最大の影響は彼の研究を引用した他の研究者の数にあると思った。例えば、1972年に国立衛生研究所は高血圧教育計画を始めた。そこでは減塩勧告の根拠としてラットと集団研究からのエビデンスを引用したが、多くの研究者達が、予備的でしばしば問題となる研究であることに対して正確性を述べることに関心が現れている事実や、マクガバーンの聞き取りで何人かの証人が挙げた関心を無視した。

 アメリカ医学協会の副会長ジェームス・サモンズは次のように述べた。ダールのような観察研究は“塩摂取量と高血圧との関係”を示唆したが、塩が総合的な高血圧率に対する主な寄与要因であるとの仮説を彼等は実証できなかった。さらに、“この国の人口の80%については、現在の塩摂取量は有害であるとは示されて来なかった、”と彼は述べ、次のようにも述べた。“国民の食事目標として塩摂取量を設定する報告書の勧告値は不適当であると我々は思う。”

 同様に、ロンドン王立医科大学とイギリス心臓協会の作業部会は、塩摂取量と血圧とを関係付ける疫学研究と動物研究にもかかわらず、“イギリス全人口の塩摂取量の低下は幅広く血圧を下げると言うエビデンスを現在我々は持っていない、”と述べた。

 科学社会の多くは栄養に関連した疾患について良いエビデンスとして彼等が見たことに基づいて行動するマクガバーンの努力に喜んでいるが、まだ初期の段階にある研究に基づいて国民の健康に関する傲慢な布告についてある者は神経質であった。セントルイス大学のロバート・オルソンのような博士達はもっと研究を待つように議会に申し立てた。“十分に誤った情報であるかもしれないことを公表するために連邦の資金を使うよりも、我々は何をしようとしているかを確かめる研究をもっと行うべきである、”とオルソンは委員会への彼の報告書で書いた。

 米国農務省の人間栄養センター長マルク・ヘグステッドによると、食事目標が書かれた時、栄養委員会のほとんどは目標値に反対した。“科学界によって作られるべき勧告値に関するビジネスには上院委員会は関与していないと彼等は感じたと私は思う。”最初のガイドライン草案が公表された時、“全ての地獄は緩和された…実際には誰もマクガバーンの勧告に賛成しなかった。”

 最初のマクガバーン報告書を発表した時に、委員会は“思いもかけない批判者の荒れ狂う暴徒に”直面した。食品業界(彼等の製品をあまり買わないように人々に語っている政府を望んでいない)の代表に加えて、批判者には国立心肺血液研究所とアメリカ医学協会の代表者も入っていた。後者は目標値には“有害な効果の可能性”があると書いた。ウィスコンシン大学生化学者のアルフレッド・ハーパーは似非科学証明を受け入れた人々に訴える一人としてその報告書を非難した。一方、国立科学アカデミー長官で代謝専門家のフィリップ・ハンドラーはその報告書を“ナンセンス”と称した。

 最初の報告書で委員会が用意した勧告はアメリカ人に50 – 85%減塩させて3 g/dに下げさせることであった。しかし、制限値は後に5 g/dに上げられ、その後、報告書の著者が元も制限値は加えられた塩についてであり、食品中に既に存在している塩は含まれないと説明した後では、8 g/dに上げられた。

 科学的な論争にもかかわらず、上院特別委員会で塩を高血圧と関係させることを含めて徹底的に議論された結論は社会に広く受け入れられた。部分的には間違いなくこれは食品供給中の塩を減らすためにその後数年間、政府側の広報活動努力のお蔭であった。1981年のナトリウム表示に加えて、FDAは同じ年に業界に加工食品中の塩含有量を“自発的に”減らさせる計画を発表した。塩の安全性を一般的に認めていること(GRAS)を取り消したFDAの談話もあった。GRASとして考えられている食品添加物は、それらの長期間の使用歴が食品添加物の安全性の十分なエビデンスであるとの仮定の下にFDAによって特別に承認されあるいは許可なくてもアメリカで販売または使用されているのかもしれない。他方、GRASであると考えられていない添加物は特別な食品に決められた量で使うためにFDAによって承認されなければならない。塩に反対する事例を支持することは新しいねじれで、1980年代半ばに発表された塩と血圧を関係付ける説得力のある研究である。

インターソルト1988:ダール以来最も重要な塩研究。1988年に32ヶ国        52研究センターの研究者会議であるインターソルト共同研究グループは塩摂取量と血圧を調査した結果を発表した。インターソルトの研究者達は10,000人以上の参加者で血圧、尿中ナトリウム排泄量、カリウムを含めて32ヶ国からのデータを調査した。アルコール摂取量、体重、その他のような混乱因子もアンケートで集めた。当時、電解質と血圧との関係を調べた最大の観察研究であった。研究は塩摂取量の増加と血圧との間にポジティブであるが弱い相関関係を明らかにした。特に結果は5.8 gの減塩について2 – 9 mmHgの平均収縮期血圧低下であった。基本的にダールが彼のヒトとラットの研究で観察したことをインターソルトは確認した。しかし、結果は最初、ほとんど注意を引かなかった。

 インターソルトの発表後2,3ヶ月に発表されたニューヨーク・タイムズの特集で、ハーバード医学校ヘルスレターの編集者ウィリアム・ベネットは、“我々が今世紀に希望を持てる塩と高血圧に関する最良のデータを得た”インターソルトは活気のないレセプションを受けたと嘆いた。“単純に実際的なメッセージは印象的ではなかったかもしれない:全ての実際的な目的については、塩は高血圧発症の主要因ではなく、かつて摂取量は非常に低い量を超えている、”とベネットは言った。多分、この変化のない応答からインターソルトの著者らは23年後にデータを再解析した。彼等の1996年の論文、インターソルト再訪で、彼等は元のデータを解析するために新しい方法を適用し、塩摂取量と血圧との間にずっと強い関係を見出した-減塩による血圧利益が3倍に増加した。

