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塩と健康 Vol.3 No.3  Summer 2008

アルドステロン:心臓血管疾患の危険性を理解する手掛かり

Morton Satin − Salt Institute

 

 血圧は心臓血管疾患についての重要な危険因子であることは一般的に理解されている。ほとんどの人々は、ホルモンのアルドステロンが心臓血管疾患や死亡を予測する非常に強力な危険因子でもあることに気付いていない。
 アルドステロンはヒトの主要なミネラロコルチコイド・ホルモンである。ミネラロコルチコイドは副腎皮質から分泌されるステロイド・ホルモンで、体内の水と電解質のバランスを制御する。アルドステロンはナトリウムとカリウムに対する膜透過性を増加させ、尿からナトリウム・イオン(Na+)と水を捕まえて血液中に再吸収させる。一方、分泌は体からカリウム・イオン(K+)を尿中に排泄させる。アルドステロンは正常な腎臓濾過機能の下でヒトの血液中のすべてのナトリウム含有量を実質的に再吸収させる。アルドステロンはまた腎糸球体再吸収を制御することによって水と塩を保持するために脳の特別な受容体に作用する。

 残念ながら、血液中の慢性的な高アルドステロン濃度は心筋繊維症、腎損傷、動脈硬化などを引き起こすことを含めて心臓血管系に大きくてネガティブな結果をもたらす。
 アルドステロンは50年以上前に発見されたが、心臓血管系に及ぼす大きな影響のためにアルドステロンの医学的な関心は劇的に再認識されてきた。アルドステロンは人体でもっとも重要な心臓血管に関与するホルモンであると専門家は考えている。
 レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系(RAAS)の重要な部分として、塩の摂取量が少ないときに、アルドステロンの鍵となる機能はそれを保持することである。臨床内分泌学会誌に発表された最近の研究は、ほとんどの健康な人について6 g/d(2,300 mgナトリウム)以下の食塩摂取量は、RAAS系が発動しないようにするには不十分である。その通り−決して一日6 g以下の塩ではない!

 しかし、アメリカの食事摂取量基準では塩の十分な摂取量は3.8 g/dである(6 g/dではない)と勧告している。事実、6 g/dの塩は食塩摂取量の許容最高限度であると食事摂取量基準は述べている。まさに同じ摂取量が最低摂取量であることを科学的な研究が示している場合に、どうして勧告が最高摂取量についての一つの摂取量を述べられるのであろうか?これらの専門家達はお互いに話し合ったことはないのだろうか?

専門家の勧告値対事実に基づく勧告値

 多分、答えは医学研修会でのピーター・グリーンワルド博士の論文にある。彼は国立保健機関内の国立癌研究所の癌予防部長である。研修会 1994-2004年の食事摂取量基準の進展:現状と新しい挑戦” 2007918 - 20日にワシントンDCで開催された。勧告食事摂取量のほとんどの数値が何に基づいているかをグリーンワルド博士は述べた。それらはランダム化されたコントロールのある二重盲検臨床試験(結果は最高の事実と考えられる)よりもむしろ専門家の意見(最低品質の事実)に基づいていた。“もっとも有用な種類の研究(ランダム化された臨床試験)はほとんどなく、あまり意味のない膨大な量の情報がある。これを逆転させる必要がある。”
後にグリーンワルド博士は次のように言及している。
“「科学的正当性」を確保することの重要性を強調するために、尊敬されている科学レポーターが書いたNew York Times Magazineの最近の論文を見る必要があっただけである。その表題は次のようであった。食事、健康、疾患に関係した行動について聞いたことの多くをどうして信じられないのか?報告者はいくつかの事例を含めている。多くは栄養疫学で、そこには信じられない多くの矛盾した事実がある。明らかに、重要な問題を持っており、公表する前に決定的な研究を行うように働きかけなければならない。”
 テルアビブ大学医学部のShapiro, Boazらが報告した最近の事実は次のことを表している。食塩摂取量を6 g/d(2,300 mgナトリウム)まで減らすように要請された健康で若い成人はアルドステロン濃度を上昇させていることが分かった。このことは十分な塩が摂れないので彼等の体は塩保持モードになっていることを示している。残念ながら、これらの上昇したアルドステロン濃度は直ちに動脈硬化に導く。健康で若い成人については、塩についての食事ガイドラインの許容最高限度はアルドステロン生成の刺激を抑えるためには不十分であった、というのが彼等の結論であった。ガイドラインで勧められている塩の量を実際に摂取したとすると、何が起こるだろうか?全集団を早めの動脈硬化にさせるのだろうか?政府はこれに対して責任を取るのだろうか、それともこの問題について食品業界を非難するために何とか工夫しようとしているのであろうか?
 グラスゴー大学の研究者達は内分泌協会BES2008年会で血圧とアルドステロンとの関係に関するデータを発表した。最初の結果は、老人で血流中の高濃度アルドステロンは高血圧と関係していることを示している。
 しかし、血圧と同じように重要なように、実際の関心は健康に関する結果である。“アルドステロンと心臓血管機能:生涯にわたる損傷”と題する論文で、グラスゴー大学の内分泌学教授で医学研究委員会の血圧グループ長(グラスゴーのイギリス心臓財団の心臓血管研究センターにある)のジョン・コンネル博士は、どのようにして過剰のアルドステロンが脳卒中や心不全の危険性を大きく増加させるかについて述べた。通常の食事よりも低塩食でより多くの心臓血管疾患患者を発見しているいくつかの前の研究結果をこの機能不全は説明している。
コンネル教授は次のように述べている。
“アルドステロンは鍵となる心臓血管系ホルモンである。血液中のアルドステロン濃度が高くなるほど、それだけ高血圧になり易く、心臓発作や脳卒中の危険率を増加させる。”
 老人では、細胞外液中の高濃度アルドステロンは高血圧と関係していることを研究は明らかにした。若者では高アルドステロン濃度は、後の人生で高血圧になり易いことを予言している。誕生時の低体重、遺伝、食事を含めてヒトの高いアルドステロン濃度を決める多くの因子がある。浸透圧バランスを維持するために体内のナトリウム貯蔵を保持しようと、不十分な食塩摂取量はより多くのアルドステロンを生成させるためにレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系(RAAS)を刺激する。
 上昇したアルドステロン濃度は、生涯を通して高血圧、動脈硬化、心臓血管疾患をより発症させ易いことを意味している。コンネルの前の研究は、イギリスの高血圧患者の10%でアルドステロンは原因因子になっているかもしれないことを示した。

