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たばこ塩産業 塩事業版  2014.2.25

塩・話・解・題 107 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

塩の用途 決める要因は「物性」

 

 塩の用途はアメリカ塩協会の資料によると14,000もあると言われている。その大半は塩の成分であるナトリウムと塩素を利用した化学製品である。塩の性質を利用することにより用途は決まる。塩の性質は物性と化学性によって大きく変わる。ここでは塩の物性を塩商品の物性として広げて考え、物性を利用する用途について考察する。

 

形状、比重などの物理的性質を利用

 塩の物性とは塩の物理的性質のことで、塩の形状、比重、硬度、浸透圧、氷点降下、色、融点、沸点、溶解度、潮解性など、塩の性質として決まった性状や値を示す。しかし、塩製品の物性となると、製品によって様々な性状、数値を示すことから用途も広がる。

塩の形状

塩の形状は結晶が成長する方向によって変わり、具体的には製塩法によって変えられる。縦型の蒸発缶で撹拌しながら塩を結晶させると正六面体である立方体の塩ができ、撹拌による溶液の流れを工夫すると角が取れて球状の塩ができる。平釜で撹拌しないで塩を結晶させると、小さな立方体の塩がくっつき合った凝集晶と言われる無定形の塩ができる。液表面で結晶を成長させると空洞のピラミッド型を示すトレミーと言われる塩ができる。結晶が成長する方向によって結晶の形状が決まってくる様子を図1に示す。

塩結晶の成長方向と結晶形状

 煮詰めて塩を作る方法の中では立方体の塩は、生産効率が高く、製塩コストが一番安く、用途は特定されず万能向きだ。しかし、この形でも粒径が異なってくると用途が限定される。例えば、細かい粒子の塩であれば、他の物と混ぜ易く、付着し易く、水に溶けやすく、振り掛け易くなる。粒径の揃い具合でも用途が限定されてくる。海外製塩会社の事例であるが、表1は塩の物性を表す粒径の大きさや粒径分布の違いによって用途が変わってくることを表している。つまり用途によってどの製品を選べばよいか判断できる。

塩結晶の物性と用途

 天日塩を粉砕した塩の形状は無定形であり、鋭く尖った部分は肉や魚に突き刺さり易いことから生ハム製造や魚の塩蔵では粉砕塩が使われる。平釜で製造した塩は小さな立方体の塩が多数集まってできる凝集晶であり、手触りはざらざらした粗塩と言われる製品となる。これらの製品は通常乾燥工程を経ていないので水分が高く、形状とも相まってサラサラとした感じはなくモサッとしており、例えば、漬物の製造で大根や白菜に塩を振り掛けるときには塩が下に流れ落ちないので使い勝手が良い。立方体の塩でも乾燥してない水分の多い塩であれば、同じような効果を期待できる。

 逆にサラサラと流動性がよい塩の形状としては球状の塩があるが、用途開発が進んでいない。流動性が悪い形状としてはフレークやトレミーがある。これらの塩はかさ密度や比表面積に大きな幅を持っており、それによって他の物との混合性や水への溶解性が異なってくる。海外では用途に合わせた物性を持つ形状の塩を選べるように表1に示したデータを揃えたカタログや資料を用意しているが、国内製塩でもそのような資料をホームページに掲載してもらいたい。

 圧縮成型することにより様々な用途に合った形状の塩を作ることができる。例えば、動物に舐めさせる塩とかイオン交換樹脂の再生に使う塩である。

塩の比重

塩の物性値としての比重は2.16であるが、用途上で考えると見掛け比重(かさ比重)が重要となる。見掛け比重は塩の形状、粒形によって大きく変わり、用途を考える上で重要な要因だ。その一例は表1に示されている。

 

一万4千もの活用法が

硬度

塩の硬度はモース硬度で22.5。一番硬いダイヤモンドの硬度を10として比較した値で、ガラスは約5、10円硬貨は約3.5、爪は約2.5。塩の硬度を利用する用途の事例としては顔料の粉砕助剤がある。青や緑の色素となって塗料、印刷インク、プラスチックなどに使われる有機顔料を磨砕する時に塩を粉砕助剤として使い、磨砕後に塩を水に溶かして除去できる。湿度が低く乾燥した状態を維持できれば建材としての塩を利用も考えられる。

