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たばこ塩産業 塩事業版  2014.3.25


塩・話・解・題 108 


東海大学海洋学部 元非常勤講師


橋本壽夫


融氷雪用塩で交通障害を予防


冬期の道路管理、北米の事例


 


 この冬は度重なる記録的な豪雪で様々な分野に大きな被害が出た。中でも農業被害は甚大であった。構造物の強化でハウス栽培の被害を予防できても、交通が途絶し、物流が止まれば被害を受ける。塩散布による道路の交通障害予防では北アメリカは多くの経験とノウハウを持っている。しかし、この冬には異常気象でそのアメリカでも対応できなかった所があった。


 


今冬、南部諸州でも豪雪


通常量超える塩が必要に


 アメリカでも寒気団の南下で厳しい寒波に襲われナイアガラの滝が一部凍結したニュースが流れた。ヴァージニア州からテキサス州までの南部諸州でも大雪警報が出された。メキシコ湾岸でもみぞれや雪の予報が出された。


 北緯3345分にあるアトランタ市は福岡市とほぼ同緯度にあり、冬期12月から2月の平均気温は7℃前後で時折肌寒くなることがある程度の温暖な都市が豪雪に襲われた。アメリカ塩協会のサイトから紹介しよう。


アトランタの住民は融氷雪用塩を使ったこともないので、降雪時にそれを使わないとどういうことが起こるかを経験した。通学バスが子供たちを安全に家に送り届けることができず、子供たちは学校の体育館にマットを敷いて寝て、夜を過ごさなければならなかった。氷雪と事故で交通が完全に止まってしまったので、車で通勤している人たちは車の中で何時間も立ち往生させられ、多くの車が乗り捨てられた。その地域の食品雑貨店の床に眠っている人々の映像がニュースで流された。


 このような状況から地域全域で融氷雪用塩の供給が滞っているという警告がニュースで流れ、アトランタで起こっていることが繰り返されないように望んでいることに対して、塩協会の会長ロリ・ローマン氏は次のように述べている。「塩が不足していることはない。塩の供給は十分であるが、いくつかの地域では在庫量の少ない自治体や交通局に残されていた通常量よりももっと多くの塩を必要とする厳しい冬を経験することになった。多くの機関が冬期間全体で必要な塩を蓄えるように、秋に十分な塩を手当てして在庫を持つように努めているが、最近の気象では、配送を準備する時間がない状況でシーズン中に再度何回も発注しなければならないような事態が起こっている。」


 今日では、地域中の消雪士(snowfighter)は適時・適量の塩散布を保証できるより進んだ技術を使い、高速道路の安全性を確保し、交易を守り、環境への影響を最小にしている。いくつかの地域では、除雪車や道路にGPS(位置検出)装置やセンサーを備え付けており、それらにより道路状況や温度変化を把握し、散布に必要な塩の量や種類をきめ細かく調整している。


 


衝突事故を8割以上低減


塩散布の効果を示す研究結果も


 高速道路に「融氷雪用塩を散布して交通事故を防止する効果」について、古くはアメリカ塩協会がウィスコンシン州ミルウォーキー市にあるマルケット大学に研究委託した結果1992年に発表された。それによると塩散布は衝突事故を88%減らし、負傷者を85%減らし、事故処理費を85%減らした。


 最近では同協会が「融氷雪用塩使用の安全性に及ぼす影響」についてカナダ、オンタリオ州のウォータールー大学に研究委託した結果が発表された。大学は1800 km以上の道路状態を示すオンタリオ州交通局のデータベースを使って20002006年にわたる7シーズンで60回の大雪があった時の衝突事故を、天候、交通量、衝突事故、道路表面状態、冬期管理に関する要因でデータを分析・整理し、2012年にその結果を発表した。


交通事故は多くの要因によって起こる結果であるが、道路表面の状態が冬期の交通事故件数と規模を決定する上で最も重要な唯一の要因であった。視界、積雪量、大気温度、風速、走行距離のような他の要因も重要であったが、道路表面の状態の影響と比較すると影響は小さかった。道路への効果的な塩散布により道路表面を劇的に改善することが事故を減らす上で非常に重要である理由が分かる。


研究結果の要点は:


