たばこ塩産業 塩事業版  1998.2.25

塩なんでもQ&A

(財)塩事業センター技術部調査役 

橋本壽夫

 

塩の固結について

 

 1月号のこの欄(「塩は賞味期限の考え方が当てはまらない商品」)を読んで、普通の塩なら時間が経っても腐敗、変敗せず、味も変わらない、ということを知りました。つまり、塩は半永久的に保存可能だ、ということになりますね。ただ、密閉されているビニール袋のなかでも塩が固まることがあり、私も以前、お客様からクレームを受けた覚えがあります。「固結」という現象だそうですが、その原因、予防法などを教えて下さい。また、固結した塩は品質的におかしくなったりするのでしょうか。                                       (大阪府・塩販売店)

固結の原因
固結は物理的な品質変化

 塩の品質の内容は、化学的な品質(化学成分、組成など)、物理的な品質(粒度、硬度、流動性などの物性)、感覚的な品質(味覚、視覚、触覚など)に分けられます。
 腐敗・変敗、味の面では時間が経っても品質は変わりません。しかし、組成、流動性、触覚などは貯蔵の仕方によって時間が経てば変わってくることがあります。
 例えば、気温の低い所に貯蔵すれば、塩は水と結合して結晶水を持った塩に変わりますので、化学的な品質が変わることになりますし、結晶の形が変わりますので物理的な品質も変わることになります。しかし、通常このようなことはめったに起こりません。
 もっとも良く起こるのは、塩が固まるということです。これは袋に入れてあっても、袋から出してあっても起こります。その原因は湿度の変化にあります。したがって気象の変化とか台所の湿度の変化に大きく左右されます。業界ではこれを塩の固結といっています。
 物理的な品質が大きく変化することになります。
 塩の固結は手でほぐれるような軟らかい固結から、岩塩のように叩いても、なかなか壊れない非常に硬い固結までありますが、いずれにせよ固結すると取り扱いに困りますので何とか避ける手立てが必要となります。

固結するまでのプロセス

 塩が固結する原因は湿度の変化にあると述べましたが、湿度が高ければ高いまま、低ければ低いままであればよいのですが、ある値の(塩の臨界湿度といいます)を境として、その値を上下するような変化が繰り返し起こると、塩は固結してしまいます。塩がその臨界湿度以上の環境に置かれますと、塩は空気中の水分を吸湿する性質を持っており、塩の表面は湿って溶けてきます。そのような状態から臨界湿度以下に空気の湿度が下がりますと、今度は逆に塩の表面から水分が蒸発して塩の表面は乾燥されて結晶が成長してきます。
 このように湿度の変化で塩の表面が湿って溶けたり、乾燥して結晶が成長したりする工程を何回も繰り返しますと、小さな塩の結晶同士はくっついて大きな塊となってしまいます。
 塩の臨界湿度は純粋な塩であれば相対湿度75%ですが(相対湿度は通常天気予報で発表される湿度と同じです)、塩化マグネシウムのような不純物があれば、その値は低くなります。しかも塩化マグネシウムが含まれている量によってこの値は変わり、量が多いほど臨界湿度は下がってきます。
 その昔、塩の品質が悪くてにがりの成分である塩化マグネシウムがたくさん含まれていた頃の塩は、塩壺に入れておきますと空気中から水分を吸湿してベタベタになり、底に水が溜まってくることがありました。湿度の問題だけではなく、塩が散塩で大量に野積みされている時に、雨が降って濡れたり、天気になって乾燥したりすることを繰り返しますと、塩は固結していきます。

気象条件の湿度の違いも

 固結が気象条件の湿度によって左右されることを述べましたが、アメリカで出版されている塩の専門書には、高度に精製された純度の高い塩は固結しにくく、わずかな塩化カルシウムや塩化マグネシウムのある普通の塩の方が固結しやすいと書かれています。ところが日本では逆で、純度の高い塩ほど固結しやすいのです。
 この違いは気象条件の湿度の違いにあります。
 アメリカでは年間平均湿度は50〜70%ぐらいで乾燥しており、冬場の一時期だけ75%を越えることがあります。一方、日本では65〜80%ぐらいで湿っぽく、特に夏場には75%を越える日がたくさんあります。
 したがって、アメリカでは高純度の塩は固結しにくいわけですが、日本では夏場に固結が多く発生します。
 不純物が少しある普通の塩は、アメリカでは固結しやすく、日本では固結しにくいということになります。

