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塩と健康

塩協会ニュースレター 2010第一四半期

塩欲求

Morton Satin

 

 塩または塩化ナトリウムは必須の栄養素であるという事実を論ずる人は誰もいない。ナトリウムと塩化物の両イオンは幅広い多くの代謝過程に係っているが、体内の外部循環系を通して心臓が血液を循環させるに十分な浸透圧を確実に血漿が維持するようにすることが塩の基本的な役割である。必要以上に摂取した量の塩は腎臓を通して速やかに排泄される。十分な塩が摂取できない時には、腎臓はナトリウムをろ過した尿からナトリウムを回収し、それを再び循環系に戻す。代謝の静的モデル(失った分だけの置き換えに必要)に基づくと、我々の要求を維持するには我々は1日当たり僅かに500 mgだけのナトリウム(1,300 mgの塩)を必要としていることを現在の参考摂取量は意味している。しかし、塩摂取量が1日当たり2,500 mgのナトリウム (6,520 mgの塩) 以下に下がったときは何時でも、複雑な塩管理系は活性化される(前の2件の塩と健康ニュースレターで解説1,2)。言換えれば、塩摂取量が食事参考摂取量の最少量の5倍以下に低下した時は何時でも塩の回収を始めることが生物学的に行われる。食事参考摂取量勧告に合っていない何かがあり、我々の体内の塩要求量についてもっと学ぶ必要あると警告されている。

 2003年に、the Institute of Medicine's Dietary Reference Intake's Electrolyte Committeeは食事中の安全な上限ナトリウム量として2,300 mg/dayを目標とした。2005年の食事ガイドラインは健康な成人に同じ量を、高血圧の危険性を持った人については1,500 mg/dayを勧めていた。両方の事例で、最も重要な関心は高血圧におけるナトリウムの役割であった。その数値に到達するために使われた証拠の質のため、その基本的な理由はまだ論争中である。高血圧に及ぼす長期間継続する食事の影響と同様に、カリウムのような他の必須栄養素の混乱効果はまだ未解決のままである。

 塩摂取推奨量の不十分な点のほかに、高血圧問題を扱うために選ばれた食事戦略は明らかに疑問である。地中海型のDASHは他の多くの健康問題と同様に高血圧を減らす最も有効な介入であるという意見の一致があるが、低塩食によるレニンーアンジオテンシンーアルドステロンのホルモン系の活性化から来るネガティブな健康結果を示すにもかかわらず、減塩だけに集中することは最も有効な方法であることを食事ガイドラインは決めた。

 成人が食事でナトリウムの減らし方を知り、幅広く低ナトリウム食品が利用できれば、多くの人々が推奨値を達成できると食事ガイドライン勧告委員会はさらに仮定した。事実、世界中の公衆保健官僚は食事ガイドラインのナトリウム推奨値に大いに従うための戦略を提案してきた。

 例えばアメリカ合衆国では、医薬研究所はナトリウム摂取量を減らすための戦略を開発する業務を特に与えられた特別な委員会を設立した。顕著ではないが、いくつかのアメリカ合衆国の市はトランス脂肪酸摂取量を下げるための方法と同様の方法で食品中のナトリウム含有量をコントロールするための計画を推進し始めた。ニューヨーク州の1議員は全てのレストラン食の調理で塩の使用を全面的に禁止することを推奨さえした4。例外なく、これら全ての提出議案が仮定していることは、推奨目標値までナトリウム摂取量を減らすことはヒトの生理学と十分に一致しており、入手できる食べ物の選択には問題ないとしていることである。

 しかし、入手できる事実は戦略の背後にある論理に疑問を呈している。最近、公衆政策がナトリウム摂取量を修正できるかどうかという疑問が研究された。この疑問の方向は塩と健康の論争を続けて行く上の中心である。減塩提案を進めて行くことに大きな努力が払われるようになって以来、提案が意図した目標を達成できれば、何らかの兆候を得ることは確かに価値がある。利用できる事実が政策で進められる減塩が可能かどうかの手掛りを用意できるかどうかを最初に決めないで減塩政策提案に多くの時間と費用をつぎ込むかどうかは滑稽である。

 塩欲求が公衆政策によって修正できるかどうか、我々の代謝・生理系の最適機能を確保するために進化してきた生理学的に確立されたパラメーターが塩欲求であるかどうかと言う疑問に取り組まなければならない。この疑問は、前のナトリウム推奨値を正当化したナトリウム摂取量を低下させることから得られる予想される血圧利益とは関係ない。食事ガイドライン推奨はそれについての特別な1面を扱うのではなく、我々の生物学的な面も扱わなければならない。食事勧告を完全に無視した多くの他の生理的過程にナトリウムが関与していることを我々は知っている。ナトリウム摂取量の自然な生物学的にコントロールされた範囲が存在すれば、それは最適な健康状態と一致しており、したがって、その事実はナトリウム摂取量についてのガイドラインを確立するのに優先する。一つの危険因子に焦点を置いた公衆政策の実行を通して生物学に勝とうとする考え方は本質的に危険であり、ヒトの健康に有害であるかもしれない。

 ナトリウム欲求に関する数十年間の研究は、それが我々の生理学的過程を通して密接にコントロールされていると言う概念を支持している。脳の多様な中心に埋め込まれた複雑な神経ネットワークは神経やホルモンの信号を通していくつかの器官からの入力を調整する。