品質科学に頼る圧倒的な専門家意見

 心臓血管系に及ぼす上昇したアルドステロン濃度の悪い役割に関する機械作用的な研究は、塩と高血圧に関する非常に進歩してきてはいるが、科学的には限られた疫学研究よりも塩と健康結果の疑問に対してもっと比重をかけている。
 歴史的に科学者達は、アルドステロンがミネラロコルチコイド受容体を通してだけその効果を発揮し、それによってナトリウムが保持され、カリウムが損失する原因になると信じている。しかし、ごく最近、彼等はアルドステロンについてずっと広い役割を認識してきた。
 研究の努力で、鬱血性心不全と突然の心臓血管疾患死の進展に寄与していると思われている上昇したアルドステロン濃度と関係している新しい病態生理学的機構の主役が明らかにされてきた。より重要なことに、最近の事実は疫学的観察よりもむしろ実際の代謝研究に基づいている。疫学的観察研究は解釈の範囲や一体化した混乱による間違いを反映している。積み上がってくる事実は、アルドステロンが内皮障害と呼ばれる工程を通して心臓疾患に寄与していることを示唆している。内皮は全ての血管の内表面にある細胞の薄い層である。内皮は循環血液と血管壁の残りとの間の界面として働いている。内皮の性質は循環系状態の制御、赤血球細胞の凝集、白血球細胞の付着、総合的な血液凝固に重要な役割を演じている。内皮が内皮障害として正常でなければ、将来の心臓血管疾患の予測因子となる。
 低ナトリウム食は上昇したアルドステロン濃度を刺激するので、この現象は、低塩食のより多くの人々が正常または高塩食の人々よりも心臓血管疾患になると言う繰り返される結果を非常に良く説明している。
 過去において、実験研究はアルドステロンよりもむしろアンジオテンシンUの病理学的影響に焦点を置き、アンジオテンシン転換酵素阻止剤が重要な心臓血管疾患を擁護することを示してきた。しかし、ごく最近、研究はアルドステロンとその生物学的な作用についての我々の理解に革命を起こし、心臓血管損傷の重要な媒体としてミネラロコルチコイドを同定した。上昇したアルドステロン濃度は血圧を上昇させることなく心臓血管疾損傷を引き起こし、アルドステロン・ブロッカーは血圧を下げることなく重要な擁護効果を発揮する。
 低体重で生まれた幼児は成人したとき、比較的高いアルドステロン濃度になる傾向がある。これは最近の研究と一致しており、このことを我々は食塩感受性2007で前に報告し、低体重幼児は低血清ナトリウム濃度で生まれてくることを示した。彼等の母は低食塩摂取量であったからである。
 現在の事実は、人生の早い時期からの長期的なアルドステロン生成増加は、遺伝因子と低塩食のような環境因子との相互作用によって決定されることを結論付けている。これは中年以後心臓血管疾損傷に導く。これらの結果は少なくとも2つの他の研究によって確認されてきた。一つはイスラエルの研究で、一つは日本の研究である。それらはさらに、医学研究所の食事摂取量基準で述べられている2,300 mgナトリウム/(6 g食塩)という現在の上限値よりも多くの塩を必要としていることをさらに述べている。食事摂取量基準は上昇したアルドステロン濃度の引き金を阻止するには不十分である。
 食事摂取量基準、アメリカの食事ガイドライン、食塩摂取量を下げるための同様な公衆保健栄養政策勧告は、一般集団についてはナトリウムについての食事ガイドライン勧告はまったく不適切で、上昇したアルドステロン濃度にならないようにするには不十分であることを示しており、積み上げてきた科学的な事実の太鼓の音と今や一致している。大多数の人々について、水のように塩は自己制御のかかった栄養素である。減塩の結果として高い濃度に慢性的に維持されるアルドステロンは、心臓血管系の健全性に関して大きな負の結果をもたらす。容赦なく崖を超えて水崩御に進んでいく神話のレミングのように、専門家の意見で作成された政策は、都会の神話や科学と言うよりもむしろ先入観によって案内される通路に我々を置いてきた。科学で政策を導こう。
 人々に対する戦略的な利点の調査は単なる代わりの終点にではなく、総合的な影響に基づかなければならない。