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塩と健康 Vol.1 No.1 Winter 2006

減塩は心臓血管疾患の危険性を低下させるか?

  集団の平均ナトリウム摂取量を減らそうと頻繁に出される提案はエスカレートし、減塩運動の実行に集中的に挑戦している。提案では、安全で美味しい低ナトリウム食品を食品加工技術者は開発できるか?と問うている。出来るのであれば、約3,500 mg/dayという現状の“通常”平均ナトリウム摂取量を2,300 mg/dayまで、あるいはさらに1,500 mg/dayまで下げられる食事を消費者は選ぶようになるか?

それほどスムースには行かない

 挑戦的に実行しなければならないが、減塩を実行するには基本的な疑問:どうして全面的にそうしようとするのか、に応えていない。減塩が予想されるように心臓発作や脳卒中の危険性を低下させるというどの様な事実を我々は持っているのだろうか?ある公衆保健グループは、減塩によりアメリカだけで150,000人の死亡を予防できると言った1)。食事中の塩の量が国道で死亡する数のほぼ4倍を殺す、と言うのは本当であろうか?この疑問は海外でも重要で、世界中の多くの集団がアメリカ人よりもずっと多くの塩を食べている。したがって、集団全体に減塩を幅広く推奨するという基本的な仮定が事実または神話に基づいているのではないか?というが重大な疑問である。
 1/4世紀前に受け入れられていたコンセンサスは、長い間知られていた塩と血圧との関係を低血圧集団で心臓発作や脳卒中の事例が少ない記録と結びつけていた。これらの観察は今日でもよく理解されている。しかし、もっと重要なこととして、現在では血圧が心臓血管疾患症状のいくつかの重要な予測因子の一つにしか過ぎないことも我々は知っている。インスリン抵抗性、交感神経系活性、血漿レニン活性と同様に血圧は心臓血管疾患の重要な結果に寄与する中間の変数である。事実、上昇した血圧は疾患や治療状態ではなく、体の通常の生理的な制御系のどこかに問題があって表れている応答である。我々は本当の問題ではなく症状に焦点を置いてきた。

最終的な健康状態に関するコンセンサス

 最終的な健康状態が適正な判断基準となり、どの様にして血圧を下げるかは別のことである、という強いコンセンサスが表れてきた2)。血圧を下げることは一般的に良いことであるが、そのための手段が別の健康上の危険性を引き起こすならば、メリットはなくなる。わずか2,3世紀前、瀉血は受け入れられていた治療法であった。それは確かに血圧を下げるが、今日では受け入れられない治療法である。最終的な健康状態が重要である。国立心臓・肺・血液研究所のカトラー博士は、各種降圧剤が最終的な健康状態に及ぼす結果に関する試験について述べた。“血圧を下げる同じ様な効力にもかかわらず、別の降圧剤療法は心臓血管疾患または全ての原因による罹患率と死亡率に及ぼす最終的な効果を修正する別の有効な、あるいは有害な効果を持っていると言う概念に基づいて試験は行われている。”3)各種薬剤治療の主要な試験は終了したが、心臓血管疾患の最終結果や全ての死因を改善する上で、減塩による介入の安全性と効果を見るために生活様式の介入試験は行われてこなかった。低塩食に関する介入試験が心臓発作事故を長期的に予測できるかどうかに関する疑問については、わずかに限られた数の観察研究だけが報告されてきた。

結果を調査して結論を

 減塩が健康状態を全然改善しないことをこれらのわずかな研究が示していることが明らかにされた。わずか12件の報告されている最終的な健康状態調査の中で4)1件だけが有益な事実を発見していた。つまり、日本の“低塩食”グループでもアメリカ人の平均よりも多くの塩を食べており5)、日本人は例外的に高塩食になっている。他の11件の調査では、調査した集団で心臓発作や脳卒中の発症を減らしているという事実を見出せなかった。1970年代以来、権威者達の確固たる予測とは全く反対の減塩食で実際に3件では、危険性が増加していることを示した6)。公衆保健政策として減塩の推奨が既に明文化されてはいるが、これに基づくと、減塩が良い考えであるかどうかを決定するためにコントロールされた試験を正当化する十分な事実すらさえない。したがって、数十年前に採られた政策が適正であったかどうかを、コントロールされた試験で最終的に明らかにする必要性を事実は明らかに示している。そのような試験は長い間待望されている。
 国家政策として政府の主要項目に良い物よりも悪い物である可能性が表現されたのはわずか10年前であった。科学委員会の現会長で国際高血圧協会の会長であるオルダーマン博士はアメリカ心臓協会誌の“高血圧”で、彼の患者の中で低塩食を食べている患者は通常食を食べている患者よりも心臓発作の発症が4倍も高いことを報告した (図1) 7)