 体重について彼等の元の補正を除くことに加えて、著者らは回帰希釈偏向(2つの要因間の当然と思われている関係を薄める測定で推定誤差を考慮する)について議論のある補正を加えた。著者らが元の研究で述べたように、彼等のデータの収集にはいくつかの誤りがあるかもしれない。データには塩と血圧との間の仮定されたポジティブな関係を薄める。回帰希釈偏向法を使うことはそのような誤差の補正を意味する。しかし、回帰希釈偏向を適用することは、彼等のデータが塩摂取量と血圧との間に示されているよりも強い関係を薄める仮定をするように彼等に要求した。仮定が間違っていれば、この新しい解析法は単に偽の相関を強める。これらの要因は何人かの研究者達、例えば、ブリストル大学疫学教授のジョージ・デイヴィ・スミスに研究は間違っていると書かせ、そしてケンブリッジ大学公衆保健研究所MRC生物統計科科長ニコラス E. デイのような他の人は“統計的複雑さはデータの不適正を隠すために使うべきではない”とたしなめた。

 しかし、インターソルト再訪に対する最も酷評された応答はカリフォルニア大学バークレイ校の統計学者デビッド・フリードマンとカイザー・パーマネンテの研究長で疫学者であるダイアナ・ペティティによって4年後に発表されたデータの独立した再解析であった。彼等は、52センターの中には4ヶ所のアウトライアー、または塩摂取量が極端に低い4センターがあることに気付いた。これらのセンター、2件のブラジル種族、1件のパプア・ニューギニア、1件のケニアには、塩摂取量増加と期待される血圧上昇傾向があった。しかし、これらの異常値をデータから除くと、残った48センターは驚いたことに、塩摂取量と血圧との間に統計的に有意でないにもかかわらず逆相関を示した。4件の異常値について補正すると、結果は塩摂取量と高血圧との間の関係はないことを示した。“インターソルトの元の仮説がすっぱりと矛盾していると言う”事実に加えて、インターソルトの著者らは“データの発掘”-データ内で答えを見つけることを試みることに等しい塩と高血圧との関係を見出す試みでデータを再考察する試みを続けているとフリードマンは後に指示した。疑問は研究の目標ではなかった。

 それでも研究界内ではこれらの関心はインターソルトが大きな影響となっていることを止められず、最初のインターソルトの発表以来、600件以上の引用がある。

 さらに複雑なことは次の事実であった。1996年にインターソルト再訪の発表に伴って、アメリカ医学協会誌は比較臨床試験のメタアナリシスを発表した。それは減塩が血圧を下げるかどうかを調査した。既往の高血圧者が収縮期血圧で小さな低下を示したが、大多数の人々には減塩の効果はなかったことを彼等は明らかにした。“高齢の高血圧者の減塩は考えなければならないかもしれないが、”エビデンスは“一律の減塩についての現在の勧告を支持しない”と彼等は結論を下した。

 多分、インターソルトよりももっと影響のあるのは2001年に結果が発表された高血圧予防食(DASH)試験である。それは減塩食であり、“DASH食”(果物、野菜、低脂肪乳製品が多い:全穀粒、鶏肉、魚、ナッツを含み;典型的なアメリカ食よりも赤肉や砂糖が少ない)を食べること、または二つを組み合わせて血圧を有意に下げる。DASH食と減塩食(3.8 g/d)を併せるとどの食事を食べていない人々よりも7 – 11.5 mmHg血圧を下げた。人数は比較的少なく(400人ちょっとの参加者)、各食事期間はかなり短かった(30)が、結果は全人口に減塩食を推奨するために多くの健康体を確信させるに十分印象的であった。

 科学文献内でこの不確定ははっきりと社会を混乱させている。1990年代の遅くまでに、これまでよりも塩と血圧に関して利用できるデータが多くあったが、両者の関係はそれまでよりもはっきりしなかった。この不明瞭さは、研究界で続いてきた塩が高血圧の原因であるか、ないかの理論を支持する同志に固定化されることによって一層悪くなった。ロンドンのセント・メリーズにある王立医科大学の疫学者でインターソルト再訪の共著者であるポール・エリオットのような博士達が“強いコンセンサスがあり、食事の中には多過ぎる塩がある、”と断言しており、他の人々は、エビデンスは一律の減塩を勧めるには十分ではないと主張した。アメリカ高血圧学会会長でアルバート・アインシュタイン医科大学の疫学と社会医学部の部長であるミカエル・アルダーマンが主張しているように、血圧における塩摂取量を含む何某かのエビデンスはあるが、低塩食がより健康的であることを示す十分なデータはない。“これらの技術による血圧変化は健康利益になるか?”とアルダーマンは1996年に尋ねた。彼自身が以後20年間、答えを探し求めてきた疑問である。

 

減塩食はより良い健康と関係しているか?

