たばこ塩産業 塩事業版 2006.12.25
塩・話・解・題 21
東海大学海洋学部非常勤講師
橋本壽夫
食塩摂取量の変遷 その2
食塩摂取量の変遷については13年前に考察し、5年前には国民栄養所要量との関係からも考察した。食塩摂取量は1987年に一時11.7 g/日まで下がり、その後、約13 g/日まで急上昇し、その前後で安定していたが、10年前から再び下がり始め、平成16年の結果では10.7 g/日まで低下してきた。特に、平成12年と13年との間では0.8 g/日も下がった。これには明確な理由がある。そのことを含めて考察する。
目標値・10g到達は目前
食塩摂取量は毎年、厚生労働省から発表される。平成14年までは国民栄養の現状として発表されていた。平成15年からは国民健康・栄養調査報告として発表されている。平成15年5月に栄養改善法が改廃されて、健康増進法が施行されたことに伴い、国民栄養調査は国民健康・栄養調査として栄養だけでなく運動、休養、飲酒、喫煙、歯の健康等の生活習慣全般について調査項目が拡大され、大部な報告書として引き継がれている。
図1はこれまでに発表されてきた食塩摂取量に最新のデータを加えたグラフである。推移の状況としては、1999年までは12 gに次第に近づくように低下してきたが、2001年に破線で示したように11 g台に急落した。
これは食塩摂取量の計算根拠となる食品成分表が改訂されたからである。実は1975年から1980年までは三訂日本食品標準成分表に基づいて図1左側上のグラフに示すように発表されていたが、1982年に四訂版が発表され、一貫性を持たせるため、それに基づいて1975年まで遡って修正された値として発表された。この時にも食塩摂取量は低下している。この度の改訂数値については具体的に後で述べる。
平成12-16年に使用する第六次改訂日本人の栄養所要量では、食塩については1日10 g未満を摂取目標とするが、すでに10 g/日未満の人は6-7 g/日を下回るように努力する、とされている。
健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動)では食塩摂取量も目標値を10 g未満としており、最近の傾向から10 gに到達するのは目前である。
大半は調味料からの摂取
図2は平成14年度の食塩摂取量11.4 gについて食品群別の摂取量構成を示したものである。男女、年代別に報告されており、摂取量は女性よりも男性が多い。年代が上昇するにつれて男女とも摂取量は増加しているが、60~69歳をピークに70歳以上では低下している。この低下を食品群で見ると、しょうゆ、塩、味噌(女性を除く)が占める割合が大きい。
食品群の中で塩は総数で見ると男女とも1.5 gで、男性12.2 g、女性10.7 gの食塩摂取量のそれぞれ12%と14%を占めている。つまり塩は食塩摂取量の中で10%強を占めており、大半は塩を含めしょうゆ、味噌、その他調味料からの摂取量である。
しかし、塩については成長期の男性では7~14歳で23%、15~19歳で18%、女子では7~14歳で23%と比率が高くなっている。このような年齢の青少年に減塩を強いるとどのようなことになるのであろうか?恐ろしい気がする。
この図で1.5 gの塩は平成2年の食塩摂取量12.2 gの時の塩1.5 gと同じ値である。したがって、図1から見て全体的には食塩摂取量は低下しているように見えるが、家庭で購入して摂取する塩自体の量はこの間、変わっていないと言える。
食品成分表の改訂で摂取量が変動
食塩摂取量の計算では摂取した各食品量とその中のナトリウム量を集計し、それに食塩への換算係数2.54を掛けて食塩摂取量として表示する。食品中のナトリウム量は日本食品標準成分表から求められる。平成12年度(2000年)までは四訂版を使用してきたが、13年度(2001年)から五訂版を使用するようになった。したがって、同じ基準で比較できないので、図1ではその部分を破線で結んでいる。
保健政策で減塩を勧めていることから、加工食品中のナトリウム量は低下していると思われる。食品群の中でナトリウムが減っていると考えられるいくつかの加工食品について、表1に四訂と五訂とを比較した。合わせてカリウム、カルシウムも比較した。この表の作成には同じ項目の食品を何点か分析してその平均値を掲載していることから信憑性は高いと思われる。しかし、よく見ると不審を抱かせる興味深い事実が2,3浮かび上がってくる。
表1 日本食品標準成分表の四訂版と五訂版の電解質比較 可食部100g当たりのmg | |||||||
項 目 | ナトリウム | カリウム | カルシウム | 四訂から五訂へNaの増減 | |||
四訂版 | 五訂版 | 四訂版 | 五訂版 | 四訂版 | 五訂版 | ||
食パン(市販品) | 520 | 500 | 95 | 97 | 36 | 32 | 20 減 |
食パン(学校給食用) | 520 | 510 | 110 | 110 | 48 | 49 | 10 減 |
うどん(生) | 600 | 1,000 | 80 | 90 | 15 | 18 | 400 増 |
干しうどん | 1,200 | 1,700 | 110 | 130 | 22 | 17 | 500 増 |
ザーサイ(漬物) | 5,400 | 5,400 | 760 | 680 | 150 | 140 | 同 |
たくあん漬(塩押しだいこん漬) | 2,800 | 1,700 | 300 | 140 | 55 | 26 | 1,100 減 |
塩ざけ | 3,200 | 720 | 400 | 320 | 30 | 16 | 2,480 減 |