▽道路用塩の使用は衝突事故を85%以上減らす。


▽四車線の高速道路の場合、融氷雪用塩を散布した後では衝突事故は93%減った。


▽道路の表面摩擦を10%改善することは衝突を約20%低下させた。


▽融氷雪用塩の散布効果は散布後25分以内にあらわれた。


この研究報告は1980年代末と1990年代当初に行われた冬期道路管理に関するアメリカの研究結果を、全体的に確認している。


連邦高速道路局によると、雪で滑りやすくなった道路や凍結した道路では自動車事故で年間1300人以上が死亡し、116800人以上が負傷している。したがって、道路の安全な通行を維持するために州や地方自治体は素早く行動しなければならない。危険な道路状態は一般車両だけでなく救急車、消防車、警察や他の緊急車両にも影響を与える。


 


融氷雪用塩に先行投資を


費用抑えるタイムリーな除雪


 アメリカ高速道路使用者連盟は2010年に行った研究から次のように報告している。


▽降雪による道路閉鎖の経済的影響はタイムリーに除雪する費用をはるかに上回っている。州や地方自治体は短期間に多額の融氷雪用塩を先行出費することに躊躇するかもしれないが、それ以上の長期間の支払いは出費を正当化する。


▽経済的な全ての損失分類の中で、降雪に関連した道路閉鎖は時間給労働者に最も損害を与える。それは直接的な経済的損失のほとんど2/3を占める。


▽1日の豪雪で国は直接的、間接的費用として37億ドルを使うことになる。


▽降雪による道路閉鎖の間接的な経済的影響は、小売販売収入や売上税の歳入損失を含めて最初の経済的な影響のざっと2倍になる。


 以上はアメリカの事例で必ずしも日本に当てはまるわけではないが、それでもいろいろな示唆があり、参考になることが多かろう。


 


カナダでは特殊車両開発


   効率的なシステムも構築


 冬期の道路交通を安全に維持管理している方法や状況について紹介する。


▽全ての塩散布車両は電子散布制御装置を持っている。これで散布する塩量や場所を制御


し、有効に塩を使用できるようにする。


▽カナダでは「あらかじめ湿らせた塩」の使用を拡大し続けている。塩を道路に散布する


時に少量の液体除氷剤を散布塩に加える。「あらかじめ湿らせた塩」は飛び散らないで道路


に留まり、乾燥している塩よりも早く作用する。


200台以上の冬期維持管理車両に赤外線温度計が取り付けられており、素早く正確に道路


と大気の温度を読み取る。この情報から何時、何処に塩を散布すれば最も効果的であるか


を判断できる。


▽運輸省は高速散布車の実用試験を終えた。これらの散布車は融氷雪用塩を飛び散らせて


損失にならないように制御された方法で道路に塩を散布する。


▽実用試験はゴム製の雪掻き盤を使って行われている。従来の金属製の盤よりも道路表面


から雪をきれいに取り除くので塩の必要量が少なくなる。


GPS技術を使った車両の自動位置判定システムで道路維持管理者は塩散布量をモニター


でき、散布量を運輸省基準に合わせられる。


▽運輸省は改良型道路気象情報システムを使って、道路と気象の状態をモニターして変化


を予測し、冬期維持管理作業を計画し、不必要な塩散布をしないようにしている。


▽凍り易い橋梁の道路に橋梁自動融氷雪システムが設置されている。このシステムは雪や


氷が予測された時、橋梁表面に液体の融氷雪用剤が自動的に散布される。


 


日本でも独自の対応策が必要


 カナダでは冬期に除氷雪しなければならない期間が長いので、除氷雪用の特殊な車両の


開発が必要なのであろう。また、気温がマイナス10℃以下になる所も多いと思われ、その


場合には塩では融氷雪効果は低くいので、塩化カルシウムが散布されるのであろう。カナ


ダほど冬期の除氷期間が長くない我が国では独特の対応策が必要となろう。


アトランタの降雪による混乱状況はあまり雪害に見舞われたことのない山梨県の状況に似ている。偏西風の蛇行と気圧配置によっては著しい寒気団の南下があるかもしれない。アトランタと同程度の緯度にある福岡県までは大吹雪による甚大な交通傷害が出る可能性がある。こうなると京浜地区、中京地区、京阪神地区と表日本まで総なめで豪雪による交通傷害が出るかもしれない。その対策策も念頭におく必要があろう。