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たばこ塩産業 塩事業版  2014.9.26

塩・話・解・題 114 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

高血圧予防で減塩進展せず

米専門誌が論文を掲載

国民の意識改革に向け

生活様式の改善を提言

 

 高い血圧を下げるのに減塩だけが話題にされている。アメリカ人の食事ガイドラインでは減塩目標値が設定されているが、減塩は進展していない。雑誌「Nutrition Today」に減塩以外で血圧を管理するための総合的な生活様式の戦略について語った論文が掲載された。塩摂取量に対する消費者の意識調査をもとに血圧管理に向けた情報発信が議論されている。

 

多くの血圧影響因子 改善可能だが…

 多くの因子が血圧に影響を及ぼす。因子の中で管理できない危険因子には遺伝、人種(黒人は白人よりも危険率が高い)、年齢(加齢とともに血圧は上がる)がある。一方、管理により改善できる危険因子には肥満、食事、運動がある。管理できる危険因子に影響する生活様式を改善する戦略には、肥満していれば減量、果物や野菜を沢山に食べること、減塩、もっと運動すること、ほどほどに飲酒することなどがある。

生活様式の改善効果は人によって異なるが、多くの人々にとってこれらの変化は薬服用の必要性を減らす。さらに、多様な生活様式の改善を同時に組み込むことは血圧の改善効果を維持するために一番よい。しかし、保健介護士の臨床経験、食事調査や消費者意見の調査では、血圧管理にこれらの生活様式の改善を戦略として実行し、継続する人はほとんどいない。多くの科学的根拠に基づく戦略は高血圧治療の実行基準となっているが、最も注意を喚起している点は減塩に焦点を置いていることである。

その結果として、2010年のアメリカ人の食事ガイドラインは次のように述べている:1日当たり5.8 gまで塩摂取量を減らす。51歳以上の老人、アフリカ系アメリカ人、高血圧、糖尿病、慢性腎臓疾患の各患者については1日当たり3.8 gまで減らす。

 

塩摂取量に対して 過半数が関心なし

 2006年以来、国際食品情報議会(IFIC)財団は毎年「食品と健康調査」を行ってきた。それは重要な食品の安全性、栄養、健康関連の話題に関してアメリカ人から手掛かりを得られるように設計されている。2009年には塩摂取量についての関心、認識、取られている行動を調査する消費者調査プロジェクトを委託した。その結果は塩摂取量についての認識と関心の低さを報告した。

それ以来、数多くの科学的研究、公式報告、食品製造者と食事提供者による減塩努力は社会政策やメディアを通して塩摂取量に注意を向けさせてきた。例えば、2005年のアメリカ人の食事ガイドラインで勧めていた1日当たり5.8 gの塩摂取量を2010年の食事ガイドラインでは、集団の70(前述した51歳以上の老人など特別な条件の人々)に塩摂取量を1日当たり3.8gまで下げるようにした。

しかし、これは容易には達成されないと何人かの科学者達は思い、2011年に国際食品情報協議会は塩摂取量に再び焦点をおいて74件の質問事項についてアンケート調査を行った。全国的な代表者として18歳以上の成人1003人について塩と血圧について消費者の認識と行動を再調査した。その結果によると、回答者のほぼ半数(46)1日当たりの推奨塩摂取量を知らず、24%は推奨値を間違えていた。塩摂取量に関心を持っているのは42%だけで、減塩に努力しているのは42%だけであった。塩摂取量に対する低い関心度は高血圧者や高血圧の危険性のある成人でも同じであった。

 

専門家の検討会で 情報発信に焦点

国際食品情報協議会はアンケート調査をする前の2010年秋に、積極的に生活様式の改善戦略を通して高血圧を予防または管理する一番良い方法を考えるために健康と栄養分野の専門家による検討会を召集した。

専門家達は慢性疾患、食品科学、栄養、情報伝達、公衆保健、社会政策の各分野から10人が選ばれた。血圧を管理できるよう総合的に生活様式の改善を消費者が実行できるように役立てる、研究と情報伝達との間に潜在的にあるギャップを明らかにする、消費者と保健専門家のために生活様式の改善について情報伝達を促進させること、などを話題にした。専門家達は血圧管理に影響を及ぼす塩以外の生活様式の改善戦略について議論した。彼等に共通した経験からすると、市販されている食品中の塩含有量を変えないで塩摂取量を1日当たり3.8 gに制限する勧告を守らせることは最も知識があり熱意のある消費者でも難しかった。

2010年の医学研究所の報告書は、人々に集団の高血圧と戦う生活様式を変化させるために役立つ政策を促進させることを公的・私的な関係方面に呼びかけた。これらの戦略には規則正しい運動、カロリー制限、高塩食品の摂取量低下、カリウムを含む農産物や食品の摂取量増加がある。検討会の議論は、既に高血圧であるか、高血圧の危険にある人々に情報や戦略を伝えて緊急に役立たせることに焦点を置いていた。

検討会で議論して到達した結論は、高血圧を管理するために次の3点に取組むこととした:(1)体重管理を改善すること、(2)果物や野菜を多く食べること、(3)運動量を増加させること。

 

改善指導事例から さらに啓蒙が必要

 論文の考察で生活様式の改善指導を行った事例を述べている。高血圧について医者のカウンセリング研究では、診察した76.7%で医者は平均1.9件の生活様式の改善を提案した。その内容は頻度の高い順に次のようであった:運動(54.2)、健康的な食事( 38.3)、体重管理(30.8)、禁煙(19.2)、減酒(15)、ストレス管理(14.2)、減塩(14.2)。この事例では、減塩指導が低いパーセントであることは少し驚きであり、他の報告とは一致していないと述べている。

 他の事例では、19992004年のNHANES調査(アメリカにおける国民健康栄養調査)に参加して高血圧と診断された成人は減塩(81.7)、運動の増加(79.3)、減量(65.5)、減酒(31)を忠告され、指導された高血圧者の88%が成功したと報告している。これらの生活様式の変化を達成した成功事例についての参加者の可能性に関する2011年の国際食品情報協議会の消費者調査結果は少し異なっていて:食事中の減塩(64)(肥満であれば)減量(64)、減酒(76)DASH (果物や野菜、酪農製品を多く食べる食事・71)であった。

 保健専門家や研究者達は、高血圧者やその危険性のある全ての患者について、健康的な生活様式の相談・指導を通して生活改善の方法を理解させる作業がもっと必要であると思っている。通院している高血圧患者は医者から高い血圧を下げるための有益な生活様式の変更・改善についてほとんど情報を得ていない。

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 以上、高い血圧を下げるために血圧管理に向けた取り組みを論じた論文を紹介した。アメリカでは高血圧の合併症として心臓血管疾患による死亡率低下に向けて様々な対策を立てている。その一つは減塩政策であるが、なかなか効果が表れない。それもそのはずで、調査によると消費者の減塩に対する意識は非常に低い。そこで、高い血圧を下げるには減塩だけでなく、生活様式を改善する戦略も採ろうとしている。それは減量であり、高血圧予防食(DASH)の実践であり、運動量の増加であった。ともかく、高い血圧を下げる手段・情報を提供し、健康的な生活が送れるように国民の意識を改革させようとしている。

 しかし、筆者にはこの戦略もなかなか成功しないのではないか、との危惧がある。それぞれの戦略について血圧の低下効果を数値で示すデータがないからだ。減塩でも体質による個人差が大きいために数値として示せないように、他の戦略でも効果の指針が数値としてないと、実践する動機付けができない。強い自己規制によってしか効果を確かめられそうにない。