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塩と健康

塩協会ニュースレター 2010第二四半期

塩は苦味を快く感じさせる

Morton Satin

 

 生活の一般的な喜びに寄与する快楽的な贅沢品に勝るものとして、ほとんどの人々が普通に味覚を考えている。視覚や聴覚のような我々の全ての他の感覚系と共に、味覚は我々の生存に対して重要な要素として進化してきた。大多数のほ乳動物で、味覚受容器から生ずる信号は我々の栄養生理の管理に大きく寄与している。我々の生理に対する味覚の寄与を平凡化すべきではない。我々が食べたことのある食べ物を飲み込むか、吐き出すかのどちらかの決定に味覚は関与しているからである。

 ヒトでは、味覚をコントロールする器官は舌であり、それは舌に味覚の大まかな特徴を与える乳頭と呼ばれる濡れた小さなピンク色の突起で覆われている。味覚受容器を持った何千個もの味蕾が乳頭の表面を覆っている。コレラの味覚受容器は神経を通して脳に?がっている。

 アメリカ人の約25%は非常に味覚が発達しており、異常に多くの味蕾を持っている人々である。この数多い味蕾は食べ物の味覚に興味深い影響を及ぼす。食べ物の嗜好は味蕾によって影響され、したがって、それは食事行動と、その結果により疾患危険率に影響を与える。

 通常の味覚者と味覚感度の良い者をどのようにして区別するか?味覚感度の良い人は平均的な人よりもはるかに強い刺激で味を経験する。婦人はアジア人やアフリカ人が持っているように比較的高い味覚感度を持っている。この強化された味覚感度の原因は舌の上の乳頭または味蕾数の増加によるものと考えられている。味覚感度が良くなる進化的な利点は不明である。原始社会では、強化された味覚応答、特に苦味に対してはいくつかの有毒な植物アルカロイドを避けるという重要な利点を持っている。しかし、現代では、苦味に対する強化された応答はマイナスであることは明らかで、その理由は受け入れられる食べ物の範囲を制限し、苦くて濃い緑の野菜を除いて多くの最も栄養の高い野菜を非常に不味くするからである。

 

通常の味覚者と味覚感度の良い人の舌の先端

 塩または塩化ナトリウムは天然の最も有効な苦味抑制剤の一つである。苦味抑制の機構を解明しようとする努力で、研究者達はいろいろな塩化物とナトリウム塩類を使っていろいろな苦味化合物と味覚相互作用との研究を行い、苦味を抑えるのは塩の中のナトリウム・イオンであることを見出した1。その結果、提案された食塩代替物の多くは、多くの非常に価値のある食べ物の苦味を減らすには役立たないだろう。

 現在の減塩志向の波は消費者の食べ物選択に影響を与えることが無くなるかどうかに関して多くの推測が行われてきた。Hayes2による最近の研究論文は、食物中で広い範囲に塩量を変えて味覚感度の良い人の応答を調べた。一般的に苦味に対して感度が高くなってくると、これらの味覚感度の良い人達は自然にいくつかの野菜や自然に苦味を持った他の食べ物を避けるようになるかもしれない。研究者達は食べ物の摂取量と塩辛さの変化との関係を調査した。

 味覚感度の良い人達はチップスとプレッツエルと通常のナトリウム製品とを比較できる量の出し汁の塩辛さが大きくなり、チーズ中の塩濃度を増加させた変化との関係が強くなることを報告した。研究者達は高塩食品との関係強化を次のように説明した。味覚感度の良い人達は、健康に良いと思われる野菜や他の食べ物を含めて、自然に苦い食べ物の苦さを抑えるために塩の使用量を増加させるからである。減塩はこれらの食べ物を味覚感度の良い人達には美味しくなくし、結果として彼等の栄養摂取量に悪い影響を与えている。

 多分、この最も有名な例はGeorge H. Bush元大統領だった。彼はブロッコリーを嫌ったことで知られている。彼は味覚感度の良い人と多くの人々は思っている。しかし、ブロッコリー、キャベツ、ケール、芽キャベツのように栄養はあるが、苦い野菜を拒むかもしれないのは味覚感度の良い人達だけであろうか?それが事実であるようには思えない。

 
  
  アメリカ大統領の私はブロッコリーを食べない。

 オハイオ州立大学3で行われた最近の研究で、調理されたブロッコリーが3つの異なる年齢グループの人々に与えられた:1) 9 - 12歳の子供;2) 18 - 55歳の大人;3) 60歳以上の老人。ブロッコリーの小さな花は塩の添加量を変えて調理された。その結果、子供と老人については、ブロッコリーについての味覚嗜好は85 gのブロッコリーに対して350 mgまでは塩量の増加に伴って増加し、これらの2グループについて使われた塩量は最高だった。