 人類がどうしてそのような明らかに高い塩摂取量であるのかを知らないで、潜在的な利益または何らかの与えられた摂取量の害を十分に理解することは難しい。これにもかかわらず、政府や研究界内の活動家は塩摂取量を抑制する国家や国際計画を実行することを進め始めた。その理由は、減塩が大多数の人々にとって劇的に有益でなくても、健康を害することはない。しかし、特に過去10年間の新たな研究その仮説に重大な疑いを投げかけてきた。塩を巡る論争の全ての観点から見て、答えは明確ではないように思う。

 多くの研究が塩摂取量と血圧との関係を明確にさせようと試みてきたが、わずかな研究が塩摂取量との関係で実際の健康結果に注目してきた。2012年までに、減塩による健康結果を調べた23件の観察研究があった:

  6件が高い塩摂取量とかすかな健康結果との間に直接的で意味のある関係を明らかにした;

  7件が逆相関(高い塩摂取量ほどより良い健康結果と関係していることを示した)を明らかにした;

  2件がJ-またはU-字型曲線(非常に低い、または非常に高い塩摂取量と関係している弱い健康結果)を明らかにし;そして

  8件が何の結果も示さなかったか、または混在した結果を示した。

さらに、2012年以来、数人の研究者達がこれらの様々な研究の結果を全体的にまとめ

ることを試みた一握りのメタアナリシスを発表してきた。これらはまた、矛盾した結果をもたらしてきた。

 事実、同じデータを見ていた研究チームは反対の結論に達した。2008年に、アルバート・アインシュタイン医科大学のヒレル・コーエンが率いるチームは第三回国民保健栄養試験調査のデータを調べた。その調査は一回の24時間食事思出法に基づいて、1988年から1994年の間にほぼ9,000人を募集してナトリウム、カリウム、カロリー摂取量を調べた。喫煙、体重、血清コレステロール、カリウム摂取量のような可能性のある混乱因子として知られている心血管危険性についてのデータを調整後、5.2 g/d以下の人々である最低塩摂取量グループの人々は、10.2 – 25.4 g/dの塩摂取量である最高塩摂取量グループと比較して心血管疾患による死亡が起こりやすいことを研究者達は明らかにした。しかし、2011年に、公衆保健ゲノムのCDC局のクアンヒ・ヤングが率いるチームは同じデータセットを調べて、反対の結論に達した。つまり、塩摂取量の増加は全ての死因による比較的高い死亡率と関係しており、比較的高いナトリウム-カリウム比は比較的高い全ての死因および心血管疾患死亡と関係していることを明らかにした。ヤングらによるナトリウム-カリウム比の使用はカリウムについてナトリウムを調整すると言う印象を与えるとコーエンらは主張したが、事実、カリウムはナトリウムを調整すると言うよりも関係を推進させる。カリウムは特に高いナトリウム摂取量の人について繰り返し死亡の危険率を低くすることが観察されてきた。コーエンらが断言したように、比率に基づいてのみナトリウムについて述べさせるようにこれはヤングらにさせた。そのことで彼等はカリウムについて調整するナトリウム・モデルに基づかせるようには出来ないかもしれない。他方、コーエン研究は短期間(10年対ヤングの15)で参加者が少なく、一回の食事思出法調査に依存しており、カリウムについては調整しているが、カリウムと死亡率との関係を調べていないので弱い、とヤングらは主張した。

 様々な研究の結果を組み合わせようと努めて、ナポリ医科大学とウォリック大学のパスクアレ・ストラズロと同僚達は、脳卒中や心血管疾患のような健康結果と塩摂取量とを調べた13件の集団研究結果を解析した。塩摂取量5.1 g/d当たり増加する毎に脳卒中の危険率が23%増加することを彼等は明らかにし、“このメタアナリシスは、塩摂取量が高くなるほど脳卒中発症や心血管疾患が大きくなることを明確に示している”と結論を下した。しかし、研究の批判はいくつかの欠陥を述べ、彼等の結論に疑問を呈した。

 一つの批判は、含まれている研究の選択が、塩摂取量とわずかな健康結果との関係を示す研究に向けて重苦しく寄りかかっていることで、13件の研究の中で7件が高塩摂取量は悪い結果に導くと結論し、一方、彼等は、低塩摂取量が悪い健康結果の原因となることを示した2件の研究だけを含めた。それらの一つについてストラズロらはデータを不正確に解釈したので、高塩摂取量とより良い結果との意味のある関係は取るに足らないように見えた。

 多くのメタアナリシスで取り上げられているストラズロの別の批判は、コーエン研究で調べられた多くの集団が部分母集団であったので、彼の結果は健康なアメリカ人集団に一般化されないことである。例えば、13研究の中で4研究は日本人だけ、日本人移民、または台湾人の参加者を含めており、いくつかの文化的な生活様式要因、例えば、平均塩摂取量、または遺伝的変数がずっと高いので、どれかの重要な要因がいくつかの集団を他の集団よりいくつかの疾患または状態によりなり易くしている。さらに、多くの研究がストラズロ調査に含まれた。その調査は肥満者または喫煙者で高塩摂取量とわずかな健康結果との関係を調べたか、または見い出しただけかのいずれかであった。

 ストラズロら以来、多くの研究者達が減塩の健康効果を調査するために多くのデータ・セットの結果を結び付ける試みを行ってきた。しかし、全人口の減塩効果は不明である。

 2011年に、マックマスタ―大学人口保健研究所のマーチン・オドンネルと同僚達は心疾患薬剤治療の参加者28,880人についてのデータを解析し、塩摂取量の最高と最低の両端の人々は最も高い死亡危険率であることを知った。換言すれば、彼等はJ字型曲線を見出し、そこでは最低危険率の人々は7.6 – 17.8 g/dの塩摂取量であるように思えた。オドンネルと彼のチームは2014年に再び同様の結果を明らかにした。その時、将来の都市農村疫学(PURE)研究の一部として、彼等は17ヶ国から100,000人以上の尿試料を調べ、17.8 g/d以上の塩摂取量が死亡危険率の15%増加と関係しているが、7.6 g/d以下の塩摂取量も27%の死亡危険率増加と関係していたことを明らかにした。

 これらの結果は201512月に繰り返され、その時、オンタリオ州人口健康研究所のパブロ M. ラメラスと彼のチームはラテン・アメリカ人の解析を発表した。それはアルゼンチン、ブラジル、チリー、コロンビアからの約17,000人の一回尿試料を調査後、約5年間の健康結果を追跡し、塩摂取量、心血管疾患、死亡率との間に同様のJ字型関係を見出した。