塩さば | 1,800 | 720 | 300 | 300 | 27 | 27 | 1,080 減 |
塩たら | 2,000 | 790 | 440 | 290 | 65 | 23 | 1,210 減 |
焼き抜きかまぼこ | 1,200 | 930 | 100 | 100 | 25 | 25 | 270 減 |
さつま揚げ | 1,000 | 730 | 60 | 60 | 60 | 60 | 270 減 |
魚肉ソーセージ | 810 | 810 | 70 | 70 | 100 | 100 | 同 |
コンビーフ(缶詰) | 800 | 690 | 110 | 110 | 15 | 15 | 110 減 |
ロースハム | 1,100 | 1,000 | 210 | 260 | 5 | 10 | 100 減 |
プレスハム | 1,300 | 930 | 250 | 150 | 7 | 8 | 370 減 |
ウィンナーソーセージ | 890 | 730 | 140 | 180 | 12 | 7 | 160 減 |
フランクフルトソーセージ | 1,100 | 740 | 120 | 200 | 11 | 12 | 360 減 |
固形コンソメ | 23,000 | 17,000 | 120 | 200 | 19 | 26 | 6,000 減 |
こいくち醤油 | 5,900 | 5,700 | 400 | 390 | 21 | 29 | 200 減 |
うすくち醤油 | 6,400 | 6,300 | 330 | 320 | 18 | 24 | 100 減 |
豆みそ | 4,300 | 4,300 | 930 | 930 | 150 | 150 | 同 |
ウスターソース | 3,400 | 3,300 | 300 | 190 | 55 | 58 | 100 減 |
コロッケ(ポテトタイプ) | 380 | 290 | 360 | 300 | 28 | 20 | 90 減 |
コーンクリームスープ(粉末) | 4,100 | 2,800 | 470 | 470 | 120 | 120 | 1,300 減 |
ハンバーグ(冷凍) | 490 | 490 | 240 | 240 | 38 | 38 | 同 |
ビーフシチュー(レトルトパウチ) | 380 | 290 | 210 | 210 | 15 | 15 | 90 減 |
ナトリウムが増えた食品も
① 五訂になっても必ずしもナトリウム量は減っていない。表1の右カラムに示すように、ほとんどの食品ではナトリウムは減っており、たくあん漬や塩蔵魚は大幅に減っている。しかし、うどんのように逆に増えている食品があるし、ザーサイ、魚肉ソーセージ、豆みそ、ハンバーグのように変わらない食品もある。
うどん中のナトリウムが数10%も大幅に増えた理由は何であろうか?また、減塩の目標にされる味噌汁に使われる豆みそのナトリウムが同じであることも変に感じられる。食塩摂取量が一番多い食品群のしょうゆのナトリウムも2~3%しか減っていない。味噌やしょうゆは発酵食品であり、適正な発酵により香り高い品質の味噌やしょうゆを製造するためには、微生物が生育する塩分濃度をあまり変えられないことによるものであろうか。
② ナトリウムの増減比率とカリウム、カルシウムの増減比率が合わない。この表に示されている加工食品に使われる塩の種類は基本的には変わっていないと考えられる。変わったとしても、ある種の特殊製法塩を使わない限り(特殊製法塩は高いのであまり使われない)、塩の中のナトリウムとカリウムあるいはカルシウムとの比はほぼ一定である。したがって、ナトリウムの変化比率とほぼ同じ比率でカリウム、カルシウムも変化していなければならない。例えば、たくあん漬である。このナトリウムは61%に低下しており、カリウム、カルシウムはそれぞれ47%に低下している。塩たらではナトリウムは40%に低下しており、カリウム、カルシウムはそれぞれ66%と35%に低下している。これくらいのバラツキは許容されてもよかろう。
ところが食品の中にはこれらの比が大きく変わっているものがある。例えば、塩さばではナトリウム
は40%に減っているのに、カリウム、カルシウムは変化していない。コーンクリームスープでもナトリウムが68%に減っているのに、カリウム、カルシウムは変化していない。それどころか固形コンソメではナトリウムは74%に減っているのにカリウムは逆に67%も増え、カルシウムも37%も増えている。ロースハムも同様の傾向である。干しうどんではナトリウムが42%も増加しており、カリウムも18%も増加しているのに、カルシウムは逆に77%に減っている。ウィンナーソーセージのようにナトリウムとカルシウムは減り、カリウムは増えているものもある。要するに傾向がバラバラである。
不思議な改訂
これらのことは何を意味しているのであろうか?改訂にあたっては、全食品を分析しなおすのではなく、分析する食品を抜き出した。表1の右カラムに「同」と示すナトリウムの増減がない食品は分析しなかったと考えられる。ナトリウムが減っているのにカリウム、カルシウムは変わっていない食品についてはナトリウムだけしか分析しなかったのであろうか?3成分とも分析したとすれば明らかに分析値がおかしい。ナトリウムが減ってカリウム、カルシウムが増えている食品については、それらの電解質を含む新たな添加物を加えていることが考えられる。そう解釈してよいのであろうか?しかし、電解質の増減比がバラバラな食品については、どちらかの分析値が間違っているのではないか、としか思えない。不思議な改訂に基づいて毎年の食塩摂取量が発表されているように思われる。