たばこ産業 塩専売版  1996.06.25

「塩と健康の科学」シリーズ

(財)ソルト・サイエンス研究財団研究参与

橋本壽夫

塩摂取量は脳血管疾患とは関係なさそう

 脳卒中は高血圧症とともに、食塩摂取量が高いと多くなると一般的に考えられている。それであるが故に、減塩が勧められている。しかし、この考え方には疑問があることを、これまでに何回か述べてきた。最近の本紙(1996225日号)にも脳血管疾患患者数は食塩摂取量とは関係ないことを述べた。その際、全年齢の平均値と65歳以上および70歳以上の値を示したが、この度は、脳血管疾患が心配され始める年齢の45歳以上から10歳刻みで75歳以上までについて示す。結論的にはこれまでの結果と同じであったが、関係のないことがより明確になり、むしろ逆の関係を示す傾向までみられた。
 若いうちは、よほどの病気をしない限り食生活(特に塩分摂取量)には気を配らない。しかし、40歳をすぎれば厄年も迎えるし、何となく体調も変わって、それまで元気で病気のことなど考えもしなかった人が、ある時突然病気になり、ショックを受けることがある。また、その頃には家族も増え、大黒柱が倒れては困る、ということで主婦は何かと食生活にうるさくなるし、自分でも家族に対する責任を感じたり、肥満気味の体型を気にして食べることに神経を使ったり、気にするようになる。その対象は食塩、脂肪、砂糖であり、とりあえずは肥満にならないように考えている。
 さて、食塩は高血圧症の原因となると考えられており(実際には十中八九関係ない)、高血圧症になれば脳卒中で倒れるという思考パターンがある。したがって極端な場合、食塩に恐怖を感じて徹底して減塩を心がける人もいる。しかし、果たして食塩を沢山摂取する地域ほど脳血管疾患(脳卒中も含まれる)の発症率が高くなることが統計上に現れているのであろうか?
 1990年と1993年の両年について、食塩摂取量と脳血管疾患の患者数との関係を入院患者と外来患者について、45歳以上から10歳刻みで表したものである。下段が外来患者、上段が入院患者を表している。食塩摂取量と患者数との相関関係を直線で示しているが、外来患者については、両年度とも食塩摂取量が増加しても患者数はほとんど変わらない。すなわち、食塩摂取量と脳血管疾患とは関係ないという結果が表されている。

食塩摂取量と脳血管疾患患者数との関係
 図 食塩摂取量と脳血管疾患患者数との関係

 入院患者については、食塩摂取量の増加に伴って患者数はほとんど変わらないか、ほとんどの年齢層では減少している。このことは、先に述べたこれまで常識と思われていた関係とは逆で、食塩摂取量と脳血管疾患との関係は逆相関になっている。すなわち、食塩摂取量が多いほど脳血管疾患が少なくなる結果となっている。このことは、脳血管疾患にならないように食塩を沢山食べた方がよいことを表している。
 しかし、単純にそのようにいってよいか疑問であるが、少なくとも食塩を沢山食べると脳血管疾患になるとはいえない論拠の一つであり、塩が悪くいわれる結果は、生きている人間を対象にした統計には現れていない。