戻る

たばこ塩産業 塩事業版  2012.1.20

塩・話・解・題 82 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

岩塩採鉱法と跡地の利用

 

 日本には岩塩鉱床はないが世界には無尽蔵と言ってよいほどの岩塩鉱床がある。特にヨーロッパ、北アメリカには巨大な鉱床があり、そこでは大量の岩塩が採掘されている。採鉱法には乾式、湿式がある。いずれの方法による採鉱法でも採鉱された跡地は有効に使われている。それではどの様にして採鉱し、跡地を何に利用するかについて紹介しよう。

 
乾式採鉱法

固体のまま採掘する

 採鉱という言葉でイメージされるのは石炭の採掘であろう。炭鉱から石炭の塊として地上に取り出す。岩塩の場合でも基本的に同じである。岩塩の場合には後に述べるように、地下に水を注入し、岩塩を溶かして塩水として汲み上げることが出来るので、この方式による採鉱を湿式あるいは溶解採鉱法という。それに対する言葉として塩を固体として採掘する方法を乾式採鉱法という。

 乾式採鉱法の一例として訪れたことのあるボース鉱山で説明する。そこはドイツ北西部オランダとの国境近くにあり、年間採掘量が世界最大の岩塩鉱で、地下750 mの地点から400万トンが採鉱されている。採鉱法の概念図を図1に示す。右端のマリエッタと呼ばれる掘削機(作業機械は地上で搬入可能な程度に分解され、エレベーターで下ろし地下で再組立される)で幅4m、高さ2 m程度の広さを1回で掘り、幅を24 mまで広げる。その後、穿孔機で空けた孔に火薬を詰め爆破させる。この時の天井高さは7 m位で、そこから斜め上に向けて孔を空け、さらに18 mの天井高さで横からも孔を空けて火薬を詰めて爆破させる。天井の不安定な岩塩を落とした後、天井が崩落しないように鉄筋を入れて養生する。

ボース岩塩鉱山の乾式採鉱法による採鉱概念図

乾式採鉱法は幅24 m、高さ18 m、長さ600 mを1つの採鉱空間(room:室)として採掘し、空間を支える柱(pillar:柱)を残して図2に示すように掘り進む。room and pillar法と言われる。爆砕された岩塩はバケットで粉砕機までピストン輸送され、粉砕された岩塩は坑内の貯塩場までベルトコンベアーで輸送され、ホイストで地上に運び上げられる。

room and pillar法による乾式採鉱法のレイアウト

 乾式採鉱法の特殊な事例として露天掘りが行われている鉱山もある。降雨がほとんどないチリのアタカマ砂漠にある鉱山だ。

 採鉱跡地の利用事例を表1に示す。ポーランドやドイツでは岩塩鉱跡地が観光施設や博物館なっている。また東欧では肺疾患治療病院に利用されておりロシアでも多い。気管支炎や喘息の治療をする。アメリカでは原油貯蔵もされているが、これは後に述べる溶解採鉱跡地の方が主流である。ドイツでは放射線廃棄物の貯蔵試験を行っている。産業廃棄物の貯蔵に利用されている事例が多い。

表1 岩塩採鉱後の跡地利用事例
国名 鉱山名 用途
ポーランド ウィーリチカ 博物館、スポーツ施設、肺疾患治療病院
ルーマニア スラニック・プラホヴァ 肺疾患治療病院
アメリカ コート・ブランシェ 原油貯蔵
ドイツ バルテンスレーベン 放射線廃棄物貯蔵試験
ハイルブロン フライ・アッシュ廃棄物;水銀を含む無水石膏や土壌の貯蔵
コッヘンドルフ 焼却炉や珪質スラグからの煙道ガス脱硫残渣物の貯蔵
ITA-AITESの2003年研修資料より

 
溶解採鉱法

「戦略的」跡地利用

 塩が水に溶けることを利用して、塩鉱床に水を入れ、塩を溶かして塩水を汲み上げる。その一例を図3に示す。二重管を塩層に差し込み、外側の管から水を入れ、内側の管から塩水を取り出す。レーザー測定器で空洞の形状を把握しながら採鉱を続ける。その大きさは塩鉱床によって左右される。ソルト・ドームのような巨大な鉱床では深い空洞を形成できる。戦略的に原油を備蓄するためにメキシコ湾岸で溶解採鉱されている空洞は地下600 m以下で直径61 m、深さ610 mで約2千万立方メートル(東京ドームの約16個分)の容積を持つ。これが50個以上もあるという。

溶解採鉱法の概念図

 溶解採鉱された空洞に貯蔵されるのは原油の他に液体炭化水素、液化炭化水素、天然ガス、化学製品、産業廃棄物と様々だ。中には圧縮空気もある。余剰電力で圧縮空気を溜め込み、電力の足りない時にその空気で発電する施設としている。

 溶解採鉱法は簡単で費用の掛からない採鉱法として19世紀後半から普及し始め、1950年代からはむしろ原油貯蔵のために戦略的に作られるようになった。

 安い塩を高い輸送費をかけて運ぶことは得策ではなく、生産された場所で消費されることが多い。しかし、溶解採鉱された塩水は容易に配管でポンプ輸送される。原油や天然ガスの配管輸送と同じで、ドイツ北西部オランダとの国境近くにあるエペ溶解採鉱場から350 km離れたオランダのロッテルダムまでソーダ工業の原料として塩水が輸送されている。

◇            ◇            ◇

 岩塩採鉱の事例と跡地の使用事例を紹介した。塩が食用や産業用資材の原料となっているだけでなく、採鉱跡地が様々な物の貯蔵庫として極めて有効に利用されていることを理解頂けたものと思う。