たばこ産業 塩専売版  1996.02.25

「塩と健康の科学」シリーズ

(財)ソルト・サイエンス研究財団研究参与

橋本壽夫

食塩摂取量と脳血管疾患患者数

 およそ1年程前(平成75)に食塩摂取量と高血圧疾患および脳血管疾患患者数との関係を示し、食塩摂取量は高血圧や脳血管疾患と関係がないことを述べた。その後、平成5年の患者調査データが発表されたので、引き続きこれらの関係を調べ、さらに食塩摂取量の影響を受けやすいと考えられている高齢者についての関係も整理した。
 食塩摂取量と脳血管疾患による入院患者と外来患者の関係をに示す。この図は調査年別と年齢別の12枚の図を比較しやすいように1枚に合わせたものである。

食塩摂取量と脳血管疾患患者との関係
             図 食塩摂取量と脳血管疾患患者との関係

食塩摂取量と脳血管疾患患者数

 図の一番下の欄の部分は食塩摂取量と一千人当たりの脳血管疾患の患者数であり、前に示した1984年、1987年、1990年の図に1993年の図を新しくつけ加えたものである。一番新しい図もそれまでの三回の図とほぼ同じで、患者数は入院患者の方が若干多い傾向があるが、一千人当たりだいたい13人である。食塩摂取量はだいたい11グラムから14グラムの範囲であったものが、その幅は次第に狭くなってきている。つまり全国の各地域間の食塩摂取量に差がなくなってきている。また食塩摂取量の全国平均値は1987年が最低で、それから次第に多くなっている傾向がある。重要な点は、いずれの年度においても脳血管疾患の患者数は食塩摂取量と関係ないことである。

食塩摂取量と高齢者の脳血管疾患患者数

 老人は特に食塩摂取量を減らすように厳しくいわれている。高齢になると血圧が上昇し、高血圧になりやすいと一般的にいわれているからである。しかし、ここには図で示さなかったが、実際には高血圧疾患の患者数は食塩摂取量とは関係ないという結果が得られている。一般的に食塩摂取量について高血圧でいわれている通りであるとすれば、高齢になると食塩摂取量が多いほど脳血管疾患の患者数が多くなるはずである。果たしてその通りになっているのであろうか?
 図の真ん中の欄は食塩摂取量と65五歳以上の患者数との関係で、上の図は70歳以上の患者数との関係である。高齢者では当然患者数は多区なり、全年齢平均値(下の欄)の約10倍になっている。しかし、65歳以上でも、70歳以上でも、いずれの年齢でも脳血管疾患の患者数は食塩摂取量とは関係ないことが示されている。各年度の欄を比較しても同じような傾向で、食塩摂取量との関係がつかめないという点では、データの再現性は非常によい。
 このようにデータを整理してみると、一般的にいわれていることは根拠のないことであり、厚生省の保健行政に疑問を持たざるを得ない。これだけのデータで脳血管疾患は食塩摂取量と完全に関係ないというわけにはいかないが、少なくとも全国民に一律に減塩を勧める一方向だけからの考え方の押しつけ、情報の伝達に正当性があるとは限らないことを認識する必要がある。