塩と健康 Vol.2 No.1 Winter 2007

 

塩は肥満に関係しているか?

 

肥満の悩み

 アメリカで肥満は大きな公衆保健問題となってきた。したがって、政策問題である。この国では一般的に肥満は予防できる第二の死因と考えられている。国立保健統計センターでこの政策的に修正された意見に対する異議を記録する一方で、如何にして体重増加を避けるかが策的に議論されてきた。
 人口のほぼ2/3にあたる約1億3千万人の成人が過剰体重であり、これらの約半分は肥満の定義(正常体重の20%増)に当てはまる。1960年から2000年の間に成人の肥満発症率は13%から31%に増えて2倍になり、この上昇の大部分は過去20年間に起こった
 若い人々の状況は成人と同様に厳しく、肥満のパーセントは過去20年間で611歳の子供で2倍以上に、1219歳の青年で3倍になった。年齢を併せたグループで20032004年のデータ分析では、619歳の子供達で32%が過剰体重、17%が肥満であった

                    

  調査によると体重と健康との間には正相関があるので、集団間の過剰体重の上昇速度は重大な問題である。過剰体重や肥満になることは成人と子供で多くの疾患の危険性を増加させる:

       2型糖尿病

       高血圧

       異常脂血症

       冠状心疾患

       脳卒中

       胆嚢疾患

       骨関節症

       睡眠中無呼吸症と呼吸問題

       (子宮膜、肺、大腸)

 個人の肥満やそれに伴う疾患の個人的な費用に加えて、社会的な肥満に対する年間の費用は1,170億ドル以上になると国立保健研究所は報告している。空前の人数のアメリカ人が肥満に対処しようとしている。2004年の市場調査では、7100万人がダイエット中であり、減量市場で年間460万ドル以上が費やされていることが分かった。アメリカで一定した肥満発症率の上昇に基づいて、2008年までにこの数値は610万ドルに達するであろうと、研究者達は推定している。大部分の減量法は明らかに食習慣に焦点を置いており、一般的に勧められていることは低塩食である7,8,9。低ナトリウム摂取量が体重コントロールの改善に寄与することを述べた試験事実はないにもかかわらず、そのような忠告が行なわれている。
 疾患が増えるにつれて、組織的に混乱が強くなっている。例えば、    WHOの慢性疾患健康促進部長のロバート・ビーグルホール博士は1年前に次のように述べた。「過剰体重、肥満、それらに伴う慢性疾患は大部分予防できるのに本当に悲劇である。心疾患、脳卒中、2型糖尿病の約80%と癌の40%は健康な食事、運動、禁煙によって避けられる10。」肥満をコントロールする幅広い忠告で、減塩が体重を管理する能力を改善する事実はないとWHOは述べた。
 肥満自身を減らす挑戦には利益があるかもしれないが、公衆保健当局や健康な体重を維持しようと心がけている人々にとって本当の疑問は:肥満を改善するように戦うために減塩は一般的な忠告であろうか?事実に基づいているのであろうか?
 一言で言うと「ノー」である。いくつかの医療状態または投薬治療を除いて、ほとんどの場合、過剰な体重は使用する以上に多いカロリーを摂取した結果であることを知っている。塩にはカロリーがないので、食事中の塩含有量は体重の増減には関係ない。ナトリウムにはカロリーがないからである。
 真偽の疑わしい体重と塩との関係は塩自体にあるのではなく、塩が加えられた食べ物にある。その調査は、塩摂取量が体重増加と関係しているという疫学調査からの最近の主張を説明しているらしい11。この報告の著者らは塩の入った食べ物のカロリー含有量をコントロールしていない。したがって、最も関係のある栄養因子であるカロリーを見落とした。1984年に刊行された雑誌サイエンスで、連邦政府の第一回国民保健栄養試験調査(NHANES T)データベースの分析は、現在DASH食と呼ばれているデータとはまったく反対であった。比較的高いミネラル摂取量の一部として比較的高いナトリウム摂取量は低体格指数と実際に関係していた12
  高い塩摂取量は水保留の結果として一時的に体重を増やす。逆に、非常に少ない塩摂取量は一時的に体重を減らす。体から水を排泄するように働くからである。多くの食事療養者を失望させるが、「減塩」勧告に従って減塩に着手すると直ちに数ポンドの減量が現れるが、体の液体バランスが戻ると、減量は止まり過剰の脂肪が残る。
 多分、減塩忠告は減量勧告の一部である。主として脂肪やナトリウム摂取量からのカロリー低減は、それらの効果に関係なく高血圧患者に勧められる最も一般的な2つの食事療法であるからである。過剰体重ではない人々でも、血圧を下げるために減量が最も効果的な非薬物介入であることには間違いない
(表1)13,14 しかし、学んできたように血圧を下げる方法は健康上臨床的な介入の結果をもたらす。2つの大規模な政府が財政援助した臨床試験では、血圧を下げることで知られた高品質の食事が行なわれたが、減塩は減量や血圧コントロールを改善しないことが分かった。高血圧予防試験(TOHPS U)は血圧に及ぼす減量の効果を明らかにした15。減塩しても、効果や有害な影響が増える訳ではない。最初の高血圧予防食事試験(DASH)で、参加者は通常の塩摂取量で体重を一定にコントロールしながら、改善された食事品質で血圧はあざやかにコントロールされた16

