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塩と健康 Vol.2 No.2 Spring 2007

 

食事パターン:栄養研究は現実の世界に合っている

 

 アメリカ人はここ数年間、健康で長生きすることを多少とも確実に達成する一つのビタミンまたはミネラルの報告攻めにされてきた。しかし、明日のニュースは、今日のお気に入りの食事が昨日報告された魔法の弾ではないことを十分に暴露するかもしれない。幾つかの事例では、最初に意図したほど有益ではなく、我々の健康にとっては実際には有害であるかもしれない。どうして混乱し、混交したメッセージになるのだろうか?国民は何を信ずるべきなのだろうか?保健政策が依って立つデータが日々の根拠によって変動するように思えるとすれば、保健政策はどのようにして信用できると思わせられようか?

日刊紙

      ● 高カルシウムは血圧を下げる

      ● 脂肪は心疾患の元

● 食物繊維の増加はコレステロールを下げる

     ● 過剰の食塩は高血圧の原因

       ● カリウム摂取量は脳卒中を予防

     ● 炭水化物の減少は糖尿病を予防

伝統的に食事と疾患との関係は、特別な医学条件で単一あるいは2,3の栄養素の効果によって調べられてきた。食事介入臨床研究はもちろん、数十年間にわたる栄養疫学研究は、問題となっている疾患や障害の発症や治療で、その栄養素の役割を明らかにするために特別な食事成分の摂取量を調査、または操作することに焦点を置いてきた。例えば、医学データベースのライブラリーで“ナトリウム摂取量”の研究は、この栄養素だけを発表している科学論文を6000報以上収集している。この研究分野で投入されてきた徹底的な努力にもかかわらず、矛盾してしばしば対立した結果をもたらし、社会的には混乱し、専門家の間では同意が得られず、泥沼に陥ったままである。

どうして混乱するのか?

 人の健康に及ぼす特別な栄養素の効果に関する研究が、次のような限界を考慮しなくても、様々な結果を出す多くの理由がある1,2)

 単一栄養素の影響は強いものではなく、したがって、大規模で長期間の試験だけがこれらの影響を検  出できるのだろう。
栄養素間の相関関係または相互作用は個々の食事成分の研究では説明できない。
食事介入で観察される効果は個々の被験者で研究中の栄養素の基準摂取量によって影響されるかも  しれない。
通常、臨床試験の場合では補給形態で用意される栄養素は、食べ物の中に自然に入っている同じ栄  養素とは生理的に異なった応答を引き出すかもしれない。
栄養素摂取量は、単一の栄養素分析を混乱させるかもしれない幾つかの食事パターンと関係してい
  る。

1997年に、高血圧予防食(DASH)試験は、総合的な食事または食事パターンを調査する大規模で注意深く行われた臨床試験から、劇的な血圧低下を報告した3)。食事中のある単一の栄養素に焦点を置くよりもむしろ、血圧管理に及ぼす自然に入っている栄養素に富んだバランスの良い食事を何時も食べている効果をDASHは調査した。その結果は顕著で、ナトリウム制限や減量を含めてこれまで報告されてきた非薬物療法よりもはるかに大きな血圧低下をもたらした。この研究で、血圧制御で食事の主犯と永らく信じられてきたナトリウムが、高品質食を食べると血圧に何の影響も及ぼさなかった。DASH試験の成功は、ミクロやマクロの栄養素を強調することから食事パターンを強調することに栄養研究で方向変換することに重要な役割を演じた。
 DASHはこの変化に貢献したが、健康状態に影響を及ぼす何らかの単一栄養素の摂取量よりも、むしろ組み合わせて多数の栄養素を十分に摂取するという考え方は栄養文献で長い間存在してきた。第一回の国民保健栄養試験調査データベースから食事と血圧との分析に基づいて、食事療法は“全必須栄養素でバランスの取れた食事をすべきである”と、1984年にマッカロンらは報告した4)。その後、リードと同僚達5)は幾つかの電解質の血圧効果を調査し、食事因子間の相互関係は問題となっている栄養素の個別の役割を決定することを妨げ、食事勧告の焦点は特別な項目よりもむしろ“栄養素の混合に置くべきである” と結論を下した。
 1980年代にギリシャと周辺地域で低い冠状心疾患罹患率と長寿予測から “地中海食”に注意が置かれた。この食事の心臓病予防効果は食事中の総脂肪含有量によるものであると長い間信じられてきた。その食事は飽和脂肪が少なく、一価の不飽和脂肪が高い。しかし、心臓血管の健康状態に及ぼす特別な脂肪の効果を調査した臨床試験は矛盾した結果をもたらした。その後の調査は完全な食事パターンを考察し、その有益な保健効果は地中海食と一緒に食べる多数の食事成分によるものであることが全体的に同意された6)
 今日、“食事パターン”の文献調査は野菜、果物、全穀物、低脂肪乳製品、赤身肉の多い食事をすることを支持するデータが非常に多いことを明らかにした。例えば、食事パターンの研究は新生児体重、歯と口内の健康、大腸がん、二型糖尿病、肥満、血圧、心疾患、脳卒中、メタボリック・シンドロームに好ましい影響を及ぼすことを示してきた。このパターンは多くの疾患発症の危険率を同時に下げるだけでなく、多くの疾患の重症度を軽減し寿命を延ばす。

