たばこ産業 塩専売版 1994.01.20
「塩と健康の科学」シリーズ
日本たばこ産業株式会社海水総合研究所所長
橋本壽夫
食塩と高血圧に関する海外の報道(2)
食塩感受性と大規模、高精度疫学調査結果を知って
食塩と高血圧の関係について、インターソルト・スタディによる大規模で精度の高い国際的疫学調査結果が1988年に発表されてから、海外のマスコミ報道のスタンスは変わってきた。それまで食塩は悪者、高血圧の原因となる、という仮説を支持するような研究論文が多かったことと、政府が減塩政策を勧める関係で、マスコミの論調もそれを支持していた。
ところが、インターソルト・スタディの結果では、食塩と高血圧の関係は弱く、むしろ肥満、アルコール摂取との関係が強いことが示された。それまで食塩感受性の研究からも一律の減塩が疑問視される報道があったが、インターソルト・スタディの結果に力を得て、政府の減塩政策を非難するような報道がみられるようになった。
塩を普通に振りかけよう
これは1989年6月号リーダーズ・ダイジェストの記事の表題である。次に記事の一部を引用する。近年、塩は健康状態に関係なく有害である、と絶え間なく非難されてきた。塩を非難する著名なリーダーは食品医薬品局の前長官へイズ博士で、彼は1981年に、塩の摂取量を徹底的に減らすことが我々すべてに有益である、と述べた。アメリカ心臓協会、アメリカ医師会、公衆衛生局長も減塩アピールに参加した。政治家たちも参加した。しかし、今では多くの医者や研究者たちは、塩恐怖は遠く過ぎ去ったと感じ始めている。例えば元アラバマ大学心臓血管研究訓練センター所長ダスタン博士は、「塩を食べることについての非難はすべて無益なことである。私たちの大部分にとって、いかに多くの塩を食べようとも、多分、血圧に大きな差が出ることはない」と述べた。ニューヨーク病院高血圧センター所長ララ博士は、「多少多めに塩を摂取することは、それによる犠牲よりも、もっと多くの生命を救ってきた。国民すべてが塩を避けるべきであると推奨することは無意味である」
塩分の警告
これは1989年1月23日のニューヨーク・タイム・マガジンの記事の表題である。内容を紹介する。「ほぼ20年近くの間、アメリカ人は塩分の削減により高血圧から自分を守るように忠告を受けてきた。引き続きこの忠告が行われることは疑いないであろう。栄養上の禁止令は長引く傾向にある。ひと度禁止した場合、その証拠がどのような状態にあろうと、禁止を解除したがらない。その理由として次のことをあげている。
第一に、1部の人は塩によって本当に害を受ける。第二に、高血圧者は減塩により容易に血圧を調整できる。第三に、減塩による害はない。第四に、極端な減塩が達成される可能性はない。第五に、シンプルな食事で塩分の少ない物が自然であり、適切であるという幻想がある。
インターソルト・スタディは塩分と高血圧に関して今世紀に我々が期待できる最高のデータをもたらした。しかし、この研究が発表された時、何週間もの間、理由は分からないが無視された。調査結果がセンセーショナルでなかったことによるためかもしれない。文明社会では、塩は高血圧の発症との関連で重要因子ではないという結果であった。
アメリカ人が食塩摂取量を思い切って減らし、1日平均9グラムから3グうムにした場合、全体として国民の血圧は最小限1%下がることになろう。一部の人にとって減塩の効果は相当なものとなろうが、ほとんどの人にとってまったく影響がないであろう。ミシシッピー州グッドマン町黒人はインターソルト・スタディの52センターの中で5番目に低い食塩摂取量であったが、高血圧は3番目に多かった。したがって、減塩を高血圧予防の手がかりとして強調するのは多少危険であるといえよう」
塩を振りかけるべきですか?
これはワシントン・ポスト・パレードの1991年11月10日サンデー・二ュースペーパー・マガジンの記事の表題である。塩を振りかける、振りかけないは個人の体質による。あなたはどちらの体質ですか、といった内容である。「最近、何人かの研究者たちは食塩感受性の少数の大人のみ、食塩が問題となるだけである、と言い出した。その根拠として次のことをあげている。食塩が高血圧の原因であると結論的に証明された研究はない。食塩制限は高血圧の引き金になる例がある。インターソルト・スタディの研究結果では、大多数の人々にとって食塩摂取量と高血圧との関係は非常に弱い。このようなことから減塩には多くの人々が不信を抱いている。
人体に食塩は不可欠である。食塩を十分取らないと筋肉の痙れん、めまい、疲労こんぱいを起こし、極端な場合はひきつけや死に至ることもある。アメリカでは成人の25%が高血圧者で、その約半分が食塩感受性である。高血圧でない人々の約25%が食塩感受性である。高血圧である老人や黒人は一般に他の人々よりも食塩感受性である。もしあなたがこのような危険グループに入るのであれば、食塩摂取量を減らすことを考えなさい」以下、減塩をする場合についての要領が述べられている。
以上アメリカの報道を三件紹介した。
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