これらの研究はしつこい批判に遭遇し、何某か正当化された。これらの批判で最も適切なことは塩摂取量の推定法と関係していた。オドンネルとレメラスの研究は両方とも塩摂取量を推定するために一回の“スポット尿”を使った。平均的な人々について平均的な塩摂取量を推定するための信頼できる方法を考えると、最高と最低範囲の消費者について推定値は数千ミリグラム少なくなっている。さらに、スポット尿テストの精度は尿が採取される日の時間によって影響される。尿排泄量24時間を通して変化するからである。もちろん、これら二つの研究はスポット尿試料を使った唯一の研究ではなかった。前のメタアナリシスで取り上げた多くの研究は塩摂取量の推定に食事思出法のようなあまり信頼性のない方法さえ使っている。ストラズロらの研究の9件がそうであった。

しかし、もっと正確な24時間尿収集法を使った一般的に健康な集団の塩摂取量と死亡の関係を調べたいくつかの研究は低塩摂取量と比較的高い死亡率との関係をまだ示している。2011年に、ルーベン大学のカタルチナ・ストラルツ-スクルチペックと彼女の同僚達は最初の長期間集団研究を行った。その研究は平均8年間、同じ3,600人のヨーロッパ人を追跡した。心血管疾患歴のある患者を除いたのち、彼等は追跡期間中に一回の24時間尿試料を集め、血圧、高血圧、脳卒中、心臓発作、心不全を含む健康結果と比較した。彼等が明らかにしたことは、高塩摂取量は比較的高い収縮期血圧と独立して関係していたが、“この関係は比較的高い高血圧危険率または[心血管疾患合併症]に解釈されなかった。その代わり、低塩摂取量は心血管疾患死の高い死亡率と関係していることを明らかにした。研究を主張する批判は“つまらないほど弱く”他の事の中で一回の24時間尿試料の使用を指摘していた。

2014年に、コペンハーゲン大学病院のニールス・グラウダルと彼の同僚達は彼等自身のメタアナリシスを発表した。それはストラズロのメタアナリシスの研究のほとんどを含む27研究を調べた。解析は25コホート研究と2件のランダム化比較試験を含んでいた。その試験は減塩のような“コントロール”グループまたは“介入”グループのいずれか一方にランダムに参加者を割り当てた臨床試験であった。PURE研究と同様に、グラウダルらはJ型曲線を発見した。6.7 – 12.6 g/dの塩摂取量の人々については最低の危険率で、より高い範囲とより低い範囲では死亡率はより高くなる。ロンドンのクイーン・メリー大学のフェン J. ヒーやグラハム A. マグレガーのような研究の批判は、取り上げた研究は間違っていると主張し、その研究はコクラン・ライブラリーから削除された。しかし、グラウダルとチームが応答したように、撤回された論文はメタアナリシスの一部ではなく、異なったより高い品質の研究からのデータセットについての出所であった。しかし、そのデータと多くのデータセットは、集団の多くが一般化されていない事実によって制限されている。ストラズロらでも同じであった。グラウダルらが述べたように、彼等の批判は、全集団について減塩すべきであると言う彼等の事例とした同じ研究にしばしば依存している。

これらの明らかに健康なグループでも、より高い死亡率はそのような調査で測定されなかった他の食事因子または生活様式因子と関係していることは常にありえる。結果として、低塩摂取量は死亡率増加に導く原因よりもむしろ効果である。どうして人類は5.1 – 12.7 g/dの通常の塩摂取量を摂取するように動かされるかについての疑問として、どうして低塩摂取量は比較的高い死亡率と関係しているかを研究は答える要求をするべきである。

J-またはU-型曲線のこれらの最近の結果に反して、ハーバード医学校のナンシー・クックと彼女の同僚達は2014年に彼等自身のメタアナリシスを発表し、高塩摂取量と心血管疾患死との間に曲線ではなく、直線関係を発見した。2.5 g/dの塩摂取量増加毎に17%の危険率増加があったと著者らは結論を下した。彼等のデータは高血圧予防試験(TOHP)のⅠとⅡから引き出された。臨床試験研究は塩摂取量の正常範囲の高い方に向けて人々の血圧を下げるいくつかの非薬物療法の効果をテストするように設計した。2016年の10月に、クックらは、塩摂取量と死亡率との関係でJ字型曲線がないと言う彼等が2014年に発見したこと繰り返した追跡試験を発表した。しかし、傾向があるにもかかわらず、低塩摂取量グループとコントロール・グループとの間の死亡率に統計的に有意な差はなかった。

誰が減塩で利益を得るか?ランダム化比較試験(RCTs)は、参加者達がコントロール・グループ(治療または介入を受けない人々)と介入グループ(投薬や治療を受けている人々)のいずれか一方にランダムに割り当てられた試験である。例えば、薬物試験は投薬または偽薬を受ける患者にランダムに割り当てられる;研究者達はどちらのグループに患者が割り当てられたかを知らない。しばしば、その様な研究はある期間、介入を行い、その後、参加者は他のグループに入れ替えられる。これは研究者達に偏向の可能性を下げさせ、治療の結果に影響を及ぼすかも知れない生活様式や遺伝子のような他の要因から分けられた治療効果を分離させるようになっている。

 幅広い公衆保健勧告はランダム化比較試験の首尾一貫した結果に基づくべきである。残念ながら、塩摂取量と健康結果との関係を調査したRCTsはわずかしかない。これらの研究は5.8 g/d以下の塩摂取量について死亡率または心血管疾患のような結果を調査していない。しかし、結果が明白に公衆保健の有害性を指摘すれば、観察研究からのエビデンスはしばしば社会への勧告メリットがある。この例は喫煙とガンとの関係である。RCTsは理論的な理由で行えなかったが、観察研究を行った研究者達は喫煙と発ガンとの間に明白でポジティブな関係を観察した。対照的に、塩摂取量と健康結果に関する観察研究の結果は不明確であった。

