戻る

たばこ塩産業 塩事業版  2015.3.25

塩・話・解・題 120 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

イギリス塩協会のホームページ訪問

生産・用途・健康・歴史…

塩に関する情報満載

 

 日本に日本塩工業会があるようにイギリスには塩協会(Salt Association)がある。古い歴史を持つ国だけにホームページを見ると興味をそそる内容が満載されている。特に塩の歴史では初めて認識する話題が多く盛り込まれている。ホームページの概要を紹介しよう。

イギリス塩協会

7社で構成、塩製造・卸売などの同業者団体

 塩協会の設立時期は定かでないが、現在、次の7社がメンバーとなっている。

ブリティッシュ・ソルト:真空式製塩法による主要な塩製造会社。▽クリーブランド・ポタッシュ:鉱山から塩化カリウムを採鉱している会社。▽コンパス・ミネラルズ:融氷雪による冬期道路管理をサポートする会社。▽イニオス・エンタープライジズ:イギリス最大の真空式製塩法による塩製造会社。▽アイリッシュ・ソルト・マイニング:岩塩採鉱会社。▽ピーコック:塩の港湾荷役、包装、混合などを行っている塩販売会社。▽ウィルソン・ソルト:アイルランドの塩製造・販売会社。

 塩協会はイギリスの塩製造会社と卸売会社を代表する同業者団体である。健康、安全性、環境、品質に関する諸問題についての情報を共有することを重要な業務施策としており、それで従業員、顧客、使用者、社会に対して責任を果たしていくことを行動規範としている。

 塩協会はソルトセンス(SaltSense)というサイトを運営する組織に財政援助を行い、科学的事実に基づいて塩と健康問題を議論する情報を提供している。機会を見て本紙で紹介したい。

 以下、ホームページの内容で一般的な項目を除き、塩の生産、用途、科学、健康問題、歴史などについて述べる。

 

生産 岩塩・せんごう塩

製造工程などを紹介

 塩の生産については、教育的な情報を供給する教育という項目の中で岩塩とせんごう塩の生産を述べている。

岩塩の生産地はクリーブランドとチェシャーの2カ所。岩塩鉱ではアンダーカッターで下部を掘削し、その上の塩層に爆薬装填用の孔をあけ爆薬を詰めて爆破するカット・アンド・ブラスト採鉱法とボーリング・マシンで岩塩層を連続的に細かく切り崩していく連続採鉱法の2方法を採用している。

 せんごう塩の生産は白い塩の生産と言われ、溶解採鉱によるかん水生産とそれを真空式蒸発法により煮詰めて白い塩を生産する二段階の工程を必要としている。

 

用途 融氷雪・軟水化

費用対効果・メリットなど

 岩塩の用途は道路の融氷雪であり、「融氷雪」という項目を設けて最適な融氷雪方法、融氷雪と環境問題、融氷雪用塩の貯蔵に伴う問題、費用対効果を述べている。

 せんごう塩の用途は食品の製造や保存、味付けと硬水を軟水にする水の軟化である。国土の約60%が硬水地帯であり、硬水に含まれるカルシウムやマグネシウムを除いて軟水にしなければならない。軟水化によるエネルギー消費量や洗剤使用量の節減などのメリットを述べている。日本の水は軟水であるので、飲料水のために軟水にする必要はないが、ボイラー用水では軟水でもスケール防止のために軟水器で処理する必要がある。

 最大の塩の用途はソーダ工業であり、その製品は多岐にわたる製品の製造に使われる。ホームページにはソーダ工業という言葉は使われておらず、教育欄の「化学」の項目で、ソーダ工業の製品である塩素、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムについてそれぞれの製法、用途が述べられている。

 

科学 各成分の用途を掲載

子供向けに塩の作り方も

 教育項目の「化学」で塩とは何かを化学的に論じ、塩の化学では塩化ナトリウムの組成と電気分解およびそれにより分けられた各成分の一般的な用途を述べている。逆に化学反応による塩の作り方や子供向けの実験として大きな塩結晶の作り方を述べているが、塩の物理的・化学的性質を総合的に述べた項目がないことには物足りなさを感じる。

 

健康 高血圧症・減塩問題

政府の政策に疑問呈す

 教育項目の塩と健康には二つの章があり、その一つでは塩と細胞機能として人体におけるナトリウムと塩素の働きが簡単に述べられているだけである。

もう一つの調理における塩の役割については、味付け、食品保存、(肉製品の)結着剤、(肉製品・パン製品の)着色制御剤、(肉製品・麺製品の)歯ごたえ改良剤、(パン製品・乳製品の)発酵調整剤としての塩の働きについて述べている。

