たばこ塩産業 塩事業版 2014.11.25
塩・話・解・題 116
東海大学海洋学部 元非常勤講師
橋本壽夫
融氷雪
道路用塩の費用対効果
投資額の数倍に
昨年度の冬は大雪で各地の交通が寸断され大きな被害が出た。冬の足音が徐々に大きくなるこの時期、交通障害と事故を防止するため、関係各自治体では除雪計画に基づき対策の実行と来年度の計画立案・予算編成が始まる。塩散布による融氷雪とそれによる費用対効果について海外と日本の状況を紹介する。
衝突事故が8割減少
消防士より命を救う!?
南部の都市アトランタまでも猛吹雪に見舞われた2013年から2014年にかけて、アメリカで使用された融氷雪は、アメリカ塩協会によると1,700万トンであったという。例年だと1,000万トン程度であるので降雪の猛烈さが察せられる。
融氷雪のために初めて塩が使われたのはアメリカのデトロイト市であった。そこには約365メートル地下に岩塩鉱床があり、1895年に発見された。1914年までは岩塩を採掘する開発はゆっくりと行われ、当時の産出量は月産8千トンであった。1940年にデトロイト市は世界で初めて融氷雪のために産出する岩塩を道路に散布した。その後生産量は増加してきたが、価格が低下してきために閉山を余儀なくされた。しかし、1998年に再開され、現在では160
km以上も掘られていると言う。
融氷雪の作業管理者は必要と思われる量の125%を用意して冬を迎える。塩は防水シートで保護されるか、建物の中に貯蔵される。用意された塩が足りなくなれば再度、発注するが、多くの産地を持っているアメリカでも塩を入手するまでには通常、10~14日かかると言う。その上、自由市場で入手するので需要増加のために価格は2倍近くまで高騰したらしい。
しかし、品不足になることはなかったという。日本ではそのような価格高騰はないであろうが、品不足になることは考えられる。自然相手の対応になるので、なかなか予測は難しいことであるが、道路の融氷雪管理能力の優劣が経済に及ぼす影響は大きい。ちなみにマルケット大学の研究によると、道路用塩による融氷雪により衝突を88%、怪我による傷害を85%、事故費用を85%、それぞれ減らすことを報告しているが、最も重要なことは命が救われることだ。除雪士(スノーファイターと言う)は消防士よりも多くの命を救っているかも知れないとも言われている。
イギリスの維持管理
散布は最も合理的に
イギリスでは2003年に施行された鉄道輸送安全法により高速道路の安全通行が雪や氷によって妨げられてはならないように、合理的に実行できる範囲で各地の当局に法的責任を課している。その内容は次の通りである。
● 各地方の当局には予算上の拘束があり、あらゆる道路、歩道を処理することはできないので、どの道路や小道を処理するか合理的な考察を示す必要がある。このために適正な道路使用監査を行わなければならない。
● 冬期の道路維持管理政策は学校への安全通学路政策のような他の政策と一貫している必要がある。
● 境界域をまたがって通行するときに管理当局間で道路条件に格差がないようにするため、各々の当局間や当局と私企業契約者との間では緊密な意見交換と調整が必要である。
● 冬期維持管理政策は公表される必要があり、それにより居住地、旅行地、勤務地でどんな施策が実施されているか容易に分かる。
● 冬場の運転の仕方や居住地域における重要な特殊走行問題に関する情報や勧告を提供して、当局がより安全な冬期道路で役割を果たすために積極的に社会に働きかけている。
イギリスでは各自治体の冬期維持管理法には大きな差があり、自治体間で除氷雪実行の調整、除氷雪状態の情報発信と収集をする必要がある。自動車道だけに限らず歩道(通学路優先かもしれない)も除氷雪することが前述の法律で定められているが、限られた予算で可能な限り除氷雪しなければならない。Thornesによる研究では、イギリスにおける冬期道路の維持管理で1ポンドの出費に対して交通事故や交通渋滞による遅れの解消で約8ポンドの経済的利益があるとしている。
イギリス社会では生活の質に対して除雪は非常に重要であると思っており、人口の半分以上が地方の道路でも塩を散布するために地方税をもっと払う用意があるという調査結果がある。
世界各国の研究結果
費用対効果は最大18倍
塩散布による融氷雪作業の直接的な費用だけでなく、散布に関連して車両や道路施設の腐食、環境への影響などにかかる損失費用、人命損失を除く交通事故、燃料節減などによる利益費用についての研究は少ないが、Thornesは世界中の研究結果について表1のように比較整理している。前述した費用対効果の数値はこの表から出ており、研究によってはもっと大きな数値や小さい数値もある。いずれにしても塩による融氷雪で大きな経済効果があることがうかがわれる。それ以上に人命救助に関しては、消防士が救う命よりも除雪士が救う命の方が多いかも知れないとも言われており、塩散布による融氷雪の効果に注目しなければならない。
国内使用量は増加傾向に
有効性、さらなる研究を
日本における融氷雪用塩の使用量はグラフ1に示すように増加してきており、冬期の気象条件によって大きく変わる場合もあるが、平均的には年間約4万トンのペースで増加している。どこまで増加するのか見通せないが、まだまだ増加は続いて行くであろう。
凍結防止剤に関する研究報告については、国土交通省の国土技術政策総合研究所が2007年に発表している国総研資料第412号の「凍結防止剤散布と沿道環境」があり、その中で表2に示すように北海道、東北地方、北陸地方における塩の散布要領が掲載されている。これ以外に凍結防止に関する研究報告はなく、融氷雪に関する研究は遅れている。
資料の中で今後の課題として植物、地下水、河川への影響と散布量の節減が記されている。近年、豪雪(平成17年、18年、25年)による甚大な被害が起こり始めており、豪雨の被害も多い。豪雨の頻度が多ければ豪雪の頻度も多くなると思われる。札幌では早くも11月半ばで降雪により多くの交通事故が起こっている。
改めて融氷雪の研究が始まるかもしれないが、その際には融氷雪による費用対効果の項目も盛り込んでもらいたいものである。