毛細血管血液で測定される塩感受性
Salt Sensitivity Determined from Capillary Blood
By Oberleithner and H. Wilhelmi M.
Kidney Blood Pressure Research 2016;41:355-364
要約
背景/目的:負荷された塩摂取量に応答する大きな血圧上昇は高い塩感受性の弱い兆候で、後の人生で動脈高血圧と関連した疾患の発症を促進させると思われる。代わりの方法の調査で、我々は塩感受性(SS)を定量化するための新しい概念である塩血液テスト(STB)を最近開発した。この概念、すなわち、赤血球細胞(RBC)が塩感受性について報告していることに基づいて、SBT-miniが開発された。
方法:SBT-miniは‘スマート’Na+カクテルと混合した毛細血管血液の一滴を利用する。この混合物の赤血球細胞はガラス管の中で重力によって沈降させられる。塩感受性は赤血球細胞の沈降速度を測定することにより定量化される。90人の健康なボランティア(男性39人、女性51人;平均年齢:23±0.5歳)は評価され、男性と女性についての‘基準値’が決められた。
結果:女性血液のナトリウム緩衝能力は女性の低いヘマトクリットのために男性血液と比べて約20%小さい。個人の塩感受性はそれぞれ男性/女性コホ-トの平均基準値(100%に設定)に関連している。高い塩感受性(120%以上)は男性の31%と女性の28%に発見された。
結論:塩感受性はSBT-miniによって測定された個人の赤血球細胞のナトリウム緩衝能力から得られると推定される。健康なテストされたコホ-トの約1/3は塩に対して高い感受性を示す。少なくとも5.1 g/dまで減塩が、特に高い塩感受性の人には勧められる。
はじめに
塩感受性は体内のナトリウムを管理する個人の能力を特徴付ける。世界中のほとんどの社会で非常に一般的に大量の塩摂取量は脳、心臓、腎臓、血管系を損傷させる動脈高血圧の発症を助長することで知られている。塩感受性を定量化できることは非常に有用であるが、実際的な方法はほとんど手近にない。塩感受性の正確なテスト法は通常非常に困難で、患者の承認が得られにくいことと関係している。最近、いわゆる塩血液テストが開発された。それは定量的な状態で赤血球の塩感受性を述べており、間接的に血管の内部表面層の機能特性に目を向けている。我々は赤血球の塩感受性と血圧との間にポジティブな関係を発見した。しかし、この関係が成立するか、または利用できるかどうかを我々は知らない。テストは静脈穿刺で血液試料を採取することに基づいている。赤血球細胞を分離し、洗浄して、測定を行う前に2つの異なったNa+カクテルに懸濁させる。この方法は簡単ではあるが、数ミリリットルの静脈血を必要とし、何回かの洗浄と遠心分離器を使用する。したがって、この塩血液テストはいくつかの基本的な実験的熟練とどこでも手に入らないような装置を必要とする。塩感受性についてのテストはできるだけ簡単にすべきで、実験的な技術を要しないで誰でも行えるようにするために、我々は元の塩血液テストを改善(すなわち、簡素化)した。“2,3段階”と“少量の血液試料”で済むように力点を置いた。我々は遂に新しい方法、SBT-miniに到達した。このテストはわずか50μlの毛細管血液で済み、試料の遠心分離も必要なく、比較のために、健康な被験者から得られた男女についての基準値を使う。それにもかかわらず、SBT-miniは5%の範囲内の技術的なバラツキで定量的な状態で塩感受性に関して報告する。
材料と方法
塩血液テスト(SBT-mini)
省略
統計
省略
結果
省略
考察
