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たばこ塩産業 塩事業版  2010.1.20

塩・話・解・題 58 

東海大学海洋学部非常勤講師

橋本壽夫

 

塩の博物館

製塩の歴史に触れる

 

  産業の興亡を学び現在ある姿を知るには博物館を見学するに限る。ほとんどどの産業にも大なり小なりの博物館があり、見学すると改めて先人の努力に感心し、歴史の一部としてこういう時代もあったなあ、と感慨に浸ることができる。製塩地として栄えた縁を後世に示すために造られたかつての製塩地にある塩の博物館を紹介しよう。

たばこと塩の博物館 塩の総合的な情報を提供

 東京の渋谷にあるこの博物館はかつての製塩地にあるものではないが、塩に関する総合的な情報を提供しようと旧専売公社が建てた物だ。
 3階に主としてパネル、ミニチュア模型、ジオラマで展示されており、各種の塩、製塩土器、能登の揚げ浜製塩で約60年間使われた直径180 cmの鉄釜も展示されている。世界の製塩地や日本における製塩技術の発展経過が系統的に示されている。夏休みには毎年子供の学習教室的な催しが4階の特別展示室で行われ、多くの見学者・実験参加者で賑わう。視聴覚ホールでは天日製塩法のビデオが上映され、講演会が催されることもある。展示の様子を示した写真1の左下にあるのは岩塩の円柱だ。

たばこと塩の博物館展示の様子

    写真1 博物館展示の様子 冊子「たばこと塩の博物館」より

三田尻塩田記念産業公園 塩田跡地に残る実物の煙突

 山口県防府市はかつて三田尻と呼ばれ、昭和34年まで入浜式塩田で製塩が盛んであった。昔の塩田は今では工業団地になっている。少し傾いた煙突が残っている塩田跡地の一角に入浜式塩田と釜屋を作り塩田作業を見学できるようになっている(写真2)。塩田を区画していた入川に架けられていた石橋も小型で再現されており、橋の構造が分かる。しかし、何と言っても煙突は本物である。筆者が当地の製塩試験場に勤務していた頃、平たい石を丸く積み上げて作られている煙突を見て不思議に思っていた。塩の先輩に聞いたところ、石釜(写真2参照)の底に使っていた石を利用した物であるという。この石が宮城県鹽竈神社の博物館に展示されていたことを思い出した。

三田尻塩田記念産業公園の入浜式塩田作業の様子

           写真2 入浜式塩田作業の様子 上部中央に煙突 上部左側に釜屋

赤穂市立歴史博物館 石釜の模型も展示

 製塩の地、赤穂には赤穂城跡の一角に赤穂市立歴史博物館がある。赤穂の塩が海上輸送で全国に配送された帆船の模型をはじめ大掛かりな展示物が並べられている。壁には入浜塩田で使われた製塩用具、塩の取引に使われた秤が多数掛けられている。塩問屋の店先や嵩で取引する用具、塩の包装形態などは他では見られない展示だ。鉄釜が使われるようになる前には石釜が使われていたが、その模型(写真3)も展示されており、釜の底が落ちないようにやぐらで底を吊って支える工夫がされている。
 この博物館には赤穂義士関係の資料も展示されており、近くには大石神社があって沿道には四十七士の石像が並んでいる。

赤穂市立歴史博物館に展示されている石釜

                       写真3 石釜


赤穂海浜公園 塩作りの体験も

 塩田の跡地に造られたこの公園の中には入浜式塩田と枝条架付設の流下式塩田がある(写真4)。流下式塩田でできたかん水を貯蔵しておくかん水溜と釜屋もある。浜引き、潮かけ、集砂などの入浜式塩田作業の体験や日曜日には釜屋でかん水を煮詰めて塩を作っている様子の見学、土鍋を使ってかん水を煮詰める塩作りの体験もできる。
  海洋科学館の塩ギャラリーでは塩づくりの変遷と、世界各地の塩資源の分布や製塩方法を紹介し、塩の正体を物理的、化学的に探るとともに、人間の体内における塩のはたらきや塩の用途を説明している。

赤穂海浜公園の入浜式塩田

  写真4 入浜式塩田 正面は釜屋とかん水溜 左側に写ってないが枝条架がある

坂出市塩業資料館

 入浜式製塩の地、坂出には枝条架を用いる流下式塩田を開発するために専売公社の坂出試験地があった。坂出市が専売公社から製塩用具や製塩設備模型などの寄贈を受け、それらを塩業資料として展示するために塩業資料館を開設して、塩とくらしなどの解説展示もされている。

野崎家塩業歴史館

 1829年に野ア武左衛門が倉敷市児島に入浜式塩田を築造したことに始まるナイカイ塩業株式会社は野崎家旧宅に所属する土蔵(複数)を野崎家塩業歴史館として開設している。児島塩田開発の歴史、製塩用具、当時を偲ばせる生活用具の展示に加えて、国の重要文化財に指定された旧野崎家住宅を見学できる。素朴な庭の佇まいも心を和ませる光景だ。
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 塩の博物館の一部について簡単に紹介した。詳しくはそれぞれのホームページを見て頂きたい。塩について展示されている博物館はまだ沢山あり、どこで展示されているかについては塩事業センターのホームページで塩百科の中の塩の博物館に掲載されている。

新聞ではカラー写真ではない。