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たばこ塩産業 塩事業版  2012.11.25

塩・話・解・題 92 

東海大学海洋学部 元非常勤講師

橋本壽夫

 

塩に関する海外マスメディアの報道 

3.減塩政策巡り論争勃発

 

 前号で、減塩政策をテーマに塩論争を呼びかけた記事について紹介した。この呼びかけに応じ、116件(2012年10月7日現在)の意見が寄せられた。呼びかけ人のジョン・ティアニー氏は、その結果を総括してインターネット上でニューヨーク・タイムズの科学欄にティアニー研究室(TierneyLab)として掲載している。ティアニー氏の総括記事を、TierneyLabに寄せられた116件の意見とともに紹介する。

 

サイト介し多様な意見が

 塩論争は不確定である可能性がある。つまり、減塩を勧めることに対して疑問を持っている懐疑論者は、減塩には社会政策を正当化するほどの十分な証拠がないと言っているので減塩推進者と戦わせたい。

たとえば、減塩食が悪い臨床結果と関係していることを示す研究を述べれば、減塩推進者はその結果をもたらした研究の方法論の欠陥を並べ立てる。

アメリカ人の塩摂取量は以前よりも多くなっている、と懐疑論者が言えば、それに対して減塩推進者は反論し、「調査法が食事思出法だからで、塩摂取量を最も正確に表す24時間尿分析法によれば最近の十数年間で明らかな上昇傾向はない」と言った具合である。

減塩を主張しているローレンス・エイペル氏は、「経時的な塩摂取量に関する大きなデータを持っていない。したがって、増加しているのか、減少しているのか分からない。」とコメントしている。

 ティアニー氏が投稿記事で懐疑論者のマッカロン氏を引用すると、塩協会のコンサルタントになっていることから公平性を欠いていると言う。この批判に対してマッカロン氏はコンサルタントとして塩協会に科学的なアドバイスを提供しても報酬をもらってないと言い、推進者のエイペル氏こそ公平性に欠けると反ばくした。

エイペル氏は、塩摂取量についてのガイドラインを含む食事ガイドラインを考える委員会のメンバーであり、塩摂取量の勧告案を立案することは利害関係に触れるとマッカロン氏は批判している。

 この批判に対して、エイペル氏は塩に関して自分の研究だけでなく、全体の研究を評価しており、政策策定で勧告作業に利益を与えていないとし、塩研究に対する政府からの資金援助も政府職員の評価ではなく、無関係な外部の科学者達による評価後に承認されたとも応えた。

 エイペル氏がThe New England Journal of Medicineに発表した食事中の塩に関して影響力のある2001年の調査結果のデータに関して、マッカロン氏との間で分かり難い論争があった。

マッカロン氏は完全な一連のデータが発表されていないと雑誌と著者を批判すると、エイペル氏らは発表データの選択には適正な科学的方法に従ったと応じた。

 投稿文の最初に、「減塩推進者は即時に減塩すべきことを望んでおり、減塩推進の懐疑者はランダム化された臨床試験で減塩の有効性や安全性を確認した上で減塩を進めることを望んでいる。意見のさらなる投稿を歓迎する」と書きながらも、116件の寄せられた意見の中には科学者達の意見がなかったので、最後の部分で「減塩効果について科学者達が本当に知っていることの疑問を意見として投稿されることを歓迎する。食品会社の製品から塩を減らすように圧力をかけているニューヨーク市の方針に政府は従うべきか?あるいはニューヨーク市は、事実もないのにそれ以上のことに踏み出しているのであろうか?」と締めくくっている。

 

「減塩反対」が多数 賛成意見は2件のみ

 TierneyLab に寄せられた116件の意見の中で、減塩政策の推進に対して寄せられた意見の大半については、賛否の判断がつかない塩に対する体験の陳述であり、学者の意見はないように思われる。

次に多いのは反対意見で、減塩政策に賛成する意見は2件だけで、「加工食品には既に十分な塩が含まれているので、食事には塩を加えない」と「カリウムとナトリウムの比率が重要で、食卓塩に塩化カリウム添加を促進させることに減塩活動家は専念すべきである」といった内容である。

 明確に賛否の判断ができない意見は70件以上あるが、基本的には反対の立場であろう。たとえば、「政府が塩について現在行動を起こすべきかどうかについて意見を持っていないが、あなた(著者注:ティアニー氏のこと)のレポートの本質について強い意見を持っている。疫学の曖昧な分野であなたは迷い、ランダム化された臨床試験に集中するよりもむしろ悪いゴシップを選んだ。その後、そのような研究がないことで、減塩推進者を非難することをあなたは選んだ」といった具合である。

 40件程度の反対意見の中には「“良いカロリー、悪いカロリー”でガリー・トーブスは塩と高血圧との関係を十分に説明している。塩が問題ではない。過剰の炭水化物が問題である。アメリカの医者、栄養学者、個人トレーナーは皆“良いカロリー、悪いカロリー”を読むべきである」、「塩は誰にでも悪い効果をもたらすものではない。たとえば、私の場合である。子供の時、塩を使わない家庭で育ったが、運動選手で痩せていても17歳で高血圧になった。塩好きの夫と結婚し、彼の味に合わせたため塩摂取量は劇的に増加した。しかし、降圧剤を飲みながら低い値に20年間維持されており、服用量はあまり塩を食べなかった時よりも少ない」と言った投稿がある。

さらに、この立場では減塩のために塩化カリウム入りの塩を使うことがあるが、塩化カリウムの危険性を述べている意見もある。

 

