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塩と健康 
Vol.3 No.4  Fall 2008

食事ガイドラインの設定根拠

 

 どのような良い食習慣が健康を促進し、主要な慢性疾患の危険率を下げられるかに関する権威者の勧告で総ての年齢の人々を健康にするために、1980年に最初のアメリカ人の食事ガイドラインを連邦政府は定めた。食事ガイドラインはレビューされ、必要があれば、5年毎に改定されることを国会で決めた。食事ガイドラインは5年毎に定期的に改定され、2005年の最近の食事ガイドラインまで再発行されてきた。20081024日にアメリカ合衆国農務省(USDA)と保健福祉省(HHS)2010年食事ガイドライン諮問委員会(DGAC)のメンバーを発表した。アメリカ中の大学や科学研究機関から合計13人の著名な医学と科学の研究者達が2010 DGACを構成し、ガイドラインを決める事実についてUSDAHHSの大臣に勧告しなければならない。

 適正な栄養摂取により総合的な健康を如何にして改善して行くかについて国民と政策立案者の両方に知らせるために、食事ガイドラインに要求される証拠となる根拠は多くの科学的、医学的知識に基づいている。しかし、ガイドラインが最初に発行されてからアメリカ人の食事ガイドラインの背景にはある良い目的にもかかわらず、アメリカ人の食事は議論しなければならないほど悪くなってきており、政策立案者は今やアメリカ中に蔓延しているひどい肥満の流行に直面している。政府が食事ガイドラインを発行して以来、アメリカ疾患コントロール・センターは、成人の肥満率が15から30%と2倍になり、一方、子供の肥満率は6.5から16.3%へとほぼ3倍になったと計算している。このことは食事ガイドラインの有効性と食事ガイドラインを策定してきた人々や機関に疑問をもたらしている。最近の15年で我々の身体状態に何が起ったのかを考えるとき、食事ガイドラインがない方が良かったのかどうか、アメリカ人は疑問を持っている。
 食事ガイドラインは国家科学アカデミーの医学研究所によって確立された食事参考摂取量(DRIs)に基づいている。痩せよう努力するのに、どうして食事ガイドラインはほとんど効果がないのであろうか?医学研究所は“1994-2004年のDRIsの新事実:学習した課程と新しい挑戦”をレビューするため2007年作業部会を招集した。

 その作業部会で、国立癌研究所(NCI)の癌部長Peter Greenwald博士は次のように述べた。“公衆政策を知らせる研究を行うことに関連した最初の仕事は、始めるに当たって十分な研究データがあるかどうかである。最も信頼できる研究はランダム化されてないコントロールのある試験の次にランダム化されたコントロールのある試験(基本的な栄養科学によって支持されている)であることを認識することは重要である。コホート研究またはケース・コントロール研究と、ピラミッドを滑り落ちるように思われる生態研究という点から研究は弱くなる。リストの底辺には尊敬されている権威者達の意見がある…。最も有用な種類の研究(ランダム化された臨床試験)はほとんどなく、あまり意味のない大量の情報がある。このことを認識しておく必要がある。”

 Greenwald博士は続けて詳しく述べた:“栄養物質の影響や危険/利点を確立するための努力に関して、次の点を認識しておく必要がある:

● 正しい科学的な事実に基づく効力のあるデータは栄養素に関する公衆保健勧告を作成  する前に存在しなければならない。
● 多くの存在しているデータは十分ではなく、正しくなく、矛盾していることすらある  ;これらのデータを系統的に分類する必要がある。
   養素と疾患の関係に関する信頼性はしばしば予期しない方向に変わることがある。   大規模なランダム化された試験は栄養素と疾患との関係に関する信頼性の程度を変  えるのに大きな影響を及ぼす。これらの試験は莫大なコストがかかるが、必要である  。” 

 “‘科学的な正当性を得ること’の重要性を強調するために、尊敬されている科学レポーターによって書かれたNew York Times Magazineの最近の論文に目を向ける必要がある。その表題は“食事、健康、行動に関連した疾患について聞くことの多くはどうして信じられないのだろうか?”レポーターはいくつかの事例を書いており、その多くは栄養素に関する疫学で、そこには非常に多くの矛盾した事実があるので、人々はそれを信じない。明らかに我々は深刻な問題を持っており、公衆保健に関して発表する前に決定的な研究を行うように促さなければならない。”

 同じ作業部会でGeorge Beaton教授はこれらの同じ関心事を支持した:
“しかし、特に現在、個人にそれを適用する点から見ると、データは当てはまらない。我々自身、科学によって立つところまで少し立ち帰らなければならない。”彼はさらに続けて言った:“意見や判断力に基づく科学を如何にして放棄しないように備えるかにも係っている。現実に基づいて理論、解決方法、希望、夢を考えていかなければならない。DRI設定過程の総合的な目的は実際の生活に適用できる事実に基づいた情報を築き上げなければならないことを常に忘れてはならない。”

