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塩と健康 
Vol.4 No.1  Winter 2009

鬱血性心不全

By Morton Satin − Salt Institute

 

 心臓の第一の機能は身体のあらゆる部分に血液をポンプ輸送することで、栄養素、酸素を組織に運び、老廃物を除くことである。身体が休んでいる時でも、この機能を遂行するために心臓はある量の血液を必要とする。運動中や身体に大きな需要が生じた時に、より多くの血液が必要とされる。この需要を満たすために、脈拍数は増減し、多くの血液を運ぶために血管は拡張し、あまり血液を必要としない時には収縮する。

 心疾患と診断されると、心臓の鼓動が止まることを意味するのではなく、心臓が十分な機能を発揮できないのである。言い換えると、“不全”という言葉は、運動中や休息中のいずれの場合でも心臓が身体に必要な酸素の多い血液を十分効果的に供給できないことを実質的に意味している。鬱血性心不全という言葉はしばしば心不全と同義語であるが、低下した心機能が肺や他器官の体液の鬱血蓄積を伴う状態も言っている。

 1950年代以来、鬱血性心不全の人々のための最高の食事介入基準は低塩食であった。食事+“鬱血性心不全”についてグーグルで検索すると、50万件以上の文献がヒットし、それらの全ては実質的に低塩食を勧めている。これは、低塩食が明白な血圧治療であるというほぼ異議のない解釈と十分に合っている。

 しかし、治療方法に関するコンセンサスは、治療が正しいことを必ずしも意味していない。食事中の飽和脂肪を減らす必要性に関して1970年代は同様のコンセンサスを得たが、その後、より総合的な研究でこの概念は間違っていることが分かった。矛盾のない高品質の研究だけが必ず特別な治療法を確立できる。鬱血性心不全の場合はこれに当たるだろうか?

 鬱血性心不全は多くの原因で生ずる:

       心筋へ血液を供給する狭い動脈、または冠状動脈疾患

       過去の心臓発作、または心筋梗塞、心筋の正常な作動を妨げる傷のある組織

       高血圧

       過去のリウマチ熱または他の原因による心臓弁膜症

       心筋自身の疾患、心筋症と呼ばれる

       先天的な心臓欠陥

       心臓弁の感染、そしてまたは心筋自身(心内膜炎そしてまたは心筋炎)

 鬱血性心不全の人は精一杯努力できない。息が切れて疲れるからである。心臓から流れ出る血液が少なくなるにつれて、静脈を通して心臓へ戻る血液は逆流し始め、組織で鬱血を引き起こす。その結果、しばしば腫れや浮腫が起こる。しばしば体液が肺に溜まり、呼吸を妨げ、特に休んでいるときに息切れを起こす。もっとしばしば足やくるぶしに腫れが生じるが、身体の他の部分でも生ずる。鬱血性心不全はまた、ナトリウムや水を排除する腎臓の能力にも影響を及ぼす。この保持された水は身体の浮腫を増加させる。

 身体の中の一つのシステムが上手く働かなくなると、問題を解決しようと他のシステムが取って代わろうとする。心不全の場合、いくつかの補償タイプが可能である。第一に、心室が拡大し、心臓はより強力に脈動し身体に必要な血液を送り出す。そのうちに働きすぎた心筋は拡大し(ウエイトトレーニング中に多くの骨格筋が大きくなるよう)、心臓がより強力にポンプで送り出せるように強力な心筋を作り出す。第二に、心臓はよりしばしばポンプで送り出すために刺激され、それによって心臓の拍出量を増加させる。

 第三に、レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系と呼ばれる補償機構が作動し始める。心臓からの血液量(心臓拍出量)が少なくなると、腎臓を通過する量が減る結果となり、塩分や水を保持させるように腎臓に働きかけるホルモンを分泌させる系を刺激するように腎臓は応答し、それによって血液量を増加させる。これは心臓拍出量の低下を補償する試みである。身体が過剰の血液量を循環させるように試みることによって、これは血圧を上昇させ、十分な酸素が脳、腎臓、その他の重要な器官に届くことにもなる。

 これらの補償機構は心不全の初期段階で心臓機能の欠陥をほとんど正常に維持する。しかし、疾患が進めば、補償機構は適当な循環を維持できない。心臓が肥大し、激しく作動し、終には壊れる段階に至るまでには何年もかかる。多くの場合、患者は高血圧であるので、症状が十分に治療されれば、心不全は予防できる。

 ニューヨーク市のアルバート・アインシュタイン医学校で行われた長い家系調査の後で、前に鬱血性心不全を患った人が低塩食を食べると、彼等は通常塩分食を続けていた人よりもはるかに悪い状態で暮らしているという観察を支持する新しい2件の研究が発表された。

 Salvatore Paterna博士らによって書かれた最初の論文は2008年末に雑誌Clinical Scienceに発表され1、“鬱血性心不全を補償する低ナトリウム食と通常ナトリウム食の比較:ナトリウムは古い敵なのか、それとも新しい友なのか?”という論争的な表題であった。

 この研究の終点は、鬱血性心不全を経験した患者が開放された後で、病院に再入院し通常ナトリウム食(1日当たり2,760 mgナトリウム)と低ナトリウム食(1日当たり1,840 mgナトリウム)との間の差を評価することであった。この研究の期間は180日であった。