塩摂取量と血圧との因果関係について最強のエビデンスは一つの特別なグループで観察されてきた:既に高血圧である人々(正常血圧者では塩摂取量と血圧と関係しているエビデンスはない)。この同じグループでは、エビデンスは弱いけれども減塩と健康結果との潜在的な関係を示しているが、再び、エビデンスは不明確である。

例えば、健康結果に及ぼす塩摂取量の影響に関するエビデンスの最近のメタアナリシスで、著者らは心疾患、脳卒中、死亡率を見た5件の品質の高いRCTsだけを明らかにした。これらの5件の内:

  5.8 g/d以下の塩摂取量は観察されなかった。

  1件は全体の死亡率を調べ、入院または死亡によって示されるように、治療グループとコントロール・グループとの間に差を見出せなかった。

  2件は高血圧発症の危険率を調べ、減量と減塩は高血圧危険率を下げることを明らかにした。

1件だけが塩摂取量と心血管疾患、例えば、脳卒中、心臓発作、不整脈、心不全との関係を調べた。この研究の参加者達は全て降圧剤を服用している前高血圧の老人(60 – 80)で、半数以上が肥満であった。研究者達は参加者をランダムに次のように割り当てた;a) 減量、b) 減塩、c) 減塩と減量の組合せ、d) “通常のケアー”(コントロール・グループ)。血圧は減量グループと減塩グループ(6.1 – 7.1 g/dに塩摂取量を下げた)の両方で有意に下げる一方で、血圧管理は減量と減塩グループの人々で一番良かった。しかし、どの介入グループとコントロール・グループとの間の心血管疾患率に有意差はなかった。

前述したように、正常血圧者と高血圧者の両方で健康結果に及ぼす減塩効果を調べた観察研究を取り巻いて矛盾がある。例えば、1995年にアメリカ高血圧協会のミカエル・アルダーマンと同僚達は約4年間中程度の高血圧治療が行われている2,937人のグループを追跡した。全グループの死亡率は特に男性で塩摂取量と逆相関(減塩するほど死亡危険率が高くなる)であったことを彼等は報告した。

しかし、この研究は限られており、批判されてきた。参加者が薬剤治療で血圧を下げ、最初の尿調査を行う5日間に減塩を指示されたからである。したがって、患者の“本当の”通常摂取量を反映していないかもしれず、最高の危険率にある人々は最も強力に減塩していたかもしれなかった。

2016年研究で、1回の早朝尿試料を使っている研究者達は二つの集団の様々な塩摂取量に関する危険率を明らかにするために、60,000人以上の正常血圧者と60,000人以上の高血圧者について塩摂取量を推定した。最高の塩摂取量(17.8 g/d以上)は心血管疾患の高い比率と高血圧死亡と関係していたことを彼等は明らかにした。非高血圧者集団ではこれを明らかにできなかった。他方、低塩摂取量(7.6 g/d)も正常血圧者集団内と同様に高血圧者の死亡率増加とも関係していた。ほとんどの高血圧者集団について、血圧低下戦略として減塩が採用されるか、されないかは、カリウム摂取量の増加を含めて他の効果的な治療と組合わせて行われるべきである。

他の観察研究も多くの制限を持っているが、血圧治療の他の最近の臨床試験が明らかにしたことにその結果を加える:最高血圧(143以上の収縮期血圧)の人々については、投薬で血圧を下げることは悪い健康結果を減らすが、中程度と低い範囲の血圧である人々については、それは有益でなかった。同時に、制限があれば、高血圧者と高塩摂取量だけの人々が減塩で心臓守護利益を得ると言う仮説を彼等はやむを得ず支持するようにさせている。しかし、既に中程度または低い塩摂取量の高血圧者はさらに減塩しても同じ心臓守護利益を得られず、もっと悪い結果を経験するかもしれない。

最後に、肥満者の前高血圧患者と高血圧患者に減量と組合わせて減塩をテストする医者をエビデンスは支持している。血圧を下げる非薬物療法(例えばTONETOHP)の実験研究に基づいて、減量と組合わせた減塩はいずれか一方だけの方法(両方とも血圧を下げるけれども)よりも肥満高血圧者についてより効果的であるように思う。減量は塩摂取量に関係なく血圧低下効果を示すので、これは理にかなっている。総合的なカロリー摂取量を下げることは必然的に塩摂取量を下げ、したがって、各手法は他の効果を強めることも可能である。

その上、“穏やかな”食事による減塩は減量、そしてそれによる血圧低下に役立つかもしれない。人で減塩実験を最初に行った研究者の一人であるロバート・アレクザンダー・マッカンスが1936年に発見したように、減塩は食欲に影響を及ぼす。マッカンスと彼の医学生の何人かが約10日間、彼等自身で無塩食を食べて、発汗によりナトリウム欠乏を引き起こした。彼等の血圧と脈拍数は安定したままであったが、全ての被験者は減量と食欲を失う経験をした。果物のような通常、塩のない食品でも美味しくなく、タバコでも味がないことをマッカンスは述べた。したがって、中程度の減塩は肥満高血圧者に有益であるかもしれず、血圧に関係する減塩ではなく、多分、減量自身が血圧を下げることによる事例であるかもしれない。

 

