たばこ産業 塩専売版  1991.04.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社塩専売事業本部調査役

橋本壽夫

減塩に危険性はないか

 減塩することが高血圧発症率の低減につながるという仮説、生命維持に必要な最少限度の食塩摂取量は11グラム程度であること、そのような摂取量であれば年齢とともに血圧が上昇することはないこと、減塩しても危険性はないという仮説、などのことから、すべての人が減塩すべきであるという保健行政が世界的に行われている。
 ところが国際的に行われた大規模で精密な疫学調査(インターソルト・スタディ)の結果は、これまで信じられてきた食塩摂取量と高血圧との仮説を支持しなかったことから、減塩行政に疑問の発言が出始めた。さらには減塩による危険性を取り上げた論文もい-つか発表され始めた。
 例えばアルバート・アインシュタイン医科大学のアルダーマンらは、昨年のアメリカ高血圧学会誌の中で次のような発表をしている。
 中程度のナトリウム制限(1日当たり4.05.8グラムの食塩換算摂取量)をしても、軽症高血圧患者のたかだか25%程度の人たちの血圧を下げるだけである。しかもそれだけではなく、いくつかの危険性をあげている。
 それらを順に述べると
1.この程度の減塩で軽症高血圧患者の約15%が血圧の上昇を示した。
2.睡眠パターンに異常が現れ、正常血圧の高齢者でしばしば観察される睡眠障害と類似している。
 以上は実験データによる裏づけがあるが、以下のことは確認されてはいないが、考えられる悪影響である。
3.他の重要な栄養素の摂取量を減少させる。
4.出血、高熱、下痢などに対する抵抗力を弱める。
  これは動物実験では確認されているが、人間では確認されていない。
5.妊娠女性の食塩制限により胎児の成長が悪くなる。
6.食塩に代わる防腐剤、保存剤の多くは危険である。
 また、アクロン大学のエリーらはラットによる動物実験で低ナトリウムの影響を次のように示している。
1.ナトリウム摂取量の極端な低下は身体の成長を妨げた。
2.失血によりダメージを受けやすい。
3.心臓血管調節が影響を受け、休息時でも脈拍数が高まった。
4.交感神経機能が弱まり、神経応答性が悪くなる。
 など、ある意味では長期的にみると、高ナトリウム摂取により悪性の危険性を持っているのではないかと述べている。
 このように一方的な減塩に対して警鐘が鳴らされる時代へ移りつつある。