 研究が結論に達したとき、通常ナトリウム食を食べていたグループは低ナトリウム食を食べていたグループと比較して有意に入院期間が短いことが分かった。低ナトリウム食の人はアルドステロンと血漿レニン活性のレベルがずっと高いことも分かった。これらは両方とも循環系に悪い影響を及ぼすことが知られている。

 研究の結論としては、食事中の通常ナトリウム量は健康を改善し、低ナトリウム摂取量は腎臓と神経ホルモンに悪い影響を及ぼす、つまり臨床的にとても悪い結果であった。

 この研究は同じグループの他のメンバーによって直ちに追跡され、American Journal of Caridology20091月号に発表された2。ずっと大規模なこの第二の研究は、異なった利尿剤投与と異なった水摂取量とともに食事中の異なったナトリウム量の効果を評価するように設計された。再び6ヶ月間にわたって入院と臨床結果が注意深く測定された。

 被験者が年齢、体重、血圧などのような関連した特性値を分割することを保証する方法を研究者達は考えた。測定する医者達にはどのグループを分析しているかは分からないようにして全ての測定が客観的に行われることを確実にした。

 心不全、体重、血圧、脈拍数、基準となる実験パラメーター、心電図、心臓エコー図、アルドステロン、レニン、脳利尿ペプチドなどの測定は全て研究前と180日後に行われた。(脳利尿ペプチドはストレスや過剰労働の時には必ず心臓の心室から分泌されるペプチド・ホルモンである。)

 結果は期待通りのものではなかった。前述で強調したように今では数十年間、鬱血性心不全を経験した患者に対する金科玉条の治療基準は食事中の減塩であった。アルバート・アインシュタイン医学校から多くの発表があったにもかかわらず、患者は心不全から回復するためにまだ低塩食を食べさせられている。

 事実、Paternaの結果は、通常食塩食を摂っているグループは低塩食を摂っているグループよりもはるかに良い健康結果をもたらすことを示した。低塩食は腎機能に一般的な悪化を引き起こし、入院や死亡率を大きく増加させた。

 通常食塩食を摂り1日当たり1リットルの水を与えられているグループについては、7.7%の入院率と2%の死亡率であった。低塩食と1日当たり1リットルの水を与えられているグループでは、49%の入院率と10%の死亡率であった。

通常食塩食のグループでは、血圧と脈拍数は試験期間を通して同じままか僅かに低下し、一方、低塩食グループでは増加した。通常食塩食のグループでは、体重は同じかわずかに減少し、一方、低塩食グループでは体重は有意に増加し、ほとんどは体液増加によるものらしい。低塩食グループでは有意な尿排泄量の低下があったからである。

重要なことに低塩食グループは血漿アルドステロン、血漿レニン、脳ナトリウム利尿ペプチドの有意な増加を示した。これらは全て患者の状態悪化の兆候である。通常食塩食のグループではそのような変化は観察されなかった。

下に示すKaplan Meier曲線は生き残り、調査期間中病院に再入院しなかった患者グループを示す。30日目でも通常食塩食のグループ(青線)は低塩食グループ(緑線)よりも著しく良かった。この効果は125日目ではより顕著であった。

このデータがアルバート・アインシュタイン医学校で行われた3件のNHANES研究からの結果3,4,5と結び付けられたとき、鬱血性心不全患者のための金科玉条の基準低ナトリウム食介入を変えることを真剣に考えることは明らかである。注意深く客観的に行われた研究は、鬱血性心不全患者が低ナトリウム食を食べさせられないとき、患者はかなり良くなることを示している。

一般集団で同じような健康に良い結果を多く見出せそうである。一方、明らかに集団のある部分は食塩感受性で減塩により利益を得られ、集団の他の部分は逆の影響を受ける6,7,8

集団の他の部分の危険性を減らすためにより大きな危険性のある集団の何人かのメンバーを置くという倫理的なジレンマは差別的であり、完全に避けられる。食事が果物、野菜、乳製品を多く摂るように改善されると、集団全体ははるかに多くの利益を得る。食塩感受性の集団でもそのような食事では感受性はずっと弱くなる。その上に集団全体で癌や糖尿病を含めて全ての疾患の総合的な負担は軽減されるだろう9。自然な制御について我々が既に多くの生物学的な系を持っている栄養を制御するために強制的に駆り立てられるよりもむしろ科学的証拠に気を留め始める時期である。WHOの基本的な薬物治療政策の責任者であるJ. Quick博士は最近のWHO会報に次のように書いた。“自分の関心が公共の関心を上回り、要求が科学を上回る状況に臨床試験がなれば、その時には医学の進歩を図ろうとして人間に関する研究を促す社会契約は壊される10。”

 

心不全の分類

ニューヨーク心臓協会は状態の重症度に基づいて心不全を分類するために標準化された基準を用意しようと長年使われてきたシステムを開発した。これは症状と機能の能力によって評価される。

クラスT:通常の活動と関連した不適当な症状がない

クラスU:身体活動をわずかに制限;休息が望ましい患者

クラスV:身体活動を著しく制限;休息が望ましい患者

クラスW:苦痛を伴い身体活動できない;休息していても心不全の症状または胸苦しさがあることがある