たばこ産業 塩専売版 1995.11.25
「塩と健康の科学」シリーズ
(財)ソルト・サイエンス研究財団研究参与
橋本壽夫
減塩の危険性(2)
前回に引き続き減塩の危険性について最近発表された論文の紹介をする。これは1995年の高血圧誌に発表されたもので、ニューヨークにあるアルバート・アインシュタイン医科大学の疫学社会医学部のオルダーマン教授が、治療中の高血圧者の食事で塩辛い物を食べないようにさせて食塩摂取量を調べたところ、食塩摂取量が少ないほど心筋梗塞になる危険率が高くなったという結果である。
方 法
被験者は治療していない時の最高血圧が160
mmHg以上、'最低血圧が90 mmHg以上、または降圧剤治療を受けている人で、男子1,900人と女子1,037人の合計2,937人であった。24時間尿試料を採取する前の4〜5日は、被験者はあまり塩辛い物は食べないで通常の食事をするようにいわれた。このようにして平
均3.8年間の調査を行った。
男女間で食塩摂取量(尿中食塩排推量)は異なっていたので、摂取量によってそれぞれ表のように四つのグループに分割した。
表 男女の食塩摂取量 (g/日) |
区分 |
男 子 |
女 子 |
|
摂取量 |
被験者数 |
摂取量 |
被験者数 |
グループT |
5.2 g以下 |
483人 |
3.9 g以下 |
259人 |
グループU |
5.2-7.4 g |
473 |
3.9-5.7 g |
264 |
グループV |
7.4-10.2 g |
469 |
5.7-8.1 g |
255 |
グループW |
10.2 g以上 |
475 |
8.1 g以上 |
259 |
結 果
男子の結果を図1に示した。一見して食塩摂取量が少ないほど心筋梗塞の起こる率が高いことが分かる。年齢で分ければ55歳以上の方が高い。人種で分ければ白人が高く、スペイン系が次に高いが、この人種では食塩摂取量による差は大きくない。黒人では食塩摂取量による差が大きく出ている。左心室肥大の有無で分ければ肥大のある方が高いが、食塩摂取量の一番多いグループでは逆になっている。
図1 食塩摂取量の影響
全体的には高血圧男子の食塩摂取量(排泄量)と心筋梗塞との間には図2に示すような直線関係がある。このような傾向は女子でもみられたが男子ほど顕著ではなく、有意でなかった。
図2 食塩摂取量と心筋梗塞との関係
以上のように食塩摂取量が少ないと高血圧患者では心筋梗塞を起こす危険率が明らかに高くなっている。食塩摂取量と心筋梗塞の疾患率を関連づけた臨床調査は初めてのことである。これらの結果は一般的に広く信じられていることと矛盾しているが、低塩食は心筋梗塞の増加と関係ありそうである、という生理学的に妥当な仮説と一致している。一つの観察だけで因果関係を確立できるわけではなく、これらの結果を今すぐ治療に生かすことはできない。さらに別の適当なデータを積み上げなければならない、と最後に述べている。
減塩が必ずしも無害ではないという新しい報告を紹介した。減塩の無害説に警告を発する研究報告がみられ出した。
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