固結の予防法

 固結する機構が分かれば、それを防ぐ方法が考えられます。湿度の変化が原因ですから、湿度が変わらないようにするか、湿度をかなり低い状態で保てば良いわけですが、塩は安い商品ですので、経済的に湿度をコントロールすることは現実的には不可能です。湿度は温度によって大きく変わりますので、湿度が変わらないようにするには、温度が変わらないようにもしなければならないからです。
@   一般的な固結予防剤添加
  一番良く使われる方法は固結を防止する物質を加えることです。この物質は固結防止剤といわれますが、もちろん食品添加物でなければなりません。また固結防止剤ほどの効果はありませんが、ある程度効果があり、塩の結晶を振出し口から出す時に、塩を滑りやすくしてスムーズに塩が流れ出るように流動化剤を加えることもあります。
  固結防止剤や流動化剤の働きは、@塩の結晶表面を覆って塩の結晶同士がくっつかないようにしたり、A塩結晶を軟らかい形に変えることです。日本では@の働きをする化合物が使われています。例えば、塩基性炭酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウムです。それらが0.3〜0.4%の規準で添加されています。外国ではこの他に炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム・ナトリウムなどが使われています。固結に卓効があるのはAの働きをするフェロシアン化ナトリウムやカリウムです。この化合物は20 mg/kgというわずかな添加量で塩の結晶表面に樹枝状の軟らかい塩をつくりますので、塩は決して固まることはありません。
  このようなことから外国では非常によく使われています。しかし、日本では食品添加物として認められていませんので使われておりません。
  この物質の安全性は確認されておりませんが、長年の実績から安全な物質として認められています。 しかし、外国でも消費者は、できればこれが添加されている塩を避けたいと思っているようです。A   塩の臨界湿度を下げる
  日本のような湿気の多い季節のある国では、臨界湿度の低い塩類を含ませることにより塩の臨界湿度を下げると、ある程度、固結を防止できます。つまりにがりの成分である塩化マグネシウムをある程度含むように仕上げるか、塩化カルシウムを添加して臨界湿度を下げるわけです。ちなみに、この頃、湿気の多い季節にはカビが付かないように、どこの家庭でも湿気取りを洋服ダンスや押入に入れていると思います。この湿気取りの成分は塩化カルシウムです。
  このようにすると、固結を起こす季節が乾燥した冬場に起こりやすくなりますが、湿気の多い台所では固結しにくくなるでしょう。保存中に固結しないようにするには、乾燥した冬場の相対湿度でも、絶えず吸湿側になるように塩化カルシウムや塩化マグネシウムを加えておけばよろしいのですが、そうすると塩がベタつくようになり、塩の振出し容器から塩が出てこなくなります。湿気が大きく変動する気象環境の土地や局所的な場所では、このような塩類の添加だけで固結を防止することは難しいといえます。B    ショックを与えて崩す
  家庭で固結を防止するには、あまり固く固結しないうちにショックを与えて固結を崩しサラサラにしておくことです。振出し容器に入っている場合には、使うときに自然にそのようにして崩していますので、頻繁に使っておれば固結することはありませんが、塩容器に入れて手やスプーンで取り出す時には、固まってしまうことがあります。そのような時には全体をかき混ぜるなり、容器を揺するなりして固結を崩して下さい。
  サラサラした塩、シットリした塩の性質をいつまでも維持させて倉庫や家庭で保存することは、日本の気象条件や室内の温湿度条件からして、かなり難しいことです。固結を予防するには、塩製品の先入れ先出しによる倉庫管理、軟らかい固結のうちにほぐしてしまうといった家庭における塩容器管理が大切です。