戻る

たばこ塩産業 塩事業版  2015.7.27

塩・話・解・題 124 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

エメラルドグリーンに輝くサンゴの海で製塩

株式会社 石垣の塩を訪ねて

 

 石垣島で製塩されている「石垣の塩」は、エメラルドグリーンに輝くサンゴ礁の海水を使っていることが売りだ。「石垣の塩」の特徴は粒径が非常に小さく、溶けやすいこと。どうしてそうなのか?前から疑問を持っていた。この度、()石垣の塩を取材する機会に恵まれ、推測の域を出ないが、疑問が解けたように思う。

 

抜群の自然環境が育む極上の塩

唯一無二の製塩工場

 サンゴ礁が隆起してできた石垣島には沖縄県で一番高い標高525.5 mの於茂登岳がある。2007年には石垣島の一部が西表国立公園に編入され西表石垣国立公園となった。写真1に示すエメラルドグリーンに輝く川平湾には、船底からサンゴ礁に群がる熱帯魚を観賞できるグラスボートがある。様々な種類のサンゴに群がる美しい熱帯魚の光景は写真2に示す商品「石垣の塩」に印刷されている。

川平湾

写真1 川平湾

石垣の塩のパッケージ

写真2 商品パッケージ

 於茂登岳の西にあるぶざま岳のふもとを車で川平湾から南に下ると名蔵湾に出る。名蔵湾の一部は鳥獣保護区に指定されている。海岸沿いの道をさらに南下するとまもなく2005年にラムサール条約湿地に登録された名蔵アンパルに着く。そこは湿地帯に生息する動植物の宝庫。その先の道路沿いに「石垣の塩」の製塩工場がある(写真3)。工場は写真の左側にあり、周囲の木々が高いので建屋は目立たない。熱帯ジャングルもどきの森(?)の小道を通って浜辺に出ると名蔵湾を一望できる。振り返ると木陰に隠れるように小さな国立公園の看板があった。これほどの素晴らしい自然環境と景観に恵まれた地にある製塩場はないのではなかろうか。

製塩工場の入り口

写真3 製塩工場の入り口

石垣の塩の取水管

石垣の塩の安富真吾工場長(右)から取水管の説明を受ける筆者

せんごうは3段5列の平釜で かん水は沸騰させずに濃縮

塩作りは1997年の塩専売制度廃止に伴って始められた。浜辺から沖合1.5 kmまでサンゴの群生を避けながら取水管を海底に固定して延長し、水深20 mの所で取水している。台風により取水管が破壊され、再構築しなければならないことも度々あったという。海水は砂ろ過され、逆浸透装置で5%まで濃縮される。実際にはもう少し高い濃度まで濃縮でき、そうした方が燃料費的に有利であるが、濃縮し過ぎると逆浸透膜内で炭酸カルシウムの結晶が析出し、膜を破損する。離島であるためトラブルが生じると迅速に対応できないので、安全サイドで運転している。せんごう装置でもトラブルを未然に防ぐため細心の注意を払ってメンテナンスに力を注いでいる。

かん水の煮詰めから塩の析出、取出しまでのせんごう工程は3段5列に配置された平釜で行われている。立体的で非常にコンパクトな構造となっており、年間130トン程度の塩を生産している。平釜は上蓋で覆われており中を見ることはできない。上2段はかん水の濃縮に使われ、塩の飽和濃度に近いかん水になると、下段の結晶釜に移される。結晶釜の底は傾斜しており、底に溜まった塩は容易に払い出される。結晶釜は特殊な方法で撹拌されている。いずれの釜にも加熱用の蒸気を通してかん水を加熱する蛇管が設置されている。しかし、かん水を沸騰させるほどの加熱はしておらず、90℃でゆるやかに濃縮しているのが特徴だ。

結晶釜へのかん水張り込み時に苦汁

濃縮工程の管理は蒸発によるかん水容量の減少具合いで行っており、かん水濃度を計測することはない。これは結晶釜から塩を取出す場合でも同じとのこと。濃縮釜から結晶釜へかん水を移す場合も5列に分かれている濃縮釜からそれぞれの結晶釜へかん水移動用の配管が敷設されており、水位計による自動制御でかん水輸送を行っている。結晶釜へのかん水張り込み時には苦汁も加えるという。かん水張り込みから6時間で採塩し、直ちに横型連続遠心分離器で苦汁を遠心脱水し、製品とする。