 

研究結果は時代遅れ

 塩と健康問題で関心のある高血圧症や減塩問題については、「塩に関する事実」という項目の中で塩協会の立場を明らかにしている。

政府による減塩政策で混乱が深まっている。保健省がガイドラインの根拠としている研究はあまりにも不十分で時代遅れであるために、専門家が考えている戦略は誤解を引き起こし、危険となる可能性があるとしている。

 生命維持に必須な栄養素としての塩を支持する強力な証拠があり、「減塩を目標にした最近の政府運動はあまりにも漠然としている」として一方的な議論を避けて均衡が取れるようにと何人かの学者をあげている。さらに、いくつかの論文はダウンロードして読むことができる。

 

歴史 古代から現代まで

製法の変遷を詳しく

 教育項目で塩の歴史について書かれているが、古い歴史を持つ国だけに、塩の歴史についても古代から化学革命を起こした現代までをいくつもの章を立てて述べており、非常に興味深い内容である。

 古代バビロンの粘土板やエジプトのパピルスに塩の関する記載がある。イギリスでは青銅器時代に海水や内陸のかん水泉から製塩していた。鉄器時代に入るとブリクタージとして知られている土器製塩が始まった。海水を濃縮するには幅60 cm、長さ120 cm、厚さ約12 mmの陶器製平釜を使い、得られたかん水をブリクタージと呼ばれる小さな製塩土器に入れ、火にかけて蒸発させ、容器を壊して残った塊を塩として取り出した。

 ローマ時代になると鉛製の平釜が使われるようになった。その大きさは深さ15 cmで約90cmから100 cm角の小さなものであった。鉛は容易に加工でき、塩水によって腐食されないので使いやすい素材であった。

海水からの製塩では底に硫酸カルシウムのスケールが付き、熱が伝わりにくくなり、その厚さが厚くなると鉛が熔けてしまう。
したがって、定期的にスケールを鉄製の道具で除去した。万が一熔けても平釜に再製できるので長く使われた。

 16世紀にはスコットランドで鉄製の平釜に代わった。イングランドの塩産地チェシャーでは17世紀の1620年から1630年の間に
鉄製平釜が導入された。鉄製平釜はリベット止
で作られ、非常に高価でリサイクル使用もできず、かん水により腐食され、塩に
鉄さびの
色が付き不利であった。

 このように不利な条件にもかかわらず鉄製平釜に変えなければならなかった。その理由は製鉄用の木炭製造とも競合して製塩に
使用する木材が高価となってきたので、安い石炭
を使用するようになったという背景がある。しかし、石炭は火力が強いため、
鉛製平釜が熔けてしまうことから鉄製平釜に変えなければならなかった。鉄製平釜の大きさは
1.2 m角から次第に大きくなり7.5
角の標準的な物と
7.5 m×12 mの細長い物の二種類になった。

 石炭は船輸送で供給されており、製塩地の近くで石炭を探している時に岩塩が発見された。岩塩を溶かして白い塩を作るように
なった。

 20世紀の始めに真空蒸発装置が導入され、半ばまでに多重効用真空蒸発缶の導入が広がった。技術開発が進み、トップ缶に供給
する蒸気圧を上げ6重効用で発電までできるようになっている。平釜製塩による塩の品質はかさ密度が小さく、重さではなくかさ
で取引するアフリカへの輸出に向けられた。

また粒径が大きくて漁業用に適していたので、熱効率は悪くても1970年頃まで平釜製塩は続いた。

 

凝集剤に血液を使用!?

 塩の歴史では、地下かん水の濁り成分を除去して清澄なかん水を得るために凝集剤として血液、卵、エール(イギリスのビール)の添加、製品としての塊(ブロック)を作りやすい塩を作るために卵白、血液、バター、油脂、石鹸の添加、かさ密度の小さい塩を作るために(にかわ)の添加、硬い透明な結晶を作るために明礬(みょうばん)の添加といった思いもしない話題、塩税、塩を原料とした化学工業の発達、ソーダ製造技術の開発などについても言及されており、興味が尽きない。

         ◇       ◇

 塩に関するホームページではアメリカ塩協会やヨーロッパ塩生産者協会のホームページが内容豊富である。

前者の話題は食品、健康、道路、水と大きく分けられており、後者の話題はニュース、会議とイベント案内、塩の生産・用途・品質といった内容となっており、歴史についてはほとんど述べられていない。それらと比較すると、イギリスの塩協会ホームページでは塩の歴史について詳しい。英語で書かれているが興味のある方は次のサイトを見ていただきたい。

http://www.saltassociation.co.uk/education/salt-history/