たばこ塩産業 塩事業版 2014.4.25
塩・話・解・題 109
東海大学海洋学部 元非常勤講師
橋本壽夫
現代人の生活支える塩
塩の物性は塩の用途を決める大きな要因であるが、それ以上に塩の化学的性質により塩の用途は広がる。塩の構成成分であるナトリウムと塩素を利用して数多くの化合物が作られるからだ。ソーダ工業は塩から水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩素を生産する工業であり、それらを原料にして、あるいは助剤として各種の工業製品が作られることから塩の用途は飛躍的に広がる。
化学的性質を利用して
多くの化合物を生成
塩は強い酸性を示す塩酸と強いアルカリ性を示す水酸化ナトリウム(か性ソーダ)が反応してできる中性の化合物だ。塩酸の素になる塩素は強い毒性と腐食性を持っている黄緑色の刺激性のガス。ナトリウムは非常に反応性の高い金属で、水とも反応して水素ガスを発生し、水酸化ナトリウムとなる。金属だからといって素手で触ると手の表面にある水と反応して水酸化ナトリウムができるので非常に危険。
塩はそれぞれ激しい性質を持つナトリウムと塩素の二つの元素からなる化合物でありながら生命の維持には不可欠であるから不思議だ。塩の結晶は二つの元素がイオン結合で結ばれ、規則正しく配列して結晶格子を構成している面心立方体の結晶構造となっている。このことから大きな塩の単結晶に、例えば剃刀の歯を当てて衝撃を与えると平らな表面が現れた二つの結晶になる。この現象を鉱物学用語で劈開と称する。塩の劈開面は平らである。
塩を水に入れるとイオン結合がほどけてナトリウム陽イオンと塩化物陰イオンになる。塩が水に溶けた状態だ。これらのイオンは他のイオンと反応して置き換わり(置換反応という)さまざまな化合物を作り、塩の用途を広げていく。
置換反応の分かり易い事例は脱塩装置に使われるイオン交換樹脂の再生だ。イオン交換樹脂はボイラー給水中のスケール(熱伝達を妨げる化合物)成分であるカルシウムを除くために使われる。カルシウムを取り除く能力がなくなったイオン交換樹脂を塩水で処理すると、カルシウムがナトリウムと置き換わって再びカルシウムを取り除けるようになる。これをイオン交換樹脂の再生という。
塩の化学的性質で一番重要な性質は、塩が電気化学的に分解されて構成成分の水酸化ナトリウム(ナトリウムと水の反応生成物)と塩素に分かれることである。また塩はアンモニアと炭酸カルシウムとともに化学反応して炭酸ナトリウムを生成する。これらの反応生成物を作る工業をソーダ工業と称する。
工業生産には不可欠
ソーダ工業の原料に
塩の用途を飛躍的に広げる産業がソーダ工業である。ソーダ工業は塩を原料として図1に示すようにか性ソーダ、炭酸ソーダ(ソーダ灰)、塩素などを作る。
電解ソーダ工業でできるか性ソーダ溶液は液体状態で製品とした液状か性ソーダと、それを煮詰めて結晶にした固形か性ソーダ製品とする。塩素はそのまま塩素ガスかさらに圧縮して液化させた液体塩素製品とするか、または塩酸などの塩素化合物とした製品にする。
電気分解された水からの水素イオンは陰極で電子をもらって水素ガスとなる。ソーダ工業の副産物である。ソーダ灰工業では炭酸ソーダを生産するときの副産物として塩化アンモニウムと塩化カルシウムができる。
さまざまな関連製品
産業や生活で使う様々な製品を製造する過程で、ソーダ工業の主製品であるか性ソーダが何らかの関わりを持っている関連製品を図2に示す。
同様に塩素については図3に、ソーダ灰については図4に示す。それぞれの関連製品の内訳にはさらに多数の製品が含まれている。
これらの図を見ると、塩がいかに多くの製品を作るのに必要とされているかが分かる。現在の文化生活は塩なしでは成り立たない。