先に述べた「石垣の塩」の粒径が非常に小さい理由を考えてみる。かん水張り込み時に苦汁を加えること、かん水は沸騰することなくゆるやかに濃縮されること、結晶成長の速度は遅く、結晶が大きく成長しないうちに採塩されることなどがポイントと思われる。例えば、飽和かん水に無水アルコールを加えると直ちに立方体の微細な塩結晶の析出で白濁する。無水アルコールにより脱水され、濃縮されて塩が析出するからだ。塩の飽和濃度に近いかん水が張り込まれた結晶釜に苦汁を加えて撹拌すると、濃度の高い状態で残っている苦汁中の塩の成分(ナトリウム・イオンと塩化物イオン)の影響で多くの微細な塩の結晶が析出してくるのではなかろうか。ゆるやかな濃縮と遅い結晶成長、その上、短時間での採塩で塩の結晶粒径が小さいのは当然のことだ。せんごう工程の管理・操作法の確立は試行錯誤の中で偶然とも言える僥倖の賜物による結果であったとのこと。

最近は粗い粒子の塩の需要に応えて、丸型の釜で炊きつめて作った塩を取出して自然の状態で苦汁を切り、それを天日干しと称してビニールハウスの中で乾燥させた粗塩
を作っている。凝集晶となっているので粒径は大きい。数量はまだわずかであった。

立方体結晶の微細な塩

望まれる業務用への用途拡大

 「石垣の塩」の品質で最大の特徴は平釜製塩であるにもかかわらず立方体結晶で粒径が小さいことだ。平成16年に発行された()塩事業センターの「市販食用塩データブック」によれば平均粒径は0.13 mmとなっており、0.1060.150 mmの粒径でほぼ揃っている。ちなみに食塩の平均粒径は0.40 mm0.3550.425 mmの粒径が大半である。平均粒径が小さいことは速く溶けることにつながり、20 gの塩が所定の条件で溶ける秒数を測定して溶解性という指標で表した数値は「石垣の塩」1.3秒に対して食塩では1.9秒。粒径の細かい塩は他の物との混合性や付着性も優れているが、測定データはない。これらの特性を生かせる業務用への用途拡大が望まれる。現状では60%が観光地でのお土産用で35%程度が業務用であるという。一般の小売りは少ないようだ。

 前述のデータブックによると成分的には硫酸カルシウムが多く含まれている。これ以上に多く含まれている商品には「ひんぎゃの塩」がある。この商品の製造法については本紙に掲載した。硫酸カルシウムは非常に溶けにくい成分であるので体内には吸収されにくい。

平釜製塩では塩と同時に析出してくる硫酸カルシウムを塩と分離できない。したがって、結晶釜に張り込む前に出来るだけ硫酸カルシウムを析出させておくことと、どこで煮詰めを終えるかで製品中の硫酸カルシウム含有量は大きく変化する。

 「石垣の塩」の包装袋には製品100 g中の成分が栄養表示されている。その中に有機物である炭水化物1.2 g、それをエネルギー換算したエネルギー5 kcalが表示されている。通常、塩商品には有機物は含まれないのでエネルギーはない。この件については、かつて()日本分析センターは分析依頼を受けた塩を食品として扱い、食品分析法で成分分析を行っていた。この分析法によると試料を550℃で灰化した時の減量を有機物とする。この温度で塩試料中の硫酸カルシウムや硫酸マグネシウムの結晶水は飛ぶので減量となる。

また塩化マグネシウムは酸化マグネシウムとなってこの場合も減量となる。これらの減量分は有機物として表示される。したがって、塩に有機物が含まれているように表示され、エネルギーも表示される。塩分析法で分析すれば塩に有機物があるという変な表示になることはない。塩の専門機関である塩事業センターに分析依頼すれば間違いない。塩専売廃止後、分析を()日本分析センターに依頼した多くの商品は間違った成分表示をしていた。

現在では塩分析法で行っているのでこのようなことはないが、食品分析ができる地方の機関に依頼すると間違った成分表示となることがあるので注意を要する。数多くの塩商品が陳列されている那覇市の塩専門店には今でも間違って表示されている商品がいくつかあった。

※編集部注:平成274月より一般財団法人沖縄県環境科学センターでは分析方法を改めており、「エネルギー:<1kcal/100g、炭水化物:<0.1g/100g」の結果となっている。275月以降の印刷物から順次反映。