医学的事実は不十分 減塩効果の研究進まず

 モルトン・サティン氏はアメリカ塩協会の副会長であり科学・研究担当をしている。立場上からであろうが、2回にわたって盛り沢山な意見を述べている。1回目は2010年2月24日の意見で、次のような意見である。

      ◇         ◇         ◇

 「塩と健康問題は利害対立に明け暮れている。論争で最初に私の立場を明らかにしておく。

私は塩協会に所属している。減塩推進に都合の悪い科学的な臨床的データが出されると、推進者はデータを攻撃し、それができない時にはデータを引用した者を攻撃する。この塩論争に参加する全ての投稿者、特に長年論争に係わってきた人々をよく調べる。初めての参加者が目を向けるのはWASH(塩と健康に関する国際活動)のサイトで、それは世界中で幅広い様々な減塩活動を支えている国際的な減塩活動家グループである。減塩を勧める論文の約60 - 80%はWASHのメンバーによって書かれてきた。WASHの著者は全て利害の衝突を曖昧にしている(著者注:立場が分かると偏見を持たれる可能性がある)ので、彼等の意見は他の著者の意見よりもより大きな疑いを持って考えなければならない。

 利害衝突のない著者によって書かれたすべての事実のメタアナリシス(複数の研究結果を統合し、信頼性の高い結果を求める解析法)だけが結論を下せる。集団レベルの減塩を保証する医学的な事実は不十分である。アメリカ食品医薬品局(FDA)は、塩と健康問題に関する注意書きを表示する上で正しい判断をしている。イギリス、オーストラリア、カナダは減塩計画を積極的に遂行しており、アメリカで何らかの規制を行う前に先行している彼等の実施結果を待つべきである。

しかし、これらの国は減塩効果を評価する機関を持たず、必要性を感じていない。減塩を勧めているニューヨーク市は評価法について何の研究も行っていない。これでは公衆保健政策にはならないので、塩協会は健康に及ぼす減塩の影響を調べるランダム化されたコントロールのある大規模な臨床試験を国立衛生研究所(NIH)に研究するよう要請してきた。  

しかし、減塩推進者はそのような研究に反対してきた。彼等はそのような試験の結果によって予想される結果を恐れたからである。不幸にして、適正な研究が行われるまで、論争は解決されないまま続くだろう。」

 

減塩推進の嘘を追求 消費者の理解が不可欠

 書き足りないと思ったのであろうか、サティン氏は3日後、減塩推進者が言っていることが正しいかどうかを整理して、次の意見を述べている。

◇         ◇         ◇

 間違った情報を広めるのが減塩推進者である。減塩推進者の主張を良く聞いて、彼等が正しい情報または架空の情報を伝えているかどうかを判断してほしい。減塩推進者が言ったり、印象を与えていることは@心臓血管疾患による死は塩摂取量の増加による。本当か? ― 嘘。塩摂取量が低下していないにも関わらず、心臓血管疾患による死は過去35年間に有意に低下してきたA減塩の結果、有意に血圧は低下する。本当か?― 嘘。ほとんどの研究では塩感受性の高血圧者の収縮期血圧は2 - 5 mmHgしか低下しないB減塩食が血圧低下に効果的である。本当か?― 嘘。典型的なアメリカ人の食事をDASH食(著者注:果物・野菜・低脂肪の酪農製品の多い食事)に単に変えるだけで、塩摂取量を1/3に減らすよりも3倍も血圧低下に貢献Cフィンランドは過去30年間に塩摂取量を大きく減らしたので、心臓血管疾患が少なくなった。本当か?― 嘘。世界保健機関(WHO)の世界心臓血管疾患データを見れば、減塩できなかった隣国やカナダ、アメリカはフィンランドよりも心臓血管疾患が少ないD最も心臓に良いと考えられている地中海食は低塩食である。本当か?― 嘘。イタリアについて発表されている数字はアメリカよりもはるかに高い塩摂取量を示しているE食事ガイドライン委員会、医学協会、WHO、事実上全ての医学機関が推奨している塩摂取量は厳しく臨床的に証明された事実に基づいている。本当か?― 嘘。塩の参考摂取量は限られた集団の血圧に関心を持って調べられた2,3人の個人的な意見であるF彼等の塩や健康問題の調査は十分に客観的である。本当か?― 嘘。減塩推進者の多くの著名なメンバーは塩と健康に関する国際活動家グループのメンバーである。これらの人々の何人かは塩/健康論争に影響を及ぼす立場を隠しており、利害関係に基づく論争を認めることを拒否しているG減塩の影響は少なく、主に高血圧だけである。本当か?― 嘘。低い塩摂取量に関する最近の文献は低体重児、新生児の発育、子供の認識発達、歩行老人の転倒骨折などの危険性を示している。

塩と健康の論争はまだ終わっていない。科学が介入するにつれて、人間の代謝で果たす多くの塩の役割について我々は益々学んでいく。日本やスイスのような長寿社会がどうして最高の塩摂取量社会であるのかを学んでいくだろう。消費者が事実と意見との違いを理解することが最も重要である。

     ◇         ◇         ◇

以上、ティアニー氏が呼びかけた塩論争に寄せられた意見を中心に述べた。

その中でモルトン・サティン氏ほど綿密に減塩政策に反対する意見を述べたものはなく、減塩を推進している医者、学者からの投稿はなかったことから、ティアニー氏の意見の最後の部分で医者、学者からの意見を求めたものであろう。しかし、2010年4月13日に116件目の意見が寄せられて以来、投稿はない。