 塩摂取を管理する場所におけるいくつかの生理学的機構を示す実験的事実に加えて、最近の数十年間にヒトの実際の塩摂取の解析から付加的な事実の情報が導かれた。それらのデータは“自然な生物学的にコントロールされた”ナトリウム摂取量の範囲がヒトで定義されるかどうかを決定する好機を提供している。イギリス食品標準局(FSA)はイギリスの様々な地域のナトリウム摂取量調査を行うために24時間尿中ナトリウム排泄量(UNaV)を使用した多くの調査を行った。これらの数値はthe Clinical Journal of the American Society of Nephrologyに発表されたMcCarronらによる最近の論文で述べられた5

  1984年から1985年にインターソルトはベルファースト、バーミンガム、サウス・ウェールスで調査を行い、各調査は男女参加者のほとんど理想的な代表を表していた。これらの調査をレビューすると、特にこれらの調査を行った15年から20年の間、ナトリウム摂取量はイギリスで明らかにほとんど変わらなかった。

1984年から2008年の期間中の平均ナトリウム摂取量は150 mmol/day(9 gの塩)であった。McCarronらは性別データが利用できる男女についての範囲を調査し、女子は平均129 mmol/day(7.7 g)、男子は169.4 mmol/day(10.1 g)であることを知った。イギリスから利用できた全ての24時間尿中ナトリウム排泄量の統計解析は、国民のナトリウム低減運動は集団で有意な低下を達成した6という最近の食品標準局主張を支持していない6

McCarronらが32ヶ国52ヶ所からの10,079人を含む有名なインターソルト・スタディからのデータをレビューしたとき、成人のナトリウム摂取量は下限117 mmol/day(7 g)と上限212 mmol/day(12.7 g)との範囲にあり、平均値は162 mmol/day(9.7 g)であることを知った。

成人はこの“自然に生理学的にコントロールされた”ナトリウム摂取量の範囲を自然に探しているという考え方を他の研究は支持している。高血圧予防試験U(TOHPU)は研究で594人の被験者にナトリウム制限食を食べさせた。試験開始時の被験者の平均24時間尿中ナトリウム排泄量は186 mmol/day(11.2 g)であった。十分なカウンセリングをしてから、目標ナトリウム値として高血圧予防試験U目標は80 mmol/day(4.8 g)を設定した。しかし、3年間の介入期間で最初の6ヶ月後に参加者はナトリウム摂取量を120 mmol/day(7.2 g)以下にすることは出来なかった。その値は、McCarronらの論文が自由に生活している成人で達成されるだろうと示した下限値に非常に近かった。次の30ヶ月間でナトリウム低減目標を達成させるために設計されたプログラムに参加し続けていたにもかかわらず、参加者の24時間尿中ナトリウム排泄量は138 mmol/day(8.3 g)の値まで戻ってきた。

“自然な生理学的にコントロールされた”塩摂取量についてのさらなる事実は世界中の男女間の塩摂取量の差から示される。

1日当たりの塩消費量 g

男子

女子

ナトリウムの差

スイス

10.6

8.1

2.5

980 mg

イギリス

11.0

8.0

3.0

1,177 mg

イタリア

11.0

9.4

1.6

628 mg

フィンランド

10.5

8.2

2.3

903 mg

アメリカ

10.9

7.7

3.2

1,226 mg

世界中の研究は次のことを繰り返し示してきた。総カロリー摂取量に関係なく、男子は女子よりも有意に多くの塩を摂取している。世界で住んでいる所に応じて、女子は男子よりも1日当たり800-1,500 mg少ないナトリウムを摂取している。アメリカ合衆国では、この差は1日当たり約1,226 mg少ないナトリウム量である。運動量や発汗量の差はこの変動の理由ではないので、この現象についての受け入れられる説明はまだない。一方、世界のどこでも男女の血漿ナトリウム濃度は同じであり、男子は女子よりもずっと多くの塩を摂取し、排泄する。これはどうしてだろう?食事中の加工食品の量は世界中でかなり変化し、その上、どの国でも男女は同じ物を食べているので、これは加工食品中の塩含有量によるためではない。一方、血圧を維持する他にナトリウムの特別で性別で変わる生理的な機能はこの現象を説明しているが、これはまだ発見されていない。

食事摂取量と健康結果との間に確立された関係は、人間の生理が公衆政策によって減らせそうにない最低限のナトリウム量を要求しているという原理と一致している。30ヶ所以上の異なった文化的背景を持つ多数集団調査からのデータは成人で限定された狭い範囲のナトリウム摂取量について説得性のある事実を提供している。この範囲は生理学的にコントロールされているように思われるので、それを変えようと意図した公衆政策提案に従わせることは出来そうにない。残念ながら、このことで愚行の行進は止められそうにない。提案に対する警告の事実を全て無視する公衆政策提案に歴史は満ちている。

生理学的に決まっている塩消費量を超えるか超えないかという基本的な疑問を公衆政策が無視することは、達成されない目標に国家資源を注ぎ込み、望ましい結果を達成するために知られた解決策から注意を逸らす。

 

引用文献

1.Salt and Health Newsletter on Aldosterone

2.Salt and Health Newsletter on Salt Appetite

3.Dash Diet Reference

4.Felix Ortiz wants to ban use of salt in New York Restaurants

5.D. A. McCarron, J. C. Geerling, A. G. kazaks and J. S. Stern, “Can Dietary Sodium Intake Be Modified by Public Policy?” Clin J Am Soc Nephrol 4: 1878-1882, 2009.

6.FSA Dietary Sodium Levels Survey