国民は何を信ずるべきか?

 このビタミンやあのミネラルに関する最近の研究について食事勧告や新しい見出しがどっと出てきて、その中で今日はもっと摂りなさい、明日は避けなさいと、それらは勧めると、情報量に圧倒された国民は栄養研究で丁度、別の理論に移るように“食事パターン”を考えるかもしれない。しかし、懐疑論を横において、健康や疾患との関係で食事中の1つや2つの栄養素よりも食事全体を考えることには、まさに意味がある。
 栄養素は単独で摂取されるものではなく、食事全体の成分として摂取される。我々の食事は複雑な栄養素や他の成分と組合せたいろいろな食べ物から成っており、その中の多くはお互いに総合依存的に、あるいは拮抗的に作用するかもしれない。研究のために一つの栄養素の摂取量を増減して操作すると、食事からの摂取量と他の成分の相互作用は変わるであろう。したがって、単一栄養素の含有量や処方の変化は、被験者間や研究間で矛盾して対立した結果をもたらすこともあろう。血圧とナトリウム摂取量とを巡る数十年にわたる論争はこの良い例で、多くの研究は負の効果を示し、あるいは効果を示さず、さらに他の研究は正の効果を示す7)
 懐疑論は悪いことではなく、特に保健政策実行では賢明に応用すべきことである。研究は続行中の過程であり、多くの疑問は解決されていないことを国民は認識しなければならない。疑問を持たずに、結論、確定されて答えが出なければ、その分野の研究を続ける必要はなくなるであろう。答えがまだ分からない、あるいはまだ完全でない,確定していない時に研究は続けられる。
 一回の研究調査だけでは“最終的な答え”は得られず、国民に提示されて受け入れられなければ、懐疑論からその調査すべきである。新しい研究が前の結果に異議を唱える結果を出した時、我々が疑問を持つべきであるのは全研究過程ではなく、むしろ我々に説明してきた研究内容や方法である8) 。データがこれまでに得られた物と一致しなければ、調査方法は我々を騙してきたのではなく、答えを得るためにどのように研究設計するかを正確に実行することである。
 確かではなくまだ完全ではないが、食事パターンの考え方は食事と疾患との関係の調査分野で多くの疑問に答えている。また、疑問を持っているが思慮深い国民が提出するかもしれない(そしてすべきである)疑問の多くに答えている。食事パターンの研究は初期の報告における不一致や矛盾について説明し、上述したように単一栄養素分析を複雑にしている限界を被らないで、食事パターンの全体性によって食事研究で一般的に存在する多くの混乱因子を明らかにした。
 さらに、新たな栄養データに直面した疑問に挑戦することは現実問題である。この最近の結果は実際に実行に移されるか、すなわち、多くの集団についてそれは可能で合理的であろうか?人の習慣的な食事習慣を劇的に変えて単一栄養素の摂取量を増減させるのではなく、健康を増進させる食事パターンを採用することが一般集団によって行われ、維持されて行くのであろうか?好ましい食品を含めることを否定したり、あるいは他の食事行動から個別の食品を分けることが“特別食”ではない。食品または複雑な計画または準備を見出すことは異例で費用がかかり、信頼できる食品を要求しているのではない。数十年の研究と実践に基づくと、バランスのとれた栄養豊富な食事をすることはもっとも効果があり、疾患の危険性を減らす合理的な食事方法であることは明らかである。

データを変えて信頼性のある保健政策を打ち出せるか?