 食事ガイドラインの前のバージョンに見られる多くの勧告は高い品質の事実には基づいておらず、むしろ専門家の意見に基づいていることを作業部会は結論付けた。

 科学時代の前には、古典的なギリシャの哲学者達の影響が非常に大きかったので、彼等の個人的な意見が絶対的な命令として採用された。Anaximander(610-647 BCE)は、動物達は湿気だけから奇跡的に形成されたことを学生に教える生涯を過ごし、Aristotle (384-322BCE)は、動物達は土、植物、他の動物種からも自然に生まれた、と言った。そのような意見は生命の‘自然な発生’という理論を結局作り上げ、中世以前とそれ以降も強い影響力を持ってきた。有名なベルギーの物理学者で化学者でもあるVan Helmont (1578-1644)さえも、自然に発生したネズミについて詳しい処方を記録した。Louis Pasteur (1822-1895)の時代までこの理論を最終的に排除できなかった。

 2000年間、論争は自然を説明する手段だけであった。‘自然発生’論争の歴史では彼等の考えの正当性を証明するとか、反論するための実験を実際に行うことについては誰も考えてこなかった。Francis Bacon (1561-1626)はこれらの独断的な理論に本気で疑問を持った最初の人で、注意深い実験と正確な観察だけが真実を明らかにすることを主張した。彼は方法論的な実験を勧める時代の最も雄弁な提案者となり、しばしば“科学的方法の父”と言われた。

 この方法は一つの科学分野から他の分野へ変わるけれども、一般的な特徴は科学的な調査を区別する。研究者達は現象の説明として仮説を提案し、その後、これらの仮説をテストするための実験研究を設計する。これらの段階は将来の結果を信頼性よく予測するために反復できなければならない。この過程は偏向を持って結果を解釈することを減らすために客観的であることも必要である。

 医療行為に科学的な方法を適用するにつけて、“事実に基づく”医療の概念が発展してきた。残念なことに、“事実に基づく”意志決定の規範を守ることに関する表示には真実がない。今日では日常的に食事ガイドライン勧告委員会のような専門家グループは、彼等の事実を用いることが勧告を“事実に基づいた”ものにすると主張している。事実に基づいた医療の一番厳格な原理を厳格に守っている研究所はCochrane Collaborationである。HHS内でU.S. Preventive Services Task Forceはこの哲学を採用している。残念なことに、他の機関内では、“事実に基づいた”という言葉はしばしばむしろ漠然と使われ、実行で守らなければならない厳格な規律を日常的に無視している。さらに悪いことに、実際にどんな品質の事実があるかについて理解していない。下記のピラミッドは事実に基づいた評価を行うときに使われる事実階層の一般的に容認されている知識を示している。

 見れば分かるように、事実、ピラミッドの品質の底辺には知識や意見がある。それらはBaconが敷いたレールに反した意見の分類である。専門家の意見でさえも科学的に発生した事実と比較されない。しかし、食事ガイドラインやガイドラインが確立された拠所の食事参考摂取量(DRIs)はほとんど事実の最低レベルである意見に基づいている。

 ロイター(トロント)Terri Colesは新しい食事ガイドラインに関して興味深い論文を最近書いた。ColesYeshiva University研究を賢明にも参考にした数少ない執筆者の一人であった。その論文はアルバート・アインシュタイン医科大学のMarantz, Bird and Aldermanによって書かれ、アメリカ予防医学誌の20081月号で発表された。著者らは、食事ガイドライン勧告委員会のメンバーは栄養勧告の作成で事実の明白な基準を使うべきであることを書いた。そうしなければ、勧告は公衆保健にネガティブな影響を与えるかもしれない意図しない結果を生じることになる可能性がある。最も重要なこととして、証拠に基づいて支持を得るために代わりの基準か、もっと厳格な基準があるべきだと提案し、十分な事実がなければ、一番良い意見はガイドラインを出さないことであるかもしれないとまで述べた。

 塩(塩化ナトリウム)の消費量に関係した勧告はこの事実がない完全な事例である。1500 mgナトリウム/dの勧告値とDRIから2005年ガイドラインに採択されたナトリウムについての最高値2300 mg/dの両方は、選ばれた科学的事実の偽装にもかかわらず、実験的に求められたデータからと言うよりもむしろまったく専門家の意見に基づいていた。さらに、全ての他の危険因子やバイオマーカーを実質的に排除して、この専門家の意見はほとんど排他的に一つの心臓血管疾患(CVD)危険因子(高血圧)についての関心だけから決められた。この単一の危険因子に注意を向けることによって、我々は何か良いことを成し遂げていると言う仮説をDRIは立てた。しかし、一つの危険因子を減らすことによって良いことをしているとは仮定できないし、同時に勧告された食塩摂取量を守った結果として生じる他の危険因子やネガティブなバイオマーカーを調べられなかった。