 18 - 55歳の大人はブロッコリー85 g当り350450 mgの塩を加えて幾分はみ出したより高い味覚嗜好を示した。その値以上では、味覚嗜好は加えられた塩の最高750 mgで平らになった。

 

   オハイオ州の若い味覚検査者

 奇妙なことに、子供と大人について塩の量が増加するにつれてブロッコリーの苦味は減少したが、老人はどの塩の量でも苦味の差を見分けられず、苦味の受入れは通常年齢に伴って減少するが、塩味との関係は増加することを示した。

 これらの結果に基づくと、集団全体で食品中の塩を減らすことを進める政策は、栄養のある食品を選ぶ、または苦味を減らすために塩振り出し器に手を出すことを除いて、より苦いものを避ける集団応答に帰着しそうである。

 この考え方を拒否するいくつかのことがある。個々人はより低い食塩摂取量に慣れることが出来ると主張するだろうが、この考え方を支持する研究は非常に小規模の試料グループで行われてきた。イギリスの極最近の塩販売量の報告は大いにもっと語っている。

 何年間もイギリスの食品標準局は,食品標準局が必要と考えているよりも食品製造者の製品が多くの塩を含んでいる製造者を名指して恥をかかせる戦略で減塩運動を行い、大きな成功を収めた。2001年の9.5 g/dから2008年の8.6 g/dに成人の平均食塩摂取量が低下したことを食品標準局の解析調査は示している、と強く主張している。したがって、減塩運動は上手く行っていることを証明している。しかし、この数字は不正確で矛盾しているものとして論争されてきた5

 イギリスの塩小売販売に関するNielsonKantar WorldPanelによる最近の2つの報告(2010)がもっとよく語っている。Nielsonはイギリスの塩小売販売量(調理、食卓、海塩を含む)18%の上昇を主張し、一方、Kantar WorldPanelが主張する量は26.5%も上昇した。

 ここでは何が起こっているのだろうか?消費者が塩振り出し器で味を調えることによって加工食品の減塩が達成されていることはありえるのだろうか?塩欲求についての神経機構は計り知れない年月の間に進化してきたことは、確かにこれが事例であることを示している6。事実、塩協会はまさにこの問題に関してニュースレターで多くを発表してきた7,8,9。多数の科学的事実は、塩の摂取量を調整し塩を好む生理学的な機構を自然に進化させてきたことに公衆政策が取って代われる、という意見に同意できないように思える。

 公衆政策が個々人の塩振り出し器の使用を禁じない限り、食品の選択には悪い影響を与えないだろう。苦い食べ物を栄養あるものにして食べやすくするための個々人の権利は常にあるからである。しかし、何人かの政策立案者達は我々の生活を完全に管理しようとする運動について禁止していない。彼等はまったく喜んで我々の中から塩振り出し器を閉め出そうとしているように思える。驚くまでもなく、我々は実践中のこの乱暴な食品政策を見るために、その世界は典型的なグルメ味(穴の中のヒキガエル、ハギスやカブラ、ソーセージやマッシュポテト、鼻血として屈辱的に知られているジャムの塊を付けた米プディングのスープ)を有名にしたイギリスに行かなければならない。

 イギリス食品標準局は4百万ポンドを継続的に広報活動につぎ込んで活気付けたので、教育大臣Ruth Kellyはイギリス労働党の2005年会議で着手されたジャンク・フードに関する彼女の非難で学校における塩の使用を追放した。(その後、彼女は直ちに政府を去って、家族と過ごす時間をもっと増やす必要があると主張し、逸早くロンドン銀行で年俸200,000ポンドを得た。)テレグラフ紙に書いているが、ジャーナリストのPaul Easthamは、食塩振出し器について学校の禁止以来、野菜が非常に単調になったので、彼の14歳の娘は野菜を食べなくなったと訴えた。

 “よそわれた野菜の全て良い物はさらの上に手付かずで残り、つまり、栄養素、健康に良い物、お金は完全に失われる。野菜はみな美味くないからだ…私の娘は学校では味のない野菜には触れないが、塩を使ってもよい家では、彼女は全部食べる。10

 これはどの様にして塩が苦い物をとても美味しくするというまさに求められてもいない別の事例である。

 したがって、減塩を規則で取り締まろうとする間違った強制はイギリスが行っているような望ましくない極端な処置には決してならないという希望を持たせる。希望が持てるならば、減塩から起こる予期しない健康上の結果が次第に増えていることに対してあまり良くない食べ物の選択という挑発を我々は加えなければならない。これからのニュースレターにふさわしい話題である。

 

引用文献