健常人に及ぼす減塩効果

 ランダム化比較試験は観察されている通常のヒトの摂取量(14.5 g/d)以上を摂取している非高血圧者で塩摂取量に対するポジティブな投与量応答関係を明らかにしたが、これらの研究は観察されている平均的な人の摂取量範囲内で塩を摂取している非高血圧者そのような直線関係を見出せなかったことを、グラウダルらは2016年に主張した。そしていくつかの研究がいくつかのグループ、例えば、肥満のようないくつかのグループで減塩と関係したより良い結果を明らかにしてきたが、他の研究は他のグループの低い塩摂取量でより悪い健康結果を観察してきた。例えば、2件の最近の研究はタイプⅠとタイプⅡの糖尿病患者で低塩摂取量と高い死亡率とを関係付けた。

 2011年に、オーストラリアのベーカーIDI心臓糖尿病研究所のメルリン・トーマスと糖尿病合併症生化学実験室の彼のチームは10年間1型糖尿病患者についてのデータを追跡した。彼等は年齢、性別、腎臓疾患、他の要因とは関係なく、死亡率と塩摂取量との間に非線形(J字型)関係を明らかにした。彼等は、糖尿病患者が非常に低い、または非常に高い塩摂取量であれば、より死に易いことを観察した。

 同様に、メルボルン大学内分泌センターのエリフ・エキンチと彼女のチームは600人以上のⅡ型糖尿病患者の24時間尿試料をテストし、ほぼ10年間、彼等の健康を観察した。彼等はまた、塩摂取量が逆の直線様式で高い死亡率と関係していることも明らかにした。すなわち、エキンチらは二型糖尿病者で塩摂取量が低いほど、死亡の危険率が高くなることを観察した。

 前述したように、ある高血圧者については、減塩は良いよりも悪いかもしれないことをある研究は示している。高血圧で治療されている男性は塩摂取量が低いと、心臓発作の危険率が高くなることを少なくとも一つの研究は明らかにした。しかし、テストされる前に“高い塩含有量の食品を避ける”ように参加者達は教育された事実によってこの研究は限定された。最高の危険率にある人々はテストされる前に塩を制限するようにもっとも動機付けられた可能性がある。それでも、ほぼ3000万人のアメリカ人が掛かっているグループの糖尿病者間で減塩の潜在的な有害効果のエビデンスが増えていることは“全員に減塩を適用する前に注意”を喚起することをトーマスと彼のチームは研究の結論に書いている。

 研究者達はまた通常健康な人々に及ぼすいくつかの厄介な効果を観察してきた、例えば、血液の脂質プロフィールに対する潜在的に有害な変化である。例えば、2011年に、グラウダルと彼のチームは他の健康標識の中で血圧、コレステロール、トリグリセライドに及ぼす低い塩含有量の食事の効果をレビューした。低塩食(6.9 g/d以下)は低い収縮期血圧(1または2ポイント)と相関しているが、コレステロールで2.5%の増加やトリグリセライドで7%の増加とも関係していたことを彼等は明らかにした。他の研究も、健常人の減塩がインスリン濃度を高くする結果となり、インシュリン抵抗を増加させるかもしれないことも明らかにした。インシュリン抵抗の増加は糖尿病や心血管疾患の発症に関係している。

 

塩摂取量に対する不均一な血圧応答

 食事や生活様式のような多くの要因が、低塩摂取量の人々が悪い健康結果をもたらす理由に影響を及ぼすかもしれないが、一つの見方は科学界から注意が増してきている:人々は塩摂取量に対して必ずしも同じ血圧応答を示さないと言う事実である。

 数十年間、塩摂取量が変わった時、ある人々はずっと大きな血圧変化を示すことを研究者達は観察した。食事中の塩含有量が増加するにつれて、血圧が上がり易い人々は“塩感受性”とされる。食事中の塩含有量が減った時に血圧が上昇する人々は“逆塩感受性”と考えられる。しかし、ほとんどの人々は“塩抵抗性”で、塩摂取量に非常に大きな増加または減少があっても血圧には全く、またはわずかに小さな変化があるだけだ。集団内のこれらの様々な塩応答タイプの分類は未知であるが、塩感受性に関する一人の専門家、バージニア大学のロビン A. フェルダーは推定している所によると、人々の約3/4は塩抵抗性で、したがって、塩摂取量の変化に応答してほとんど、または全く血圧変化がなく、一方、17 – 25%は塩感受性で、約11%が逆塩感受性である。

塩感受性の原因。どうしてある人々が塩感受性であるかもしれない理由と、どうして血圧を上昇させるかの機構はまだ十分に理解されていない。塩感受性は多数のもつれあった要因、例えば、腎臓障害、ホルモン平衡失調、血管問題(内皮機能不全)、中枢神経系機能不全によって引き起こされるのかもしれない。基礎となるこれらの理論は一般的なコンセンサスであり、塩感受性は遺伝である。しかしその特性はいくつかの条件下でのみ現れる。レービス K.ダールが1960年代に塩と高血圧の独創的な研究を始めた時、彼は疾患の発症に遺伝的な役割を気付いた。理論をテストするために、塩摂取量に対する血圧応答に基づいて実験ラットをグループに分類して、同じように応答する者同士を交配させた-不感受性ラットは不感受性ラットと、塩感受性ラットは他の塩感受性ラットと交配させた。これを行うことによって、ダールは食事中の塩含有量の変化に対して非常に感受性がある、あるいは塩摂取量に対して完全に抵抗性であるラットの子孫を予言した通り作り出せた。今ではダールの塩感受性ラットとダールの塩抵抗性ラットとして知られており、今日でもまだ臨床テストで使われている品種である。

 塩感受性には遺伝的変異体が含まれており、変異体がどう働いているかは、まだよく分かっていないので、特別な遺伝子について幾つかの理論がある。例えば、いくつかの遺伝子の発現はナトリウムを排泄する腎機能の低下と関係している。これらの遺伝的変異体は、ある人種、例えば、アフリカ系の子孫は塩摂取量に対してどうして血圧変化に対してより感受性で、より高血圧を発症させ易いのかについての説明を提供できる。例えば、ナトリウム排泄機能を損なわせことで知られている遺伝子は白人よりも南アフリカの黒人でより一般的に発見されてきた。