        
         図1 高血圧者の危険率
        “尿中低ナトリウムは高血圧治療者中の心筋梗塞の危険率高さと関係
      している”
Alderman et. al. Hypertension, 1995

 実は、これは (減塩で最も効果がある集団と通常考えられている) 特別な集団についての1調査だけであるが、政府が資金を援助しており、結果は反対の事実によって議論されなかった。わずか2,3年以内に、スコットランドとアメリカ国民のデータベース解析でオルダーマン博士が恐れていたことが確認された。すなわち、低ナトリウム食は全ての死因の死亡率と低度ではなく、高度に関係している。低塩食のスコットランド人が高塩食の同国人よりも約1/3倍高い死亡率であることをスコットランド心臓保健調査は明らかにした。この調査はBritish Medical journalに掲載された8)。アメリカでオルダーマン博士は連邦政府の国民健康栄養試験調査(NHANES I)を行い、低ナトリウム食の人々では20%も死亡率が高いことを示した。これは1998年のThe Lancetの論文9)にある(2, 3)

        
         図2 スコットランド集団の危険率
         Tunstall-Pedoe, “スコットランド心臓保健調査の男女で冠状心疾患と
      保健の
27因子の予測による比較:コホート研究”。
         315 BMJ 722-729 (1997). Table 6: age adjusted hazard ratios for men

         
          図3 集団全体の危険率
          NHANES I 20年追跡調査。Alderman, The Lancet, March 14, 1998

 政府の科学者達は疑問を持ち、別の大きなデータベースであるMRFITを用いて独自に解析した。両調査で6年間の全ての死因と14年間の心臓発作による死亡の中で、カトラー10)とコーエン11)両博士は、減塩食の集団有益性はないことを確認した(4,5)。多分、彼等の結果は政府の政策に沿っていなかったので、結果は発表されなかった。

          
           図4 集団全体の危険率
           MRFIT 6年追跡調査。Cutler, presented May 30, 1997 at American
           Society of Hypertension
       
          

           図5 集団全体の危険率
           MRFIT 14年追跡調査。Jerome D. Cohen, presented January 28, 1999
           at NHLBI workshop on sodium & blood pressure

 肥満者が塩に関係して最終的な健康状態で危険性を抱えていることを示す2つの調査を一律の減塩提案者達は大げさに宣伝してきた。食事中の塩が最低の四分位数にある人々では冠状心疾患が少なく、脳卒中に関しては利益がないけれども、心臓血管疾患や全ての死因数は少ないことをフィンランドの調査は示した12)NHANES Iデータベースのアメリカ調査は冠状心疾患との関係を示さなかったが、フィンランド調査のように心臓血管疾患と全ての死因、そして脳卒中発症についての危険性は低いことを示した13)。肥満者でない人々には減塩の有益性はなかった。全ての集団について健康上の結果を改善した調査記録はなかった。アメリカ人が約150 mmol(3,450 mg)/dの平均ナトリウム摂取量だけを摂取することには何の価値もない。フィンランドの調査で特に注目すべきことは、最低の四分位数は159 mmol(3,657 mg)を摂っており、一方、日本の調査で三番目の低ナトリウム食は177 mmol(4,070 mg)を摂っていたことである。したがって、高い数値の塩摂取量がアメリカで一般的に摂取されている量と何の関係もない集団の孤立した部分に関して、これらの調査は報告された。アメリカで摂取されている塩の量については、逆効果を記録した報告はまだ発表されていない。
 2000年版までのアメリカ人食事ガイドラインでは、勧告は中程度に塩を摂取することであった。その勧告は現在でも生きている。明らかに新しいガイドラインでは体重制御が強調されている。