 どのような研究分野でも、個別の研究はパズルの1片に過ぎず、仮説が確認され、あるいは異議を唱えられる前に、付随した真実が得られなければならない。食事と疾患の分野で、特に与えられた条件に及ぼす単一栄養素の効果に関して、事実は網羅的で確実でなければならない。しかし、上述した全ての理由やありそうな他の理由のために、これらの研究から導かれたデータは、それらに基づいて保健政策とするには本質的に危険である。
 任意の保健機関の政策と同様に、国の保健政策の目的は国民保健と満足の行く状態を確実にすることである。これらの機関は、多くの人々に最大の利益をもたらす勧告を出来るように膨大で多様なデータをまとめて必要な情報、専門知識、供給源を用意している。ごく最近の情報を調査し吸収することに加えて、機関が出す食事勧告は役立てようとする国民が実行でき、受け入れられるかどうかの問題を考慮しなければならない。
 過去に疾患発症との関係で栄養素効果の研究における混乱性は保健政策や食事勧告に反映されてきた。特別な栄養素の摂取量を増減させる提言は幾つかの設定や幾つかの個別集団で単一の医療条件を十分に改善するかもしれない。しかし、これらの狭い方法を強調することは間違っており、時間、努力、税金を無駄使いしている。それらは集団全体で実行できる方向に向けられなければならない。食事勧告を設計した目的を果たせる見込みを最大限にする戦略に食事勧告は基づかなければならない。栄養素研究がその強調点を変えたように、主要な保健機関の勧告もそうしなければならない。

 国民コレステロール教育計画ガイドラインの2002年版は、LDLコレステロールを下げることを促進さ  せるように“食事パターンに焦点を置くこと”を勧告している9)
 血圧管理に関するNHLBI合同国家委員会の2003年報告は、高血圧を予防し減らすために勧められる生  活様式治療として始めてDASH食を挙げている10)
 コレステロールを下げることに関するNHLBIのオンライン患者情報ブックレットは、コレステロール  の低下とメタボリック・シンドロームの両方のために健康な食事パターンを勧めている11)
  2006年に、アメリカ心臓協会は心臓血管疾患を減らすためにガイドラインを改定して、次のように  述べている。“単一の栄養素または食品に焦点を置くよりもむしろ、個々の人々は全体または総合  的な食事を改善するように目指すべきである。”12)

まだ行わなければならない多くの研究作業が残っており、それらに基づく研究のように最近の食事勧告はまだ完全には確立されていない。しかし、公的なあるいは任意の保健機関は、単一栄養素研究の薄弱なデータベースから食事パターンのデータベースに次第に移行して、新しくより安定して一層総合的な結果をまとめて実行できる勧告にしている。栄養科学者、政策立案者、アメリカの国民は彼らの意見や疑問の相違を横に置いて、みんなが同意できる食事が健康に良いことでお互いに協調できる時が近づいているようである。したがって、これやあれのビタミンやミネラルが健康に良いとか悪いといった新聞の恐ろしい見出しを読んだ時、見出しを割り引いて理解するように。

アメリカ心臓協会の食事と生活様式の勧告

 食事全体の保健効果に関する事実が増加していることを反映して、アメリカ心臓協会食事ガイドラインの焦点は特別な食事成分に賛成するまたは反対することを進めることから転じて、現在では、多くの保健利益を達成するために“総合的に健康に良い食事”を勧めている。

 1996年の食事と生活様式の勧告

さまざまな食品を食べる
運動と食事摂取をバランスさせ、体重を維持または減らす
脂肪、飽和脂肪酸、コレステロールの少ない食事を選ぶ
多くの野菜、果物、全穀物製品の食事を選ぶ
甘さ控えめの食事を選ぶ
 塩やナトリウムを適度に使う
アルコール摂取は適度に

2006年の食事と生活様式の勧告

総合的に健康に良い食事を食べる
健康に良い体重を目指す
LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライドの推奨摂取量を目
   指す

 正常血圧を目指す
正常血液グルコース値を目指す
運動する
 喫煙やたばこの煙を避ける