表1 国立心臓・肺・血液研究所からの高血圧を予防し管理するための生活様式改善の収縮期血圧低下効果の比較

改    善            大体の低下値

     減  量            520 mmHg/10 kg

     DASH                                814 mmHg

     減  塩            28 mmHg

エネルギー方程式

 上述したように、消費する以上にエネルギーを摂取すると体重が増える。減量するためには、使われるエネルギーまたはカロリー量は摂取量以上に大きくなければならない。理想的な体重を維持するためには、「エネルギー・バランス」を取ることを目標にしなければならず、食べた食事中には毎日消費するエネルギー量とほぼ同じ量が含まれていなければならない。したがって、アメリカ人の肥満流行は単独で食べ物が多すぎたり、運動が少なすぎた結果ではない。2つの因子が結びついた結果である17

エネルギー消費

 式の摂取側でナトリウムは体重を永久に増やす原因にはならず、その存在は他の側、すなわちエネルギーを消費する側で体の能力を発揮するために重要である。ヒトの総エネルギー消費量の約70%は体の器官内で基本的な生命活動に費やされる。基礎代謝量(BMR)は休息時に機能するために体が必要とするエネルギー量である。これは1日に消費するカロリーの約6070%を占め、心臓の脈動、肺の呼吸、腎臓機能、体温の維持に必要なエネルギー量である。エネルギー消費量の約20%は運動で、他の10%は食べ物からの発熱あるいは消化で消費される。
 これらの機能を正常に維持するために、体液バランスを維持しなければならない。すなわち、体液の約2/3は細胞内にあり、約1/3は細胞外にある。ミネラルが水中で分離したときの形である電気的に電荷を持った粒子の電解質は、体液が体内の何所にどの様に分布するかを制御し、体内で水は細胞膜を自由に通り細胞を浮かせている。ナトリウムは細胞外液で正に荷電した主たる電解質で、体内の総水量を制御している。
 各細胞の内外へのナトリウム移動は重要な身体機能で役割を果たしている。細胞内外の電気的バランスの差は神経刺激の伝達、筋肉の収縮・弛緩、血圧コントロール、適当な腺機能を発揮させる。電解質の存在はいくつかの液体、特に血液の酸度またはpHを決める。電解質バランスが変化すると、腎臓は電解質濃度を一定に維持するように働く。例えば、比較的高いナトリウム摂取量では一般的に排尿量は増加する。逆に激しい運動では、電解質は汗や呼吸を通して失われ、特にナトリウムとカリウムは喉の渇き機構の引き金を引く。電解質は体液中の電解質濃度を一定に維持し、液体バランスを保証するために置き換えられなければならない。
 上述したように、摂取エネルギーの2030%は運動に利用され。このエネルギーが消費されない時や消費するよりも多くのエネルギーが摂取されると、体重が増加する。運動は適当な体重やエネルギー・バランスを達成・維持するために基本的な活動である。同様に塩化ナトリウムのバランスを含めて適当な電解質バランスを確保するには、液体バランスや最適な運動能力を維持するために塩は不可欠である。回復時間の遅れ、筋肉痙攣、耐久力や動作の低下、筋肉障害が大きくなる傾向は電解質バランスの崩れによる結果である。
 定期的な活動や軽い運動をするときには、水だけでは一般的に身体の体液要求に応えてない。30分間の運動毎に約1パイントの水が勧められる。しかし、もっと激しく長期間の運動では、特に暖かいまたは湿気の多い気候のとき、水と電解質の両方を補給する必要がある。汗が出るような運動で必要とされる第一の電解質はナトリウムである。運動中のナトリウム摂取は次のことから重要である:

 飲料水中のナトリウムは飲みたいと思う生理的欲求を維持し、自発的な水分摂取を刺激する18
 グルコースと一緒に飲むナトリウムは消化管中で水の吸収を良くする19
 ナトリウムは再水和作用の速度と完全性を刺激する20

アメリカのスポーツ医科大学は1時間以上の運動では飲料水に電解質を加えることを勧めており、十分な水分補給は「通常の運動に参加している個人の健康、安全、最適運動能力を促進させると述べている21。」

塩と肥満

 そうすると「塩は肥満流行と関係あるのであろうか?」事実は塩の容疑を晴らしており、肉体的に良好で健康な身体を築く上で、塩は良い役割を果たしているとさえ言えることを明らかにすべきである。大多数の場合、過剰体重と肥満は消費エネルギーを上回る摂取エネルギーによる結果である。
 塩は肥満で直接の役割を果たさない。塩はエネルギー(カロリー)を持っていないので、過剰な脂肪の蓄積と直接的に関係していない。塩が加えられているかもしれない食べ物を慎重に選べば、すなわち、栄養素や繊維質が高く、カロリーが低い食べ物を選べば、体重が増えることはない。他方、十分なナトリウム摂取量は、体重管理、過剰体重を減らすために試みている運動プログラムの効果や成功に対して重要であることを含めて、ヒトの身体を正常に機能させることに対して必須である。栄養的に反復する食事を何時も摂ることは毎日の活動で必要なナトリウムを補給し、ナトリウムを含む飲料水と組み合わせると、激しいあるいは長い運動に必要な多量の電解質を満たす。
 今日一般的な食事の食べ物で含まれている多くの成分が国民の肥満流行にネガティブに寄与しているとしても、塩はそれらの成分の一つではない。