ヒトの塩感受性は完全には定義されていない。高い塩感受性者は塩負荷に動脈血圧の上昇で多分、応答する。塩感受性の差の裏にどんな機構があるかはまだ不明である。最もありそうなことは、腎臓が主役を演じている。腎臓のナトリウム排泄量能力は、塩辛い食事で身体に入ってきたNa+がどれくらい長く体内に留まっていられるかを決めている。世界中の実質的に全ての社会の日々の塩摂取量は通常(非常に)高い(5.1 – 15.2 g/d)ので、健全な腎臓でもNa+排泄能力の限界に達する。結果として、大量のNa+は一時的に皮膚に噴き出る。Na+貯留は時間と共に大きくなり、最終的に器官を損傷させる。
むしろ高い電荷密度を持った小さなイオンであるNa+はいわゆる“水構造作成者”(すなわち、むさぼるように水分子を結びつける)。Na+の大きな電荷密度のために、このイオン種は内皮細胞や赤血球細胞の負の電荷を持った糖衣表面に選択的に引き付けられる。その大きな電荷密度とその厚い水殻のために、Na+は糖衣の正味の電荷を決定する。この実質的に‘ネズミ’イオンのこれらの典型的な特徴は、ゼータ電位に影響を及ぼすことで知られている正味の表面電荷に及ぼすNa+の大きな影響を説明している。
前に、赤血球糖衣は血管内皮細胞の糖衣を‘反映している’ことを我々は観察した。赤血球細胞と内皮細胞の糖衣は両方ともNa+と選択的に結合する。したがって、細胞外液Na+(血漿Na+濃度)の増加は赤血球細胞/内皮細胞表面の残り(まだフリーな)の負電荷の幾分かを中和する。これはゼータ電位に影響を及ぼす。この概念に基づいて、いわゆる塩血液テストは3年前に開発された。健康なボランティアに塩血液テストを適用して、2つのグループが明らかにされた、低い塩感受性グループと高い塩感受性グループである。明白な高血圧患者が高い塩感受性サブグループで非常にしばしば発見されることを一つの研究は示した。とかくするうちに2つの臨床研究が行われた。血液透析患者で行われたもう一つの研究は、赤血球糖衣は緊急血液透析後に改善された、すなわち、塩感受性は低下し、または言い換えると、慢性腎臓疾患で苦しんでいる患者の4時間血液透析によって糖衣のNa+緩衝力は回復したことを示した。
専門的な医療を受けている患者に受けさせるだけでなく、特別な医療教育をされない健康な人々に向けて話すことを目的として、我々は塩血液テストを容易に使えるように努力してきた。ここに述べられているSBT-miniはこれらの努力の結果である。元のSBTと比較してSBT-miniは長所と短所を持っている。長所は次の通りである:(i) 塩感受性を定量化するためには小さな装置と2,3ステップで十分である。(ii) テストを行うにはわずか50μlの毛細血管血液だけで十分である。SBT-miniの潜在的な短所は、個々人の赤血球が結果に影響を及ぼす事実である。例えば、貧血/充血患者で大きな赤血球変動が予測されるとき、これは決定的である。これらの条件下でも、SBT-miniは行えるが、そのような測定値の結果は赤血球量(赤血球)と赤血球の質(Na+緩衝力)の両方を含んでいることを気付かなければならない。これら二つの変数が分離されなければ、赤血球を測定しなければならない。SBT-miniが開発された時、男女間の赤血球の大きな差が考察された。我々は二つの基準値を提示した。女性用と男性用である。これら二つの基準値を使うと、赤血球の性差の影響は最小になる。
元のSBTの結果はSBT-miniで得られたデータと十分に比較できる。男女間の赤血球差を考慮する時、我々は塩感受性で大きな性差を見出せない。これは元のSBTの結果と一致する。さらに、研究参加者(61人の健康な若者で平均年齢は23歳)の28%は高い塩感受性(平均値の20%以上が塩感受性)であったことを元のSBTは示した。これは比較コホ-ト(90人の健康な若者で平均年齢23歳)で行われた現在の研究データと非常に良く一致している。そこでは男性コホ-トの31%と女性コホ-トの28%が高い塩感受性であった。