 塩感受性の発生について別の説得性のある新たな理論は腸内細菌叢(消化管に生息している細菌群集)に関係している。これらの微生物は消化管内で数多くの有益な工程に関与している。例えば、未消化の食品を分解して有益なエネルギー源、ビタミン類の合成、炎症を防ぐために消化管の免疫維持に役立てる。しかし、この微生物群集内の不均衡が糖尿病、アレルギー、肥満、高血圧を含む障害に導く可能性を研究者達が次第に研究し始めた。

 例えば、いくつかの細菌がレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系を阻止できるかもしれないと感じながら、研究者達はLactobacilli helveticus (L. helveticus)で発酵させた牛乳、または高血圧患者に関する偽者の効果をテストした。使用して21週間後に、研究者達は乳酸菌で発酵させた牛乳を飲んだ人々で収縮期血圧で平均6.7ポイント、拡張期血圧で3.6 ポイントの低下を観察した。この乳酸菌株による同様の研究は同様の結果を明らかにした。例えば、L. helveticusで発酵した熟成イタリアン・チーズのグラナ・パダノを毎日少量(30 g)の定量を高血圧患者に与えた論文が今年発表された。牛乳と同じ様に、チーズを食べた高血圧患者は食べなかった患者と比較して5 – 6ポイント血圧を下げた。

 塩感受性の原因が何であろうと、塩感受性は塩摂取量と健康についての考察で重要な要因である。個人や集団について、感受性、抵抗性、または逆感受性は社会政策として有益な、または潜在的に有害な減塩であるかに影響を及ぼす。塩感受性は遺伝的素因と環境被爆の組合せによって引き起こされる。この複雑で恐らく独特の危険因子間の相互作用は、決定的な勧告値は集団の大部分については適当でないかもしれない理由を強調している。

この研究の全ては何を意味しているか?全ての集団について減塩の健康影響について幅広い同意があると何人かの研究者達は主張し続けているが、この立場を挑戦する高品質なエビデンスがある。高血圧者-特に塩感受性の人々と特に平均塩摂取量以上の人々-は食事中の塩を減らすことで利益があるかもしれない、多くの研究は、人口の大部分について、減塩が血圧または心血管の結果に良い影響を及ぼさないことを示唆している。Ⅰ型糖尿病やⅡ型糖尿病(アメリカ人口の10)のような人では、減塩は悪い健康結果をもたらすかもしれない。

 この不確実性は全人口に勧告するには注意を要し、平均値から健常人について政府と保健機関が勧める低い値までの減塩による実際の健康効果を調べるランダム化比較試験を要求する。

 塩摂取量がヒトの健康に及ぼすことを示唆している多くの研究があるが、健康にどう影響するのか、どのくらいが最適摂取量か、そしてどのような人について減塩が有益かまたは有害かは明らかでない。したがって、全ての人々にヒトの集団でほとんど聞いたこともない低い塩摂取量まで減らさせようと試みている現在のアメリカの努力はいくら良く見ても無駄である。最悪の場合では、減塩はアメリカ人に影響を及ぼし、健康に良くない方向へ食事を変えるかもしれない。

 

高血圧と戦う代替法

 塩摂取量に関する多数の研究は確定的ではないので、血圧に及ぼす塩摂取量の効果を調べている研究の多くは-研究は塩摂取量の効果に関して一致していないが-様々な食事成分がナトリウム、そうでなければカリウムと同じ様に健康結果で重要な役割を演じているかもしれないことを一貫して観察してきた。肥満、慢性脱水症、そして消化管細菌群集のような高血圧発症に関係している他の要因と取り組むことに加えて、カリウム欠乏を修正することは高血圧を治療し予防するための新しい道を約束することを提案している。

 ストラズロの研究目的は塩摂取量と心血管危険率との関係を観察した研究を調べることであったが、13研究の中で5研究がカリウムの役割も考察して解析し、死亡率とほとんどない健康結果と食事中のカリウムとの間に逆相関を明らかにした。2014年にグラウダルが考察した追加的な12研究の中で、3件はカリウムと血圧との関係を調べ、カリウム摂取量が高いかまたはカリウム対ナトリウムの比が低いか(カリウム量がナトリウム摂取量に近いことを意味する)のいずれかが心血管疾患、脳卒中、死亡の低い危険率と関係していることを明らかにした。

 オドンネルと同僚達による2013年の将来の都市農村疫学研究は、カリウム摂取量が総合的な死亡と逆相関しているように思える-カリウム摂取量が高くなるほど、参加者の心血管疾患または他の原因で死ぬことが少なくなることを明らかにした。同様に、クックらはごく最近の解析で、塩摂取量の増加と悪い健康結果との間に直線関係を明らかにしたが、ナトリウム-カリウム比は健康結果のより強い予言要因であることも明らかにした。

 研究者達は、カリウム、カルシウム、マグネシウムを含む他の栄養素は血圧と健康結果に役割を演ずるかもしれないことを長い間疑ってきた。それらのミネラルの役割のエビデンスが増加してきたにもかかわらず、人口の血圧を下げようと努めている社会政策にエビデンスを適用することにはあまり注意を払ってこなかった。しかし、大きく減塩させようとするよりもこれらの栄養素の一つまたは全てを増やす方が容易であるかもしれない。

