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塩と健康 Vol.3 No.2 Spring 2008

低塩食とインスリン抵抗性

Morton Satin − Salt Institute

 我々の身体はインスリン・ホルモンの健全な吸収を維持するために、毎日美味しい白い顆粒を食べることに依存している。否、それらの白い顆粒ではない!ほとんどの人々はインスリン濃度をコントロールするために砂糖を考えるのであろうが、我々の身体は塩を必要としている。
 インスリンは代謝や血管平滑筋のコントロールのような他の身体器官で重大な役割を果たしている。鍵と鍵穴が合うようにインスリンは細胞の受容体と結合して血液中のグルコース(血液中の糖)を利用するのに役立つ。一度インスリンが細胞の同化系の鍵を開けると、グルコースは血液から細胞へ通過できる。細胞内では、グルコースは容易に分解されてエネルギーとして使われるか、肝臓や筋肉細胞の中でエネルギーとして脂肪の使用を減らすグリコーゲンの形で、将来使うために蓄えられる。
 インスリンが少ないか欠乏すると、細胞はグルコースを吸収できず、身体は代替エネルギーとして脂肪を使い始める。肝臓は脂質を脂肪組織から使用できるカロリーに転換する。インスリン濃度は中心的な代謝制御機構や、筋肉細胞によるアミノ酸取り込みや利用のような他の身体器官をコントロールする信号として働く。インスリンは2つの鎖で繋がれた全部で51個のアミノ酸からなる小さなタンパク質(ペプチド)ホルモンである。
 インスリンは膵管に沿ってあるインスリン生産細胞で作られる。
 全アメリカ人の約7(2,080万人)が通常糖尿病として略称されている真性糖尿病になっている。糖尿病は異常に高い血液中の糖(高血糖症)で特徴付けられる状態で、それは低濃度のインスリン・ホルモンまたはインスリン効果に対する異常な代謝抵抗の結果である。糖尿病の特徴的な症状は過剰な尿生成、異常な喉の渇きと飲水の増加、視力のかすみ、不明な体重損失と無気力である。 糖尿病はいくつかの形態を示す。すなわち1型、2型、前糖尿病である。
 “1型”糖尿病は、身体がインスリンを生産できない結果であり、診断された糖尿病の5-10%に影響を及ぼしている。
 もっと多い“2型”糖尿病はインスリン抵抗性による結果で、それは重大な代謝作用、例えば、細胞のグルコース摂取量の増加、脂質分解(脂肪の分解)の抑制、そして肝臓、筋肉、脂肪組織、中枢神経系を含む標的組織のエネルギー摂取量の制御を行うと言ったインスリンの能力が損なわれた状態である。
 インスリン抵抗性はグルコース耐性を減らし、インスリン生産量の減少と一緒になって2型糖尿病を引き起こす。それはまた、異常脂質血症(血中脂質の濃度異常)、炎症、高血圧、全ての主要な心臓血管疾患を含む悪い健康状態に強く関係している。

 妊婦の約4%が“妊娠中”糖尿病を発症させ、それは2型糖尿病と類似している。
 他に5400万人のアメリカ人が“前糖尿病”として知られている状態で、血液グルコース濃度が正常値よりも高いが、2型糖尿病と診断されるほどには高くないときに生ずる。それは警告サインと考えられている。