元のSBTとの比較で、前に報告されたSBT-miniは遠心分離と赤血球洗浄工程は必要なく、一回の‘スマート’Na+カクテルで処理した全毛細血管血液の混合物を使う。それは片や、溶血を妨げるに十分高く(浸透圧:約200 mOmol/l)、他方、フリーな負の赤血球表面帯電の十分な一部を維持するに十分低いNa+の低い濃度をカクテルは含んでいる。赤血球の沈降速度はNa+とフリー(まだ保護されていない)な負電荷との間のこの十分に定義された収支に決定的に依存している。我々は多くの異なったNa+濃度(図2に示された幾つかの曲線、省略)をテストし、最終的に最も適した曲線を選んだ。‘最も適した’は、60分後に測定された沈降速度(ゼータ電位を間接的に示している)は試験管で十分に読み取れるので、極端な値(すなわち、極端に低いと高い塩感受性ドナーの血液)でも測定される。洗浄でCa2+が除かれた元のSTBと比較して、我々はCa2+をキレートさせるためにEDTAを使った。Ca2+は帯電した表面と強く干渉することが知られており、これによりNa+はゼータ電位の電荷と関係しているNa+を覆い隠すので、EDTA使用は必要である。最後に、我々はデキストラン濃度を修正した。デキストランは赤血球表面に赤血球の凝集を促進させる‘付着性’を与えるために必要である。前に述べたように、デキストランは赤血球の表面にくっつく。赤血球表面がお互いに(数ナノメーター)近くなる(物理的に)と、デキストラン分子は糖衣と赤血球集合体に‘隠れてしまう’ので、正しい分子サイズが全く重要になる。その距離は糖衣の‘品質’に依存している。不十分な糖衣は電荷の数が減っており、したがって、赤血球はずっと容易に集合する。デキストランは集合についてのこの傾向を強化し、この現象 (沈降速度) を測定しやすくする。
元のSBTを使うことで既に示されたと同様に、SBT-miniは、二つのサブグループ、低い塩感受性グループと高い塩感受性グループが存在するかもしれないことを示す健康な集団の2峰ヒストグラムを明らかにした。それは男性のように女性でもっと明確なように思える。80 – 120%の範囲の塩感受性値は‘平均塩感受性値’と呼ばれ、これは健常人(全ての塩感受性タイプを含む)について予想される範囲(約3倍の標準誤差)について示している。2峰ヒストグラムは遺伝的な疾病素質によって簡単には説明されないが、個人の生活様式の明らかな差によるとも説明される。例えば、生体外と生体内でポリフェーノール化合物の応用は塩感受性に影響を及ぼす。血漿ナトリウムの上昇した濃度も内皮細胞と最近示されたように赤血球細胞の帯電した表面層を次第に破壊する。さらに、炎症性疾患/アテローム性血栓症における塩感受性変化が生じそうである。そのような条件下では内皮細胞表面層が負電荷を失うことが知られているからである。赤血球細胞糖衣のNa+緩衝力における変化はSBT-miniで報告されていることが結論される。これはガン、免疫と感染症のような多くの異なった疾患でも生ずる。それにもかかわらず、そのような変化はこれら個々人の変えられた塩感受性を示す。
SBT-miniの概念は赤血球沈降速度の古典的な測定と比較して明らかに異なる。SBT-miniによって測定された赤血球細胞沈降は赤血球細胞表面層のNa+特性(血液はNa+カクテルで希釈され、Ca2+はEDTAによりキレートされ、k+は赤血球細胞糖衣でわずかに干渉されることが知られている)に大きく依存し、一方、血液中で行われる赤血球細胞沈降速度は血漿タンパク質の機能特性と赤血球細胞とタンパク質との干渉に大きく依存している。
結論
SBT-miniはヒトの塩感受性評価に適している。5%の技術的な誤差で、容易に処理でき良い信頼性を持ったSBT-miniは幅広く使われることが約束できる。塩感受性は遺伝的に固定されていなくて、むしろ様々な値となるので、テストは予防的な行動(例えば、低塩食、生活様式変化)そして/または心血管疾患の薬剤治療に対する個人の応答を評価ために有用である。