たばこ塩産業 塩事業版  1998.10.25

塩なんでもQ&A

(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事

橋本壽夫

 

ソ−ダ工業ってどんな工業?

 

 この夏、「たばこと塩の博物館(東京・渋谷)の『夏休み学習教室』に足を運び、塩の様々な用途について学びました。塩の用途は食品だけでなく、ソ−ダ工業用が圧倒的に多いとのこと。ところでこの「ソ−ダ工業」という言葉が、どうもピンときません。ソ−ダとはナトリウムのことだそうですが、ソ−ダ工業とはどんな産業なのですか?また、ソ−ダというとすぐソ−ダ水が思い浮かぶのですが、何か関係あるのでしょうか?簡単に、そして具体的に教えて下さい。                                           (東京都・主婦)

「ソーダ」=ナトリウム塩

 ソ−ダとは広辞苑によると「ナトリウム塩の俗称。普通には炭酸ソ−ダを指す。」とあります。ナトリウム塩(えん)とは炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムのような化合物のことで、アルカリである水酸化ナトリウムと、酸である炭酸や硫酸や塩酸との中和反応によって出来る化合物です。ナトリウムの代わりにソ−ダという言葉が使われ、先ほどの三つの化合物はそれぞれ炭酸ソ−ダ、硫酸ソ−ダ、塩化ソ−ダともいわれます。したがって、ご質問のようにソ−ダはナトリウムのことである、という認識を持つわけですが、そうではなくナトリウム塩のことなのです。
 また、ソ−ダ水とは炭酸水のことで直接ソ−ダ工業とは関係ありませんが、ソ−ダ塩を含んでいるということで、このようにいわれるのでしょう。炭酸水は食塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム(重曹のこと)などを含む天然鉱水(ミネラル・ウォ−タ−)や人工鉱水に炭酸ガスを溶解させたものです。炭酸ガスは瓶や缶の中で3.6kg/cm2(タイヤの空気圧より高い)以上に加圧されて溶けていますので、栓を開けますと大気圧になり、水に溶けている炭酸ガスが揮発するため泡立つのです。

生活を支えるソーダ工業

 ソ−ダ工業は食塩(塩化ナトリウム)を原料にして成り立っている工業ですから、ナトリウム塩を扱う工業ということでソ−ダ工業といわれております。ソ−ダ工業に関連したナトリウム塩は、図−1に示しますように原料である食塩と、それから造られるソ−ダ灰(炭酸ナトリウムのこと)とカセイソ−ダ(水酸化ナトリウムのこと)です。さらにそれらを原料にしていろいろなナトリウムの入った無機薬品や化学薬品が造られますが、それらの工業はまた別のいい方で、化学工業とかガラス工業となります。ソーダ工業と製品

 ソ−ダ工業では塩を原料にしますので、塩素も得られますので、それも含めてソ−ダ工業といっています。ソ−ダ工業と製品の関係は図−2に示す通りです。

ソーダ工業の製品
             図−2 ソーダ工業と工業と製品の関係

 ソ−ダ工業から生まれる製品、それに関連して派生する製品は数多く、現代の文明生活はソ−ダ工業に基礎を置いている、ともいえます。
 しかし、それ以上に塩のお陰で我々の現在の生活は成り立っているといえます。それというのも、塩の用途は14,000種類もあるといわれているからです。直接的な用途と間接的な用途に別けて、その様子を表−1に示しました。この表を見ると、食塩が思いもしないところで直接使われていたり、間接的にはさらに用途が広がって、形をまったく変えているために、どのような使われ方をしているのか見当もつかず興味をそそられる用途もあります。

天然ソーダから食塩電解法へ

 通常、ソ−ダといわれる炭酸ソ−ダは天然にもあり、東アフリカのナイロビ郊外にあるマガジ湖のマガジ灰は有名です。このように天然にあることから、ソ−ダは、すでに何千年も前から衣類の洗浄、染色、漂白、遺体の防腐処理、ガラス製造に使われていました。ガラスができることは偶然に分りました。その昔、エジプトのソ−ダを積んだ船がフェニキアの海岸に到着しました。乗り込んでいた商人達は、その海辺で食事の支度をしようとしましたが、海岸には竈を作るのに利用できそうな石はまったく見当たりませんでした。そこで商人達は石に代わる物としてソ−ダの塊を船から取ってきました。彼等はこうして火を焚きましたが、驚いたことに焚き火の熱作用でソ−ダと砂から透明な固体(ガラス)が生まれたそうです。すでに、6000年以前のエジプトの墳墓から色とりどりのガラス玉が見出されています。エジプトの職人達は、約3500年前に豊かな装飾を施した多色のガラス製花瓶の製作を開始していました。
 ガラスや石鹸の需要増加で天然ソ−ダの供給が間に合わなくなり、フランスの国王は1783年にソ−ダ合成法の懸賞募集を行いました。ルブランが1791年に食塩を原料にして合成ソ−ダの工場生産に成功しましたが、フランス革命に巻き込まれ、賞金ももらえず工場も閉鎖され、失意のうちに救貧院で自殺しました。その後、ベルギ−人のソルベ−が1861年に食塩を原料として、アンモニアと炭酸ガスでソ−ダを製造する新しい方法の特許を申請し、1863年にソ−ダ製造工場を作りました。この革新的な方法はソルベ−法(別名アンモニア・ソ−ダ法)といわれ1900年までに年間生産量は300トンから900,000トンと飛躍的に増加し、市場価格も3/4も低下しました。現在でもこの方法は使われています(図−2のソ−ダ灰工業)。しかし、大半はイオン交換膜法による食塩電解法によって生産されております。
 単純で最も身近な食塩を原料にして、幅広い用途をカバ−しているソ−ダ工業について簡単に解説しました。私達は形を変えた食塩に取り囲まれた中で生活している、ということがお分かり頂けたと思います。

塩の工業的用途
              表−1 モルトン・ソルト社のパンフレットより