たばこ産業 塩専売版  1993.09.25

「塩と健康の科学」シリーズ

日本たばこ産業株式会社海水総合研究所所長

橋本壽夫

 

食塩摂取量の変遷

 

 この3月に平成3年度の国民栄養調査結果が発表された。
 その中で食塩摂取量は前年より0.4グラム上昇して12.9グラム/日と報告された。この値は11年前の昭和55年の値と同じであり、相変わらずの減塩が推奨され、指導されているにもかかわらず約10年前に逆戻りした状態となった。近年引き続いてこの値は上昇してきており、今後の動向が注目されると同時に、当局による減塩指導が一層強化されると思われ、この問題を取り上げた。

食塩摂取量の計算

 国民栄養調査は全国から無作為に300地区の約6000世帯について調査が行われ、人員としては約2万人である。11月の日曜、祭日を除く連続した三日間を調査日とし、その日に摂取した食品を秤量記録し、食品成分表から摂取した食品中のナトリウム分を読み取って摂取量を算出したものを集積し、最終的に食塩に換算して表示した値が食塩摂取量である。したがって、例えば肉の中に自然に含まれているナトリウムや味の素のナトリウムも食塩として計上される。

食塩摂取量の内訳

 どんな食品から食塩をどれくらい摂取しているのかを表す食塩摂取量の内訳は年によって発表される場合とされない場合がある。昨年は図1に示すように昭和50年からの内訳の経年変化が発表された。これを見ると、調味料の変化が一番大きく、特に味噌の低下が大きい。味噌汁一杯が塩分○○グラムの摂取量に当たるということで悪者にされているせいであろうが、実は味噌汁は大豆のタンパク質とともにいろいろな具が入っていることで栄養摂取的には非常に良いものである。

食塩の食品群別摂取量の年次推移

              図1 食塩の食品群別摂取量の年次推移

 次に食塩が減っており、醤油はそれほど減っていないことが分かる。調理や食卓での味つけに使われる醤油の人気の高さが現れている。調味料の中でも平成2年度ではその他の調味料がそれまでの年の4倍も消費されており、結果的にこれが全体の食塩摂取量を前年より0.3グラムも引き上げたことになっている。その他の調味料の内訳が不明であるが、注目されるところである。調味料以外の食品から摂取する食塩(便宜上の表現)は40〜46%である。

食塩摂取量の変化

 食塩摂取量の経年変化を図2に示す。

食塩摂取量の変化
          図2 食塩摂取量の変化

 昭和51年の13.7グラムから次第に低下し、昭和60年には12.1グラムに達し、さらに昭和62年には11.7グラムまで下がったが、その後、上昇に転じ平成3年には12.9グラムとなっている。
 一時的に11.7グラムという最低値であるが、この図を見ると約12グラムで数年経過したが、減塩は止めたとばかりに上昇し始めたようにも見える。
 しかし、3月31日付けの産経新聞によると、平成3年度の上昇理由について厚生省の見解は、景気の低迷などで外食を控え、家庭で食事を取る機会が多くなっており、和食が増えた分、塩分の摂りすぎにつながっているのではないか、とのことである。この調査では外食の仕分けもされているので、もしこの見解が妥当であれば、景気の低迷はますます酷くなってきているので、来年発表される平成4年度の食塩摂取量はもっと高くなるはずである。
 また、景気の動向と食塩摂取量が関係あるとすれば非常に面白い現象で、その昔、天候不順で農作物の収穫が悪く飢饉の状態になると食塩摂取量が増えていた、といわれていることと何やら似たようなことのように思われる。
 平成3年国民栄養調査結果の概要によると、前年度より食塩摂取量が低下したのは近畿U(奈良、和歌山、滋賀)と南九州(熊本、宮崎、鹿児島、沖縄)ブロックだけで、10地区はすべて前年より上昇している。特に関東U(茨城、栃木、群馬、山梨、長野)、東海(岐阜、静岡、愛知、三重)、近畿T(京都、大阪、兵庫)、中国(鳥取、島根、岡山、広島、山口)、四国(徳島、香川、愛媛、高知)ブロックは昭和60年と平成元年から平成3年までの間、連続的に摂取量が増加している。

今後の予測

 前に述べたように、今後も食塩摂取量は増加すると思われるが、その防止策として食品中のナトリウム表示の強化、表示注目への呼びかけが盛んになるであろう。
 しかし、それが本当に意味のあることであるのか、意味があるとすれば、どのような人にどの程度の意味があるのかまで知らせてもらいたいものである。