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たばこ塩産業 塩事業版  2013.7.25

塩・話・解・題 100 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

米国の高血圧予防策

減塩による血圧低下は限定的

 

 アメリカでは高血圧にならない食生活、血圧を下げる食生活の勧めがアメリカで行われている。それには減塩も含まれるが、それだけではない。アメリカ保健福祉省の国立心肺血液研究所は高血圧予防の観点から食べ物の選択による食生活の改善と運動、カロリー・バランスまで含めた生活様式の改善指導書を出している。肥満者・高血圧者の多いアメリカの危機感を持った対応であろう。

 

食生活改善に向け指導書

 アメリカでは高血圧症に該当する最高血圧が140 mmHg、最低血圧が90 mmHg以上の成人が6,500万人以上(成人3人に1)おり、高血圧症予備軍である最高血圧が120140 mmHg、最低血圧が8089 mmHgの成人が5,900万人いると言われている。

食生活は高血圧発症に大きな影響を及ぼす。アメリカ保健福祉省は減塩を含めて高血圧予防食(高血圧症にならないようにする食事療法:Dietary Approach to Stop Hypertension)による食生活の改善で、高血圧にならないように国立心肺血液研究所を通して指導書を示している。

 特にアフリカ系アメリカ人は遺伝的に高血圧症になり易い因子を持っており、塩感受性が高く、減塩で降圧効果は大きくあらわれる。

しかし、塩感受性の低い白人系アメリカ人は減塩による降圧効果は少なく、高血圧予防食の効果の方が大きい。その様子は図のように示されている。標準食(基準とする食事)から高血圧予防食に変更し、それを4週間続けることにより、最高血圧で2.25.9mmHg(数値は別の文献から引用)、最低血圧で1.02.9mmHg低下させる高血圧予防食の効果が表れている。この試験では減塩食の効果も合わせて調べており、厳しく減塩をするほど血圧低下が大きくなっている。例えば、塩摂取量を1日当たり8 gから4 gに減らすことにより、最高血圧では標準食で6.7 mmHg、高血圧予防食で3.0 mmHg、最低血圧では標準食で3.5 mmHg、高血圧予防食で1.6 mmHg低下している。

DASH食試験の効果

血圧低下効果は高血圧予防食よりも減塩食の方が大きく表れている。アメリカでは1970年代に減塩政策を始めたが、現在に至るまで塩摂取量は減っておらず、危機感を持っているものと思われ、高血圧予防食の重要性を認識しているのであろう。

 高血圧症は危険な病気で、心臓に過大な負荷をかけ、動脈の柔軟性をなくし、脳内出血や腎機能の不全を引き起こす原因となるからだ。血圧管理を怠ると心疾患や腎疾患、脳卒中、失明に進む恐れがある。しかし、次のことを心がけることにより高血圧を予防できると指導書は述べている。

  塩含有量の少ない高血圧予防食のような健康に良い食事をする。

  健康に良い体重を維持する。

  毎日少なくとも30分間、軽く運動をする。

  アルコールを飲み過ぎない。

 

摂取カロリーを調整

 高血圧予防食とはどのような食事であろうか?

それは果物や野菜を多く含み、脂肪がないか脂肪の少ない牛乳や乳製品、精製しないで丸ごと粉砕した穀物の粉、魚、家禽、豆、種、ナッツなどからなる食事だ。

高血圧予防食には塩、甘味料、砂糖、加糖飲料、脂肪なども含まれず、典型的なアメリカの食生活よりも赤身の肉もあまり含まない。

この心臓への負担を軽くする食事法は飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、コレステロールも少なくし、主にカリウム、マグネシウム、カルシウム、タンパク質、食物繊維といった血圧を下げることに関係している栄養素には富んでいる。

 高血圧予防食の実践では処方箋は特になく、毎日の許容摂取カロリー数を念頭において食べる量を決め、いろいろな食品グループからいくつかを毎日食べるだけである。

カロリー数は年齢、性別、特に運動量に依存する。現在の体重を維持しようと思えば、運動で消費するカロリー数だけを摂取する。減量する必要があれば、食べる以上のカロリーを消費するために運動量を増やすか、消費するよりも少ないカロリー数にする。

 塩含有量の少ない食品を選び、食卓には塩を置かない。積極的にハーブ、スパイス、レモン、ライム、酢、ワイン、塩のない調合調味料を調理で使う。ほとんどの塩は加工食品から摂っているので、必ず製品の食品表示を読んで塩分をチェックする。

 筆者の感想として、高血圧予防食の指導では減塩にかなり力を入れている。しかし、減塩で血圧低下を示すのは塩感受性が高い人達だけで、30%程度しかおらず、高血圧者でも50%程度で、大半の人々には減塩の効果は表れない。塩分を除き日本食は基本的に高血圧予防食となっている。欧米で肥満防止、長寿の健康食として日本食が注目されている所以ではないかと思う。

 

野菜中心の食生活に

 数日間から数週間にわたってゆっくりと食事を高血圧予防食に変化させていく助言が指導書に記載されている。

  昼食や翌日の夕食に野菜を加え、一回の食事または間食には果物を加える。

  一日三回の食事に無脂肪や低脂肪の乳製品を増やす。

  1食85グラム、大きさがトランプの箱くらいの赤身肉とし、一日170グラムに制限する。何時も大きな肉を食べているのであれば、2,3日に一回にするか、1食で半分か1/3に減らす。

  毎週2回以上ベジタリアン・スタイルの食事か、肉のない食事にする。

  野菜、玄米、全小麦パスタ、調理済み乾燥豆の給仕量を増やす。肉が少なくて野菜、穀物、乾燥豆の入ったキャセロールやいため料理を食べる。

  間食やデザートには果物や飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、コレステロール、塩、砂糖、カロリーの少ない他の食品を食べる。例えば、塩気のない米菓やナッツまたは種、干しブドウ、グラハム・クラッカー、無脂肪・低脂肪または冷凍ヨーグルト、塩やバターを加えてないポプコーン、または生野菜である。

  生・冷凍または低塩缶詰野菜や果物を食べる。

 

運動と組み合わせる

高血圧予防食を食べながら生活様式を変化させることにより、一層の高血圧予防を図ることも提言されている。

高血圧予防食は果物や野菜を多く食べる低カロリー食であるので、容易に減量に役立つ。カロリーの高い甘味食品を果物や野菜と置き換えることにより多くのカロリーを減らせる。

散歩や水泳のような通常の運動と高血圧予防食を組み合わせると減量に役立ち、痩せた状態の維持に役立つ。好きな時間に1回15分間歩くことから始め、運動時間を次第に増やしていく。一回で30分間の運動を10分間ずつの短い時間で三回にしてもよい。重要なことはほとんど毎日約30分間の運動を続けることである。

要するに高血圧予防食の低カロリー性による減量・肥満防止と運動療法による減量・肥満防止でスリムな身体に改善しようと言うわけだ。肥満であれば減量するだけで血圧が下がる場合がある。肥満の場合、心臓から送り出す血液量は多くなり、長い血管の隅々まで血液を循環させるには高い圧力を必要とし、体内に保持される血液量も多くなる。それだけ心臓への負担が大きくなり、心臓にとって良いことは何もない。減量に心掛けよう。