浸透圧

固体の塩には浸透圧はないが、塩溶液となると高い浸透圧を示す。このため野菜や魚肉から水分を引き出すことができる。漬物の製造、魚肉の塩蔵(腐敗細菌が脱水されて増殖できない)に塩が使われるのはこの作用を利用するためだ。皮革製品の皮の塩蔵や皮なめしに塩が使われるのも同じ理由からだ。塩の浸透圧で有害微生物の殺菌や増殖を抑える用途としては養殖真珠やうなぎの病気治療のための殺菌がある。逆に雑菌が増殖できない塩の浸透圧でも増殖できる有用な微生物を食品製造に利用する。それが味噌・醤油の製造や塩辛、ブルーチーズの製造だ。浸透圧が微生物の増殖速度に影響を及ぼすことからパン生地の発酵速度を調整するためにも塩が使われる。この場合には塩はパンの粘りを出すグルテンを形成させるためにも必要で、塩の化学性を利用している。

氷点降下

塩が水に溶けると、水が氷る温度が下がる。これを塩の氷点降下作用という。氷点降下作用の大きさは塩の濃度によって異なり、飽和溶液では約マイナス21℃にもなる。

この作用を利用して塩で雪や氷を溶かし、道路の交通を確保する。テニスのクレイコートに塩を撒けば、霜柱が立つことはなく、雑草は生えず、土埃が立つことを抑えられる。遠洋漁業で獲れた魚の鮮度を維持するには、塩を溶かして作った低温のブラインに浸けて急に凍らせる。

融点

個体の塩が融けて液体の塩になる温度は800℃。これが塩の融点であり、鉱石からの金属精錬にこの性質を利用する。金属を融かす溶融助剤(フラックス)に塩を加えると、液体の塩が融けた金属の表面を覆って空気を遮断し酸化を防ぎ、溶融滓の流動性を高めて不純物の除去に役立つ。主に銅やアルミニウムの精錬に使われる。

溶解度

物質の溶解度は温度で大きく変わる。しかし、塩の溶解度は常温で約26%であり、温度であまり変わらないことが特徴である。石油の掘削ではこの性質を利用する。掘削で地下水が噴出すると、それを止めるために塩の泥漿を流し込む。石油の精製で灯油や軽油が水と混じって乳化した乳濁液から水を分離するには、塩を加えて乳濁液の水を脱水する。

溶解度は一定であっても溶け易さは用途上重要な要因である。溶け易さを表す塩の溶解速度は塩の形状によって大きく変わる。また溶かし易さという観点で塩を選ぶこともある。例えば、撹拌機のない容器の中で水を流すだけで塩を溶かしたい場合、溶解速度の早い細かい粒子の塩よりも溶解速度が遅くても水の流れが滞らない粒子の大きい塩とか造粒成型された塩の方が良い。

潮解性

湿度が高ければ空気中の水分を吸湿して塩は自然に溶ける。これを塩の潮解性という。塩は相対湿度が75%以上になると潮解する。この湿度を塩の臨界湿度という。塩は臨界湿度以上であれば吸湿して溶け、以下であれば乾燥して塩の結晶ができる。貯蔵中に塩が臨界湿度を上下する環境に置かれると、塩は固まってしまう。したがって、このような環境に曝されない状態で保管する必要がある。塩商品となると何某かの塩化マグネシウムを始め他の不純物が入っている。塩化マグネシウムの臨界湿度は塩よりもずっと低く、したがって、塩化マグネシウムはにがりの主成分でもあり、にがりの多い塩は吸湿しやすい。塩つぼに入れておくと、吸湿して底はべとべとになる。それを嫌ってサラサラした塩にするには、塩を焼いて付着している塩化マグネシウムを酸化マグネシウムに変化させると吸湿性はなくなる。焼塩が選ばれるのはこの理由による。