 インスリンはいくつかの形の真性糖尿病を治療するために医療的に使われる。1型糖尿病患者は、体内でホルモンを生産できないので、生きるために通常自分で注射により外部からインスリンを投入する。2型糖尿病患者はインスリン抵抗性で、比較的インスリン生産量が低か、その両方で、この状態の影響を減らすために治療が行われる。すなわち、治療で血中グルコース濃度を十分にコントロールできない時に、2型糖尿病患者はしばしばインスリンを必要とすることがある。
 糖尿病、主に2型糖尿病は世界的に近年非常に増加してきた。肥満者や座業者であると、インスリン抵抗性をより発症し易い。成人の約25パーセントがインスリン抵抗性である。肥満や45歳以上であれば、糖尿病の発症率は50パーセント近くになる。
 インスリン抵抗性は血中糖濃度とは関係ない。血糖はまだ正常範囲であるが、障害を起こしているグルコース代謝のために食後上昇する傾向を示す。インスリンは成熟しきった糖尿病ではないかもしれないが、インスリン感受性の損失は通常の炭水化物摂取量を処理できるに十分な生産を身体に要求している。ワンダーランドのアリスのレッド・クイーンのように、同じ場所に留まろうと一生懸命速く走らなければならない!
 スタンフォード大学医学部のジェラルド・リーブン博士は、高血圧、血液トリグリセライド上昇、LDL()コレステロール上昇、HDL()コレステロール減少、動脈硬化の促進、血液脂質の不都合な変化、腹部肥満の進行と言ったことを含む多くの症状を持つ糖尿病の多因性を最初に特徴付けた。回復できない損傷が現れるまで、そのようないろいろな症状にしばしば気付かない。抑制しないままであれば、着実なインスリン生産増加は最終的に2型糖尿病に進める。
 インスリン抵抗性を示す誰でも糖尿病を発症させるという訳ではないが、全ての成人で始まる(2型)糖尿病はインスリン抵抗性に発端があるように思われる。インスリン抵抗性は遺伝的な素因よりも食事や生活様式で生まれてくるように思われる。疾患は腹部肥満と強く関係しており、横隔膜周りの過剰な体重はインスリン抵抗性の前兆となる。
 規則正しい運動と炭水化物の少ない食事はインスリン抵抗性に打ち勝つのに最も効果的である証明されてきた。減量は正常なインスリン抵抗やインスリン生産レベルにしばしば戻す結果となり、成人で始まる糖尿病を発症させる確率を減らす最も効果的な方法であると考えられる。
 減量は多分、筋肉組織の細胞膜にある付加的なインスリン受容体場所の生産を通してインスリンに対して身体をより感受性にする(インスリン抵抗性を逆転させる)ようにも思われる。インスリンを利用する進退能力を強化することは外部からのインスリン必要性を減らす。
 現在流行しているインスリン抵抗性症候をもたらす生活様式は何であろうか?世界の集団でインスリン抵抗性についての主要因は断然肥満で、特に過剰なカロリー摂取量の結果で起こるウエストラインの膨張である。最も論理的な犯人はカロリー密度で、高い脂肪食である。意外にも事実は反対である。低脂肪食はインスリン抵抗性の効果を実際に悪化させるかもしれないことを研究は示している。
 脂肪の高い食品よりも、高い血糖指標を持つ炭水化物を含んだ食品がインスリン抵抗性の確立で主因であることを明らかにしている。血糖指標は炭水化物を血液によって吸収されるグルコースにどれくらい速く分解させられるかの単なる測定値である。一般的にこれらは伝統的に加工された食品で、それらは外観上より白く、より純粋に精製されている、すなわち、全穀の代わりに白くしたパンや粉、糠の付いた褐色の米の代わりに白く精米した米、皮を剥いたトマト等々である。これらの食品の澱粉はアミラーゼと呼ばれる酵素によって容易に消化される。アミラーゼはインスリンのように膵臓で生産される。高濃度の繊維を含む食品は消化系をより速く通過し、急速な消化を受けにくい。
 食事勧告は人々にインスリン抵抗性を予防させたり、管理させたりするのに非常に役立つ。そのために政府はACCORD(糖尿病の心臓血管疾患リスクをコントロールする運動)試験に資金を与えている。これは心臓血管疾患(CVD)の特に高い危険率を持って2型糖尿病になっている成人の大規模な臨床研究である。ACCORD試験は2型糖尿病の主要CVD事故、例えば心臓発作、脳卒中、CVDによる死亡の高い比率を下げる最良の方法を決めるために3つの治療方法をテストすることである。これらの治療方法は1)より標準的な血糖処理と比較して集中的に血糖値を下げるこ
と、
2)標準的な血圧治療と比較して集中的に血圧を下げること、そして3)血中のトリグリセライドとコレステロール値の両方を下げる医療との組合せた血液脂質の処理である。ACCORD参加者は低塩食も食べた。それらについては役立ち、確かに害にならないと専門家達が同意している。
 しかし、独断的な低塩勧告は、低塩摂取量はインスリン抵抗性を上昇させた人々と同様にCV状態の患者でCVD死の増加と関係していることを警告した医学文献を無視した。低塩食は他のホルモン生産の引き金を引き、その結果、アルドステロン濃度が上昇する。インスリン抵抗性はヒトや動物で低食塩摂取量の良く知られた“思いがけない結果”である。低塩食は交感神経活動も亢進し、組織灌流を低下させ、2つの他の因子はインスリン抵抗性によって悪化させられた。
 この現象がレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系(RAAS)の活性化による結果であるらしいことを多数の研究が示している。塩を保持しようとする機構として低塩食によってRAASは刺激される。“メタボリック症候群”として知られている状態は、レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系の活性化にも特に関係している代謝や血管の調整不良の状態に関連している。非常にしばしば、“メタボリック症候群”の状態は“インスリン抵抗性”と同義的に使われる。
 レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系を阻止することはインスリン感受性を改善する。アミノ酸のL-アルギニンはインスリン抵抗性を低下させる。それはアルドステロン生成も阻止する。血管レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系の活性化はインスリン信号を邪魔し、インスリン抵抗性を増加させる。ラットとヒトでアンジオテンシン転換酵素(ACE)阻止剤とアンジオテンシン受容体ブロッカー(ARBs)の臨床試験は2型糖尿病の発症を下げてきた。
 低塩食とインスリン抵抗性との間の関係はRAAS活性化の機構を通して確立されてきた。高いアンジオテンシンまたはアルドステロン濃度による結果で起こる非常に有害な健康影響の連鎖はもはや無視できない。今まで疫学的比率で取り上げてきたインスリン抵抗性の引き金を引くことを健康に悪い影響を与える長いリストに加えた。その影響には、低塩食と密接に関係していると思われる血管の弾力性低下やCVD死亡率の増加が含まれる。
 食塩消費量の問題が医学や科学的な論争の主題になることのない時代がきた。賭けとして非常に重要な全集団の健康問題がある。この国の保健行政が低塩食の保健結果の大きなコントロールされた試験を実行する時である。そのような研究は事実に基づく医療の最高の範疇に従わせるべきである。
 食塩摂取量に関する我々の現在の勧告は高血圧の関心事に基づいている。しかし、低塩食は多くの“予期しない結果”を持っている。我々が勧告したコントロールされた試験が行われるまで、高血圧のデータだけでなく全ての保健結果の事実を十分にレビューした後で減塩の承認を考えるべきである。何かあれば、過去数年間に我々が証明してきた医療の失敗は我々に予期しない結果の法則に留意するよう動機付けている。