 血清グルコース濃度を下げるためのACCORD(糖尿病の心臓血管疾患危険の制御行動)ADVANCE(糖尿病や血管疾患の行動)の試みは両方とも主要な危険因子を減らす目的を達成させることに成功したが、予想できないほど容認できない多くの人々が死んでいるために早々に終わらせなければならなかった。全ての他の健康への影響を排除して一つの危険因子だけに焦点を合わせる戦略は絶対に健全な方法ではない。

 イスラエルやブラジルで行われた最近の研究は、食事中のナトリウムが食事ガイドラインで勧告されている1500-2300 mgNa/dに制限されると、非常にネガティブな結果になるかもしれないことを示している。

 イスラエルの研究では、研究者達は若い健康な成人で食塩摂取量の低下、過剰なアルドステロン、血管の硬さとの関係を研究した。単一センター研究では、60人の参加者が、中程度のナトリウム消費量はエネルギー摂取量と比例している、つまり2,100 kcal当たり2,300 mg/dに相当し、言い換えれば医学研究所の上限DRIナトリウム勧告に従うために、食塩が添加される加工食品のためにナトリウムが著しく高くなる食品を避ける、との教育を受けた。この摂取量は直ちにアルドステロンを増加させることになり、全ての参加者の動脈血管を硬くさせた。60人の健康な若者の誰もが同じ逆効果を示した。

 最近Atheroscleosis(アテローム性動脈硬化症)誌に発表されたブラジル研究では、1日当たり3,400 mgのナトリウム(ほぼ現在のアメリカ人の摂取量)という通常の食塩摂取量から1日当たり1,400 mgナトリウム(医学研究所の勧告値に近い)に低下させると、血清トリグリセライド、乳状脂粒コレステロール、腫瘍壊死因子、レニン活性、アルドステロン、インシュリン値が全て増加することを研究者達は知った。食塩摂取量の低下は血漿タンパク質とメタボリック症候群(心臓血管疾患と糖尿病発症の危険性を増加させる疾患の組合せ)の一般的な特徴である炎症マーカーに変化を起させる、と彼等は結論を下した。要するに低ナトリウム食の人々はメタボリック症候群を発症させた。

 上のデータから導かれる多くの合理的な結論がある。最初の事例として、食塩摂取量の低減は血漿のアルドステロン-レニン産出の増加を引き起こし、それによって正常血圧者を心筋梗塞の危険性が高い状態にする。任意に摂取したIOMナトリウム上限摂取量は大部分の人々を動脈硬化やメタボリック症候群から守るには十分でないかもしれないように思える。非常に少ない摂取量で、幅広い集団の危険性が減塩勧告によるものであるかどうかを調べるためにさらなる研究を支持し、全ての政策立案者に一時中止させるようにすべきである。2005年の食事ガイドライン勧告は集団の1/3以下にわずかな血圧低下(2 - 5 mmHg)を起させたが、レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系(RAAS)を刺激し、続いて起こるネガティブな健康効果の連鎖というネガティブな結果は、一般的に集団でこの勧告を守ることの利点よりはるかに重要である。

 我々は現在食事ガイドラインの第6版を始めている。2010年版は消費者にどれほど大きくてポジティブな影響を与えるであろうか?過去の誤りから何かを学ぶとすれば、単なるリップサービスで‘事実に基づいた’医学という言葉をやめ、本気でそれを実行し始める。高度に統制の取れた工程では、事実に基づいた医学は異なったタイプの臨床事実を類別し、日常的に医学研究に付きまとういろいろな偏向のない程度にしたがって事実をランク付けする。最強の事実は通常均質な患者集団によるランダム化された二重盲検プラセボ・コントロールのある試験の系統的なレビューによってもたらされる。対照的に、過去のガイドラインに大きく支配されている専門家の意見はほとんど証拠の価値がない。観察、解釈、結果の報告に本来ある偏向や、誰が専門家であるかを確認する難しさと同様に、本当の健康になる代わりの危険因子があるからである。残念なことに、2010年食事ガイドライン設定が‘事実に基づいている’DGACの主張にもかかわらず、20081030 - 31日に開催された2010委員会の最初の会議は明らかにこれを否定した。体液・電解質小委員会の議長とともにDGACの議長が出した声明から、彼等が事実に基づいた評価の重要性に関係なく、ナトリウムに関する彼等の結論を審理せずに決定したことは明らかであった。この過程が品質データよりもむしろ個人的な偏向によって進められ続ければ、その後に消費者は悩むことになろう。事実に基づいた医学をより強く追求することに専念する他の新しいDGACメンバーがこの問題とアメリカ人のための食事ガイドラインの最新版の結果に大きな影響を及ぼすだろう。