 例えば、2003年の1研究は、約1,700 mgのカリウム摂取量を増加させることが、1,700 mg/dの減塩するよりも血圧を下げることに実質的に有効であることを明らかにした。カリウムと他のミネラル摂取量を増加させることは老人、黒人患者、高血圧でない人々で血圧を下げるのに明白に有効である。これは重要な結果である。何故なら、CDCによると、アメリカ人口の98%はカリウム欠乏である。過剰なナトリウムとは反対に、栄養素欠乏は血圧上昇の原因となるかどうかを訝る一つの考え方である。少なくともいくつかの集団では、この欠乏は糖尿病や代謝症候群のような他の疾患の発症におけると同じ様に高血圧で役割を演じているかもしれないことをエビデンスは示している。さらに、食事ガイドラインに向けての最近の研究は、多くのカリウムの多い食品もかなりの量のナトリウムをふくんでいるので、ナトリウムについて勧められている最高値を守ることは実質的には不可能であり、ナトリウム量をカリウムについての最低必要量に合わせるようにしている。

 体格指数は高血圧の別の主要な予想因子である。これはアフリカ人の子孫に特に重要で、彼等は高血圧についての危険率が高く、非ヒスパニック系白人よりも肥満にもなり易い。事実、血圧に及ぼす減塩と減量の両方の効果を調べてきた研究は、減量は減塩よりも経時的に血圧に及ぼす効果がより大きいことを明らかにしたが、両者の組合せはいずれか単独の適用よりもより効果的であった。

 高血圧と他の疾患は西欧社会では塩摂取量に関係なく非常に流行している理由を説明しようと努めているもう一つの理論が慢性脱水症である。例えば、フランスのロレーヌ大学の高血圧研究者サイモン N. ソーントンの示唆では、少ない血液量が治療されなければ、塩摂取量を減らす最も大胆な努力でもレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系の活性を止められない-したがって、ホルモンの活性は血管収縮、高血圧、そして悪い健康結果を来す-。これは示唆に富む理論である。RAASと潜在的に上昇した血圧は脱水の結果として慢性的に少ない血液量で引き金を引かれるかもしれないからである。そして最近の研究は、RAASによって放出されるホルモンは血圧に及ぼすホルモンの効果とは関係なく、合併症と関係していることを示している。水分摂取量の増加は長期間の水分低下を来すと言う考えを支持するエビデンスはほとんどない。しかし、前述したように、それは、人々を殺し、心臓発作や脳卒中のような疾患に関係している高血圧ではない。

 水分摂取量の増加は血圧に及ぼすその効果に関係なく、より良い心血管疾患の結果と関係しているエビデンスがある。例えば、多い水分摂取量は致命的な冠状心疾患と逆相関にあるように見え(すなわち、多い水分摂取量の人々は冠状心疾患になりにくい)、そして脳卒中に続く死亡率である。疾患管理予防センターによると、アメリカ人の75%もの多くが十分な水を飲まず、慢性的に脱水症になっているかもしれない。水、血液量、RAAS、ナトリウム間の相互作用を考えると、慢性脱水症は高血圧に関連した結果に役割を演ずることはもっともらしい。カリウムの豊富な野菜や果物の摂取量増加に加えて、水分摂取量の増加は全人口の高血圧に関連した危険率を下げる新しい戦略を提供するかもしれない。

 ますます矛盾する研究と40年間の社会政策がアメリカ人の塩摂取量を変えることに失敗したことに目覚めて、前述した方法は人口レベルで高血圧危険率を下げ、健康を改善する手段として考える価値はある。

 

結論

 減塩努力の難しさや限られた成功を考えると、大きな減塩からの結果による不確実な健康結果、カリウム摂取量、減量、水分摂取量といった代替え法の有効性を指摘する確かな臨床的エビデンスは、現在実行されている方法よりも全人口の高血圧について政府勧告でもっと注意を注ぐべきであることを示している。

 塩と健康問題に取組む時、我々は案外ほとんど知らない。しかし、塩摂取量に対する個人の応答は前後関係で決まることを示す十分なエビデンスがある。ある人々は減塩に上手く応答し、一方、他の人々はネガティブな結果を示すかもしれず、大多数の人々は全く反応を示さない。完全でもなく、決定的でもないが、この新たなエビデンスは塩または高血圧危険率低下に関して一律の勧告をする前に、保健当局に中止を求めるべきである。

 高血圧を予防または治療する一番良い方法は、個人に特有な遺伝体質と生活様式に合った個人案を作り、その変化を効果をモニターすることである。非常に多くの塩を摂取する老齢の高血圧者のような人々については、この案は減塩を含むかもしれない。しかし、現在のエビデンスに基づくと、減塩は大部分の人々の血圧低下に有効ではなく、健康の改善に役立たない。この方法に集中し続けることは他の戦略を隠し、特にカリウムを増加させることで、血圧低下に有効であることを繰り返し示してきた。何が塩摂取量を促すか、高塩摂取量が持っているかもしれない利益、個人や集団の健康に関して低塩食が持っているかもしれない効果についての現在の我々の限られた理解では、全人口に減塩を押し付ける我々の現在の政策は無効である。

存在するエビデンスに基づくと、政府当局と保健機関-それらが何かしようと思えば、-は減塩だけの方法を止めて注意の方向を変え、その代わり、人口の大部分について正味の利益をもたらすことを約束し、意図しない悪い結果をもたらさない食事戦略を強調する。現在の研究に基づいてカリウムや他の栄養摂取量を増加させる果物や野菜からの毎日のカロリー摂取量をもっと増加させるように人々に勧めることは、悪くて意図しない結果をもたらすことなく大部分の個人について血圧低下をもたらすだろう。果物や野菜を通して水やカリウムの増加に集中する方法は、消費者がかなりの減塩に従うよりも容易であり、血圧低下に加えて健康利益をもたらすことを約束するかもしれない。

 

原文では以下、ノートとして2016年までに発表されている196件の引用文献が続く