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塩と健康

塩協会ニュースレター 2011第一四半期

塩と加齢

Morton Satin

塩協会副会長 科学研究担当

 

“退職後の老後を低塩食で過ごすと、晩年を長い慢性病で送ることになろう”

50年間、老人患者を治療してきたカナダの心臓病学者は書いた。老齢者が低塩食の代わりに通常食を食べていると、実りある楽しい人生をしばしば終わらせることになる転倒や骨折は劇的に減るだろうと彼は思った。彼の長い個人的な経験に基づくと、減塩食は低ナトリウム血症(血液中のナトリウム濃度が低い)や錯乱、意識低下のような危険な状態を引起すと思った。

 彼自身の個人的な経験から彼は関心事を書き記しておこうと思った。心臓病治療で49年間の実りある経歴を積んだ後、彼はたまたま海外旅行を転機にして早期退職を考え始めた。もはや誰とも老後を分かち合う必要はなく、彼の娘は、料理や洗濯といった日常の雑用で悩まされないような快適な退職後の家庭で生活させることが一番良いと考えた。退職後、家庭に入ると、昼食は1時、夕食は5時と、彼は早くから低塩食を食べ、腹も減らず、早く寝た。2,3ヶ月も経つと彼はまったく食欲をなくし、午後には眠くなり始めることに気付いた。時が経つにつれて彼は次第に怠け者になった。

 後の分析で、低塩(塩化ナトリウム)食は胃の消化液を正常に出すほど十分な塩化物を供給していないと彼は思った。胃液を十分に出さないことがビタミンB12のような鍵となる栄養素を十分に吸入できないで、ネガティブな効果の連鎖を起こし、そのことが次には赤血球細胞の製造を減らし、神経や筋肉の神経障害を発症させると彼は思った。

 この現象で一番悪い場合には、安定性と平衡感覚が失われ非常に転倒し易くなる。事実、大腿骨骨折、肋骨骨折、頭蓋骨骨折を伴う転倒率は現職時に比べて退職して家や老人ホームにいる時の方が2,3倍になる1

 退職して家に閉じこもり出して2,3年して彼は転倒し大腿骨を骨折した。手術後に歩行器を使わざるを得なくなったが、数ヶ月内に再び転倒し(この度は歩行器を使っていた)、肩甲骨を折った。

 彼に関する限りこれが最後であった。医師であったので、彼は基本に返って治療する決心をした。調べてみると現われた最初の症状は慢性低ナトリウム血症と脱水症状であった。彼は低塩食を止めて、通常食に戻った。これは直ぐ食欲、人生の関心事、エネルギーを取り戻すのに役立った。彼は規則的に運動を始め、低塩食による症状と思っていた車椅子とベッド生活をどうにか避けようとした。

 これは我々以外の人々にはほとんど関係のない単なる一部の逸話的な説明であると思うかもしれないが、そうではない。

 我々は現在、歴史になかったほどの長生きをしている。1940年と2040年との間で、85歳以上の集団は40倍に増加するだろう。事実、集団で最速の成長区分の一つは85歳以上の人々である。彼等は2000年には全老人の約12%を占め、2040年までに20%まで増えると予測される2

 この老人人口の急速な上昇のために、老人問題は急勾配で着実に上昇している。転倒、骨折、認識力と注意力不足、感覚障害は今や一層当り前になりつつある。

 軽い低ナトリウム血症は老人では電解質不均衡の最も一般的な形であり、歩行障害、注意力不足、高頻度の転倒と関係していることが示されてきた。事実、最近、軽い低ナトリウム血症と転倒、骨折、不安定、注意力不足との間の直接的な関係を見出した多くの発表がある3,4。転倒は老人で大きな社会経済的な問題である。65歳以上の人々の約30%は毎年転ぶ5,6。老人で障害に関連した転倒は多くの心理学的、肉体的結果と関係しており、死亡や不具の主要原因である。転倒はまた事例の46%で骨折と関係しており、大腿骨骨折患者7でほとんどの場合、約2%で転倒の合併症で死に至る。65歳以上の人々の全ての入院患者のほとんど5.3%が障害と関係した転倒によるものである8

  老人は低塩食を食べるようにという幅広く無差別な勧めを極力注意深く考えるべきである。十分なサラダ、野菜、果物を含む良くバランスの取れた食事が健康で活動的な退職を楽しむ最良の道である。

 

Kamel, H.K., “Preventing Falls in the Nursing Home,” Annals of Long-Term Care, 14(10), Oct,

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