多様な変数

 低ナトリウム食が集団全体の血圧を下げることができ、低い血圧が通常、心臓血管疾患の発症や死亡事故を減らす結果となるのであれば、何を我々は、最終的な健康状態の調査だけが一律の減塩を支持しないという事実とすべきであろうか?どうして予想した利益が失われてしまったのであろうか?
 血圧の代わりに別の中間的な変数、例えば血漿レニン活性を調べたとすれば、インシュリン抵抗または交感神経系活性は同じであるけれども、減塩は逆に最終的な健康状態の危険性を増加させるという事実を我々は見出したであろう14)。心臓発作や死亡は何らかの介入による最終的な効果の結果であるので、どうして減塩が数年前に仮定された利益を達成できなかったかが明らかになる。すなわち、血漿レニン活性を刺激するという逆の危険性は血圧に与える影響のために利益を帳消しにするからである。最終的な健康状態を明らかにすることが本当の効果である。
 血圧におけるレニンーアンジオテンシン系の重要性は1970年代以来理解されてきた。ララ博士が先駆者で、1975年のタイム誌のカバーストーリーとなった15)。しかし、各データを結びつけて、高血漿レニン活性の高血圧者は430%も高い心臓発作の発症率を持っていること、と言う分析をオルダーマン博士が発表し
1989年まではそうではなかった。減塩が血漿レニン活性を刺激することは理解された。どうして減塩が心臓血管疾患の保健に対して全然解決策にならなかったかが次第に明らかになってきている。
 1990年代中に、臨床試験からの結果を合成し抽出する手段としてメタアナリシスが一般的になってきた。メタアナリシスは幾つかの方法論的な基準を満足させるためにあらかじめ決められた調査からの個別データを全て集め、互いにこれらのデータを一まとめにし、それらがあたかも単一の調査データのようにして解析する。したがって、大きな領域の統計的に力を持ったデータが得られる。メタアナリシスは事実に基づく医療(EBM)を行う開業医によって採用された一つの道具である。コクラン共同研究16)で開発され、EBMは科学的研究の品質と有効性に対して厳密な規範を適用しており、保健政策立案の手引きとしてしばしば使われる専門家意見のあまり根拠のない声明に対して、あらかじめ決められた科学的な規則の品質に代わるものである。アメリカ厚生省のPreventive Services Task Force17)EBMの政府内チャンピオンである。
 幾つかの解析で減塩の血圧影響を考察した。しかし、2002年にコクラン共同研究は“成人の減塩に対する勧告の長期間効果の総合的レビュー”を発表した。それは“低ナトリウム食が心臓血管疾患の発症や死亡にどのような効果を持っているかは不明である。”と結論付けた。低ナトリウム食は逆効果を持っているかもしれない…。18)そしてアメリカ厚生省のPreventive Services Task Forceは次のように述べた。“集団全体について減塩または鉄、β-カロチン、他の抗酸化剤の摂取量増加は最終的な健康状態を改善する結果をもたらす、と言う十分な事実はない。”19)

“政治的な”科学

 これはメディアに通常報告される物語ではない。政府の“専門家”グループは一律のナトリウム低減の支持に従っている。これまで作り話を聞いてきたが、今や事実を持っている。あなた一人だけではない。1998年に遡ると、調査報告者のガリー・タウブスは彼の論文“塩の(政治的な)科学”に対して国立科学協会作家賞をもらった。タウブスは次のように結論づけた。“世界中の研究者、医者、行政官の約80人とインタビューした後で、科学的なデータの解釈に論争があったとしても、数十年の強力な研究の後では、塩を避けるという明かな利益はひたすら減少してきた。このことは、今や本当の利益が明らかになってきて、それは全く小さいか、全然存在しないか、のいずれかであることを示唆しており、そのような利益を見出してきた研究者達の信念は他の変数の交絡によって欺かれてきた。”20)